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第肆歩・大災害+60Days 其の弐

 今回はファンタジー要素と、ログホラ要素を、ほぼ壊滅状態で御送り致しておりまする。

 何だかもう、御免なさい(平身低頭)。

 ホンマやったら、ワシがプレイボールって宣言したら即座にサイレンが鳴るんやけど、此処にはないからしゃあないわな。

 心の中で鳴らしといたろ。

 ウ~~~~~~~~~~~~~~ッ!って、何や雪山で毛むくじゃらの怪獣を呼び出しとるみたいな、気分がしてきたなぁ。けけけけけ。

 さて、と。

 トップバッターのEEE魔王(いーまおう)君は、<暗殺者>か。

 まぁ順当な処やなぁ、……何せ<暗殺者>は機動力が命やしなぁ。

 身体能力からすれば“巧打者(アベレージヒッター)”やねんけど、性格的には……“強打者(プルヒッター)”タイプやねぇ。

 上半身をホームベース寄りに前傾させた、典型的なクラウチングスタイル。

 さっきの始球式でのスイングを見ても、コンパクトな打撃を心掛けるよりは、積極的に振り回すんが好きみたいやし。

 おっとイカンイカン、集中集中っと。


「ストラ~~~イク!」


 案の定、フルスイングやったなぁ。……ソレも窮屈そうな。

 力一杯振ろうとしとるんやけど、どこか妙に力をセーブした感じの、何ともチグハグなバッティングやな。

 昨日のボールがパッカーン! 事件が影響しとるんかね?

 直に検分せず、話を聞いただけで、大した打撃練習が出来ひんかったやろうし、<Plant hwyaden>の連中は。

 まぁ、ちょいとしたハンデみたいなモンやし、<Plant hwyaden>からも特にクレームがなかったからエエけど。

 ソレよりも。

 @ゆちく:Re朝臣君って、エエ球投げるなぁ!

 球速は百五十キロ足らずやろうけど、膝元にスッと入り込む内角低めギリギリへの速球。

 コレは打てんなぁ。

 EEE魔王(いーまおう)君みたいな打ち方やと、尚更やわ。

 ……それにしても。

 誰が考えたか作ったかは知らんけど、此の<宿禰審神者(すくねさにわ)の裁定面>って製作級アイテムは便利な道具やな。

 ストライクゾーンが、立体的に視認出来るんやモン。

 テレビ中継なんかで表示されるストライクゾーンって、平面やったりする。

 九面パネルを打ち抜くゲームでもそうや。

 でも、実際は違う。

 本当のストライクゾーンってぇのは、立方体や。

 公認野球規則やとストライクゾーンを、次のように既定しとる。

 曰く“打者の、肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間をいう。

 此のストライクゾーンは、打者が投球を打つための姿勢で決定されるべきである”って。

 つまり、五角柱なんやな。

 モノポリーで使う、ホテルの駒を立てにした感じの。

 ああ勿論、ストライクゾーンに煙突みたいな突起はないけれど。

 誰かさんが作ってくれた此のアンパイア・マスクは、被ると視界にぼんやりとした何かが映し出されよる。

 ホンで、投じられたボールが其れに触れると火花が散るみたいに、光の粒子が其処だけパッと弾けるんやな。

 おもろいなー、よー出来とるなー。

 ……どーやらコイツは、ホームベースと連動しとるようや。

 ホームベースが視界から外れた瞬間に、画面が切り替わるみたいに視界が通常に戻りよるモン。

 コレって、至極真っ当なアイテムとは違うよなぁ。

 もしかしたら……<料理人>が様々な元の現実の料理を再現したみたいに、サブ職特有の何か……もしかしたら<奥伝>か<口伝>で製作したんと違うやろか?

 <神祇官>達を中心に、<符術師>君やら<学者>君やらが知恵を出して、こさえたんやろうかな。

 言わば、赤外線センサーと暗視ゴーグルのセットみたいなモンかね?

 特定の範囲に設けられた結界にのみ反応し、其れを視覚データ化するアイテム。

 面白アイテム過ぎるが故に、汎用性があるのやら、ないのやら?

 コレがホンマに<奥伝><口伝>の類ならば、……何とも無駄遣いやなぁ!


「ストラーイク、ツー!」


 今度は内角高目ギリギリを突くボール球、所謂“釣り球”やった。

 プロのバッターでも、顔の近くにやって来る球は、ボールやと判っててもついつい振ってしまうんやよなぁ。

 コレが打てるんは、口にいつも二枚葉の謎の植物を咥えたバケモノみたいな高校球児、だけやモンなぁ。

 悪球コレステロールなんざ、普通はバットに当らへんって。


「スットラーイク、バッターアウットォッ!!」


 ワシは、阿呆みたいに左足を上げてジャンプしてから、ボクシングのワンツーパンチを虚空相手に繰り出したった。

 露崎元弥御大のマネ!

 ……って、誰も知らんわなぁ。

 何せ、ワシが産まれる前後くらいに活躍してはった、名物審判さんやもんなぁ。

 ワシかて、映像資料でしか知らんモン!

 外角の低目、つまりバッターからは一番遠い処に決まった速球に、EEE魔王(いーまおう)君は手も足も出ず、天を仰ぎよった。

 内角高目と外角低目。

 実に正しく、野球のセオリーを守った投球でやんす。

 バックスクリーンの方をチラリとみたら、黄色いランプが二つとも消されて、赤いランプが一つだけ灯りよった。

 あそこにも、ナゴヤ在住の冒険者と<Plant hwyaden>からの派兵が、呉越同舟して裏方に徹してくれとる。

 色ガラスと<蛍火灯(バグズライト)>の組み合わせが、何とも心に沁みるわな。

 手前味噌な言い方やも知れんけど。

 ワシらは皆、頑張った!


〔 二番、赤色矮星(レッド・ドワーフ)号、背番号53 〕


 ミスハさんの声は、鼓膜に心地エエなぁ。

 さてさて、次は狐尾族の<武闘家>やで。

 <暗殺者>とは違う意味で、敏捷性が必要な前衛攻撃職やわ。

 体型は、ワシよりは背ぇが高いけど、ワシよりもちょいと細身やねぇ。

 名前は不器用そうやが、見るからに小器用そうやな。

 と、なったら……ふむ。


「ボール!」


 初球は見逃しよったか。

 選球眼は良さそうやもんなぁ、探りながらの誘い球には手ぇ出さへんか。

 って事は?

 お!

 @ゆちく:Re朝臣君が首を何度も振っとる間に、セカンドのSHEEPFEATHER朝臣君が位置をファースト側に移しよった。


 カーン!


 鋭い打球が……ああ、SHEEPFEATHER朝臣君が落ち着いて捌きよった。

 大分腰を落とし気味やから、送球が半テンポ遅れよったが。


「アウト!」


 カズ彦君のコールに、一塁を駆け抜けた赤色矮星(レッド・ドワーフ)号君が悔しそうな素振りを見せよる。

 せやねぇ、ちょびっともたついた分、ギリギリのアウトやったモンなぁ。

 <暗殺者>やったら余裕のセーフやったやも?

 まぁ、投じられたんが膝元に食い込むシュートやったし、バットコントロールが上手くなきゃ、根元でポッキリと折られてたんかもしれん。

 投げた方も、打った方も、どっちも上手やったな。


「ツーアウトォ!」


 シュヴァルツ親爺朝臣君が、立ち上がって外野まで届かせる大声と、ハンドサインを出しよった。

 ……意味合いからしたら、“簡単にアウト二つ獲ったけど、気ぃ抜くなよ!”って感じなんやろうかね?

 なんせお次は……。


〔 三番、MAD魔亜沌、背番号9 〕


 さぁさぁ、クリーンアップの登場だっせ、お客さん!

 一掃すべき走者は、塁上に一人も居らんけどね。

 でもまぁ、雰囲気だけは千両役者みたいやし、纏う威圧感は付け焼刃やなさそうやで?

 どない攻めるか、バッテリー?

 どない打つんや、MAD魔亜沌君?


「ストラーイク!」


 思いっきりバットを振りよったなぁ、……空振りやったけど。

 せやけども。

 此の空振りには、重大な意味がある。

 “舐めるなよ!”って恫喝と、バットがキチンと振れるって事を体に染み込ませる事や。

 一番二番のバッターみたいに、縮こまった打ち方ではまぐれ当り(ラッキーヒット)しかあらへんさかいなぁ。

 @ゆちく:Re朝臣君が投げ込んだ、ある意味では勝負球とも言えるシュートを、次は確実に捉えるための目測を図るって意図も、あったんやろう。

 ただ、闇雲に振ったんやったら目線が球から、切れとったやろうし。

 これ見よがしな鋭い振りやったし。

 打つ気満々だっせ、MAD魔亜沌君は!

 さぁ、第二球目。


「ボール! カウント、ワン・アンド・ワン!」


 よう見たなぁ!

 今のは手を出しても可笑しくないボールやったけど、ようバットを止めよったな!

 感心感心、ただの筋肉馬鹿やなかったんやね、MAD魔亜沌君。

 さぁ次は何処へ何を投げるんかな?

 お? おお!!


「ボール!カウント、ツーボール・ワンナッシング!」


 まさか、まさかのフォークボール!

 いや、曲がりが小さいからスプリットかな?

 低目から低目に行ったんで、完全なボール球になってしもうたけど、もう少し高けりゃカウントは逆になってたよなぁ。

 しかし、変化球はシュートしかないと思っていたから、いやはや吃驚した!

 ……驚いたんは、ワシだけやなくMAD魔亜沌君もみたいやね。

 結構、器用なんやなぁ@ゆちく:Re朝臣君は。

 さてさて、バッター有利なカウントやけど、新しい球種を御披露目したばかりやから、中々そうとも言えまへんで。


「ファール!」


 ほら、MAD魔亜沌君の振りに迷いがあるから、外角高目の球の下っ側を擦ってしもうた。


〔 ファールボールの行方に御注意下さい 〕


 ミスハさんが注意を喚起するけれど、打球が飛び込んだのは観客が誰も居てへんライト方向のスタンドや。

 まぁ、御約束やねんけどね、アナウンスは。

 さてさて、平行カウントになりましたで。

 お次は一体、どうやろうか?


 カキーン!


 エエ打球音や! って思うたら。

 ショートの君が頭文字ファンブル君が軽く背を丸めてから、垂直にジャンプしよった!

 もぎ取るように打球をキャッチして、涼しい顔で着地。


「アウトだ!」


 笑顔でSHEEPFEATHER朝臣君とハイタッチをしながら、アウトを宣告したランプ・リードマン君にボールを投げ渡しとる。

 はぁ~~~あ、<盗剣士>ってのは伊達やないなぁ、身のこなしが軽いわさ。

 それにしても。

 垂直ジャンプであんだけ跳躍するって、どないやねん!?

 三、四メートルは跳んだやろ?

 ワシが言うんも何やけど、冒険者の身体能力って……えげつなー。

 ホームラン性のも、確実に長打コースの打球も、ぜーんぶダイレクトキャッチしてしまうんと違うやろか、此の試合って。

 マジで、超人野球になりそうやな。


〔 ナゴヤ・ドレイクスの攻撃です。

 一番、MIYABI雅楽斗朝臣、背番号4 〕


 アナウンスと仲間の手に押されて、一塁側ダッグアウトから何ともまぁビジュアル系バンドのメンバーでもやってそうな青年が、颯爽と現れよった。

 堂に入った仕草で、軽く素振りをくれとる。

 ……確か昨日、利き手とバットの持ち方がチグハグやった青年やよなぁ?

 うん?

 ベンチから誰か出てきたな。

 作戦でも伝えるんかと思いきや、MIYABI雅楽斗朝臣君からヘルメットを奪い取り、代わりのヘルメットを被せよった。

 ……ああ、両耳形式のやなく片耳形式ヘルメットの場合は、右打者と左打者で違うモンなぁ。

 因みに其の違いは、バッターボックスに立った際に、投手の側に耳ガードがついているって事で、右打ちならば左耳を、左打ちならば右耳を保護するように出来とる。

 昨日もそーやったけど、多岐音・ファインバーグ朝臣君が彼の世話係なんや?

 ……頑張りや、たのたっちゃん。

 おっと、いかんいかん。

 いつの間にかミナミ・タイランツの守備陣の紹介が終わっているし、マウンドのMAD鬼射雄君の投球練習も終わりそうやわ。

 矢鱈と背の高い細マッチョから投げ下ろすボールは、@ゆちく:Re朝臣君よりも明らかに球威も球速もありよる。

 フサッとした口髭がまた、何ともダンディな感じやねんけど……猫人族なんよなぁ、此れがまた彼もまた。

 名前から判断すれば、MAD魔亜沌君の関係者やねんから猫人族なんは納得出来るとしても。

 何で猫人族の皆は揃いも揃って、独特な髭を生やしたりつけたりしとんねん?

 元々、髭が生えとるやろうが、猫髭が!

 何ぞ先祖代々の謂れや決め事や、遺言か何かでもあるんかい!?

 って、まぁ……もうエエか、ツッコミ入れるだけ阿呆らしくなってきたわ。

 おフランスの貴族の御婦人方が妙ちきりんな髪型をしたり、ヒッピーや竹の子族やガングロみたいな、ワシみたいな至極真っ当なパンピーには理解し辛いムーヴメントなんや、って事にしとこか。

 ほんじゃあまぁ、再開っと。


「プレイ!」


 MAD鬼射雄君が投じた初球は、外角に外れた速球。

 MIYABI雅楽斗朝臣君は、バットをピクリとも動かさず、平然と見逃しよった。

 ほほぅ。

 二球目は、更に大きく外れてボール。

 三球目は、内角を厳しく突いたが、此れもボール。

 練習が足りなかったかんか、肩が温まってないんか、はたまた初めての実戦でチビッてしもうとるんか。

 たった三球で、MAD鬼射雄君は自らを追い込んでしまいよった。

 一度もバットを振る事なく、MIYABI雅楽斗朝臣君は実に有利な立場に。

 さてさて続く球は、と思ったら。

 何と、ど真ん中の速球! しかも、打ち頃の球速やん!

 投げ終えた瞬間に、MAD鬼射雄君は大失敗をやらかした!ってな顔になりよる。

 それやのに。

 またもやMIYABI雅楽斗朝臣君は、平然とした顔で絶好球を見逃してしまいよった。

 ほほぅ?

 両側のスタンドに陣取る応援団だけやなく、両軍ベンチからもフィールドの選手達に声援と激励がワーワーと喧しく飛んで来てるんやが……。

 ナゴヤ・ドレイクスの選手達が口々に言うてるんは、“振れー! 振れー!”みたいな気が?

 あれ? ……まぁエエか。

 動揺を隠せんでいたMAD鬼射雄君が、利き手をブラブラさせて深呼吸をする。

 帽子を脱いで額の汗を拭い、被り直した時には、目に浮かんでた弱気な色もすっかりと拭い去られていた。

 一方、MIYABI雅楽斗朝臣君は相変わらず、一筋の汗も流さず涼しい顔のまんまや。

 カウントは、スリー・ワン。

 って此の言い方。やっぱ慣れへんよなぁ。

 子供の頃に野球を見出してから幾星霜、ずっとストライク・ボールの順番やったのに、国際基準だか何だか知らんけど、気がつきゃボール・ストライクの順番になってしもうた。

 そんなに“ぐろーばる・すたんだーど”を後生大事にしたいんやったら。

 テレビの放映権をプロ野球機構が一括して管理し、各チームに利益だけを均等に再分配しろよ!

 ホンで、指名打者制度に完全移行して、ドラフトも公平無比な完全ウェーバー制度にしろよ!

 ってな愚痴が脳内に渦巻いた瞬間、MAD鬼射雄君が第五球目を投じた。

 先ほどまでの速球と同じフォームで投げられた球は、同じ軌道を描かずに浮かび上がる。

 カーヴか!

 ソレも、最も打ち難いとされる、ドロップ・カーヴ!

 所謂、二階から落ちてくるって表現されるヤツや。

 往年の四百勝投手や、工藤ちゃんや今中が投げてた必殺の“魔球”。

 何故、“魔球”か?

 魔球ってぇのは、別に魔法が使えんでも投げる事は出来るが、変化球よりも変化せん事には“魔球”やなんて言わへん。

 人の視線ってぇのは、横の運動は容易やけど、縦の運動は中々に難しいモンがある。

 横の運動は、眼球だけの動きやけど、縦の運動は、首から上を全部使わんとアカン。

 つまり。

 其れまで固定されていた頭が動いてしまう事により、遠近感がズレたりブレたりるんやな。

 そーいや、“究極の魔球って何だろう?”って考察していた野球漫画があったけど。

 “究極の魔球とは、物理法則に反する変化を見せるボールである”って結論やったなぁ。

 投げられたボールは、空気抵抗と重力に負けて必ず失速し、地面へと落下する。

 其れが判っているから、打者はボールを打てるし、野手は送球を捕球出来る。

 せやけど、其の落下のタイミングが此方の予想と違ったら?

 絶対に打てへんし、捕球出来ひん。

 此方が想定した未来予測と、違う現実が来るんやモン。

 下手投げの投手が投じた、最も変化しない速球が打者の直ぐ傍まで浮き上がるようにやって来て、不意に失速したら?

 此れが、“消える魔球”の原理やそうな。

 プロ野球で下手投げの投手が有利で、何かのエキシビジョン・マッチでアマチュアのソフトボールの選手がプロ野球選手を圧倒する理由が、ソレだそうな。

 ドロップ・カーヴは、其の“消える魔球”をもっと判りやすくした軌道を描く、魔球やわ。

 マウンドとホームベースの中間よりも、やや打者よりの処まで緩やかに浮き上がり、其処から急速に落下の軌跡を残しよる。

 打者は目線を限界まで引き上げられてから、一気に落下物を追いかける形になる。

 此れが捕球する動作ならば、グラブを嵌めた手を下から掬い上げりゃエエ。

 処が、バットは横に振る動作や。

 首から上は縦運動を強制させられとるのに、肩から下はバットを振るという自然な横運動をせなならん。

 そんなチグハグな動きで、まともなバッティングなんざ出来るはずがあらへん。

 あらへん、はずやのに。

 MIYABI雅楽斗朝臣君は、ソレをしよった!


 カキーン!


 打球はエエ音を立てつつ投手の足元を抜け、セカンドベースに達し、ソレに打ち当たってから針路を右へと勢い良く変えよった。

 慌てて一塁手が飛びついて捕球しようとするも、打球は無常にもグラブを掏り抜けてライトのファールゾーンへと。

 バットを放って駆け出したMIYABI雅楽斗朝臣君は、一塁を蹴って悠々と二塁へ到達する。

 文句なし、とは言い難い実にラッキーな二塁打!

 ベース上に立ち何処か満更でもなさそうなMIYABI雅楽斗朝臣君を睨みつけながら、内野へ返球するミナミ・タイランツの右翼手。

 しかしまぁ上手い事、打てたモンやわ。

 考えてバットを振ってたら、空振りして尻餅ついてたんやろうな。

 さぁ、初回無死から得点圏にランナーが出ましたで。

 一塁側のスタンドとベンチの賑やかな事、賑やかな事。


〔 二番、SHEEPFEATHER朝臣、背番号7 〕


 チラチラと二塁を気にしながら、モーションを小さく構えるMAD鬼射雄君。

 其の初球を、SHEEPFEATHER朝臣君がバットを寝かせて軽く当てた。

 絶妙な送りバント、……とはならへんかった。

 ボールは小フライとなって、前へと飛び出したMAD鬼射雄君のグラブに収まる。

 空かさず、ジョージ・マッケンG君が指示を飛ばす。

 ベースカバーに入るEEE魔王君の差し出すグラブに、MAD鬼射雄君から体勢を崩しながらも正確な送球がなされた。


「セーフだ」


 ランプ・リードマン君の宣告と、EEE魔王君のポカンとした顔。

 そりゃ、そうだろうなぁ。

 バントであれヒッティングであれ、打者は常に塁上に居るランナーを先の塁に進めるべく努力する。

 ランナーは誰しもが、隙あらば次の塁を奪おうとするモンや。

 SHEEPFEATHER朝臣君は、実らずとも進める努力をした。

 処が。

 塁上のMIYABI雅楽斗朝臣君は、進塁する意思をさっぱり見せていいひんかった。

 ベースから離れて、次のベースとの距離を縮める、所謂“リードを取る”という行為を一切せずに、ずっとベース上に立ち尽くしていたんやな。

 そらぁ、セーフやろう。

 ……怪我の功名みたいな感じやけど。

 コレが元の現実での試合やったら、“愚か者のしくじり(ボーン・ヘッド)”やったやろう。

 何せ、プロでも咄嗟の補給は失敗する事が多いし、崩れた体勢からドンピシャの送球は滅茶苦茶に難しいからなぁ。

 冒険者の身体能力があったればこその、其れを使いこなせるだけの事をしていたからこその、ファイン・プレイやった。

 だが、微動だにしないという選択をしたMIYABI雅楽斗朝臣君の行動が、あるかなきかのビッグ・プレイを台なしにしてしもうた。

 無欲の勝利?

 天を仰いだり、顔を覆ったりして盛んに首を横に振っている、山ノ堂朝臣君や琵琶湖ホエールズ同志達の姿を見れば……。

 何事もなかったような顔で居るMIYABI雅楽斗朝臣君の姿が、横山エンタツ師匠と花菱アチャコ師匠の往年のネタ、『早慶戦』の登場人物のように思えて来たな。

 まぁ、よーも大事な一番バッターに、どーやら野球素人っぽい彼を据えたモンやね、ナゴヤの首脳陣さん。

 大英断……になったらエエねぇ。


〔 三番、Yatter=Mermo朝臣、背番号6 〕


 ワンアウト、ランナー二塁。未だチャンスが続く、ドレイクス。

 さぁ、今度は此方さんのクリーンアップが登場やで。

 相変わらず、付け髭のカイゼル髭の両端が凛々しいのぅ。

 未だに違和感バリバリ過ぎて、慣れへんけど。

 二塁を気にするのを諦めたのか、牽制球を投げる素振りも見せずに、MAD鬼射雄君はテンポ良く投げ込んで来る。

 あっと言う間に、カウントはワンボール・ツーストライク。

 さぁ、どうするどうなる、って思っていると。

 Yatter=Mermo朝臣君はバットを握り直す際に、ホンの少しだけ握りを短くしよった。

 だが其れがバッテリーにバレへんように、神主さんが御祓いをするみたいにバットを小刻みに動かしよる。

 ホンで体は、ホームベースよりに踏み出して構えるクローズドスタンスから、体の正面をホームベースに正対する基本中の基本の構え、スクエアスタンスに切り替えよった。

 クローズドスタンスは一般的に、右打者はセンター方向からライト方向へ、左打者はセンター方向からレフト方向へと、所謂“センター返し”や“流し打ち”に適した打ち方やとされとる。

 Yatter=Mermo朝臣君は右打ちやから、流し打ちをするとランナーの進行を妨げない打球、進塁打を打つ事になる。

 例えアウトになろうとも、併殺打になる確率を格段に下げる事が出来る。

 其れを捨てたってぇ事は、どないしてでも先取点を取るって方針か。

 うむ。

 仕掛けるのが早いような気がするけど、チャンスは多いか少ないかは判らんしな。

 まぁ、失敗しても後八回あるモンなぁ。

 さてさて。

 セットポジションから、一度だけ二塁を振り向き、素早い動作で投球するMAD鬼射雄君。

 球種はやはり、ドロップカーヴ。

 ランナーが走る気満々やったら、投げるのを躊躇う球やけどな。

 何せ、球速が速球よりも四十キロから五十キロは、遅いんやモン。

 せやけど、今なら投げる価値はある。

 打者を仕留められる可能性が、一番高い球種やからね。

 すると。

 外角へと沈む球に、Yatter=Mermo朝臣君はバットを放り出すようにして対応しよった。


 スコーン!


 地面に叩きつけられた打球が大きく弾み、内野の頭を高く越えようとする。


「三塁へ、走るワン!」


 叫びながら走るYatter=Mermo朝臣君。

 其の叱咤に尻を叩かれたMIYABI雅楽斗朝臣君が、スタコラサッサと三塁へと駆け込む。

 打球を追って一塁手がジャンプし、打球をグラブで叩き落とした。

 其処へ走り込む、MAD鬼射雄君。


「アウトォッ!」


 叩き落されたボールを掴んだMAD鬼射雄君の足が、Yatter=Mermo朝臣君の足よりも僅かに早かったようやなぁ。

 打者が、<妖術師>やなく敏捷性に優れたメイン職やったらば、セーフやったかもしれんなぁ。

 ま、内角に投げてたら、結果は全て変わってたやろうけど。

 配球ミスに助けられた感じの、進塁打やったねぇ。

 これで、ツーアウト、三塁。


〔 四番、山ノ堂朝臣、背番号5 〕


 振り回していたマスコットバットを放り投げ、軽く屈伸運動をした山ノ堂朝臣君がネクストバッターズ・サークルからゆっくりと、右打席に入る。

 表の攻撃の時のMAD魔亜沌君もせやったけど、山ノ堂朝臣君も風格っちゅーか雰囲気を持っとる青年やなぁ。

 ジョージ・マッケンG君がマウンドに走り、グラブで口元を隠しながらMAD鬼射雄君とヒソヒソ話を始めよった。


「ちょっと奥さん、お聞きになられました?」「あらまぁ、そうですか」みたいな話はしてへんやろうけど。

 一息入れるにはエエ、タイミングやな。

 此処をきっちり抑えたら、失点を防ぐだけやなく、勝負の流れやリズムを相手側から引き戻す事が出来るさかいにな。

 反対に、ランナーをホームに帰してしもうたら、大量失点に繋がるやもしれん。

 初回の大量失点、ツーアウトからの大量失点って、実は結構あるからなぁ。

 さぁ、面白くなって来たで!

 勝つんは、山ノ堂朝臣君か?

 其れとも、MAD鬼射雄君か?

 初回からクライマックスやねぇ♪

 此の調子では、某高校野球漫画も斯くやといった展開速度になりそうですので、次回からはもう少し“巻き”で文字を連ねさせて戴きます。

 しかし。

 9000字ほどを費やして、一回の裏の途中までしか描写出来ないとは思わなかった!

 恐るべし、ベースボール!!

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