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第肆歩・大災害+58Days 其の壱

 試合準備は次回にも続きます。

 尚、当方の都合により、以下の方々を改名させて戴きました。

  ☆ 北田あおひ朝臣氏 → 北田向日葵朝臣氏

  ☆ タ・キ・オン朝臣 → 多岐音・ファインバーグ朝臣氏

  ☆ MIYABI雅雅(ガガ)朝臣 → MIYABI雅楽斗(ががくと)朝臣氏

 悪しからず良からず苦しからず御了承下さいませ(平身低頭)。


 頂戴致しました示唆を元に、“なんちゃって天然芝”育成法を改変すると同時に幾つか誤字を訂正致しました。(2015.04.20)

 尚、其の際にらっく様の御作、『片翼の天使~シブヤに舞い降りた道化師~』第15話を参照させて戴きました。

 http://ncode.syosetu.com/n4688ba/15/

 御不快な点がございますれば、何卒宜しく御連絡を頂戴致します(平身低頭)。


 シュヴァルツ親爺朝臣、の御名前を加入させて戴きました(2015.04.22)。

「…………ってな訳でな」

「相変わらず行く先々で、……やらかしてますねぇ」

「全く、何の因果かなぁ?」

「いやいやいや、因も果も何から何まで、レオ丸さんが原因で結果でしょう!?」

「え~~~、そんな事はそんな事はそんな事は……ない……んと違うはずやで」

「まぁ、其の件は良いでしょう。それで、俺に一体何をしろと?」

「何人か連れて、ワシと一緒に審判をして欲しいねん」

「審判? 俺がですか?」

「せや。審判の立場は中立公正やないとアカンやん?」

「俺も一応、<Plant hwyaden>の一員ですが」

「せやけど今回の事とは全くの無関係な立場やろ、自分?

 此処(ナゴヤ)に派遣されて来た集団は、ゼルデュスの発案にインティクスが横槍を入れて捩れたのんを濡羽が執政公爵家に囁いた結果、やと推察したが。

 自分ントコ以外の派閥による共同策謀ってヤツ、と違うん?」

「……よく御存知で」

「部隊指揮官が、ゼルデュスの下についた元<甲殻機動隊>の幹部。

 ホンで、部隊の中の無駄に威勢のエエのんが、元<ハウリング>のメンバー。

 インティクス発、濡羽経由、終点ナカルナードって臭いがプンプンやん?

 派閥力学っていう、コップの中の巴戦そのものやもん。

 でも、現場ではまた別の力学が働きよる。

 一個の強固な岩盤になろうとしとる<Plant hwyaden>も、内部ではマグマがドロドロと渦巻いとるねぇ。

 ま、其れは其れとして、話を原隊復帰させるとね。

 <Plant hwyaden>の邪な筋の影響下になくて、此処の近くに居る奴ってほとんど居らへんねんもん。

 此処よりも東のプレイヤーズタウンに居るか、そもそもセルデシアに居らへんし。

 西日本在住の冒険者は、み~んな忙しくアレコレしとるしなぁ」

「俺も結構忙しいんですけどね?」

「アキバの方に連絡飛ばして誰かを呼び出すってのも、ワシ的にはアリやけど……現実的にはナシやろう?

 怪獣王とでっかいエビが今当に激突しようとしとる時に、おっきな蛾まで召喚してしもうたら、コップをジョッキに変えた処でテーブルがワヤクチャになってしまうやん?

 例えソロです弱小ですって言うた処で、<Plant hwyaden>からしたら、アキバから来た冒険者は須らく“<円卓>よりの使者”やもんね。

 “人の縄張りにナニ手ェ出してけつかんねん!?”って思うやろ?

 せやから、向こうの方が人材豊富でも、デリバリーは出来ひんやん。

 ホンでこっち側には都合の良さそうな人材が、枯渇しかけとる。

 下手に呼び出しでもしたら、そいつの身にも危険が及ぶさかいにな。

 てな感じで、考えた結果。

 手が空いてそうで、危難が発生しても何とかなりそうなんは、自分とナカスに居る“天下御免の破壊僧”ことバイカル師くらいかなぁ、と。

 せやけど、ナゴヤのイザコザに態々ナカスくんだりから呼び出すんも、何やしね」

「聞いてましたか、レオ丸さん? 俺だって……」

「って訳で御免やけど、ワシのお手伝いを頼むわ、な?」

「…………判りました」

「おおきに! 流石はワシが心を許せる数少ない好漢(おとこまえ)やわ、自分は!」

「まぁ、レオ丸さんとの共同作業は刺激に満ち溢れていても、カナミほどの無茶振りではありませんし」

「そーやろ、そーやろ」

「藤田スケールで言えばカナミが261で、レオ丸さんが260くらいの差しかありませんけどね、俺にとっては」

「いやいやいやいや、カナミのお嬢さんのF5に比べれば、ワシはF4なんやろ?

 ランキングが一つ違うってーのは、ごっつぅ大きな違いやで?

 元帥閣下と上級大将では、権限も立場も天と地ほどの開きがあるやん。

 彼女が“お月さん”やとしたら、ワシは“スッポン”レベルやで?」

「端から見たら、どっちも“丸”ですよ!」

「世の中ってホンマ、儘ならんねぇ?」

「全くですね!」

「ほな、打ち合わせもしたいし、明後日までには来て頂戴な♪」

「りょーかい、了解です」

「したらばカズ彦君、詳細は改めて何卒ヨロシコ♪」



「あ、もしもし、ミスハさん」

「…………」

「今、ちょっと御時間宜しいかいな?」

「…………」

「え~~~っとぉ、……もしかして、また行方を晦ましとったんを怒ってるん?

 せやったら、御免、堪忍! 許して頂戴な。

 ホンで更に謝るけど、行方不明になってた理由を、今は詳しく言われへん。

 理由は、ワシの中でも整理がついてへんからや。

 いずれ情報を整理出来たら、ミスハさんだけにはキチンと開示するさかいに。

 ホンマ御免、何卒堪忍したっておくれやす」

「…………ふぅ。判りました、其処まで仰るならば胸火は鎮めましょう。

 ですが!

 本当に心配したんですよ、あんな事をなされた後でしたから」

「うん、スマン」

「インティクスにも余計な事をなされるし。

 ……夢で魘されるくらいに、脅したそうですね?」

「いやいや、人聞きの悪い事言わんといてぇな。ちょっと御注意をばさせてもろうただけやがな。そないに大した事は言うてへんで?」

「御蔭で大変だったんですよ、あの後は。

 私にも他にも当り散らすだけ当り散らして、翌日早々にミナミにトンボ返りしてしまって、……全くロマトリスの黄金書府まで何をしに来たんだか!

 ふふふ……まぁいい気味でしたし、良い御灸になったでしょう、あの小娘には」

「何やエライ事になったんやねぇ?」

「法師が関わった事で、大変じゃなかった事などありましたっけ?」

「そら、あるよ。ほら、え~~~っと、アレとか?」

「……どれ、ですか?」

「…………御免なさい」

「まぁ、其の件は別にどうでも良いんですけど、ね。

 結果としまして済し崩し的な命令が、いとやんごとなき畏き辺りから発令されまして、ナカルナードが神聖皇国ウェストランデ左衛門府預(さえもんふあずかり)の何とかって肩書きをへばりつけて大威張でしたが」

「ロマトリスの黄金書府は北辺やから、征狄押領使(せいてきおうりょうし)”営団かな?」

「ええ、それです。其の営団差配役の、“ひょーきん将軍”とか何とか……」

「間違ってへん気もするけど、そいつぁ多分、“驃騎将軍”とちゃうか?」

「あ、其れです。“憑依将軍”?」

「誰が誰に取り憑くねん?

 “驃騎将軍”ってのは霍去病って前漢の名将が就任した大役でな、二品官(にほんかん)とか一品官(いっぽんかん)とかの……、日本やったら二位とか一位の高位官やねんけど……」

「けど?」

「唐代以降は“散官”、所謂“名誉職”ってヤツやねん。

 ウェストランデのお偉いさん達は、どっちの意味で与えたんやろうねェ」

「後者……でしょうね。どちらにしても、既にナカルナードに実権はありませんし」

「ほえ?」

「職務放棄したインティクスに替わり、ゼルデュスが赴きましたから」

「赴きました? うん? 今、何処に居てるん?」

「今は、ミナミです」

「今は?」

「インティクスが尻に帆をかけてトンズラこいてから、私が、統治機構の再構築や権限委譲のお膳立てなどの実務をこなしていましてね。

 マルヴェスって白粉お化けの大地人貴族の尻を、引っ叩きながら!

 様様にして目途が立ち始めた頃合に、全てをゼルデュスに引き継いでから山陰で不穏分子の摘発をせよって“命令”が来ましてね。

 何だか腹の立つ“命令(ものいい)”でしたんで、ゼルデュスが来る前にロマトリスの黄金書府を離れちゃいましたけど♪

 さて、処で、ですが」

「はい、何でしょう!?」

「貴方に、お聞き致したい事が、あります」

「は……はい、な……何でしょう?」

「ユストゥス、と言う冒険者を御存知ですね?」

「……うん、知ってる。……正確には、先日知り合ったばかりやわ」

「ほう?」

「ま、直接に彼と縁を結んだんは先日の事やけど、彼に付随しとった仲間になゲーム時代からの知己が居ったんでな。

 だもんで、信を置ける仲介者も居った事やし、総合的判断で信用する事にしたんやけど……どこぞで遭遇したん?」

「米子の辺りで」

「ふーん。……イズモ騎士団について何ぞ調べてたんかなぁ、彼ら」

「さて、其れは存じません。存じませんが……彼らは大変“危険”な存在だとは、理解致しました」

「そっかなぁ、すっげー愉快な発想方法と無類な行動力と、見事な結束力で此の世(セルデシア)をブイブイ言わせとる青年達やったけど。

 “危険”ってゆーよりは、“あっぶねー”って感じかな?」

「いえいえ、充分に“危険”な存在でしたよ」

「……何かされたんか?」

「不意打ちをしかけたら、返り討ちにされそうになったくらいで……」

「ホンマか? 変な事はされてへんか? 正直に言うてや!

 ワシが仇討ちしたるさかいに!!」

「……ふふ、大丈夫です。私って結構な手練(てだれ)なんですから。

 まぁ、其れで。

 手合わせをしてから、少しお話し合いを致しまして。

 其の時に“危険”だと、確信したんです」

「はい? どーゆー事?」

「彼らは、<Plant hwyaden>にとっては脅威になり得る、と」

「ああ、そーゆー事な。そーやなー、確かにな!」

「ですから、畏き辺りへは適当にお茶を濁した報告を上げておきました。

 私個人への脅威なら捨て置けませんが、そうではありませんからね」

「もしかして……気に入ったん、彼らを?」

「そうですね。ある意味では“気に入り”ました。

 体制にとっての瑕疵的存在は、市井にとっての愉悦的存在ですからね」

「正に、“トリックスター”の面目躍如やねぇ。

 ホンで、話し合いってのは有意義やったんかいな?」

「ええ、とても」

「そいつぁ、良かった! 人の和は拡大させんとね♪

 ああ、せやせや。忘れるトコやった。

 念話をした用件を伝えてへんかったわ」

「おや? 存在の耐えられない軽さに耐えかねての、告解と謝罪をするためだと思っていましたけど?」

「ワシの職業は外科医と違うし、モテモテ王国の住人でもあらへんで?

 笑いと忘却と、書の保有量では大概の奴には負けへんけどな。

 ま、其れはさておき。

 今ワシは、ナゴヤに居るんやけどね」

「ええ、存じてます。何でもまた、イベントの仕掛け人をなされるそうですね」

「何でやろうねぇ?」

「恐らく、法師の遺伝子上流領域(プロモーター)興行師(プロモーター)の因子でもあるんじゃないですか」

「ワシが持ってるんはエエトコ、マブチの水中モーターくらいやで?

 せやけど流石はミスハさん。何でもよく御存知で」

「くすくす。法師は何も御存知ないんですね?

 此方は<冒険者>だけではなく、<大地人>達も大騒ぎですよ」

「へ? 何でまた?」

「“執政公爵閣下の依命により派遣された征夷の軍勢が、服わぬ夷狄共と闘技場にて会戦するらしい。其れも前代未聞の<べーすぼーる>なる方法にて”、ですって。

 貴族共は皆、興味津々ですよ」

「ありゃ、まぁ」

「上も下も寄れば誠に(かまびす)しい事で。

 私も色々と下問されましたが、曖昧な事しか返答出来ません。

 何せ今回の事は、<Plant hwyaden>の末端が勝手に始めようとしている事ですからね!

 しかも仕掛け人は法師、貴方です。

 ロマトリスの黄金書府の件で忙しいと、ゼルデュスは我関せずの方針でした。

 インティクスは、貴方の名前を聞いた途端に、卒倒しかけました。

 ニヤニヤとするばかりで、カズ彦は何も言わないし。

 ナカルナードは別件に忙殺されていて関われないと、地団駄を踏んでいました。

 濡羽は、何を考えているんだか何も考えていないんだか判らない相変わらずの表情でただ一言、“好きにせよ”と。

 と言う訳で、今回の件に関しまして<Plant hwyaden>は黙認の立場です。

 御要件への回答は、此れで宜しいでしょうか?」

「あ……有難う! 何も言うてへんのに、何もかも答えてくれて、おおきに!」

「私は……法師の事をいつも考えていますから、ね」

「ホンマにおおきに、な。此の御礼は、今度会うた時に必ず!」

「明後日には其方へと参りますので、是非とも其の時に受納させて戴きますから♪」

「え!?」

「何か不都合でも?」

「いや、忙しいのに何でこっちへ、ってね?」

「忙しいですよ。北へ行ったり西へ行ったり、今度は大地人貴族共の随行を兼ねて野暮用を片づけるために、其方へ行くんですから。

 席を温める暇がない状態ですよ、全く!」

「随行? それに野暮用って何やのん?」

「前者は法師が元凶の案件、後者は法師が遠因の用件。どちらも既に申しましたが?」

「はい? 元凶? 遠因?」

「元凶の方は、ナゴヤ闘技場で行われる“べーすぼーる”なる会戦を観戦するために、幾多の貴族共が其方へと行幸するんです。

 筆頭は、イセの斎宮家の跡取り息子。同行者の代表格がシーバ侯爵家とナガトースオ侯爵家の当主本人。伯爵以下の有象無象が幾人も。

 警護の長として、ミズファ=トゥルーデ。

 私も元<トリアノン・シュヴァリエ>のメンバー達を率いて、幼稚園児(だいちじん)達の遠足につき従う事になっています。

 言わば、引率担当の保護者代表みたいなもんですね」

「……知らん間に“天覧試合”になってたんやなぁ。こりゃ吃驚やな?」

「それと野暮用の方は……其方へ参りましてから、話させて戴きます。

 遠因は法師ですし、用件の発信者は彼のユストゥスですから。

 異議ある場合は、“依頼人(ユストゥス)に一言”物申して下さいね」

「……欺瞞(チャフ)代わりにしてもエエよ、とは言うたけど御使いを言いつけられるとは思わなんだなぁ。

 まぁ、エエか。情けは人のためならず、やし。

 払うた労力に利子を上乗せして、代価をふんだくれば問題ないやな、けけけけ。

 オッケー了解なり。しかと承りましょう」

「では、宜しく御願いします」



 日中は地下を遁走し、地上へ出ては武力衝突を口八丁で棚上げさせ、日没後直ぐにカズ彦とミスハへの連絡で気を遣ったレオ丸は、早々に就寝する事に。

 バタンキューという効果音を伴いながら、倒れ伏した。

 そして翌日。

 日の出前に起床するや、ストレッチをしてからタエKを呼び出し、朝食を済ませて早速に行動開始する。

 闘技場を野球場に改装するための設計図を引き、試合に必要だと思われる様々な物を事細かにリストアップし、更に詳細な説明書を添付した。

 日の出頃にノロノロと起き出して来た冒険者達を闘技場内に呼び集め、ナゴヤ在住組と<Plant hwyaden>所属の別なく一纏めにしてから、作業分担の班分けを頭ごなしに指示する。


 山ノ堂朝臣をリーダーとする班は、営繕担当。石畳の闘技場内に土砂を大量に運び込み、グラウンドを設営する事を主な任務とする。

 四種類のベース、フェンスやバックネット、外野両翼のファウルポール、スコアボード、バックスクリーン、ブルペンなどの設営、設置。

 <人形遣い(パペットマスター)>ビルドの<召喚術師(サモナー)>達が召喚した疲れ知らずのゴーレムが何体も、大型ダンプカーのように大量の土砂を次々と運び込み、まるで高性能なブルドーザーの如き働きで綺麗に整地していく。


 グラウンドの整地が終われば、九鳴Q9朝臣をリーダーとするサブ職<農家>と<庭師>達の出番であった。

 内野付近を除くフィールド全体に、近隣で採取した名前も知れぬ草の種を手馴れた感じで撒き散らす。

 次に役割を果たすのは、ダイビングに用いる酸素ボンベのような金属製のタンクを背負ったサブ職<調剤師>達である。

 SHEEPFEATHER朝臣の号令一下、タンクから伸びた細いホースを構えて何やら液体を、種子が撒かれた土へと散布し始めた。

 其れはゲーム時代のジョークアイテムの一つで、とある企業が環境保護のキャンペーンで配布した、植物を急成長させる水薬である<クレスケントポーション>なる物だった。

 但し、フィールド全体に散布するほどの絶対量が確保出来なかったため、別の薬品を混入させ水増しがなされてはいたが。

 ブレンドされた魔法薬の散布が開始されてほどなく、大地を(つんざ)く轟音が上がり、フィールドへと徐々に変貌しつつあるナゴヤ闘技場を揺るがした。

 既にホームベース付近に退避していた九鳴Q9朝臣ら冒険者達と、高機能ユンボ代わりのゴーレム達が見守る前で、SHEEPFEATHER朝臣達が瞬時に数メートルの高さにまで成長を遂げた雑草達に呑み込まれ、あえなく姿を消す。

 幽かに悲鳴が聞こえる事から、どうやら生存はしているようだった。

 溜息をついた九鳴Q9朝臣以下の<農家>と<庭師>達は、巨大な草刈鎌と植木鋏を腰に装着している<ダザネックの魔法鞄>から取り出す。

 雄叫びを上げて、死神の持つような鎌と殺人鬼の持ちそうな鋏を振り翳した一団が、育ちすぎた草叢へと果敢に攻撃をしかけた。

 やがて“なんちゃって天然芝”が少しずつ広がっていった。


 一方、太刀駒をリーダーとする班は、備品担当。ボールとバットとユニフォームとグラブの製作が主な仕事である。

 野球とは、他の競技に比しても消耗品が多い、実に贅沢なスポーツである。

 同じプロ競技であるサッカーならば、ボールは予備も含めて十球もあれば事足りるだろうし、ゴルフでも百球も持ち歩いてプレーする者は居ないだろう。

 だが野球は違う。最低でも百球は用意しておかないと、安心して試合を行えない。

 バットもそうだ。ベンチメンバーは二十五人、双方で五十人。それぞれが専用のバットを必要とする。そして、バットは実に折れ易い物だ。

 サブ職が<裁縫師>の者達が総出で、メニュー画面を起動させてボールを作製する。

 <木工職人>達がメニュー作成に頼らず、己の技能を頼りにバットを作製していた。

 メニュー作成したバットでは、耐久力がなかったからである。

 闘技場周辺の森林ゾーンから木を切り出し、スキルで丸太へと変換して削り出す。

 本来ならば木製バットの原材料は、アオダモと言うトネリコ属の広葉樹だ。

 日本全国の山地に広く分布しており、街路樹や公園木としても植樹されていたりする極当たり前の樹木。

 材質は、堅く強い上に粘りがあるため、スキー板やテニスラケットにも其の多くが利用されていたりする。

 だが今回の一件では、急造しなければならない。

 しかも此処はセルデシアだ。

 現実の日本とは植生が異なる上に、全ての生物の名前や学名が変換されている。

 森林ゾーンに分け入り、樹木の種類を一々調査して、アオダモだと思しき木だけを餞別し伐採するような時間はない。

 従って材料調達隊は、手頃な太さの樹木を伐採し、スキルを発動させて材質を適度に調整した丸太を作り出さねばならなかった。

 そうして作り上げた丸太も、実際に加工してみなければバットとして実践に耐えられる物になるかどうかは、判らない。

 山のような大鋸屑に包まれながら、<木工職人>達は必死に励んだ。

 より良きバットを作るために。


 <裁縫師>達はボールを取り敢えず百五十球作り終えると、検品を始めた。

 やはり技能の習熟度により、品質にバラつきがあるからだ。

 耐久度や反発係数を揃えるために、基準となるボールを十球選び出し、其れよりも性能の高過ぎる物と低過ぎる物を除外し、更に作成を続ける。

 習熟度の高い<裁縫師>が其の中から外れ、別の作業へと移った。

 ナゴヤ在住組と<Plant hwyaden>双方から選抜された五十人の冒険者達の身長を計測し、双方が提出したデザインに沿って帽子やヘルメットも含めたユニフォーム一式を製作するのだ。

 また、ポジションと手の大きさを測りグラブを縫製し、<鍛冶師>と協力しながら捕手と審判が使用するマスクやレガースなどの防具を製作する。

 足を採寸し、シューズ作製に勤しむ者も居た。


 最初は、<冒険者>達それぞれが装備している用具を流用すれば良いのでは、と言った意見も出されたが最終的な総意として、其れは却下される。

 理由は単純である。

 “どうせやるなら、本気でやろうぜ!!”だ。

 <大災害>に巻き込まれた<冒険者>達は良きにつけ悪しきにつけ、“こだわり”を胸に抱えた者が多く居る。

 そして、最も大きな“拘り”は、<大災害>が起きる前の実に何気ない“当たり前の日常”であったのだ。

 故に、ナゴヤ闘技場で土木工事や様々な付帯設備の製作設置に汗を流す者達に、細部にまで細心の注意を払いつつボールやバットを作成し作製し続ける者達に、敵も味方も存在しない。

 あるのは只、一緒に野球をしようと思う、連帯感であった。

 だが、全てが上手くいく訳ではない。

 多少の衝突は其処彼処で無数に発生した。

 拳が唸り、流血沙汰に発展する事も。

 されど最終的には、相互が納得のいくまで話し合いが行われ、解決が図られる。


 至る処に顔を出し、アドバイスを求められ、不穏な空気には道化で対処し、難題への対処には担当者と共に眉間に皺を寄せながら、レオ丸は精力的に動き続けた。

 特にベースの大きさと其の配置間の距離、マウンドやバッターボックスのの寸法、ボールとバットの適正サイズと重さなどは、正確な数値を述べて教示する。

 実に丁寧な運針でキャッチャーミットを縫い上げているMAD魔亜沌に目を細めたり、首を傾げながらYatter=Mermo朝臣の指示通りにベースを作るMIYABI雅楽斗(ががくと)朝臣に微笑を送りながら。



 其処に集う全ての冒険者達が、ありとあらゆる準備に没頭してから三日目。

 陽が大きく傾いた頃に、レオ丸は真新しいホームベースの後ろにしゃがみ込み、そして立ち上がっては仔細に引かれたばかりの白線を見詰めていた。

 真っ直ぐに、左右の両翼に立てられた木製のファウルポールの根元まで伸びる、美しいホワイトライン。

 なだらかな稜線を描くマウンドと、其処に埋め込まれたピッチャーズプレート。

 三箇所に設置されたベースは、綺麗にダイヤモンドを形作っている。

 スタンドにはグルリとフェンスが張り巡らされ、バックネットは高く張られていた。

 バックスクリーンとなる壁面には、手書きパネル型のスコアボードが掲げられている。

 外野の壁面には、<フクロウ熊(オウルベア)>の皮を(なめ)したクッション材がキチンと当てられていた。

 両軍ベンチも仮設で建てられ、座るためだけの用しかなさない座席と、黒板などの備品も抜かりなく用意されている。

 グラウンド整備用のトンボに凭れる者、ラインを引くためのチョークで両手や鼻先を白く染めた者、大工道具や板切れを手に抱えた者など営繕に関わった<冒険者>達と、裁縫や木工に明け暮れて目をショボショボさせている備品作製に関わった<冒険者>達。

 十八メートルと四十四センチ先にある、直径十八フィート、高さ十インチという既定通りの形状に整えられたマウンドを改めて眺めてから、レオ丸はゆっくりと立ち上がり、息を詰めている百人以上の<冒険者>達へと振り返る。

 そして、破顔一笑した。


「皆さん、有難う! 無事に完成です! 御疲れ様でした!!」

「「「「「Yeah!!!!!」」」」」


 山ノ堂朝臣と太刀駒が、がっちりと握手を交わした。

 Yatter=Mermo朝臣とMAD魔亜沌が満面の笑顔で、拳を軽くぶつけ合う。

 “なんちゃって天然芝”の出来栄え具合に眼を細め、悦に入る九鳴Q9朝臣とSHEEPFEATHER朝臣。

 手を繋ぎ輪になって喜ぶ、北田向日葵朝臣とシュヴァルツ親爺朝臣と多岐音・ファインバーグ朝臣。

 ピョンピョンと跳ね飛び笑声を挙げる@ゆちく:Re朝臣の横で、ニヒルさと無表情の間の顔をしながら万歳三唱を繰り返すMIYABI雅楽斗(ががくと)朝臣。

 盛んに手を叩き、足を踏み鳴らして拍子を取る、テイルザーン。

 其のテイルザーンの背に隠れるようにして、肩幅狭くひょろりとした背を俯き加減に丸めて居る<武士>の姿に違和感を感じながら、レオ丸は恭しく御辞儀をした。


「明日は、最終確認や。試合に出場する選手達は、練習に励んでや!

 其れ以外の皆さん達は、遺漏がないように各所の点検をしておくんなはれ!

 明日になったら、観客が大挙して押し寄せて来るようや。

 “ベースボール”という実に高尚で奥深い“スポーツ”なる文化を知らぬ、<大地人>のお貴族さん達がな。

 ワシら<冒険者>の真の実力を確かめに、な。

 恥かしい事も、みっともない事も見せられへんで!

 サブ職が<料理人>の人達!

 野球観戦には弁当やホットドッグなんかは必須アイテムやし頼んだで!

 お貴族さん達が吃驚するくらいに、チープでデリシャスなんを食わせたってや!

 <細工師>の人達!

 自分らには、宝飾塗れのキンキラキンな応援グッズを作って、ガッポリと金貨をふんだくるんやで!

 サイコーなグッズで身を飾らせて、身包み剥いだれや!

 <醸造職人>の人達は、ビールの用意を!

 <楽器職人>の人達は、応援団役の<吟遊詩人>の人達が使用する、トランペットや太鼓の作製を!

 ホンで。

 仲良し小良しは、残念ながら明日までや!

 明後日からは、再び敵と味方に別れて争わなアカン!

 白黒をハッキリと決着させるために、な!

 せやけど。

 争うんは、グラウンドの中だけで、ルールに則っての話や。

 正々堂々と、ガチでぶつかり合うんやで。

 グラウンドの中での馴れ合いを、ワシは絶対に許さへんからな!

 其の代わりに、ルールに違反せェへん限りは何をやっても構わへんし。

 ジャイアンツのV9を支えた名参謀、牧野茂師の言葉に曰く。

 “野球とは、<球の試合>と書いて<ダマシアイ>”やからな!

 更に言えば。

 明後日の試合開始からゲームセットまでは、ワシの事を“神様”やと思えよ!

 ワシの頭の中にある“公認野球規則”に照らし合わせて、公平に裁いたるさかいにな。

 二出川延明御大の言葉に曰く。

 “俺がルールブック”や!! 序でにスコアブックや!!

 エエな、皆、判ったな!!」

 「「「「「Sir Yes Sir!!!!!」」」」」


 冒険者達の唱和が、静かに暮れて行くナゴヤの空に韻々朗々と木霊した。



 “マジックアワー”と称される時間帯がある。日没後暫くの間の薄明を言い換えた、写真家達の業界用語だ。

 光源たる太陽が姿を消し、世界は限りなく影の見当たらない状態が形成される。

 天も地も全ての色相が柔らかくなり、暖かな黄金色に彩られ眩しく輝き出すのだ。

 視界に映る世界が、まるで魔法がかけられたように見える、美しい時刻。

 一先ずは今日の内に出来る事を全てやりおえたレオ丸は、<彩雲の煙管>を美味そうに吹かしていた。

 其の横では。

 昨日、到着した途端に土木工事要員に借り出され、備品の材料集めへと追い立てられてと、思わぬ大活躍をさせられたカズ彦が、いつも以上に疲れ果てた顔で胡坐を掻いている。

 世界を明るく照らしていた陽が西の彼方へ、不死の街トヨタのある方へと沈んで直ぐに、二人はナゴヤ闘技場の壁の上へと進み無言の時間を楽しんでいた。

 二人が口を閉ざし眺める先にあるのは、大地人が多く住まうヒルケイプの町やウェルブリッジ城塞都市がある。

 モンスターの生息域であるウェステール地域を挟み、ウェルブリッジの騎士達が管轄しているアンジュ戦闘訓練場とキャテルの港湾があった。

 首を僅かに左へと傾ければ、間近に広がるのは巨人族が多数徘徊する平原ゾーン、ナガクテ古戦場である。

 だが今は、視野に映る全ての地平が金色に染め上げられており、それらをはっきりと視認する事は出来ない。

 町も城塞も森林地帯も遙か向こうにある山並みも、輝く光の中では至近にある平原から連なる影の一部と化している。

 現実では東京の住人であり、何の因果か今ではミナミの一員となってしまったカズ彦からすれば、此処は以前も現在も異界の侭だった。

 現実ではルーツが大阪ではなく知多半島にあるレオ丸にとっての此処は、親しみ深くはあるものの、全くの見知らぬ世界である。


「綺麗やなぁ」

「本当に」

「世界中の誰しもが、こんな美しい景色を堪能する時間を持てれば、世の中の大概の問題なんか解決すると思うんやけどねぇ」

「武器もいらない、言葉もいらない。酌み交わす酒か御茶さえあれば良い」

「ホンマ、此れ見ながら茶でもしばいたら、文化や言語や習俗や……宗教の違いさえも簡単に乗り越えられそうな気がするんやけど」

「其れが出来かねるのが、人間の業ってヤツなんでしょうね」

「全くなー」

「其れにしましても、よくもまぁアレだけ事細かに野球ルールを諳んずる事が出来ましたよね?」

「ああ……ソレに関しては、カナミのお嬢さんの御蔭かなぁ」

「へ? カナミが?」

「ああ。随分前やけどな、カナミのお嬢さんが野球について教えてくれ!って泣きついて来た事があったんよ」

「へぇ?」

「“バットの芯って何の事?”とか、“マジックって何なん?”とか、な。

 どーやら其の時にお付き合いしとった彼氏ってのが、虎キチやったみたいでな。

 彼氏さんの話に合わせるための知識を、ワシに教えてくれって事やったんや。

 其の内に、“バットの長さは二メートルにしたらアカンの?”とか、“ストライク・ゾーンは何で平面と違うん?”とか尋ねて来よってな。

 気がついたら、ゲームの最中にも細かいルールとかを尋ねてくるようになってて、な」

「へへぇ?」

「レイドの打ち合わせの最中やのに“走塁妨害の定義とは?”とか、“インターフェアって何?”とか、“どーやったらアピールアウトの宣言になるん?”とかな」

「其れで、どう対処なされたんです?」

「訊かれた事にもしも答えられへんかったら、野球ファンでパ・リーグ・ファンでライオンズ・ファンであるワシの沽券に関わるやん?

 いつ、どんな事を訊かれてもエエように、野球に関する基本的規則や運用上の規定なんかを思いつく侭に、片っ端から“メモ帳機能”に打ち込みし捲ったったで!

 ソレこそスタルヒン球場のサイズから、ボールの縫い目の数までな?」

「そいつはまた無駄な労力を……御疲れ様でした。処で、カナミと其の彼氏との仲は一体、どうなったんでしょうね?」

「一ヶ月と保たんかったみたいやで。

 どーやら虎キチの彼氏さんは、“俄(にわか)”やったみたいでな、気がつきゃカナミのお嬢さんの方が野球に詳しくなってたんやと!

 話が合わんくなったんで、あっという間に空中分解したそーやわ」

「はははははー、ですねぇ、其れはまた」

「向こうには幸いせんかったみたいやけど、此方には回り回って幸いしてしもうた。

 大体十二年前にくらいに風が吹いて、今頃になって桶屋が儲かったってか?」

「なるほど……さて、処で。

 俺を此処まで呼び出した“本当”の理由を、そろそろ話してはくれませんかね?」

「…………戦後処理、の手伝いをして欲しいねんわ」

「戦後処理、ですか?」

「ああ」


 <彩雲の煙管>を咥えたレオ丸は、次第に昏くなり行く空を吐き出した五色の煙で申し訳程度に彩色する。


「今から五十年以上前にアメリカで盛んに行われた、非人道的な数々の心理実験。

 <大災害>直後から今日に至るまで、彼方此方で<冒険者>の遣る事為す事の全てが、まるで“スタンフォード監獄実験”と“ミルグラム実験”の併せ技みたいや。

 ホンで此処の現況は“サマーキャンプ実験”やな」

「如何にすれば、異なるグループは対立し合うのか?

 如何にすれば、対立するグループは和解出来るのか?」

「和解……よりも、“和合”の方がフィットする表現かなぁ。

 片方のグループだけでは如何ともし難い課題を与えてやれば、仲違いしていた子供達も手を取り合って解決を図ろうとする。

 此処に居る奴等は、<冒険者>としてのレベルはカンストであっても、プレイヤーとしての“中の人”は、おぼこいまんまの若者達や。

 賢い子も聡い子も居るし、目先の事を正しく見てる子も、目端の利く子もまぁ何人も居てる事は居てる。

 でもな、そんな子等でも、な。

 夏休みに入った途端に、山のようなドリルや絵日記の事なんか、八月の半ばになるまで思い出しもしよらへんやろう。

 泉谷しげる大先生の歌う『戦争小唄』みたいに、♪戦争だ戦争だ戦争だ♪って浮かれ騒いで、はしゃぐだけはしゃいでる内はエエけどや。

 戦争をするって事がどういう事なんか?

 戦争が終わってしもうたら、其の後にはどんな世界が広がっているんか?

 戦争に参加した人間は、どうなってしまうんか?

 其処までの事を深く考えて行動しとる奴は、あんまり居らへんのと違うかな?

 太刀駒君と山ノ堂朝臣君とテイルザーン君と……、百名以上居る中で消費税ほども居てへんのと違うかね」

「そんなもんでしょうか?」

「みーんな漠然とは感じとるやろうし、全く思い至ってへん奴は居ないやろう。

 ……其処まで能天気やったら、反対に尊敬したるけどな。

 自分が此処に来る前に、仲裁って名目で八つ当たり気味に怒鳴り散らしたったさかいに、頭の片隅で少しは考えとるやろうさ。

 それでも……な」

「具体的な目算までは立てていないだろう、と?」

「ま、そーゆー事」


 煙管を咥えたまま大きく伸びをすると、レオ丸は少しだけ憂いを湛えた表情でカズ彦と視線を合わせた。


「ナゴヤを“約束の地(クナーアン)”にしとった者達は、いずれ必ず“メギドの戦い”に敗北するやろう。

 <Plant hwyaden>というエジプト軍に完膚なきまでに、な。

 もしくは、此の闘技場を“砦(マサダ)”にするかして、<Plant hwyaden>というローマの大軍の前に玉砕するやろう。

 とは言え、ワシら<冒険者>は直ぐに復活する。

 せやけど叛徒と看做される限り、幾度も滅ぼされる。

 其の内に、肉体やのうて心が先に破壊されて、死んでしまうに違いないわな。

 “ブアメードの水滴実験”みたいに、な。

 そして心の破壊は、アステカ帝国の民だけやなく……」

「我々、<Plant hwyaden>という“征服者(コンキスタドール)”の心も、と?」

「フォボスがロシュ限界を迎えたら、ダイモスかて吹っ飛ぶんと違うか?」

「其れを防げ、と」

「せや。明後日の試合がゲームセットを迎えた瞬間に、ワシが皆にかけた魔法は簡単にとけてしまうやろう。

 午前零時を待たずに、馬車はカボチャに、御令嬢はサンドリヨンに元通りってな。

 そして、此処の住人達は恐らく四分五裂する事になるわ。

 従う者と、従わぬ者とに」


 どっこらしょと、レオ丸は再び座り込み頭上を見上げる。

 蒼から紫を経て黒へと移り変わる天空に、星々がチラホラと瞬き始めた。


「螢火を光らせて蠅聲(さばえな)す者達の内、従う事を良しとする子等の面倒を見てもらえへんやろか?

 彼等が<Plant hwyaden>の天孫至上主義者共に虐げられへんように」

「従う事を良しとしない者達は、……どうします?」

“天津甕星(あまつみかぼし)”達は、ワシが此処から連れ出すわ」

“笛吹き男(ハーメルン)”役をなされるんで?」

「どっちか言うたら“法螺吹き男爵(ミュンヒハウゼン)”役やと思うがな!」


 自嘲気味に嗤うレオ丸に、カズ彦の含み笑いが重なる。


「委細承知しました。レオ丸さんの御意を謹んで拝命致すとしますか。

 情けは人のためならず、ですからね」

「“世の中に、なほいと心憂きものは、人ににくまれんことこそあるべけれ”。

 清少納言女史も『枕草子』で、そう愚痴ってはるしな。

 全く世の中ってェのは、儘ならんし油断出来ひんねェ?」


 少し離れた所で、ザリッという硬質な音が立てられた。


「法師、其方に居てはりますか?」


 薄闇の向こうからの呼び声に、レオ丸は首を傾ける。


「はいな、此処に居てまっせ。

 なーんのお持て成しも出来ひんけど、こっちにお出でや」


 <淨玻璃眼鏡(モーリオン・ゴーグル)>を装着したレオ丸と違い、闇を見透かす手段を持たぬカズ彦の視界には朧気な人影が二つばかり見えるだけだ。

 やがて。

 足元を気にしながらソロソロと現れたのは、二人の<武士>であった。


「ちょいと宜しいですか、法師?」


 薄闇から姿を見せたテイルザーンは、背後に従えたひょろりとした青年を気遣いながらゆっくりと歩を進める。

 知己の後ろに見えた、頼りなさそうな冒険者を見た其の刹那。

レオ丸は鋭い痛みを背中に、張り裂けそうな痛みを心に、確かに感じたのだった。

 今回からは、或未品様御作の『続・取扱説明書 製品名:ユストゥス・ブラウファル【危険物指定】』の、「〈ミナミ視察?〉」編とリンク致しております。

 ミスハさんのアレコレは、其方を何卒御照覧賜りますよう願い上げます。

 http://ncode.syosetu.com/n1359cg/


 そして。

 読んでいるだけの人様の御作、『ある毒使いの死』よりバイカル師にお名前のみ出張戴いております。

 http://ncode.syosetu.com/n3984cb/34/


 妄想屋様が御考案なされました、ナゴヤ闘技場近辺の情報を拝借させて戴きました。

 http://ncode.syosetu.com/n6012cl/1/


 快く御許可下さいました皆様に、感謝申し上げます。有難うございました。


 あ~~~、早く試合を始めたい!

 けど其の前に、書かねばならぬ事がチラホラと。

 今暫く、プレイボールはお待ち下さいませ。

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