第肆歩・大災害+48Days 其の弐
実に面白い試みでやんした、或未品様とのコラボ企画も、コレにて閉幕。
そして、朝霧の御前さん(注:午前さん、ではない)の御名前を、ちょいとお借り致しました♪(秘儀・レンタル返し!)
人は生きている限り、必ず家族を見送らなアカン。
敬愛すべき祖父母か、大恩受けし両親か、仲睦まじき兄弟姉妹か、生涯を誓った連れ合いか、慈しむべき子供か。
その内の誰かの葬礼に、必ず臨まんとアカン。
此の世に生を受けてから死ぬまでの間に、誰一人として家族を失わない状況が存在し得るとすれば?
それは、その当人自身が誰よりも先に死ぬ、そんな状況だけや。
ユストゥスが訥々と口にしたんは、誰よりも先に浄土世界へと旅立った、幼き家族への思いやった。
そして、“家族”もしくは“身内”という存在に対する、格別な思慕の念やった。
更に、現在お付き合い、ってゆーか、番っとる真っ最中のイアハート嬢と葉月嬢への痛切な想いやった。
此の話は真摯に聞かなアカン、それもちゃんと相手の眼を見なアカンと思ったら、自然と<淨玻璃眼鏡>を外してしもうた。
ほしたらユストゥスは、少し驚いて苦笑いを浮かべ、軽く揶揄しやがったが。
まぁ、それぐらいの返しが出来るんやったら、大丈夫やろう。
と、思ったらば。
「……でも、家族は多ければ多いほどいいですね」
六杯目を口にする前に、あんまり大丈夫でもなさそうな台詞をさらりと言いよった。
「貴方には<召喚術師>という、ゲームでの設定かもしれないですけど、貴方を中心とした“繋がり”がある。
……だから。
今の貴方の状態は、少し羨ましいですよ」
ゲームの設定なぁ? ミナミの街に居った頃は、丸のまんまその通りやったけど、今は全然違うなぁ。
どう考えても、ゲーム上のデータ的存在やないで、今は。
彼女らは、ワシの大事な“家族”やわ。
ワシは、そう思いながらゴーグルを装着し直して、手で弄んでた<彩雲の煙管>を咥えて五色の煙を吹き上げたった。
「そんなエエモンやないで? 毎回血ぃ吸われるわ、頭軽くてこっちの言う事全然聞いてくれへんし……歌はそこそこ上手いんやけど、頭取れとる子も居るしな。
こっちから話しかけんと全然話さへんなんてザラやし、文句しか言わんのも居るで」
「それでも、」
「そんなん、考えすぎとちゃうか? そんだけ言うんやったらこっちで子供作ったらエエんと……ん? ちょい待ち」
子供? 出産? ……果たして、こっちの世界で“妊娠”って出来るんやろうか?
ワシが思索の迷路に落ち込もうとする寸前、ユストゥスは苦笑いを収めると、静かな口調で“家族”に対する不断の意思を、強い言葉で語りよった。
ワシは彼の、成し遂げなければならない目標を、要約した。
「……自分は、何としてでも現実に戻る。
そう、考えとるんやな」
「当然。
この世界に特に文句らしい文句もありませんね。ただ、私は此処での出来事はいい経験くらいにしか思っていないですから。
……現実では出来て、此処では出来ない事が多すぎるんです。
だから。
綺麗事を言うつもりはない。悪びれるつもりもない。
私は彼らを、私の大事な“友人”を。
見捨てない。
私は、私の“身内”だけは、絶対に現実に戻す。そのためなら、なんでもする。
……私達はそう決めたんです」
彼の呟きは、ワシには衝撃的やった。
此れほどまでの、苛烈に過ぎる明確な意思を、果たしてワシは、他の皆は、確固として所持しているやろうか?
ウダウダしてたら、そのウチに現実へと帰れるんとちゃう。
そう、安閑と考えて居るんやなかろうか?
突然与えられた、『十五少年漂流記』的な夏休み、って心のどっかで思ってへんか?
不意にオーラな回廊が開けるか、誰かがラスボスみたいなんを倒してくれたら、自動的に帰還出来るんちゃうかって、淡くてベタ甘な期待を抱えてへんかったか?
<大災害>が起こって以降、ワシは、<冒険者>は、結構頑張って来た。
頑張った結果を成果として、ワシらは今、安穏と享受しとる。
つまり、頑張ってさえいれば、何とかなるって脳が学習しとる訳やな。
目先に立ちはだかる一つ一つの課題を、順繰りに解決していく。
それら積み重ねが、組み合わさって全体となる。
此れって、こんな感じの考えって何やったっけ?
幾つもの中途半端なパーツを見て、其処にパターンを見出し、脳内で勝手に補って理解し、結果として錯覚や誤解を引き起こすってヤツ。
……ゲシュタルト知覚……心理学やったっけ?
もしかしたらワシらは、此の世界を都合良く見過ぎているんと違うやろうか?
と、脳内に映りゆく由無し事を、そこはかとなく考えつくれば、怪しうこそ物狂おしけれ的な感じで、鬱々としてたら……。
世間は、いや世間話は、いつの間にやら変な方向に捻じ曲がっとった!
所謂一つの、エロ話。
此方から振ったネタならば兎も角、こっちが上の空の時に始められて、対応出来るほどワシは人として完成しとらへんわい!
ツッコミなんだか、感想なんだか、自分でも定かでない合いの手を挟むのに終始精一杯で、どっちかゆーたら翻弄されまくってしまう。
いや、あのな。
エロ話するんやったらするで、もうちょっと共感出来るエロ話をしてくれへんか?
自家発電して、自家製カルピスを舐めて、日々の違いを確かめるやなんて。
何処に、“へぇ”や“合点”ポイントがあるっちゅーねん!
しかも気がつきゃ、アマミYさんまで、そっち側に回っとるやんけ!?
何やねん、此の同調圧力は!?
それに。
エエ加減、“玉無し”ネタは忘れてくれるか、アマミYさん?
此れまでも此れからも、“Jack has a bat and two balls”やし、ワシの金太の大冒険はまだまだ此れからだ! やからね?
……って言う、ワシの心のシュプレヒコールが二人に届くはずもなく、両手両足を使うて判定への不服をアピールをしようにも、こっちを見ちゃいねーし。
こっちをほったらかしにして、二人共に半笑いで楽しそうにしてやがるし。
何々や、もう! 勝手にしぃーや!!
不平不満がワシの顔に出てたんか、二人は半笑いを失笑に変えやがった。
「冗談ですって、レオ丸さん。
アマミYさんも、あまり追い込むのは止めてあげなよ?」
「……まったく、そこも判って居らぬとは、本当にダメな主殿よの?」
溜息を漏らすアマミYさんに、悪戯っ子のような笑顔を浮かべたユストゥスが、何やらコショコショと耳打ちして、ヒソヒソと遣り取りしとる。
ほんで。
「くはは」
「くふふ」
って、楽しげに笑顔でエールの交換をしよった。
何やろう、此のスッゲー弄ばれた感は……。
アムチトカ島に辿り着くまでの大黒屋光太夫か、ワシは?
こうなったら、無理を承知でサンクトペテルブルクに押しかけて、エカチェリーナ2世陛下に直談判したろか、ああん?
「……何やろ、さっきからワシばっか蚊にさされよんねんな? これでも一応、“生殖者”やねんで?」
って言うたら、ユストゥスが何とも珍妙な表情を浮かべよった。
よし! 直談判、成功♪
「……あれ、発音からすると、字が違うんじゃないかな?」
「聖職者、であろ主殿は?」
「いや其処はそれ、“獣欲、業を征す”って言うやん♪」
「「だから、字が違う!!」」
木の下な大サーカスか何かの、双子のジャグラーみたいに、息ぴったりのツッコミを受けてしもうた。
強引な割り込み乗車は出来たけど、ワシは最後まで結局、指定席に有りつく事が出来なんだわ、がっくし……。
空の彼方の遙かな彼方で、アホーアホーって明け烏らしき鳥の鳴き声が、聞こえて来よったやんけ、いとをかし。
アホーでケッコー、コケコッコーやわ。
此の手のネタに対しての反復練習が、ワシにはまだまだ足りひんようやな。
人生、死ぬまで修行、やねぇ。
果たしてコレが、絶対的に必要な修行かどうかは知らんけど、な?
でもまぁ、何もせんよりは“人としての深み”ってのが、醸成されるやもしれんし。……“渋み”でもエエけど。“えぐみ”や“嫌味”にならんように気ぃつけんとなぁ。
人として成長し続けるんは、ホンマ難しいわさ。
盆の窪に手を当てて溜息を漏らすと、火が大分に小さくなった焚き火の向こう側に張られたテントの一つに、動きがあった。
ゴソゴソと入り口から、龍之介君が這い出して来よる。
「先輩、そろそろ俺代わりますよ?」
寝起きの少し惚けた顔の龍之介君の言葉に、ユストゥスが苦笑いをワシに見せた。
「一晩中話しちゃいましたね、簡単な朝食作るんで、それまで休んでいて下さい」
彼は音もなく立ち上がると、龍之介君と一瞬だけ視線を合わせよった。
ユストゥスと擦れ違い様に、微かに顎を引く龍之介君。
そのまま自然な雰囲気で、ワシらから少し離れた所にて風景の一部と化しよる。
改めて思うけど多士済々やねぇ、<月光>は。
朝霧の御前さん処と、エエ勝負やな。
数は力と言うけれど、力はイコール数やのうて、質やわ。
ギルドの強さは、数やのうて質やねぇ、ホンマ。
ミナミの痛い娘初号&二号は、それに気づかず過ごしてるんやろね。
……アホらしい話や、全く。
ファースト嫁さんと嫁さんMarkⅡが眠るテントへ歩み寄るユストゥスと、路傍の道祖神の真似事をしとる龍之介君。
ワシとは違うアプローチの仕方で、此の世界を理解しようとしとるエルヴィン君。
元の職業は知らんけど、狩人として充分に自活出来そうなくらい経験値を積んどるワタルノフ君。
……皆、ワシよりも、一回り以上は年下やねんなぁ。
若さ故かもしれへんけど、適応能力が高いなぁ。
元の現実の自分と、今の現実の自分とでは、淡水魚と海水魚くらい違うやろうに。
まるで、好適環境水で満たされた水槽で泳いどる琵琶湖大鯰とゴマモンガラみたいに、何事もなく共存させとるやん。
ほな、ワシはどうやろうか?
まぁ、“それなり”……なんやろうなぁ。
そー言えば。
発する言葉に、「まぁ」を多用する奴は、「他人は他人、 自分は自分」って考えの持ち主らしい。
せやけど、縄張り意識はやたらと強うて、意見や考えの押し付けには即座に敵意を剥き出しにするとか?
ワシにも、そんな傾向があるんかね?
彼は、ユストゥスは、どうやろうか?
……うん?
何か彼だけを呼び捨てにするんは、どーもバランスが悪いなぁ。
氏とか殿って敬称にするんは、今更ながら何か癪やし。
まぁ、君……でエエか。
さてさて。
ユストゥス君が吐露してくれた、覚悟の事。
ワシもそろそろと、本腰を入れて取り組まんとアカンねぇ。
<冒険者>の魂の行き先は、実際に死んでみん事には判らへんけど、<大地人>の魂の行き先は霊峰フジ、ほんで……モンスターや亜人達は此の近くの、何処かの地下の奥深く、やわ。
其処に答えが……、せめて答えの欠片でも見つかれば、エエんやけどなぁ。
和気藹々と朝食を争奪しとる最中も、ワシはグズグズと考え続けとった。
ほんで。
お別れの時間が来た。
女性陣と懇ろに惜別の情を述べ合ったアマミYさんを、いつものように襟元へと忍ばせたワシは、別の“家族”を呼び出す事に。
「天蓬天蓬急急如律令勅勅勅! アヤカOちゃん、うぇーるかむ!」
宙に描いた召喚用魔法円から、スラリと飛び出した<獅子女ス>のアヤカOちゃんは、人目も憚らず大欠伸を漏らし、瞼の重そうな感じでワシと皆を見回し、一人の人物に眼を留めはった。
カッと瞳を見開いて、イアハート嬢を睨みつけよる。
……藪から棒に、どないしたんや?
「……私、貴女とは意見が合うようで合わない気が致します」
「……奇遇ね、私もそう思っていたところよ」
はい?
何でいきなり、バトリングのセットアップやねん?
出会い頭に宿命のライバル宣言って、昭和の不良か君らは!?
ワシが腕組んで首傾げたら、ユストゥス…君が上手い具合に仲裁してくれよった。
まぁ、朝っぱらの山ん中でドツキ合いが始まらんで、良かった良かった。
さぁ~て、と。
未だに後脚で地面を掻いとるアヤカOちゃんの肩を、宥めるつもりで軽く叩いてやってから、その背中に跨ったワシは、<月光>の皆さんへとお尋ねしてみる。
「そや。
自分らの中で、この辺一帯の土地勘ある人おるやろ? 現実での神岡町って、此処からやったらどっちへ行ったらエエんか知らへん?」
東京から来た人間に、飛騨の地理を訊くんは御門違いやも知れへんけど、夜間行軍してたんやし、土地勘くらいはワシよりあるんやろ?
ワシの質問に対し、ユストゥス君だけが怪訝な顔をせずに、少しだけ苦笑いを浮かべよった。
「……まぁ、夜間に移動すること自体、そう思わせても仕方ないよ。
ワタルノフ君、ここからでも伝えることはできる?」
「ええ、一応は。
ここは飛騨の、少し金沢寄りの辺りなので、あちらの山の方角を目指せばその近くまでは行けますよ。
……目的地って、カミオカンデですか? だとすると、申し訳ないのですが、流石に正確な位置までは分かりません」
「エエてエエて、こっちかてそこまで正確な位置はわからんよってに。
というかバレとんのかい!? ……ってそりゃバレるわな。エルヴィン君と、……そっちにゃ、ユストゥス君が居るんやもんなぁ。
ま、それはそれとして。
そこまで行けば何となーく分かるのと違うかって思っててん」
「……根拠を、伺っても?」
エルヴィン君の素朴な疑問に、ワシはへらへらと笑うしかなかった。
何となく判るんやっ! って言うたとて、判らんやろうしなぁ。
大量の粘土で、デビルズタワーを作らんと居られんような、強迫観念染みた判り易いモンがある訳やないんやし。
まぁ、笑って誤魔化すしか出来ひんな、現時点では。
「いんや、さっぱりや。
せやけど、そんな気がするのだけは確かやね。こっちに来てからババを踏んだりしてるけど、ハズレを引いた事はあらへんしな!」
「……複雑、なんですね。
いずれにせよ、こちらから提供できる位置情報に関してはこれ以上はありません」
「うんにゃ、十分でがんすよ。
……それと、これからのワシの行き先は、自分らだけが知っている所謂一つの“秘匿情報”ってヤツにしといてな? どっかの阿呆に、余計なチャチャや詮索を喰らいたないし、な。
せやけど! 自分らが当座の目標を達成するんに必要とあらば、“欺瞞情報”として使うといてくれてもエエで。
ワシも、自分らの存在は、何がしかの切り札代わりにさせてもらうやも、しれへんでな。
御互いに、いっつ・あ・ぎぶ・あんど・ていく・あんど・ていく、って事で♪」
「……すいません、それ、ユン先輩に言っておいてもらえます? 俺はそっち要員じゃないんで。
あと、takeが多いのはツッコみませんから」
ワシの軽いボケをスルーしよったワタルノフ君が、助けを求めるようにユストゥス君に視線を送りよったんで、改めてユストゥス君に顔だけ正対してみる。
「あ、了承(一秒)。
……なに、我々はオトコノコですからね。隠したい事は星よりも多いですよね。
それと、我々の情報は別に公開して戴いても構いませんよ。抑止力以上に使えないのは分かっていますし、そもそも“人間”相手に負ける気はありませんから。
こっちから多めに支払うのも別に構いませんよ?
後が怖くないなら」
はっはっはっはっは!
通天閣の裏の方でプラプラしとる、真っ当とは言われへんオッサンみたいな眼ぇで睨まんといてんか、ユストゥス君。
ほら、ワシって心も意気地も、いとか弱き乙女やんか?
パンツの替えも乏しいのに、ちびったらどーしてくれんねん?
さて。
名残は尽きひんけど、この辺で退散させてもらおうか。
「じゃ、ホンにおおきに。久々に、何の衒いもなく楽しかったと言えるで。
道中、達者でな? 知らん人を拾って餌付けしたり、イチャラブするんは程ほどにしぃや?」
「……最後は無理かなぁ。あ、ちょい待ち」
フラフラさせてた右手で、ビシッと敬礼を決めたワシに、ユストゥス君が待ったをかけよる。
「折角なんで、フレンド登録しませんか?
此方からお伝え出来る事はそうないかもしれませんが、此方から伺う事はあるかもしれませんし?」
へぇ? へぇ!
「……自分やったらもう勝手にやっとるかと思ってたんやが?」
「いえいえ、私は自分がやられて嫌だったことは他人にやらない主義でしてね?」
エルヴィン君をチクリと視線で刺す、ユストゥス君の大人気のなさには少し呆れたけど、まぁそんくらい沽券か股間に関わる問題やったって、事なんやろうな。
ま、それはそれとして。
「こっちとしては願ったり叶ったり、やな。是非にでも頼むわ。
ちょーっと、下界の柵から解放されるかもしれんよって、すぐにはどうこうはでけへんかもやけど」
「此方こそ。思い出した頃で構いませんよ?」
礼儀として、ワシはアヤカOちゃんの背から降りて、彼らと同じ土壌に立ち、一人一人とフレンド登録を行う事にした。
順番は、ユストゥス君から。先ほどの彼の言葉に準拠せずとも、彼とは此れからも色々な話が出来そうな気がするわ。……真剣勝負の鍔迫り合いやけど、な。
次は、イアハート・ブラウフェル嬢。ワシの好みで言えば、胸よりも身長が今少し足りないお嬢さん。……辛抱とか、ウィットなんかも後少しあれば尚結構やけど?
ほんで、エルヴィン君。彼らの中で、一番信用出来る男。現実のワシの事を知る唯一の男。何かあれば頼りに出来る男。ユストゥス君の紐つきってのが微妙やけど、まぁそれは御愛嬌やな。
続いて、龍之介君。伸び代が、やたらと多い青年やな。彼は恐らく、成長すればするほどに伸び代が増えて行くタイプや。器用貧乏に陥るほどに、器用な人間ではなさそうやし、それでいて多種多様な御手本が周りに居てるようやし。
……ユストゥス君って反面教師も居るしな?
最後に、ワタルノフ君。エルヴィン君が常識派ならば、彼は良識派やろうな。って事は気苦労が多いんやろうねぇ。リーダー格が非常識派やし、女性陣は何処でも概ね理不尽派やろうから。神経性胃炎が魔法で簡単に治る世界で、良かったな?
葉月嬢は、<大災害>以前に既に登録済み。<召喚術師>仲間の関係だけで言えば、ワシは彼女の大先輩に当たるけど、気分的には歳の離れた従兄弟かなぁ。まぁ、二号さんでも何でも、一人の人間として幸せに過ごして欲しいやな。
……頼むで、ユストゥス君よ? おにーちゃんは、心配性やで?
しかし、たった一晩で、新たに五人の知己が増えて、一人と旧交を強引に温め直させてもろうた♪
マブダチになれるか天敵になるかは、お互いの思惑か心根次第やけどな?
出来れば<大災害>後世界の漂流者同士、仲良くお付き合いしたいもんやね。
蜘蛛の糸が垂れ下がって来たら、皆で譲り合って昇りたいもんやなぁ。
もしかしたら与えられる希望が、舟板一枚、やもしれへんけどな?
長い長いフレンドリストの末尾を見ながら、そんな物思いに耽っていたら。
「序で、と言っちゃなんですけど。
お近づきの印と、昼食です。ヨモギ茶とローストビーフサンドなんですけど、お口に合います?」
ユストゥス君が、雑嚢から三本の瓶と包みを一つ取り出して、渡してくれた。
何と至れり尽くせりな!
前言撤回! 彼はエエ奴や! 365品目あるワシの大好物の内の一つを、タダでくれるんやもん!
しかも、自家製の清酒と醤油までくれよった!
彼の前世はきっと、雪に埋もれかけた<チームお地蔵さん>のリーダーに違いない!
せやけど、……コレって莫大な価値を生み出す、金の鶏と違うんか?
「……ええんか? 貴重品やろ?」
「構わないですよ。
何しろ、発酵食品に関してはもうしばらくの間、我々の独占状態ですからね?
サンプルの試供権利を競売で釣り上げて、レシピを更に競売で釣り上げる。
で、うちで生産した物をこちらの言い値で卸す」
ユストゥス君は、大阪の闇金屋さんみたいな、爽やかならざる笑みを此方にくれながら、質が悪い心情を暴露してくれよった。
「くはは。ルールないうちしかできないですから。ぼろ儲けすぎてもうウッハウハですよ」
笠地蔵やなくて、頓知小僧に絡む室町の商人やったよなぁ、君は。
「……それでも流石に、“ギルド会館”購入できるような額は捻出できませんでしたけどね」
「……それ考えたら、シロエって子はどえらいパンチの効いた謀略家やな?」
ワシも苦笑いで返すと、ユストゥス君は苦笑いを引っ込めて、腕を組んで唸りよった。
「うーん、その辺は分からないんですよ。“昼行燈”とも、“村正”とも」
「ゴルディアスのブチッとか、コロンブスのグシャッとか?」
「力技だなぁ……」
「カナミお嬢さんの秘蔵っ子らしいっちゃ、らしいかなぁ?」
彼女の薫陶を受けたんやったら、それくらいの“卓袱台返し”はするんと違うんちゃうかな?
「私自身はカナミさんに関しては伝聞でしか知らないですけどね。
……そんなに理系男子を魅了するんですか? 私も理系なんで、相対したらどうなるか分からないなぁ」
「それは……後ろの二人に聞いたらエエんちゃうかな?」
トロールの谷に棲む妙な生き物みたいに、クネクネとしよるユストゥス君の後ろで、彼の二人の嫁さんが沸き立たせとる黒々としたオーラに、ワシは思わず首を竦めてしもうた。
スマンな、ユストゥス君。
ワシは君に、蜘蛛の糸を垂らしてあげる事は出来ひんわ。
人生の時々には、“冷たい方程式”が必要でな、今がその時みたいやねん。
せやけど、合掌して冥福だけは祈念してやろう。案じよう成仏しぃや、自力でな?
「望んで試練を求める汝に、さる高僧の名言を贈ろう。……運命じゃ」
まるでマンガのように、目に青痰をこさえて倒れ伏す浮気者のユストゥス君。
彼の間抜けな姿を見た瞬間、ワシに天啓が降りて来よった。
悪戯心ってゆー名の、天啓が。
トリートをくれたんやし、トリックを渡したらな、なぁ?
魔法鞄から取り出した一枚の紙に、脳裏に浮かんだ十一文字の漢字を<大師の自在墨筆>で認めてやる。
そんで。
覚醒した(?)彼に、ワシは如何にも重々しい口振りで告げたった。
「ユストゥス君。自分なら既知の事やろうけど、戒名ってな生前に持つもんやんか?
本来なら出家得度してもうて、正式な儀式作法でもって授けるもんやけど、エエもんくれた御礼に、出血大サービスで戒名を付けたろう♪」
股間を強打され“オネエ化”の状態異常をしてやがる、“道化師”に、ワシは一枚の書付をプレゼントしてやった。
昨夜からずっと、其方の用意した舞台で踊らされとったんや、最後くらいは此方の用意した紙芝居の登場人物になったもらおやないか?
<双瑯院欽譽寶慧鍛勝居士>
ワシが書き並べた十一文字を、恭しく受け取ってから眉を顰めるユストゥス君。
「……どういう、意味ですの?」
にひひひ、くけけけけけ。
予想通りに読み方やのうて、意味を問うて来よった、な。
頭のエエ奴は、滅多な事では騙されへんけど、ひょんな事で騙されよる。
誰に騙されんのか?
自分が、自分を騙すんや。自分に、騙されるんや。
ワシは尤もらしい意味を、テキトーに並べ立ててやった。
「二つの玉壁を携え、謹み敬うべき、宝の如き智慧にて、常に鍛え常に勝つ男、って意味や。
……今のキミにはちょーっと似合わんけどな?」
「もう少し!! もう少しで痛みが引きますのよ!!」
「それはエエから。
……後で、しみじみと意味を噛み締めながら、音読しといてな!」
ユストゥス君は頭がエエし、読み方を訊くなんて事は絶対にせぇへんやろう。
訊いて来るとしたら、その意味だけやろう。
そう思ったら、案の定やった。
ま、確かにいつか読めるやろ。……そん時が楽しみやでぇ~♪
一つ残念なんは、彼が悔しがる姿を目の当たりに出来ひん事やな。
今は腰を叩いている拳が、駄々っ子のように振り回すんが見たい処やが、此方に向けられたら敵わんから今回は諦めて、さっさとトンズラしよか。
「ほな、また!」
「ええ、こちらは今のところアキバに居を構えています。
此方に寄るようでしたら、ご連絡ください。
昨夜以上のものを用意しますから」
「おおきに!! 本気にとっとるからな!!」
「ええ、最上級の箒と謹製のぶぶ漬け用意しておくんで」
「追い払う気満々やんけ!! それにウチは都人やあらしまへんえ!!」
こうして、ワシと彼らとの邂逅第一幕は、無事に閉じた。
終幕までの、紆余曲折と迷走は大概やったけど、中々に面白い出会いやったわ。
新たに考えていかなアカン事と、考えが足りひんかった事を、気づかせてもらえたんはホンマに有難かった。
一方的に貰いっ放しみたいな状態には、忸怩たる思いがするけど。
まぁ、次に会った時には、受けた恩を倍返しさせて戴こか。
それまでは、御互いに。
「またな!! 道中、達者でな!!」
「そちらこそ!!」
ワシが手を伸ばすと、ユストゥス君は一瞬きょとんとした顔をしてから、満面の笑みを浮かべて握り締めてくれた。
ほんで、ワシだけに聞こえる声で、囁きよる。
「百聞不如一見、百見不如一考、百考不如一行、を実感した夜でした。感謝します」
「ワシの方こそ、おおきに。ワシらには出来る事がまだまだ沢山あるって、自分に教えてもろうたわ」
昨夜から今朝までお付き合いさせてもろうた結果、判った事がある。
ユストゥス君は実に礼儀正しい、ナイスガイや。
彼の言動を見るにつけ、改めてワシは安堵したりする。
大阪に生まれ育って良かった! ってな?
関西弁にも敬語はあるけど、標準語のような遠慮はあらへん。
年齢差がある目上に対しては、ある程度はなぁなぁで会話が出来る。
ほんで、年若に対しては、実に気安く声をかける事が出来る。
ナカルナードみたいに、近過ぎて遠慮がなさ過ぎたら、鉄拳制裁するけどな?
ユストゥス君は、様々なスタンスでワシとの距離を測り、ぶつからないギリギリのラインを探ろうとしとったみたいや。
度が過ぎた、馴れ馴れしさにならへんように。
未知なる相手にビビリ過ぎんように、と。
本来ならば事前に情報収集し、用意周到なシナリオを用意してから事に臨むんが、彼の一番得意とする事やろうけど。
今回は、ぶっつけ本番のアドリブ劇やったしねぇ。
折角の邂逅を、破綻させないようにするには、どないしたらエエか?
おっかなびっくり、やったんかもしれへんねぇ、ユストゥス君からしたら?
そうは見えへんかったけどな、全然!!
でも、まぁ。
その意思と姿勢が、手に取るように判るからこそ、ワシは安心して彼が用意した舞台に立ち続ける事が出来た。
……アマミYさんが彼に加勢したんは予想外やったんで、実に危なっかしいダンスを披露する羽目になったけどな?
ワシの方は元々、鈍臭い醜態を晒した処からスタートやったしなぁ。
まぁ取り敢えずは、ハプニングをハピネスに変化させれたし、終わり良ければ全て良しやったわな?
御互いに手を振り合ったら、後ろを振り返らずに背を向けて、それぞれの行く道を迷わずに進む。
例え、行き先が漠としとっても。
“どっちへ行きたいかわからなければ、どっちの道へ行ったって大した違いはない”って、ルイス・キャロル御大も言うてはるし、な。
今回はワシも彼らも、偶然の遭遇やったから大した事は出来ひんかったけど、ワシは彼らから幾つもの触媒みたいな思考材料を頂戴させてもろうた。
ワシも、何がしかのネタを提供した、と思いたい。確信は持てんけど。
それらを有効利用して、大きな化学反応を起こす事が出来るか、デッカイ大輪の花を咲かせる事が出来るか?
口にはしてへんし、誓約書も書いてへんけど。
約束したよな、ユストゥス君?
<冒険者>としてやなく、御互い一人の人間として、どっちが先に夢みたいな曖昧模糊としたモンやない、誰の眼にも鮮やかで明確な目的を達成出来るんか。
ワシは、ワシに、全てを賭けたる。
ユストゥス君は、何をどんだけ賭けるんか知らへんけど、相応のモンをベットするんやろうね?
ほな、一世一代の大勝負、といこか!
ほんで、元の現実に戻れた暁には勝者と敗者の別なく、御互いを指差し大笑いしようやないか。
なぁ、ユストゥス君よ、<月光>の皆さんよ♪
今からなれば、ああもしたかった、こうもしたかった。ベッタベタに馴れ合いをしても面白かったかも?と思っちゃったり何かしちゃったり?(苦笑)
まぁ、キャッキャウフフ♪は、エンちゃんとのアレやコレ、で致しましょう♪
それと、キョウに関する部分と、ミナミの街の大きさだけは、早く改定せねば!
拙著をお読み下さっておられる皆様方には、誠に申し訳ございません。
『+48Days 其の参』の投稿は、大分先になりまする。
本当にゴメンなさい。