第肆歩・大災害+60Days 其の漆
さて、試合終了後のアレコレです。予定では、後一回で熱闘!ナゴヤ・ボールパーク編は終了の予定です。
佐竹三郎様の御作よりエンクルマ氏の御名前を、読んでいるだけの人様の御作より引き続きリルル嬢を、其々御出張戴いております。
筑前筑後様の御作、『私本黒田太平記』に於いて知り得た福岡藩二代藩主・黒田忠之公の詩句を引用させて戴いております。http://ncode.syosetu.com/n2039cj/11/
方々、誠に忝く候。御不快・御異議には誠実に対応させて戴きます(平身低頭)。
カズ彦が、ウンザリした表情をしながら重い足取りでフィールドに踏み込んだ時、<冒険者>も<大地人>も全ての者達が準備万端で顔を揃えていた。
一塁側ベンチの前には山ノ堂朝臣を筆頭に、五十八人の<冒険者>達が武器も防具も装備した状態で、肩を並べている。
三塁側ベンチの前も、太刀駒を指揮官とする“神聖皇国ウェストランデ左衛門府預征夷押領使営団”達六十名が、同じく武装を整えて整列していた。
一塁側スタンドの客席には、ナゴヤ闘技場の近郊から物見遊山でやって来ている<大地人>の観衆が、ざわめきながらフィールドを見下ろしている。
ホームベースまでゆっくりと歩き、背負っていた小さ目の冷蔵庫ほどもある漆黒の木箱をドッカと下すと、汗を拭う振りをして周囲を観察するカズ彦。
刺すような強い日差しに目を細めながら、三塁側スタンドの客席を見遣れば貴賓達が、静かに睥睨していた。
現時点では、事の推移を見守る腹積もりのように見えるが、事と次第では直接介入しても可笑しくなさそうな雰囲気にも見える。
貴賓達の中央に座すイセの斎宮家の公子の傍には、<壬生狼>の制服であるダンダラ模様が染め抜かれた羽織を纏った、究極検閲官Rと水琴洞公主が屹立していた。
彼らからずっと離れた上層の客席には、女性の冒険者が並んで腰かけている。
カズ彦は、髑髏に似た模様が白抜きで刻印された漆黒の木箱に肘をついた姿勢で、ロシアから来たと思われる冒険者に話しかけているミスハを、それとなく観察した。
視界には映らないが、ランプ・リードマンと宇宙人#12も何処かに潜んで居るのだろう。
「夏~草や~~~、ベ~~~スボ~~~ルの~~~、人~~~遠し~~~」
不意に暢気な詩声が、しじまを打ち破った。
ガックリと首を折ったカズ彦の視線の先では、両手に持った黒い二本の棒をブラブラとさせたレオ丸が、浮かれたような足取りで現れる。
「やーやー、お待たせ、お待たせ♪」
ワザとらしいくらいに満面の笑みを浮かべたレオ丸は、スタスタとカズ彦が待つ場所へと至り、両手を広げてクルリと一回転した。
だが、カズ彦の見る限りでは其れが、心底からの喜悦の笑みとは思えない。
<淨玻璃眼鏡>に隠された眼までは、決して笑っていないように思えたからだ。
ソッと溜息を漏らすカズ彦へ黒い棒を二本共に預けてから、レオ丸は一際大きな声を出した。
「そ~~~れでは~~~、閉幕式を執り行います!!
昨夜、ナゴヤ・ドレイクス側の皆さんと、ミナミ・タイランツ側の皆さんとの間で取り交わされた約定を、改めて確認したいと思います!」
ドラムロールのようなスキャットを口遊みながら、袂を探るレオ丸。
やがて取り出したのは、ヘナヘナになったA4サイズの羊皮紙が一枚。
「したらば、代読させて戴きまっせ。
“契約書。
神聖皇国ウェストランデ左衛門府預征夷押領使営団団長にして、<Plant hwyaden>が発する当地への執行者たる太刀駒と、ナゴヤ在住の冒険者の総意を代表する山ノ堂朝臣は、ナゴヤ闘技場及び周辺のゾーンの帰属を含む諸問題を解決するに当り、次の通りに制約する。
第一条。
解決の手段として<野球による試合>を行い、勝者を決する。
第二条。
<野球による試合>の勝者は、敗者に対し、諸問題を解決するための要求を一つだけ希求する事が出来る。
第三条。
敗者は、勝者の要求に異論を挟む事も、拒絶をする事も出来ない。
敗者は、勝者の要求を完全に受け入れなければいけない。
此の制約を証するため、本書は写しを作らず、太刀駒・山ノ堂朝臣の双方署名捺印の上、中立な裁定者である西武蔵坊レオ丸に託すものとする。
<Plant hwyaden> 太刀駒 捺印
<A-SONS> 山ノ堂朝臣 捺印
西武蔵坊レオ丸 捺印 ”、っと以上や。
さてさて、どちらさんも間違いは、おまへんか?」
読み上げた羊皮紙の誓約書を裏返したレオ丸は、両手で広げ掲げながら左右に居並ぶ者達に確認を取った。
レオ丸の右側に立ち並ぶ山ノ堂朝臣達も、左側に立ち並ぶ太刀駒達も、両陣営の全員が揃って頷き、異存なき旨を示す。
「其れでは改めて、第一条から順に確認して行きましょう。
バックスクリーン……のような物を御覧下さい」
レオ丸の声に促され、全員の視線が得点を掲示したボードに集まる。
<ミナミ・タイランツ> 000000300 〔3〕
<ナゴヤ・ドレイクス> 000010102x 〔4〕
「御覧の通り、4-3でナゴヤ・ドレイクスの勝利です!
改めて、勝者には殊勲の栄誉を讃えて、敗者には敢闘の労苦を讃えて、両者の比類なき不撓不屈の精神に敬意を表して、盛大なる拍手を御願い致します!」
場内に響き渡るレオ丸の声は、冒険者全員による万雷の拍手によって瞬く間に掻き消された。
一塁側の客席の大地人も熱の籠もった感じで拍手を送るが、三塁側の客席の大地人達はやや冷めた感じでお座成りに手を叩く。
「はい、おおきに。……其れでは、第二条に則しまして勝者であるナゴヤ・ドレイクスの皆さん方は敗者であるミナミ・タイランツに対して、一つだけ要求を述べる権利を有する事になりました。
ほな、ナゴヤ在住の冒険者を代表しまして、山ノ堂朝臣君、皆さんの総意たる要求を一つ、<Plant hwyaden>及び神聖皇国ウェストランデに対して、述べて下さい」
一塁側ベンチ前の人だかりから離れた山ノ堂朝臣は、力強い歩みでマウンドへと至り、天を仰いで大きく深呼吸をした。
背筋を伸ばし胸を張るや、三塁側ベンチとスタンドに対し明瞭な口調で要求を申し立てる。
「俺達一人一人に、“自決権”を与えて欲しい」
其の声は、静まり返った場内の全員の鼓膜に届き、知覚の最奥の底まで深く深く浸透した。
「五月三日の、あの瞬間に訳も判らずに巻き込まれ、此処に飛ばされてから此の方ずっと、俺達は自分の生きる道と活きる法とを、全て自分達で決断し実行してきた。
今更、あんた達に自分の生きる道を決めて欲しくは、ないんだ!
俺達の生きる道は、俺達に決めさせてくれ!
例え其れが消去法で、消極的な道筋だとしても、自分で決めた道ならば納得して歩いて行ける。
例え、苦労の少ない安易な道を提示されたとしても其れが強制された道ならば、俺達は安閑として歩いては行けないんだ。
其方の都合で与えられた道は、其方の都合で封じられる事があるかもしれないからだ。
自分で選んだ道ならば、例え道先が閉ざされていても、曲がりくねった険峻な道でも、納得出来るしな。
引き帰す事も、選び直す事も決断出来るからな。
だから、俺達は此処に求め訴える。
俺達の生きる道は、俺達に決めさせてくれ!!」
一筋の風が山ノ堂朝臣の前髪を揺らし、上空へと去って行く。
「だ、そうや。……太刀駒君、第三条に基づき速やかに返答しぃや」
レオ丸がニヤリと笑いかけると、太刀駒は三塁側のベンチ前から数歩進み出た。
胸の前で音高く、左の掌に右の拳を打ちつけた後、深く頭を下げる。
「其方の要求、確かに承った。我々は、一切の異議を差し挟む事なく、全てを“諾”として受け入れる。
されば、お一人ずつ、決められた道を宣言なされよ」
「ほな、ワシが指名する順に、“自決権”を行使して頂戴な。
したらば、山ノ堂朝臣君、自分がトップバッターや」
マウンドを降りた山ノ堂朝臣は、脇目も振らずに堂々と三塁ベースへと進んでから、ゆっくりと一塁側ベンチの方を振り返った。
「俺は、此のナゴヤに残るために、<Plant hwyaden>に属する道を選ぶ」
ナゴヤ在住者を代表する者の発言を聞き終えたレオ丸は、傍らに立つ者を肘で軽く突く。
やれやれと言った感じで首を振り、黒い棒を二本共に元の持ち主に返却してから三塁ベースへと歩み寄る、カズ彦。
そしてベースの傍で立ち止まると、徐に腰の差料を抜き取り、鞘の鐺を地に刺した。
「<Plant hwyaden>の、カズ彦だ。
俺の有する権限で以って、彼を受け入れる事を約し、此処に宣べる。
彼、山ノ堂朝臣をナゴヤ在番衆に任ずる。……以上だ」
何となく芝居がかったカズ彦の宣言に、思わず片腹が痛くなるレオ丸。
「くくく……、オッホン! あ~~~っと何だっけ、あ、そうそう。
お聞きの通り、山ノ堂朝臣君の要求は無事に受け入れられました。
おめでとうさん。
さて、ナゴヤ在住の皆さんで、山ノ堂朝臣君と同じ意志を持つ者は、彼の処へと移動しておくれよし。
但し。
違う意志を持つ人と、未だ意志が定まってへん人は、動かんでエエし」
右の脇腹に手を当て身を捩りながらレオ丸がそう言うと、SHEEPFEATHER朝臣と九鳴Q9朝臣が呼吸を合わせたかのように歩き出した。
其れに北田向日葵朝臣、シュヴァルツ親爺朝臣、Yatter=Mermo朝臣、@ゆちく:Re朝臣が続き、多岐音・ファインバーグ朝臣とMIYABI雅楽斗朝臣が追いかけ、ギルド<A-SONS>の全員がギルドマスターの元に集う。
更に、モゥ・ソーヤーが駆け出し、橘DEATHデスですクローとユキダルマンXと聖カティーノが移動した。
彼らの行動を黙って見ていたレオ丸は、頃合を計って口を開く。
「暫定ながら、十三名が意思表示をしてくれはりました。
さて、と。
お次は、そうやねぇ……テイルザーン君、自分の要求や如何に?」
「俺は……」
<倫魁不羈>という銘付の<秘宝級>鎧、<包茶糸威天馬翼重胴具足>に身を包んだテイルザーンは、大股で歩き出す。
斜に背負うは、金糸銀糸で織り込んだ壮麗な鞘に納められた、身長に伍する長さの<幻想級>太刀<幻想切>。
其れを微かなりとも揺らす事なく、一塁ベース上にすっくと立つ。
「俺は、此処を離れてアキバへと向かう事にしますわ。
<Plant hwyaden>の御世話には、なりたくありませんから」
腰に差した<秘宝級>の打刀、<浅黄縫いの刀>の鯉口を少し切ってから、澄んだ金打の音を立てる。
涼やかな音に導かれたのか、レディ=ブロッサムと志摩楼藤村、そして大アルカナのぜろ番の三人がテイルザーンの元に集った。
此れで、意志を明確にしていない冒険者は、残り四十一人である。
レオ丸が、一塁側ベンチ前から三塁側スタンドの中段に視線を移せば、貴賓達の内の幾人かが慌しく立ち上がり、何処かへと去って行くのが見えた。
軽く鼻を鳴らし、再び一塁側へと視線を戻すレオ丸。
仲間内で相談する冒険者達から少し距離を置き、一人ぼっちで悄然と立ち尽くしている者を、敢えて指名する。
「ま、エエか。……さてと、二つ目の選択肢が開示されやんした。
では、……黒渦君。
自分の要求は、……選ぶ道は何や?」
名指しされた黒渦は口を噤んだままで、即答をしなかった。
顔色は青白く、今にも消え入りそうな様子で佇んで居る。
すると。
力ない猫背気味の背中を、優しく励ますように叩く者が居た。
「Yesterday is dead, tomorrow hasn’t arrived yet.
I have just one day, and I’m going to be happy in it.
昨日も明日もなく、今あるは今日だけ。だからハッピーでないと」
カールではなく、グルーチョの方のマルクスの言葉を引用した琵琶湖ホエールズは、黒渦の背後から前へと回り込むと、たっぷりとした顎鬚を扱きながら微笑んだ。
「貴君の御蔭で、皆が努力した御蔭で、今日は一日ハッピーになった。
何事もなければ、やがて明日が来るだろう。
明日をハッピーにするのは今日の、……今の決断にかかっとる。
どう決断すれば、明日の貴君はハッピーになるんだね?」
「ある名君の詩句に曰く、“しるへにや 雀の千声 鶴の一声”。
決断した結果に、他者は勝手な文句をつけるかもしれないが。
己の決断に、己の意志が反映されているならば、周囲の雑音を気にするなんざ馬鹿馬鹿しい限りだぜ」
やはり背後から現れた筑紫ビフォーアフターが、黒渦の背中をポンと叩く。
二人の男の言葉が、陰気な雰囲気を纏っていた青年の心に、仄かな温もりを与えた。
不意に、青白かった頬に赤みが差す。
「僕は……」
経験豊富な<付与術師>と精悍な<武士>が優しく見守る中、頼りなさそうな姿勢であった青年の背が、すっくと伸びた。
黒渦は、確りとした歩みで真っ直ぐに、レオ丸の目前へと進んだ。
「僕は、ミナミに戻る!」
声を震わせながら、叫ぶように己のなすべき決断を陳べる。
「僕はしちゃいけない事をして、ミナミから逃げ出した。
だけどもう、此れ以上は逃げたくない!
逃げちゃ……いけないんだ。
僕はミナミに戻って、最初からやり直したい!
償うためにも、逃げずに立ち向かうためにも!!」
「や、そうやけど?」
レオ丸は、黒渦が吐露した心情を真正面から受け止め、其れを三塁ベンチ前に居る太刀駒へと投げ渡した。
「我々は常に門戸を開いている。誰に対しても其れを閉ざす事はない。我々は皆、志を同じくする仲間なのだから。
って言うのが、<Plant hwyaden>の設立主旨ですからね。
黒渦!
我々は、自分の入会を心より歓迎しよう!」
轟くような太刀駒の言葉に合わせて、大きな拍手が<Plant hwyaden>の団員達から巻き起こる。
「ああ、そうや。一つ忘れてたわ!」
拍手が鳴り止みかけた時に、レオ丸が素っ頓狂な声を上げた。
「さ~~~て皆さん、ご静粛に!
本日の試合のMVPを発表しまっせ!
其れは誰だ誰だ誰だ誰だ……って、はい! 君や!!」
大袈裟な仕草でレオ丸が指名した人物は、虚を突かれてポカンとした表情を見せる。
レオ丸が右手に握り締めた黒い二本の棒を突きつけた相手は、暫く固まってから恐る恐るといった風に口を開いた。
「僕……ですか?」
「イエス! 黒渦君、君が今日のMVPやわ」
「何でですか?」
「決勝のホームを踏んだんは、自分やんか♪」
「え、でも……決勝の打点はテイルザーンさんが……」
「良いから、受け取っておけよ」
一塁ベース上に立つ、兵然とした<武士>が微笑みを浮かべる。
「打ったのは俺だが、勝利を決定させたんは、お前だろうが。
謙遜すんな、胸を張って誇れよ」
テイルザーンが始めた拍手は、漣のようにフィールド内全ての冒険者に伝播して行った。
周囲全ての者から贈られる賞賛を、戸惑いながら甘受する黒渦。
「最高殊勲の栄誉に輝いた者には、御褒美をあげんとな♪」
レオ丸は拍手を止め、小脇に挟んでいた黒い二本の棒を握り直すや、今度はゆるりと差し出した。
「流石に、<幻想級>は用意出来ひんかったさかいに、<秘宝級>アイテムで勘弁してな。
先ずはコレ、<如意士魂>って武器や。
其れとコレ、<暗黒卿の鎧櫃>って防具や。
使い方は……まぁ、何だ、後で説明文をようよう読んでな。
くれぐれも……用法要領を間違えへんようにな」
天の頂を通過し、午後の時間を深めていく強烈な日差しに照らされたレオ丸は、額にポツポツと汗を掻いている。
最も其れは暑いからではなく、心にある疚しさから噴き出した冷や汗ではあったが。
<如意士魂>と<暗黒卿の鎧櫃>とは、全てがゲームでしかなかった頃にレオ丸がとあるクエストに参加した際に入手した曰くつきの、ユニーク・アイテムである。
一見した処、只の黒い二本の棒でしかない<如意士魂>は、組み合わせる事により太刀にも槍にも双剣にもなる、変幻自在の刀剣アイテムであった。
但し、使用制限としてMPを常に消費しなければならない。
<暗黒卿の鎧櫃>は、フル装備をすれば物理的ダメージも魔法によるダメージも、過剰なまでに軽減してくれる極端な防御力を備えた防具であった。
だが、攻撃時には傍に居る者を全て、敵も味方もひっくるめて無差別に攻撃してしまう、所謂“戦闘狂”化するのだ。
フル装備をしなければ、詳細に言うと兜と面具を装着しなければ、“戦闘狂”状態に陥らないで済むが、防御力が低下してしまう。
どちらにしても、残念アイテムの類であった。
だが使い様によっては、非常に強力な武器と防具となるアイテムでもある。
かれこれ十年も前の事、新人であったエンクルマが手練へとステップアップする一助となった、アイテムであったからだ。
「大した御褒美やないかもしれんが、赤バットの御大が頂戴しはった“自転車とワインと羊羹”の三点セットよりは、マシやろう?」
「でも……<秘宝級>なんて……」
「まぁ個人的な理由も、不適切に加味させてもらっとるけどな。
詫び料、慰謝料、損害賠償、……後はミナミへ旅立つ自分への餞別やな」
「くれると言うのだ、もらっておくが良かろう」
いつの間にか居場所を移していた琵琶湖ホエールズが、瓶底眼鏡を木綿のハンカチで拭いながら口添えをする。
「そーいや、琵琶湖ホエールズ同志は、どないしはりますのん?」
「関西に帰るつもりよ。此処に居続けるのにも飽きたしの。
やはり……遠江よりは近江の水の方が、口に合うからの」
「はぁ、そーでっかー」
「御隠居さんが行くんなら、俺っちもつき合うか」
「そうだな、俺も西へと戻るとするか」
志乃聖人Sが、琵琶湖ホエールズの背後から首を突き出し、筑紫ビフォーアフターが其の横に並んだ。
「さてさて、“第三の選択”が提示されやんした、……って言うと何だか胡散臭いけど」
苦笑いを浮かべたレオ丸の台詞に、幾人かが同じような表情を見せる。
「まぁ改めて。現在の処、三種類の要求が提示なされておりやんす。
一つ目は、<Plant hwyaden>に入団し、此処に残留する。
二つ目は、此処を離れて、東下りする。
三つ目は、<Plant hwyaden>に入団し、西へと上京する。
さて、残りの三十六名はどれを選びはる?
それとも……別の選択を要求しやはるかい?」
一拍の間を置き、動いたのはブラック下田と虎千代THEミュラーだった。
二人は揃って内野に踏み込み、テイルザーンの元へと進んだ。
次に行動したのは、ギルド<TABLE TALKERS>の面々だった。
頭文字ファンブルを先頭にギルドメンバーの、†ばる・きりー†、森之宮showYa、ホウトウシゲン、トリリンドル・オーヤマの全員が、やはりアキバへと移転する旨を態度で示す。
そして、駿河大納言錫ノ進と若葉堂颱風斎が三塁ベースへと赴いた。
序で、CoNeSTがホームベースへと其々進むと、残る者達の殆どが其の後に続く。
最後に独り残ったDRAGOON-ww2は、暫く逡巡した後に、意を決した面持ちでアキバへの道を選び取った。
「勝者の要求として、ナゴヤの皆さんは“自決権”を行使なされやした。
<Plant hwyaden>に入団し、此処に残留する事を希望する者、十五名。
此処を離れて、東下りを希望する者、十二名。
<Plant hwyaden>に入団し、西へと上京を希望する者、三十一名。
では、“神聖皇国ウェストランデ左衛門府預征夷押領使営団”に再度尋ねる。
此れらの要求に対し、如何に答うるや?」
レオ丸は、ホームベース付近に群がる冒険者達を掻き分けて、マウンドへと歩きつつ問いかける。
「“神聖皇国ウェストランデ左衛門府預征夷押領使営団”、<Plant hwyaden>より征旅の全権を与えられし立場にて、再度答う。
此処に起居し冒険者、五十八名全員の決断せし事に対し、“承諾”の二字のみにて返答するものなり。
そして其れらが完遂される事を、約すものなり」
三塁側ベンチより進み出て来た太刀駒が、マウンドの手前で立ち止まるや、重々しい口調で回答した。
「其れでは、最後に。
全ての憂悶すべき擾乱が決着した証しを、此処に提示する。
……山ノ堂朝臣君」
「おう!」
此れからも共に過ごす仲間達の輪を背にした山ノ堂朝臣は、ゆっくりとした足取りでマウンドへと進むや、腰に提げた<魔法鞄>からソフトボール大の宝玉を取り出し、頭上に掲げる。
「此れは、単に大きいだけの宝石じゃない。
此処、ナゴヤ闘技場の占有権を証明するアイテムだ。
名称を、<千一の星>と言う。
ギルド対ギルドによるPvPにおいて、年間チャンピオンとなったチームだけが保持出来る“象徴”だ。……そう、単なる“象徴”でしかない。
だが此れは、俺達の“誇り”でもある。
俺達は“誇り”だけを胸に抱きながら、此の“象徴”を渡させてもらおう」
「確かに、ナゴヤの“象徴”を受領した」
山ノ堂朝臣の手から、雨上がりに見上げた星空のように青く蒼く碧く黒くキラキラと輝く宝玉が、太刀駒の手へと譲渡された。
「此の、“城門の鍵”は重たいでぇ」
「“城門の鍵”?」
「せや、比喩的にも実質的にも、紛う事なき“城門の鍵”やわさ。
此処の、ナゴヤ闘技場の入り口にな、其の宝玉を嵌め込む場所があるねん。
其処に宝玉を納めた者が、此の地の最高位としての栄誉を受ける……やったよなぁ、山ノ堂朝臣君?」
「ああ、そんな感じですよ」
「なるほど。……ならば早速に納めさせてもらいましょうか」
太刀駒がニヤリと笑うと、山ノ堂朝臣も同じ笑みを浮かべる。
二人の細められた眼差しが交差し、直ぐに違う人物へと向けられた。
「ほな、折角やし。皆で表に出て、閉幕式を最後まで見届けようか!!」
レオ丸は満面の笑顔で、右手を振り上げる。
其れに応じて。
フィールド上に居る全ての冒険者の拳が、咆哮と共に天へと突き上げられた。
活動報告にも記させて戴きましたが、私ばっかりが喜んでいたような気がする試合から、ようやっと平常運転に戻りました。
次回からは元の、モンスターと魔法の世界、でありんす(苦笑)。




