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第肆歩・大災害+60Days 其の肆

 まだ試合が終わりません。我ながら困ったモンです。

 『私家版 エルダー・テイルでの野球の仕方 -ナゴヤ編-』にタイトルを変えた方が良いのかな?(苦笑)

〔 七回裏、ナゴヤ・ドレイクスの攻撃。

  二番、SHEEPFEATHER朝臣、背番号7 〕


 此処までの三打席を、全て凡退してきたSHEEPFEATHER朝臣君。

 代打が送られるかと思ったけれど、琵琶湖ホエールズ同志はそうせぇへんかった。

 どーやら打撃よりも、彼の堅実な守備を優先する決断をしたようや。

 まぁ、確かに。

 SHEEPFEATHER朝臣君の守備は、無双やった。

 背面キャッチや横っ飛びもしてたし、頭文字ファンブル君との二遊間はまるで、荒木&井端か、フランコ&小坂みたいな?

 ちょいと前なら篠塚&川相や、山下&シピンやも。

 マルカーノ&大橋や、土井&黒江や、鎌田&吉田は……流石にリアルじゃ知らんけど。

 何れにしても、鉄壁のコンビやからな。

 コレがバナザード&湯上谷やったら……とうの昔に交代させられてたやろうし。

 ま、打ってくれたら御の字って事で……。


 カキーン!


 打ったがな!

 此の回から谷間ノ伏魔君に代わり登板しとる、進撃御神輿君が右のサイドから投じたスライダーを、綺麗に打ち抜きよった。

 打球は三塁手のグラブを掠めて、レフト前へ。

 すると。

 スタンドの方が、チャーンチャチャチャン、チャーンチャチャチャン、と何とも賑やかな演奏を始めよる。

 山本正之御大が作詞し、作曲家デビューを果たした記念すべき、其の曲目。

 1974年、V10を阻止した際の優勝記念ソングでもある。

 まぁ其の年の日本一は、……金やん率いるロッテ・オリオンズ、やったけどね。

 あらあら。

 ちゃっかりと、歌詞の“ナゴヤ・ドーム”が“ナゴヤ闘技場”に変えられとるやん。

 此の曲にしろ、さっきの曲にしろ、人の口に幅広く膾炙した応援歌ってエエねぇ。

 『地平を駆ける獅子を見た』も……エエ歌やねんけど。

 認知度では雲泥の差どころか、日本円とジンバブエドルくらいの差があるもんなぁ、……しょぼーん。

 ってな感じでクヨクヨしてたら応援歌は一番で終わり、直ぐに違うイントロが奏でられよる。

 ソレもやっぱ、レコードが五十万枚以上の馬鹿売れ(メガヒット)した、山本正之御大の不朽の名曲やわ。

 ……何せ次打者は、語尾が“ワン”のYatter=Mermo朝臣君、やもんね。

 しかし、改めて思う。

 リメイクされて色んな人が色んなアレンジで歌っとるけれど、やっぱり山本正之御大が歌うオリジナルが一番やわ!


 コン!


 おっと、慌てて飛び出るミナミ・タイランツの一塁手。

 捕球し直ぐ様に二塁を振り返るも、送球を諦め一塁カバーに走った進撃御神輿君へと確実にトスする。

 バッターボックスに入る際に、これ見よがしにブンブン振り回していたYatter=Mermo朝臣君が、絶妙な送りバントを成功させよった。

 アップテンポなBGMにも、助けられた感じやね?

 さぁ、千両役者の登場や。

 と、思ったら。

 ベンチから山ノ堂朝臣君が出ずに、琵琶湖ホエールズ同志が出て来なはった。


「代打! 九鳴Q9朝臣!」


 はて?

 四番に代打とは、其の作戦は如何に?

 しなやかな筋肉質でスラリと背の高い山ノ堂朝臣君に比べたら、バッターボックスの手前で素振りをしている九鳴Q9朝臣君は、バットよりも鋤か鍬が似合いそうなずんぐりむっくり……もとい朴訥とした雰囲気をしとる。

 山ノ堂朝臣君が秋山幸二タイプやとしたら、九鳴Q9朝臣君は差し詰め北川博敏か……真中満かな?

 外見は何となく、水野良大先生の出世作の主人公の友人、後に神官王って呼ばれるキャラによう似てるんやが、……身のこなしは似てへんな。

 スイングスピードも中々やし、何よりも体の軸がぶれてへんもん。

 うむ。

 終盤に出すべき“代打の切り札”的存在、かな?

 其れにしても、怪我した訳でもないのに何で山ノ堂朝臣君のタイミングで、コールしたんやろうか?

 今日の山ノ堂朝臣君の成績は……、敬遠四球の後は二打席共にフルカウントからの凡退やったか。

 それでも……四番に代打なぁ?

 スタンドの応援団も、何処か戸惑った感じで手塚治虫御大の漫画を原作にした、とあるテレビ特撮の主題歌を奏でとる。

 やっぱり。

 名古屋の四番打者のテーマソングは、ロケット人間の歌だわなぁ♪

 ……そんな事はさて置き。

 確かに此の試合は、ヒットらしいヒットが少ないわ。

 レベルが七十未満のプレイヤーはバットを力一杯に振り切っとるけど、九十前後のカンスト・プレイヤーはボールを粉砕してしまう事を恐れて、振り切ってはいても何処か恐々やもんなぁ。

 しかも。

 元の現実やったらクリーンヒットと呼べる当たりは、打球の軌道が綺麗過ぎて悉く野手の好守備でアウトにされとるんやもん、な。

 所謂“汚い当り(テキサス・ヒット)”か“まぐれ当り(ラッキー・パンチ)”を除いたら、虎千代THEミュラー君のホームランしかあらへん。

 其れでも回を追う毎にアジャストして来てんのは、流石は高レベル冒険者の皆さん方や、とは思うけど。

 ……山ノ堂朝臣君は適応不足やと自己診断したんで、九鳴Q9朝臣君と交代したんやろうかな?

 それとも?


 ガコン!


 ツーエンドツーと追い込まれてからの五球目、九鳴Q9朝臣君は内角高目の速球にバットを上から叩きつけるようにして、振り抜きよった。

 打球は鈍い音を立てて、三塁線上で大きく弾み三塁手の頭を超える。


「ピシャリ、フェアーやけ!」


 三塁塁審の宇宙人#12君がすかさず叫び、内野へと左手を伸ばすジェスチャーで打球がインフィールドである事を宣告した。

 

 弾んだ打球は其のままレフトの目前へ……、とは行かなんだ。

 回り込んだショートがジャンプ捕球し、三塁付近へと舞い降りるように着地したからや。

 三塁に到達し、更に本塁を目指そうとしていたSHEEPFEATHER朝臣君は、サードコーチを勤めていたテイルザーン君に止められ、慌てて帰塁し事なきを得よる。

 此れで、一死一、三塁。

 ふむ。

 コレは、予想の範囲内の結果なんか?

 ソレとも、結果オーライなんか?

 判断が難しいなぁ、って思うてたら……。


「一塁の代走、志乃聖人S!」


 琵琶湖ホエールズ同志が、再びベンチを出やはった。

 期待に答え、一仕事を果たした九鳴Q9朝臣君は、一塁のコーチスボックスに立つブラック下田君とハイタッチをしてから、ベンチへと小走りに戻る。

 入れ代わりで現れた志乃聖人S君は、油断なくベースに足をかけながら軽く柔軟体操をし、ヘルメットの庇を小粋にちょいと指で押し上げ、ニヤリと笑った。

 志乃聖人S君は……<暗殺者>やったなぁ。

 ……フフゥ~ン?


〔 五番、虎千代THEミュラー、背番号23 〕


 さっきホームランをかっ飛ばした相手は、左のサイドスローやった。

 今の進撃御神輿君は真逆の、右のサイドスローや。

 果たして、右のパワーヒッターの虎千代THEミュラー君は対応出来るんかな?

 其れとも何か、ひと工夫を凝らすんかな?

 ……ふむ。

 カウントはアッと今に、スリーボール・ワンストライク。

 ボールは悠然と見逃して、ストライクは振り遅れながらも真後ろにファールを飛ばしよった。

 さてさて、次の投球がストライクゾーンに来た時が、楽しみやねぇ。

 どーやら進撃御神輿君は、ランナーへは視線で牽制をするだけでバッター勝負に賭けとるみたいやが、意識し過ぎでボールが先行。

 虎千代THEミュラー君も、前の打席の結果に胡坐を掻く事なく、実に慎重に球筋を見極めようとしとるみたいやし。

 此の打席の勝負は、どっちに軍配が上がるんかねぇ?

 しかし其れにしても……、スタンドは一体何を奏でとんねん。

 何ぼアップテンポにアレンジしたとて、リズムに沁み込んだ人情喜劇ムードが全てを打ち壊しにしとるがな。

 “虎千代”と“寅次郎”とを引っかけとるんやもしれんけど……、緊張感が高まらへんってゆーか何とゆーか。

 微妙に弛緩した空気が場内に漂う中、進撃御神輿君は三塁と一塁を鋭く睨みつけてから、クイックモーションで投球動作を行う。

 其の瞬間。

 志乃聖人S君が、ミナミ・タイランツの慢心と不安の隙間を突くようにして、俊足を存分に発揮させよった。

 塁と塁の間の距離は、二十七メートルと四百三十一センチって規定されとる。

 日本人からすると“ちゅーとはんぱやなー”やけど、野球発祥の地であるアメリカでは九十フィートやねんね。

 俗に“ダイヤモンド”と称する内野は、一辺が三十メートル未満の正方形である。

 ほな、対角線はと言うと、三十八メートルと七百九十五センチや。

 つまり盗塁ってのは、約三十メートル対約四十メートルの戦いって事になる。

 せやけど、実際はそんな単純なモンやない。

 ランナーは塁を離れ、次の塁への距離を少しでも縮めようとして、二メートル前後のリードを取りよるし、バッターは盗塁を試みるランナーをちょっとでも助けようとして、態と空振りを行う。

 捕手は投球を捕球して直ぐに送球したいが、視界をバットが通過した残像を振り払い、バットを振り切って体勢を崩した打者を避けながら、其れをせなならん。

 まぁ、ソレでも。

 地を駆ける走者よりも、空中を突っ切るボールの方が、スピードは速いねんけど。

 でも此の試合に出場しとるんは、常人ではなく<冒険者>や。

 しかもランナーは、機動力の申し子たる<暗殺者>の、志乃聖人S君。

 捕球するなり立ち上がった捕手は、送球動作を見せるだけで実際には投げへんかった。

 二塁へ滑り込むや、悠々と立ち上がり会心の笑みを見せる、ランナー。

 七回表のミナミ・タイランツが代打攻勢で三点をもぎ取ったように、ナゴヤ・ドレイクスも代打策を絡めて大きなチャンスを作り上げる。

 ジョージ・マッケンG君は大きな唸り声を上げると、ワシにタイムを要求してからマウンドへと駆け寄った。

 ベンチから出て来た投手コーチ役のマイク★ニンベン君と、何がしかの相談を始める。

 ……投球フォームがオーバースローかスリークォーターやったらば、まだ防げたんかもしれへんが、サイドスローやアンダースローやとクイックモーションは其れほど早くはあらへん。

 何年もプロとして飯を食うてる選手ならば兎も角、やってる内容も技術も草野球レベルのワシらではなんぼ超人的肉体を持ってても、そないに器用な事は出来ひんわな。

 其れに。

 下手に二塁へ送球して、もしも暴投や後逸をしてしもうたら、タダで得点を献上する事になりかねんし。

 まぁ、今の盗塁を防ぐんはほぼ無理やったし、二塁へと送球しなかったんも正解やわな。

 盗塁を阻止するには、ピッチャー六割とキャッチャー四割かな?

 お、打ち合わせが終わったか。

 さぁ試合再開……って、ありゃありゃ。

 敬遠しての、満塁策でっか。

 まぁ、そりゃそうやな。

 カウントはフルカウントやけど、バッターは両チーム併せて本日唯一のホームランをかっ飛ばしている虎千代THEミュラー君。

 しかもお誂え向きに、一塁が空いている。

 ……いや、そーやないな。

 タダで、虎千代THEミュラー君を歩かせ塁を埋めさせるために、志乃聖人S君を走らせたんやな、ナゴヤ・ドレイクスは。


「一塁の代走、モゥ・ソーヤー!」


 ……ああ、なるほど。

 ミスハさんが告げる選手交代の場内アナウンスを聞きながら、ワシはナゴヤ・ドレイクスのメンバー表を確認し、頷いた。

 ベンチ登録二十五人の内、未だ出場してへんのは六人のみ。

 投手の橘DEATHデスですクロー君と、大アルカナのぜろ番君の二人。

 ホンで、野手がブラック下田君とCoNeST君と黒渦君と、テイルザーン君の四人。


 昨夜。前夜祭的な宴会が(たけなわ)を迎えた後、ワシは数人の者達と宴会場の片隅で、“試合終了後”の事について話し合いをした。

 カズ彦君、ミスハさん、太刀駒君の<Plant hwyaden>の幹部達と、山ノ堂朝臣君とテイルザーン君のナゴヤ組の代表格との間を取り持つ形で、談合をしたんやね。

 試合の結果を受けて、皆がどうするか? ってのを。

 <Plant hwyaden>側が勝った場合と、ナゴヤ在住組が勝った場合とで、条件が変わるのかどうか?

 変わるのならば、其の折り合いをどうつけるのか?

 ワシとカズ彦君を立会い人とした話し合いは、静かに進みあっさりと落着した。

 浮かれ騒ぐ他の冒険者達も、ほとんどが気づかんかった事やろう。

 まぁソレでエエと思う。

 決断を迫る時は、即断即決の方がエエし。

 事前に根回しをしとかなアカンのは、指揮権を発動出来る者だけで。

 密室会議はエエ事ないかもしれんけど、こないにオープンな場所でやってるんやし、まぁ許してもらうとしよう。

 後ろ暗い事は御日様の下で、秘すべき事は公の場で、ってな。


 さて、其処で、や。

 試合の結末がどうなるにしろ、必ずどっちかが勝って、どっちかが負ける。

 引き分けも、再試合もない。

 延長無制限の一発勝負、やさかいに。

 そやさかいに、如何なる結末になろうとも其れを粛々と受け止めるためには、登録した全員で此の試合を戦おう!……って考えたんかも、な。

 ワンポイント登板であれ、代走であれ、全員が試合に出場の機会を持つ。

 とは言え、まだ七回や。

 残る六人の戦士達は、どんな場面で名前がコールされるんかな?


〔 六番、頭文字ファンブル、背番号3 〕


 お次のバッターは、第一打席が四球で出塁、其の後の二打席は内野ゴロやった、頭文字ファンブル君。

 レベルは八十にも満たへんミドルクラスやが、ミナミ・タイランツからしたら一死満塁の此の場面では、最も嫌なバッターかもしれへんなぁ。

 何せ二つの内野ゴロは、どっちも間一髪のアウトやったから。

 ドカンとデカイのを打つ力はないかもしれんが、併殺打となるような打球を打つ可能性も低い。

 期待が膨らむ応援団も、矢鱈と勇壮な曲を奏で始めよった。

 最優秀作品と言う評価の反面、アイゼンハワー元大統領が抗議声明を出すほどに事実とはかけ離れたフィクションが多過ぎる、とある戦車映画の中でドイツの戦車兵が合唱する、其の歌。

 女の子達が沢山登場するテレビアニメでも使われた所為か、日本語訳の歌詞が旋律の合間から申し訳程度に聞こえて来る。

 ああ、確かに、歌詞で歌われとる通りや、な。

 フィールドに散らばる者達も、ベンチから大声で声援を送る者達も、皆何処かしら土埃に塗れて、泥だらけになっとんなぁ。

 飛びついて、滑り込んで、ってしとるんやし当然っちゃぁ当然やが。

 ユニフォームの汚れた箇所は、実に立派な勲章やわな。

 集団で共同作業をする際に、一人当たりの課題遂行量が人数の増加に伴い反比例して低下する、そんな事が儘ある。

 リンゲルマン効果、もしくはフリーライダー現象とも呼ばれる、社会的手抜き現象やねんけど。

 ソレが、驚くべき事に此処では一切、見られへん。

 誰も彼もが一意専心に遮二無二、智慧を絞って課題に取り組み、全身を駆使して障害を乗り越えようとしとる。

 一人で出来る事は独力で、適わぬ事は仲間と共に。

 一事が万事ではないにしても、ソレをし続ける努力を怠ってへんわ。


 キン!


 ツーボール・ツーストライクからのスプリットを、頭文字ファンブル君は地面に強く叩きつけ、跳ばす。

 大きく弾んだ打球は三塁線へと容赦なく襲いかかるが、三塁手は慌てずに其れを捌いた。

 サードベースを踏みながら、此方の方へと一瞬だけ視線を送り、直ぐに一塁へとボールを投げ放つ。

 三塁ランナーは一目散にホームベースを駆け抜け、二塁ランナーは其の体と恣意的に緩めた走塁で以って、三塁手が至近のベースである二塁へと送球するのを防ぎよった。

 志乃聖人S君のちょっとしたプレイの所為で、三塁手は最も遠い対角線上にある一塁への送球で、併殺を狙う羽目に。

 本塁へと脇目を逸らした事と相俟って、頭文字ファンブル君は余裕を持っての一塁セーフである。

 SHEEPFEATHER朝臣君がガッツポーズをしながら飛び跳ね、三塁フォース・アウトになりベンチに戻って来た志乃聖人S君にハイタッチを求めた。

 其の二人を、抱きかかえるようにして迎え入れる、Yatter=Mermo朝臣君と虎千代THEミュラー君。

 山ノ堂朝臣君は、琵琶湖ホエールズ同志と、握手を交わし笑みを交わす。

 駿河大納言錫ノ進君は頭の上で手を叩きながら、言葉にならぬ喜びを大いに発散させ、一塁コーチ役のブラック下田君は頭文字ファンブル君の尻を、派手に叩いた。

 スタンドでは応援団長の若葉堂颱風斎君が雄叫びを上げ、DRAGOON-ww2君はミスハさんの部下と手を繋ぎ踊り狂っている。

 皆で捥ぎ取った一点に、誰も彼もが大騒ぎや。

 ……ノートへと書き込みをし続けとる志摩楼藤村君も、爪先だけは楽しげに動いとるなぁ♪


 <ナゴヤ・ドレイクス>、2-3、<ミナミ・タイランツ>。

 七回裏、二死一、二塁。

 まだまだチャンスは続き、ピンチが続く。


〔 七番、多岐音・ファインバーグ朝臣、背番号57 〕


 あれよあれよと言う間にランナーを溜めてしまい、追撃の点を与えてしまった進撃御神輿君は動揺を収められぬままに、二球続けて明らかなボール球を投げてしもうた。

 堪らずタイムを叫び、再びベンチを飛び出したマイク★ニンベン君は、マウンドへと駆け寄り進撃御神輿君の肩を抱く。


 応援団の演奏は、いつの間にか違う曲に変わっていた。

 五人の選ばれた男子高校生が変身ヒーローとなり、更に融合して合体し巨大ロボットになり敵と戦う、テレビアニメの主題歌。

 第四話のサブタイトルが『最終兵器を破壊せよ』で、倒すべき敵が宇宙仙人というツッコミ処盛沢山の番組やったが……。

 まぁ……多岐音・ファインバーグ朝臣君と、名前が似てるっちゃぁ似てるけど。

 語感に併せるんやったら、他の選曲の方が良かったんと違うか?

 例えば伝説な巨神とか、太陽っぽい勇者とか、さ。


「ピッチャー交代、トラボルチュンタ!」


 暫く考え込んでから、徐に告げられた太刀駒君のコールをミスハさんに伝えながら、ふと思ったんやけど。

 何や、表の攻撃の再現フィルムを見ているみたいやな。

 ラッキーセブンは、ミナミにもナゴヤにも均等に、ってか?

 ……統計的には、何ら根拠のない話らしいんやけどね?

 どっちか言うたら、初回の方が点になりやすいとか。

 ラッキーセブンに根拠があるとするにゃらばソレは、……思い込みやね?

 ラッキーセブンやから絶対に得点出来る、ってのと。

 ラッキーセブンやから失点するかもしれへん、ってのとの。

 ある種の、偽薬効果(プラセボ)か?

 いやいや、偽薬効果(プラセボ)って有意なモンじゃないって、最近は言われとるし。

 ……(まじな)い、みたいなモンかな。

 其れを信じて、信じた通りの結果が得られたから、其れは存在する……みたいな?

 逆説的な後付理論っぽいやな。

 でも実際に、こーやって両軍共にチャンスを作り、加点しとるんを見ると本物としてうっかり認識して、しまいそうになるわさ。


 さ、投球練習も済んだし、ツーボールのカウントのままで試合再開や。

 入念な投球練習をして来たんか、トラボルチュンタ君の投げる球はキレがあり、球速もキチンと仕上げられていた。

 けど。

 コントロールだけは、練習と実戦とでは勝手が違うようやった。

 僅かに甘く入った高目のシュートに、多岐音・ファインバーグ朝臣君のバットが空気を切り裂き、甲高い打撃音を立てる。

 打球は山なりの軌道を宙に描き、レフトを守るMAD魔亜沌君の方へと飛んで行ったが……。


「ファ~~~ル~~~♪」


 まさに歌うようなソプラノで、水琴洞公主嬢が両手を外側へと突き出し、其の場でクルクルと廻った。

 ……外野の線審は、何かを廻さなアカンってルールでも、あるんか?

 試合が終わったらば、カズ彦君の胸倉掴んで尋ねてみっかな。

 フッと視線を落としたら、ジョージ・マッケンG君が両手を広げてから、下へと落とすような仕草をマウンドへと送とった。

 ストライクゾーンは広く、投げる高さは低くってジェスチャー。

 トラボルチュンタ君は帽子を被り直して、一つ頷いた。

 そして。

 二塁ランナーを睨みつけながら、連続して素早くストライクを投げ込んだ。


「スットライック! バッター、アウット!!」


 ナゴヤ・ドレイクスの千載一遇やもしれぬ機会と、スタンドとベンチに渦巻くお祭り気分を、トラボルチュンタ君は無情にも断ち切りよった。

 まぁ、チャンスが潰える時って、こんなモンさね。

 To be or not to be, that is the BASEBALL、って事や。

 小さくガッツポーズをしマウンドを降りるトラボルチュンタ君を、野手達が讃えながら其の背中を軽く叩いて行く。

 そして、ミナミ・タイランツのベンチ前には人だかりが出来、一斉に拳を天に突き上げられた。

 六回の二死満塁を無失点で防いだ後の七回表に三点取って逆転し、更に一死満塁のピンチも最少失点で乗り切ったんは、実に見事や。

 そら、意気も上がるやろう。

 試合前半の悪戦苦闘が、嘘みたいやモンな?

 さぁ、此の勢いを続けるぜ!ってばかりに張り切る、<Plant hwyaden>のギルドタグを誇らしげにつけた冒険者達。

 だが、そーは問屋が下さへんかった。


 八回の表、マウンドに登った橘DEATHデスですクロー君が、打者三人に三球ずつ投げてピシャリと封じ込めてしもうたからや。

 漫画か映画で見たような、三者三振やった。

 しかも、九球共に全て違う球種やったんやわ。

 一人目は、速球で見逃し、シュートでファール、フォークで空振り。

 二人目は、スライダーでファール、カーヴで見逃し、シンカーでも見逃し。

 三人目は、チェンジアップで空振り、ツーシームで見逃し、ナックルで空振り。

 何事もなかったように、無表情でスタスタとベンチへ歩いて行く橘DEATHデスですクロー君。

 まぁ、<陽気な殺戮者の覆面(ブギーウギー・マスク)>の下では脂下がっているんかもしれへんが。

 実にアッパレ、お見事でした、の投球やった。

 やっぱ特殊な武器手袋を普段から使うてるから、指先が誰よりも器用なんかね?

 球速はなくとも、緩急とキレさえあれば存分の活躍が出来るってのは、星野伸之や安田猛が証明しているもんなぁ。

 いやはや、エエもんを見させてもらいました。


 其の裏の、ナゴヤ・ドレイクスの攻撃。

 先頭打者のシュヴァルツ親爺朝臣君は三球続けてファールを打ち粘るも、落ち着いたマウンド捌きのトラボルチュンタ君の前に、敢えなく凡退。

 次打者は橘DEATHデスですクロー君の打席やったが、代打が告げられる。

 名前をコールされたブラック下田君が、一塁コーチズボックスをレディ=ブロッサム嬢に明け渡し、急いでダッグアウトへと駆け戻った。

 ホンで、ヘルメットを被り再登場した時には、実に勇ましい顔つきをしとった。

 荒れたバッターボックスの地面を念入りに均してから、ガッガッと改めて爪先で削り込みよる。

 其の初球。

 打撃のお手本のようなレベルスイングで振り抜かれたバットが、真ん中低目のベルト付近の球を、綺麗に弾き返した。

 鋭いラインドライブが、ジャンピングキャッチを試みた三塁手のグラブを掠め、レフトの頭上へと真っ直ぐに飛んで行く。

 左翼手のMAD魔亜沌君が全力で背走し、外野の壁面へと到達する直前に“なんちゃって芝生”で覆われたフィールドから空中へと、大きく飛び上がった。

 そして爪先を延ばして壁面を強く蹴り、更に高く、更に上へと手を伸ばす。

 まるで獲物に跳びかかる猫のように、……ってMAD魔亜沌君は猫人族やから其のまんまか、身体能力が強化されてなかったら絶対に出来ひん“三角跳び”を決めた。

 目一杯に広げられたグラブの中に、打球が勢いよく吸い込まれ、収められる。

 せやけど、ちょっと……勢いが良過ぎたようや、な。

 何一つ支える物のない、不安定な捕球体勢。

 猫人族はヒューマノイドの一員で、決して猫ではあらへん。

 ましてや空の住人でもない。

 勢いまでは止められへんかったグラブが慣性の法則に従った結果、宙に浮いたままのMAD魔亜沌君のバランスを、微妙に狂わせる。

 グラブを填めた左手が後ろに引かれ、頭が下がり、両足が撥ね上げられた。

 錐揉み状態で真っ逆さまに墜落する、MAD魔亜沌君。

 一塁を廻り二塁に到達していたブラック下田君を含め、全ての冒険者達が息をするのも忘れて、左翼を注視していた。

 着地ではなく、接地したMAD魔亜沌君の姿勢は、尻を高く突き上げた土下座っぽい感じで、微動だにしてへん。

 ……奇妙な、只の屍のようや。

 其処へと、踊るようにステップを踏み近づく、水琴洞公主嬢。


「ア~ウトォ~~~♪」


 潰れた蛙の如き有様のMAD魔亜沌君を繁々と観察してから、両手で天を支えるかのように広げた水琴洞公主嬢が、大空へと短い詠唱(アリア)を響かせた。

 落ち込む暇もなくユキダルマンX君を打席へと送り出す、ナゴヤ・ドレイクスの首脳陣。

 MIYABI雅楽斗朝臣君の後を受け、一番に座るユキダルマンX君も鋭い打球を外野へと飛ばすが、右翼手がスライディング・キャッチをする。

 ヘラヘラとしたままフラフラと、何故かカラコロと下駄を鳴らして歩み寄った究極検閲官R君が、助六ばりに見得を切って短い口上を述べた。


「やぁ、あぁ~~~うっと~~~!」


 右手に持った棒状の手拭いは、蛇の目傘の代わりかいな……もしかして?

 ……まぁ、エエか。


 ホンで、そんなこんなで。

 試合はとうとう、九回を迎えた。

 野球の応援に付物なのは、アニソンや特ソンでやんす。

 近鉄バファローズのブライアント選手は、仮面ライダーV3。

 西武ライオンズの石毛宏典選手は、ウルトラセブン。

 最近は、オリジナルの曲ばかりで……。

 球場に行っても、知らないから歌えなくて疎外感バリバリで。

 まぁ。

 私が球場でライオンズの応援をしたら、通算2勝28敗ですが!

 だから、行きたくても行けませんが!(泣)

 因みに、28敗の大半が80年代後半から90年代の、黄金期のライオンズ時代の話ですが!(号泣)

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