表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/138

第零歩・大災害+10Days 其の弐

加筆訂正致しました(2014.08.18)。

フレンドリストに関しまして、当方の誤認がありましたので、訂正致しました。

更に加筆修正致しました(2014.11.17)。

以前はあった<自由都市サカイ>の設定が消されていましたので、別の地名に変更致しました。

 支払う筋合いは無いのだろうが、店の惨状を見るにつけ、狼藉者と同じ<冒険者>の一員である事に罪悪感を覚えたレオ丸とカズ彦。

 慰謝料的な意味を込めて過分にお茶代払い、貧相な店主と萎縮したままのウェイトレスに見送られ、二人と一匹は茶房を後にした。


 セントラル大路は、神代に造られたと思しき巨大なアーケードでもある。

 等間隔に整然と立てられた、古代ローマ帝国の遺跡のような太い石柱。エンタシスと称されるそれらの柱が、空中廻廊になっている天井部分を確りと支えている。

 ゲーム時代には、身動きが取れないほどの雑踏と、無数に並んだ商店からの呼び込みの声とで、昼夜分かたず盛大に賑わっていた。

 しかし<大災害>の余波は、その賑わいを一掃してしまっている。


「シャッター商店街を此処でも見させられると、暗澹としてくんなぁ」

「そうですね」


 朝の時間帯でも騒がしかったはずのセントラル大路バザールは、耐え切れないほどの重い沈黙に支配されていた。

 レオ丸の頭上で寝扱けるマサミNの欠伸の声が、静寂に呑まれて消える。


「……息が詰まりそうや。深呼吸しに其処の階段から、上に行こか?」

「……そうですね」


 苔むした石畳が重ねた年月を物語る、屋上部の空中廻廊。。

 予期せぬ闖入者に、寛いでいた鳥達が一斉に羽ばたいた。

 北を見れば<大神殿>を中心に、高層建築群が眩しい朝日を浴びて輝いている。

 その光景を背に、二人は胸の高さまである壁に寄りかかりながら、<ロウワー・サウス>を見晴らした。

 ギルドタワーと<昇天閣の塔>を除き、視界を遮る物は何も無い。

 猥雑に密集した低層建築群にも、平等に日の光が降り注いでいた。

 カズ彦が細めた目を、ついっと横に向ける。

 煙管を咥え、太平楽な表情になったレオ丸は、その視線を頬で受け止めた。


「さて、カズ彦君。<暗殺者(アサシン)>らしく、気配を消しての待ち伏せまでして、どういった御用の向きやろか?」

「いや、気配は消してませんでしたが……」

「御主人が、間抜けなだけだっチャ」

「あ、そうなん?」

「ええ、残念ながら。処で、レオ丸さんは一体何を企んでおられるんです?」

「企み、って?」

「今回のイベントにかこつけて、何かなされているんでしょう?」

「うん、してる。……とは言っても、ミスハさんにしてもらっている、やな」

「教えてくれませんか、ね?」

「そやね、カズ彦君には隠し事をしたないし、マルッと話すつもりやけど、な。

 ……君の一番嫌いな事やさかい、耳を塞ぎながら聞いてな」

「御主人、矛盾してるっチャ」

「そんくらい、嫌な話って事や」

「判りました。耳を塞がずに聞きましょう」


 咥えていた煙管を手で弄びながら、レオ丸は細く息を吐く。


「ちょいと偉そうに言うとや、<キングダム>の行いが目に余る。

 今のミナミの空気を悪うしとる、最大要因になってしもうとる。

 <PK>を娯楽か余興と勘違いしとる阿呆共が、嬉々として悪事をなしやすい状況を作り過ぎとる。

 ……そやから、もう少し大人しくなってもらおうと、思ってんねんわ」

「それで?」

「ミスハさんと彼女の配下の、はしっこい子らに工作活動をしてもらってる。

 別に<キングダム>が全ての元凶とは、ワシも思うてへん。

 只まぁ、余りにも目立ち過ぎとるんやわ。判り易く言うたら、邪魔なくらい出てしもうた杭、やな。

 ほな、日常に支障をきたす杭は打っとこか、と。

 此れ以上、<キングダム>の攻撃力が外に向かわんように。影響力が極端に低下するように。……一罰百戒の対象にさせてもらおうと、な」

「ほう?」

「処で、こちらもエエ機会やから、教えて欲しい事があるんやけどな」

「何でしょう?」

「インティクスって、どんな子なん?」


 カズ彦は目を瞑り、深く息を吐いた。


「カズ彦君がカナミお嬢さん、年齢考えたら“お嬢さん”いう歳でも無いが、本人がそう呼んでって言うとったしな、そのお嬢さんに自分が誘われて間もない頃に、ワシがログインせんようになったやん」

「そうでしたね……。俺はとても残念でした」

「ワシも残念やった。お嬢さんが、古風なカッコエエ青年を連れて来た。此れで暫くは新しいオモチャに夢中で、こっちの負担が減るなぁ、こいつはラッキーやなぁ、と……」

「否定はしませんが、酷い言いようですね?」

「堪忍な。ほんで、<茶会>が何となく結成されて、ワシは参加しそびれて」

「でも、ちょくちょく顔を出してくれましたよね。

 カナミさんが、“今年はオリンピックやん! オリンピック言うたら、やっぱギリシャやん! そやからギリシャに行こ!”って言い出した時も」

「あれは、面白かったな。<太陽神の炎熱の戦車(アポロンズ・チャリオット)>を乗り回して、<清らかなる乙女の信託神殿>に突っ込んだり。

 <地獄の第六圏迷宮>で、馬鹿でっかい<牛頭大鬼(ミノタウロス)>の集団から逃げ回ったり。

 <陶酔の泉>で<義憤の女神(ネメシス)>の審判を受けて、外見の美しい奴らが軒並み<曼荼羅華(マンドラゴラ)>に変えられたり……」

「俺とタイガー丸さんと、レオ丸さんだけでしたっけ、無事だったのは?」

「残念ながら、美形やないもんな……ワシら三人共。

 ゲームと言えばテーブルトークの頃は、美女やイケメンに拘った事もあったけど、MMOになってからはどうでもようなってたからな。全く何が幸いするやら。

 <外観決定ポーション>使うて、性別や身長を変えんで済んだし。

 んで、思い出話はさておき、や。

 そうやってワシが自分らと一緒に遊んでた時には、まだインティクスって子は、<茶会>に参加してへんかったやんか?

 ワシみたいな外部が居らんくなって、<茶会>のメンバーだけで行動するようになってからやろ、その子が<茶会>に加入したんは?

 そやから、名前やデータは知ってても、どんな性格しとんのかまでは、ワシは全然知らんねん」

「インティクスが、どうか……したんですか?」

「この何日か、色んな奴らと話ししたけどな。此の辺に居る奴と話すと必ず、濡羽って名前が出てくんねん。その時にセットでな、ちょいちょいと関連項目として、インティクスの名前が現れよんねんわ」

「濡羽って、<付与術師(エンチャンター)>の有名人でしたっけ」

「ああ、そや。最近何か羽振りが良くなった、<大災害>成金の出世頭やな。地道……とは言えんスピードで勢力を増やしとるわさ。

 ゲーム時代は、<茶会>のシロエって子よりは、マイナーな存在やったのに。

 ……そーいや、シロエって子にも、会うた事ないなぁ」

「難しいけど、凄い奴ですよ、シロエは。彼のお陰で、<茶会>の大規模戦闘(レイド)の勝率は格段に上りましたからね」

「そうなんや。……そんで、インティクスは、どんな子なん?

 自分は一緒に団体行動しとったから、よう知っとるやろ?」

「シロエとは違う意味で、難しい奴です」

「難しくて、能動的なんや?」

「そうですね、難しくて能動的で、それ以上に、感情的ですね」

「そうか。……実はな、<キングダム>の裏にな、そのインティクスと濡羽の二人の影が、チラチラと見えんねんわ」

「そうなんですか?」

「そやねん。<キングダム>の活動が先鋭的になったんも、どうも彼女らが煽り倒したからみたいや。

 <キングダム>だけやなくて、<甲殻機動隊>や<ハーティ・ロード>にも恐らくは、確実に手が延びとるはずや。……ナカルナードん処も、な。

 彼女達からしたら、ワシもシナリオ通りに動いてる、表舞台の演者の一人なんかもしれへんな。

 処で、自分は<茶会>のメンバーとは連絡取り合っとるん?」

「いえ、俺からは特に。連絡が有れば、応答していますが。<大災害>に巻き込まれたメンバー自体、あまり居ませんでしたし」

「シロエって子は?」

「恐らく、アキバに居ると思います。直継って奴も、多分アキバだと」

「直継、直継なぁ。……お嬢さんから聞いた事があるような。

 ……確か、“明るくて頼りになるエッチな子やで!”って言うてたかな」

「そんな感じの奴です」

「にゃん太っち、は何処に居るんやろな? オフでも会うた事あるけど、気持ちのエエ人やったなぁ」

「班長は、ススキノですね。連絡がありましたから」

「皆、バラバラか。お嬢さんは何処やろな? ログインはしとったやろうけど、多分いや絶対にや。

 ……そーいや、念話の出来る相手って、ヤマトに居る相手だけやんか?

 ゲームん時はさ、海外サーバでログインしとる奴とは、連絡が取れへん設定やったやんか?

 同じギルドの仲間やったら、他所のサーバに居っても、居場所くらいは判ってたやんか?

 そやけど、もしかしたら今はゲームん時と違うかもと思うてな、イギリスに転勤した連れに駄目元で念話を試みたけど、やっぱり通じんかったわ。

 <エルダー・テイル>狂やったし、絶対にログインしとるはずやねんけどな」

「つまり、カナミさんはヤマト以外の海外サーバ管轄の何処か、このセルデシアの何処かに必ず居ると?」

「せや。<ノウアスフィアの開墾>に参加してない訳がない。

 絶対に何処かに居るやろうさ。

 ……まぁ、皆無に近い微々たる可能性としては、お嬢さんに何か思う処があって、全てのフレンドリストを消去しとるって事も、あるかもしれんけどな?」


 不意に、レオ丸が宙を睨んだ。その頭上からずり落ちかけたマサミNが、爪を立ててしがみ付く。


「お早うさん。色々お願いしてゴメンな。……へぇ、動いたか。おおきに、直ぐそちらに行くわな。

 カズ彦君も偶々一緒に居るから、連れて行くわ、ほな!」


 再び煙管をや、レオ丸は楽しそうに笑いかけた。


「カズ彦君。ワシらが何をしてたかの結果が出るみたいやから、その場所まで案内するわ。暇やったらついといで?」


 カズ彦は溜息をつき、苦そうに顔を顰める。


「すっごく悪い顔してますよ、レオ丸さん。

 頭からの流血が悪役レスラーっぽくて、何かエエ感じです……」



 二人は足早に、空中廻廊を移動した。

 東の城壁の上部に行き当たると、それに乗り換えて道なき道を北上する。

 それほど時間を掛けずに、二人は<紺維の小門>の上部に備えられた物見台へと辿り着いた。

 身を屈めて、物見台に身を潜めるミスハが、手招きする方へと近づく。

 音も無くその横に並ぶや、レオ丸とカズ彦は更に腰を落とした。


「実に良いタイミングです、レオ丸法師。……良ければお使い下さい」


 手渡されたシルクのハンカチを受け取ると、レオ丸は乾き始めた額の血を拭う。


「……下を御覧下さい。まもなく、実に無様な仕儀が始まります」


 ミスハの言葉に促され、城壁からそっと顔を出し、見下ろす二人。

 冒険者達の行いに興味が無いマサミNは、レオ丸の頭から降りると、離れた所で丸くなる。

 一方の眼下では。

 <紺維の小門>の直近、ケイハン街道の端に、二百人ほどの集団が居た。

 今のミナミにおいて、悪い意味で最も熱いギルド、<キングダム>が全員集合している。

 しかし何故か、街道を挟んで、凡そ半分半分の群れに分かれていた。

 ギルドマスターのドメルが、片方の集団を背後に従え仁王立ちしている。

 もう片方の集団の先頭には、物語に出てくる鉛の兵隊に良く似た格好をした<守護戦士(ガーディアン)>が、腰のサーベルに左手を当てて立っていた。


「一応説明しますと、片方は<新緑の戦闘職人(グリューン・マイスター)>という厨ニ病患者です。

 バッキンガム宮殿の警備兵っぽいのは、<キングダム>の中核部隊の指揮担当のサブマスです」


 その二人は睨み合い、警備兵モドキが一方的にドメルを非難している。

 内容が風に巻き上げられ、微かに物見台まで届いて来た。

 曰く、ギルマスには、既にギルマスとしての資格が無い。理由は、ギルドを堕落させたからだ。

 曰く、堕落とは、ギルド結成時の崇高な目的に相応しくない輩を、仲間と認めた事だ。

 曰く、我々は、そのような輩を仲間とは認めないし、これ以上増える事には耐えられない。

 曰く、我々は、今此処にそのような輩と、それを認めたギルマスに決別の意志を伝える。

 曰く、我々こそ、崇高な目的を正統に護持する者である。

 曰く、正統を護持する者の使命として、我々は堕落した者達を討滅する権利を行使する。


 そして間もなく、この世で最も醜悪な争いが始まった。

 内ゲバ、である。

 己の自侭な行動を正当化する為に、意に沿わない者を悪として断罪し、暴力で以て排除する暴力行使行動。

 二つに割れた<キングダム>は、戦闘エリートの正統性というあやふやなモノを手に入れるために、殺し合いを開始した。

 

「エリート主義者達の、哀れな末路やな」


 レオ丸は口元を歪めて、五色の煙を細く吐き出す。


「エリートは、偉くなければいけない。偉くなければ、エリートではない。

 “偉く”を、“強く”に変換したんを、崇高な目的とやらにしとったんが、あいつら<キングダム>や。

 戦闘のエリートを目指した結果、総合力としての強さを周りに認めさせようとした側と、周りの評価なんぞ気にせず己の強さを高めようとした側に、見事に分裂してしまいよった。

 例えんなら、但馬守の江戸柳生と、兵庫助の尾張柳生の、違いかな?

 掲げた目的を達成する立場として、どっちが正しいかって言うたら、どっちも正しいわな。

 但しそいつは、第三者からの視点や。

 争っている当人同士からしたら、自分が唯一の正しい存在であるために、相手は間違ってると考えんねん。

 エリート主義ってのは常に自己の正統性を主張せぇへんと、やり続けられへん主義なんやな。ほんで、絶対に過ちを認めへん主義やねん。

 過ちを認めた瞬間、エリートや無くなるからな。

 そやけどな、エリートって自分で主張したらなれるモンやろか?

 努力を努力とも思わず行って、当たり前の顔をして成果を挙げて、その立場を他人に評価されて、他人に認めてもらったら、自動的になってるモンやと、ワシは思う。

 卓越した技術や能力を持っているんがエリートの定義やけど、卓越した見識を持ってへん時点で、<キングダム>はエリートと違うわ。

 あいつらは単なる、排他主義者崩れのガキんちょ、や」


 眼下では、誰が敵で誰が味方かも判らない乱戦が、続いている。

 剣で斬られ、槍で突かれ、太刀で割られ、弓で射られ、斧で叩かれ、鈍器で潰され、拳で抉られ、魔法で焼かれ、召喚モンスターに襲われ、命を落とした者達が次々と、光に包まれ消えて行く。


「あるいは。

 大人になって飛べなくなったウェンディ側に立たれへんで、大人になる事を放棄して未だに空を飛び続けとるピーターパン、かもな?

 <キングダム>は、海賊を倒せるかもしれんけど、現実を直視する事を放棄してしもうた、集団や。

 せやさかい、ドメルの方は空を飛び続けるために剣を振り回しとるし、もう片方は地に足つけて歩きたくないから、甘い誘いに誑かされとる事にも気づかずに居られるんや」


 レオ丸は哀しく厳しい声で、静かに言う。


 <新緑の戦闘職人(グリューン・マイスター)>の二つ名の通り、手当たり次第に反逆者達を屠る、ドメル。

 しかし、統制の取れた反乱部隊に、徐々に劣勢となる。

 正統を謳う側が三分の一以下の人数になり、堕落と決め付けられた側が数える程になった頃、遂にドメルは取り囲まれた。

 反逆首謀者の掛け声を合図に、一斉に突き出された刃は、ドメルの反撃にその半数が砕け散る。

 しかし残る半数が、ドメルの命を断ち切った。

 折れたサーベルを掲げ、勝ち鬨を上げる警備兵モドキと、その同志達。

 敗残の生き残りは、親玉の仇討ちを考える事も無く、<紺維の小門>へと逃げ出した。


「終わりましたね、レオ丸法師」

「終わったな、ミスハさん」


 疲れたように目頭を揉むミスハと、ぐったりと城壁に寄りかかるレオ丸。


「私はそろそろポスター張りの、地道な作業に戻ります」

「お疲れさん、おおきに」

「では、これで。……ハンカチは差し上げますので、御随意に」

「その内に新しくて可愛いのんを、プレゼントするわな」


 口元を綻ばせたミスハは、目礼を残し、瞬く間に姿を消した。

 レオ丸は、石像の如く眼下を凝視したまま動かないカズ彦に、呟いた。


「嫌なモン見せてゴメンな、カズ彦君。

 せやけど、自分にも見といて欲しかったんや。

 ワシが仕出かした事を、……唾棄すべき全てを、な。

 こうなる前にどないかしたかってんけどな、所詮ワシの出来る範囲では、これが精一杯やったわ」


 カズ彦は、ゆっくりとレオ丸に向き直る。


「目的と手段を間違えたら、ワシも<キングダム>みたいに成るんやろな。

 ……そん時は、カズ彦君。その腰の刀で、ワシを止めてくれるか?」


 無言で両手を伸ばし、レオ丸の襟首を締め上げ、足払いを掛けた。


「そうならないように、努力……して下さい。

 もう、こんな事は、しないと、……約束、して下さい」


 レオ丸の口から煙管が飛び、マサミNの元へと転がった。

 物見台の床に押し倒れたレオ丸は、カズ彦を静かに見上げた。


「……話は変わるけどな、どうでもエエ話すんで。

 恐竜の中でな、一番デカくて重い恐竜ってな、アルゼンチノサウルスって名前やねん。十二階建てのマンションくらいの大きさやねんて」

「は?」


 襟首を締め上げられ、床に打ち据えられた姿勢のまま、唐突に奇妙な事を言い出し始めた、レオ丸。

 圧し掛かったままの姿勢で、ポカンとした顔をする、カズ彦。


「ボツリヌス菌のボツリヌスってな、ラテン語で、ソーセージって意味やねん」

「はあ……」

「『正倉院古文書正集』に収録された721年作成の『下総国葛飾郡大島郷』の戸籍にな、<刀良(とら)>って男と、<佐久良賣(さくらめ)>って女の名前が記載されてんねん。

 ……どれもこれも全くもって、どうでもエエ話やろ、カズ彦君?」

「…………」

「ほんまはワシもな、そんなどうでもエエ無駄知識に埋もれながらな、日がな一日ダラダラと過ごしてたいねん。

 美味いモン喰って、あったかいお風呂に入って、偶に友達とダベってな。

 誰かに酷い事するより、誰かの喜ぶ顔を見ながら、のんべんだらりとスローライフを満喫してたいねん」


 レオ丸の襟首からゆっくりと手を離すや、その横に並んで寝そべり、空を見上げるカズ彦。


「ガキみたいに、無邪気に一日過ごしたいんやけどなぁ、ホンマ。

 せやけど残念ながら、それが此処では出来ひん。

 マンガもないし、テレビもなけりゃ、パソコンもない。美味い料理も、お風呂も、何もかもや。

 友達と話しとっても、明るい話題はどんどん減ってくるし。

 増えてくんのは、悪い雰囲気と嫌な奴らだけや。

 エエとこ無しの八方塞がりやがな!

 かと言って、独りで部屋に篭って毛布に包まって壁と会話してても、何の解決にもならへんやん。

 それで仕方ないなと、やる気スイッチを入れて、ちょいと状況改善に手を出してみたら、こうなってしもた。

 まさか、殺し合いに発展するほどに<キングダム>が、荒みきっているとは思わんかったけどな。

 分裂して、軽くいがみ合いして終わりや、と思うてた」

「確かに、酷い状態でしたね。仲間同士で、ああも噛み合うなんて。

 野良犬の喧嘩でも、もう少しマシですよ」


 大空を一羽の鳥が、飛んで行く。大きさからすると、<ロック鳥>。

 その背中には、恐らく<脱出組>の冒険者が乗っているのだろう。

 二人は無言で、それを見送る。


「そーいや、カズ彦君」

「何ですか?」

「ワシが、何か遣らかしてるんを、……誰から聞いたんや?」

「それは……」

「インティクス、からやろ?」

「……」

「やっぱりなぁ」

「……すみません」

「別に謝る事やないで。情報は広く集めな、な。

 ……情報と言えば、ミスハさんの事やねんけどな。昨日話をしてて、聞いたんやけどな。

 現実では、ミニコミ誌の編集者やねんて。

 マスコミ業界の端くれとして、今回の事は凄く勉強になったそうや。情報を操作すると、面白いくらい人を操作出来るんですね、やて。

 ワシ、若い娘に悪い遊びを、教えてしもうたかもしれん」

「若い娘に、悪い遊びを教えちゃダメでしょ、おじさん」

「性格が、鮫みたいな娘やな。独特の感覚で餌食を見つけて、執拗に狙いを定めて、死角を見つけたら一気呵成や。水族館で飼育も出来るけど、空腹になったら飼育員さえ噛み殺すタイプやで、あの娘は。

 ……因みにミスハさんからしたら、自分もおじさんやで、狼王のカズ彦君」

「ロボ……ですか? まぁ、誇りを守って死ぬのは良いですが、その死因が餓死ってのは、嫌ですね」

「ロボ、ってスペイン語で“狼”って意味なんやで。知ってた?」

「ホンマに、色々とご存知で。……じゃあ、レオ丸さんは何です? 名前の通りにライオンですか?」

「ワシは、鳥無き里の蝙蝠。もしくは、井の中の蛙、やな」

「謙遜ですか?」

「残念ながら事実だっチャ」


 昼寝から覚めた<金瞳黒猫(グルマルキン)>が、レオ丸の腹の上に飛び乗り、横に咥えた煙管をポトリと落とす。


「……残念ながらマサミNの言う通り、事実やねん。

 我ながら小心者で詰まらん奴やし、不愉快なちっこいオジサンやわ。

 そやから、鳥が居る里を求めて、井戸から出て大海を目指す事にするわ」

「それは、いつですか?」

「早ければ、明後日の晩やな」

「そんなに早くですか」

「うん。……お眼汚しやった今のガキ共の戦争ごっこやけどな」

「ええ」

「ワシとミスハさんの仕掛けもあるけど、さっきも言うたように、濡羽って娘がいらんちょっかいかけたんが、ホンマの要因やわ。

 今はまだ、発展途上の最初の一歩か二歩目くらいやろうけど。

 何れは濡羽と、インティクスの二人の企みが、全てを噛み砕いて飲み込んで、その果てに新生ミナミの街が生み出されそうな気がするんや。

 其処にその場に、ワシは居たいと思わへん。

 彼女らが表舞台に出て来る前に、ワシは舞台袖から退出するわ。

 舞台に残っていたら、クッション無しで奈落に落とされそうな、気がするし」

「そうですか、残念です。……本当に、残念です。

 もっと一緒に色々な事を、面白可笑しい事をしたかったんですが……」

「念話でいつでも長話は出来るし、どんだけ離れてても同じヤマトの陽の下や。

 それにトンズラこく前に、ワシが言い出しっぺのイベントを成功させな、な」

「場内警備は俺に、<壬生狼>に任せといて下さい」

「何卒、宜しく♪

 希望を言えば、……ワシの予測が大外れになって欲しいんやけど。

 残念ながら、経験則から弾き出した結果は、滅多な事では外れへんわ。

 ……ホンマに、残念な事や……」


 その日の、正午。

 大神殿とギルドタワーを中心としてミナミの街の至る所に、そのポスターが貼り出された。


 集え! 真の冒険者達よ! 秘めたる誇りを昇華させよう!

 『ウメシン・ダンジョン・トライアル』 参加者大募集!


 募集要項

 ○主 催 :ミナミの街を明るくしても委員会

 ○参加資格:レベル60以上で構成される、6人編成パーティー

 ○日 程 :<大災害>+12日目の、日の出から日没まで

 ○開催内容:<ウメシン・ダンジョン>を檜舞台として、ポイント獲得制度によるタイムアタック

 (★) 優勝及び5位までの入賞パーティーには、名誉と豪華粗品を献呈

 ○参加費用:ダンジョン攻略時に獲得した、金貨の十分の一枚、ぽっきり

       ただし、獲得したアイテムは、全てアナタの物です!

 ○申込締切:開催日当日、競技開始の合図の鐘が鳴るまで


 (★)ソロプレイヤーも、少人数ギルドも、参加大歓迎!!

 (★)前日のお昼から、サターン広場にて、新規パーティー結成の為のお見合い大会を開きます

 (★)新しい仲間と、素敵な冒険に、君も出掛けよう♪

これからも橙乃ままれ先生の御作にて、ウェストランデの事が判るにつれて、訂正変更箇所が増えるでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ