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第肆歩・大災害+48Days 其の壱

 前話と連結したまんまで、済し崩し的に新章のスタートです。

 時には、こんなのもアリでしょう?

 魔方陣(×) → 魔法陣(○)。変換ミスです。済みませぬ!

 訂正致しました。

「そーいや、エルヴィン君。自分が以前、『プレイヤータウンに城壁は必要か?』って小論文を<せ学会>に提出してくれた事があったやん?」

「……よく覚えていて下さいましたね。今思えば、誠に稚拙な物でしたが。

 お恥かしい限りです」

「いやいや、実に示唆に富んだ内容やったで!

 “ゲームのシステム上、プレイヤータウンが外敵に襲われる事はない。

 更に強固な防衛機能を発する魔法陣が、完備されている。

 では、プレイヤータウンをぐるりと取り囲む城壁は、何のために存在するのか?

 単なる、都市外観を整えるためだけの、飾りなのだろうか?”……やったな?」

「……結局、問題提起をしただけで、結論も有耶無耶な物でしたし」

「でも、<大災害>が起こった。……もし仮に、城壁がなかったとしたら、<大災害>当日のワシらって、一体どうなってたやろな?

 幾ら、防衛機能が稼動しているとしても、メッチャ不安で堪らんくなってたんと、違うやろうか?

 自分が以前に掲示した命題は、<大災害>が発生した今日に至り、何ともあっさりと回答が出されてもうたな。

 “プレイヤータウンの城壁は、心理的防壁として必要”ってな?」

「確かに。……まさか、このような形で回答が明示されるとは、正直な気持ち、思いもよらぬ事でした」

「世の中油断出来ひんねぇ?

 さて、何で自分の小論文をワシの記憶文書庫から持ち出したか、って言うとやな。

 今から説明したい事の裏返しやからやねん。

 ……此の世界(セルデシア)に遙か昔から居住してはる<大地人(みなさん)>は、日常的に恒常的な不都合は感じてはっても、それらが存在する事を不思議とは思いはらへんやんか?

 それは現に存在するんやから、不思議も何もないわな?

 せやけど、ワシら<冒険者>は元々此処に住んでた訳やない。

 外様も外様の、異邦人。……全く別個の世界から来た人間やんか?

 ワシらの認識では、此処は現実(リアル)やのうて、架空(ゲーム)の世界やんか?

 それが偶々、リアルになってしもうとるだけで。

 だって、どう考えてもなぁ……。

 そう考えな、割に合わん不合理な事が、あまりにも多過ぎるやんか?

 例えば。

 <スザクモンの鬼祭り>の発生地点に、何で執政家は首都を設置したままにしとるんやろうか?

 山岳都市イコマに遷都するか、もう一回古都ヨシノに遷都し直せばエエのに。

 何も態々、そんな時限式で定期的に必ず大爆発を起しよる、大量破壊兵器の上に住み続ける必要性なんかあらへんやんか?

 ワシらが学んで来た常識で言うたら、な。

 こっちの人達ってのは、そんな当たり前の常識さえ持ってへん、何とも珍妙な原理原則を社会的通念で生きてる存在なんやろか?

 めっちゃ悩んだで、ホンマ。

 処が、つい最近になってから……気づいたんやけど、ね。

 此の世界が本来は、ゲームなんやと考えたらば、腑に落ちるんやわな。

 そやねん、ゲームやねん!

 まぁ、ゲームだけに限った事やないねんけどな。

 所謂一つのファンタジーな世界の設定ってさ。

 現実的な常識や合理性の、埒外に存在したりするやん?

 未熟な生徒が寮生活しながら学ぶ魔法学校の地下に、凶暴で巨大な<魔眼小王竜(バジリスク)>を野放しにしたり、とかさ?」

「……いや、あれってアル……いや、くーねるまるたさん含めたあそこのガーディアンじゃなかったでしたっけ?」

「誰だよマリア・○タ・クーネル・グロソって」

「全部言った!? 知ってるじゃん!!」

「……“笑明館”は、今はどうでもエエし。

 ほんなら“甲賀”は? とか言うたら、マジでシバクで自分ら?

 ……話し戻させてもろうてエエかな、ユストゥス氏にエルヴィン君?

 こっから更に、真面目な話なんやし、な?」

「「失礼致しました!!」」

「さてと、何言おうとしてたんやったっけ? ……ああ、せやせや。

 それにやな。

 主要な街道などから外れていて、地政学的に何ら価値が認められへんような辺鄙な処に、大都市や巨大なキャラバンサライがあったりする、とかもあるやん?」

「仰る通り、交通の要衝ですらないところや河川に面していないのに市場マーケットが充実している、なんてありますしね。

 ローマ人なら、景色が素晴らしいだとか、天然温泉があるからって理由だけで、街を作り上げたりするかもしれませんが」

「せやけど、ローマ人ならこんな雑な都市計画はせぇへんやろ、エルヴィン君?」

(まさ)しく。例え脇道だろうが支線だろうが、必ず立派な街道を整備して、交通の利便性を図りますからね」

「って事は、つまり?」

「つまり……、都市工学に基づかなくとも、当たり前過ぎるほどに当たり前な、集落が都市化する上での基本がない。

 何とも不可思議な思想に基づいた都市設計が行われている、あるいはグランドデザイン自体がそもそも存在していない、と?」

「ザッツ・ライト! ……ワシが言いたいんは、そーゆーこっちゃ。

 所謂、作り物のファンタジーの世界ってな、デザイナーの気分次第で、在り得ない設定が成立したりするもんやんか?

 時には勘違いで、うっかり設定してしまったってのもあるやろうし。

 その反面、様々な素晴らしい発想が浮かび過ぎて、それを全て詰め込んだ結果としての事もあるやろうし。

 我侭なクライアントや、現場の実情を知らぬ制作会社の上層部、もしくは傲慢で横暴過ぎる消費者のニーズに何とかして答えようとして、そうなってしもうた事もあるやろう。

 結果として。

 自然発生的に誕生して、経年と共に無駄が省かれ洗練された御伽噺(リドル)とは違い、人の手が加わりすぎてデコレーション過剰な物語(ファンタジー)には、首を傾げてしまうようなモノが多くなってしまうんやろうね?

 まぁ中には、物語より装飾過多な御伽噺もあるけど、なぁ……。

 さて、今までのは全て、前置きやで?

 ちょいと質問するけどな。

 自分らは一体全体、<大災害>ってモノを、どう捉えてキャッチしとるん?

 ワシはな、<エルダー・テイル>というゲームにおける、架空世界であるはずのセルデシアが、現実に存在してるで! って反抗の意思を示したんやないかな? って思うたりしとんねんけどな、今は。

 架空世界が、架空ってレッテルを自ら剥がそうと、足掻いとるんやなかろうか?

 それと同時に。

 我々全員、巻き込まれてしまったプレイヤーに取っては、別の意味合いがあるかもしれんと思わへんか?

 全世界で、巻き込まれたプレイヤーの総数が、十万人なんか二十万人なんか、あるいはそれ以上かもしれしれへんけど。

 そのほとんどが、二十五歳よりも下やろうなぁ。

 自分らも、そんくらいの年齢やろ?

 ワシの半分か、それ以下の年齢のプレイヤーが多いやろうな。

 そんな年端もいかへん若造が、やで。

 大勢を従え指揮するリーダーになったり、国家経営の真似事みたいなんをしたり、新たな技術革新をしてみたり……、死なないとは言え命の遣り取りをしたり、中には凶悪過ぎる凶行に手を染めてみたり……。

 何れ、現実世界に戻れた時に、な。

 此処での経験を、現実世界で活かす事が出来たとしたら、どうなると思う?

 現実世界が、大きく変革するんと違うやろうか?

 って事は。

 <大災害>っていうんは、<大変化>あるいは<大進化>と同意語で。

 ワシら人類に与えられた、変こな“モノリス”みたいなモンやないかなぁ?

 あ、……“モノリス”って知ってるよな?

 “ツァラトゥストラ”がデイジーデイジーな、アレの事やけど」

「勿論、知っていますが……。判る人間にしか判らない、例えですよね、それ」

「噂には聞いておりましたけど、よくもそれだけ噛まずに喋れますよね?」

「いや、ワシが訊いてんのは、そうやのうて……まぁエエわ。

 いきなり変な質問されても答えられんやろうし。

 ワシの出した今の課題に、何か回答を見つけられたら、教えてな?

 頼むで!」

「リアル<せ学会>発、思考総動員令発動! ですね。了解しました。

 ……もしかしたら、<大災害>って継続中(・・・)なのかもしれませんね?

 さて、と……」


 エルヴィン君は立ち上がり、両手を広げて伸びをしながら周囲を見回す。

 此方側は、ワシとアマミYさんのみ。

 天幕のみならず、そこら辺まで掃除を始めようとタエKさんには、一足お先に虚空へとお戻り戴いた。

 直ぐ傍で奇声を発したり、箒やハタキを振り回されんのは、落ち着かへんしな。

 其方側は既に、ワタルノフ君と龍之介君、そしてお嬢さん方が二人共に、既に天幕に潜り込み就寝しとった。

 刻限は体感でやと、夜中過ぎの一時か二時頃かな。


今日(・・)は俺が頑張らにゃあならないんでな、少しでも寝させてもらうぜ」


 と、大欠伸を一つしてユストゥス氏に言うと。


「レオ丸殿、済みません。実に楽しいセッションでしたが、私は此れで失礼します」


 眼をショボショボとさせたエルヴィン君は、こっちへ一礼してから天幕に潜り込む。

 ワシも、ボチボチと頭を休めたいなぁ。

 久しぶりに味のある食事、しかも久々に肉をガッツリと喰わせてもろうたしな。

 美味しいモンで腹が膨れたら、眠たなるんが人間の摂理やもん。

 せやけど、彼らの顔を見ていたら摂取したエネルギーが脳味噌の思考エンジンに自動的に注ぎ込まれてしもうた。

 詳細に聞かされたアキバの現状も含め、考えながら喋り、喋りながら考えた。

 それでもまだ、喋り足りひんし、思いついた事は山積しとる。


「ちょっと、付き合いません?」


 焚き火の向こうから、ユストゥス氏が誘うてきよった。

 まぁ、横にアマミYさんも居るし、粗相をしても油断しても、何とかなるやろ。

 <大災害>の御蔭で、体質が変わったんやモン、折角の事やしねぇ。

 誘われたら受けな、大阪人の矜持に関わるしなぁ?


「エエで♪

 あと、もう“殿”って止めてぇな、くすぐったいわ」

「ではレオ丸さん、あちらへ」


 ユストゥス氏に誘われ、アマミYさん共々に焚き火からちょいと離れる事に。

って言っても、天幕が視界に入る程度に離れた場所やが。

 さっきまでお嬢さん達が抱えていた瓶とは違う、別の瓶を取り出して、自慢気に掲げてみせるユストゥス氏。

 処がどっこい、彼は突然に“あっ”と呟き、此方を伺い見よる。


「お坊様ですよね? お酒、大丈夫ですか? ……タバコは十分堪能されているようですけど」


 彼の視線が、ワシが咥えたままの<彩雲の煙管>に注がれてるんは、兎も角。

 ほぼ初対面のはずやのに、大して言葉を交わした訳でもあらへんのに、何でバレたんやろうか?


「……何で判ったんや?」

「主殿が単純だからでありんす」


 やっぱりか! って、んな阿呆な! って、心中ノリツッコミをしていたら。

 ユストゥス氏が初めて、妙に疲れたような息を吐きよった。


「……先日、ですけどね。あ、こちらではなく、現じ……あ、“故郷”での話です。

 似たような口調の方のお話を聞く機会がありましてね、それでなんとなくそうかなー、って」


 あ、そーゆー事か。

 そいつぁー、ウッカリさんでやんしたな……。


「……そうか、スマンな、ワシはこんなしゃべりしか出来へん」

「いえ、そんなに気にしてませんて」


 そう言ったユストゥス氏の、言い方は寂しそうやが、表情は悲しそうやない。

 ふむ。

 何ぞ訳ありか……。般若湯の力を借りた方が、喋り易い雰囲気作りが出来るみたいやね?


「いや、此処は付き合いまひょ」

「無理にとは言いませんよ? 何しろコレ、蒸留して加水してないからたぶん度数80以上ですよ」


 はぁ!? それを先に言えやッ!


「止めときまひょ。ってか、そんなん飲むんかい!?」

「ええ」


 般若湯のレベルを軽く、逸脱しとるやんけ!

 ワシ基準で言うたら、スピリタスは酒やおまへん。アルコール燃料だす!

 ユストゥス氏は、ワシに無理強いする事なく、小さなグラスに少しだけ注ぐや、、次の瞬間には一気に飲み干しよった。

 ……そんな“ドえラいもん”の力を借りな出来ひん話って、何やろう?

 薫酒山門に入るを禁ず、と心で嘯きながらワシは五色の煙を天空へと吐き出し、言葉の続きを待つ事に。


「ふう。やっぱり来るなぁ。

 ……そうだ、レオ丸さん。<月光(うち)>には<醸造職人>も<調剤師>もいるんだけど、この……焼酎もどき、どっちが蒸留出来たと思います?」


 ワイン蒸しにされたアサリみたいに、かなり酒臭い息を吐き出すユストゥス氏。

 口を下へ少し歪めて、渋面モドキを作り、序でに眉根を寄せてやる。

 無言の抗議の先は、夜の早苗さん(ヨッパラッター)みたいな雰囲気になりつつあるユストゥス氏の息ではなく、ワシを試すような彼の瞳に対して、や。


「……文系一筋40余年のワシに聞くとは身の程知らずめ。せやけど、判りまへんてのはつまらんわな、じゃあ……」


 さて、どう答えたろか?

 此処はやはり、誰もが知ってる王道パターンで返しとくか♪


「両方ともできた! に金貨5000枚!」


 もし外したら、ホンマに払わなアカンのやろか?

 大本命(はらたいら)のはずやけど、もしかしたら超大穴(がっついしまつ)やったか?

 という不安を押し隠しながら、これ見よがしのドヤ顔を見せつけたったら。

 ユストゥス氏は、先ほどにワシが作った以上の渋面で、二杯目を喉奥に流し込んで。


「……ちっ」


 って、舌打ちをしよった。


「その通り。

 ……二人とも出来たんですよ」


 ホンマに詰まらなさそうに、呟いて下を向くユストゥス氏の姿に、疑問符が浮かぶ。

 まぁ、そやろな。正解やろな。

 見え見え過ぎの出題やったんで、三択の女王(たけしたけいこ)を召喚しようかと思うほどにビクビクしたんは、内緒や。

 さて、と。

 あざといほどに答え一択の、二択問題を問いかけた、理由は何やろう?

 些かの待ち時間も与えてくれんと、彼は独り言っぽい調子で続けよった。


「……この世界のルールはホントに分からない。

 お酒に関する工程だから、<醸造職人>に出来たとすると、それじゃあ<調剤師>には出来るはずがないんです。

 じゃあ、化学反応だから<調剤師>が出来たのか。その観点からすると、<調剤師>でもお酒は作る事が出来るはずです。

 だが結論からすると発酵しない、つまり作れない」


 ユストゥス氏は、パカパカと三杯目を流し込みよる。

 飲みながら喋ると、鼻から牛乳みたいになるで、気ぃつけや?


「……はずだった。

 だが。こいつは」


 続けて四杯目にいくんか? と思いきや、フェイントかまして、瓶を指差しよった。流石に酔いが回ってきたみたいやな、……指差す手が微かに震えとる。


「……私が作ったんです。それを蒸留してもらいました」


 へぇ? 自分で醸造した酒で、へべれけか?

 おや? ……ちょい、待て!

 今、自分で作ったって言うたよな? ……ほな、さっきの説明は何やったんや?

 酒は、<醸造職人>にしか作れへん! って言うたやないかい!!


「……なんやて? 自分は<料理人>やろ?

 さっきの話からしたら……いわゆる、発酵に関する食材は作り出す事が出来ひんのと違うんか?」


 だが、彼の手にする瓶には、えらく度数の高そうな酒が入っとる。

 飲んで確かめんでも、人間奈良漬の吐き出すアルコール臭プンプンの息は、彼がその瓶の中身をカパカパと飲んでから始まったのは、事実や。

 フォン族の至高神たるマウ・リサに誓って、間違いない。

 マウ・リサ神って、誰や?

 それはそれとして。

 ほんで、ユストゥス氏の言にも、嘘偽りはなさそうや。

 はな、どないやって作ったんや?


「これの元は、私がご飯を噛んで吐き戻したものです」


 ワシが抱いた疑問に、彼は何の躊躇いもなく種明かしをしてくれた。


「……聞いた事あるで。つまり、口噛み酒やな?」


 彼のタネ明かしに即レスした途端、ワシの頭の片隅でカチリって音がしよった。

 自動演算機能旧式が、勝手に作動しだしたようや。

 イメージ的には、昔のアニメによく登場していた、何だかよく判らないメーターがついていて、何だかよく判らないランプが明滅する、図体ばかりデカイ邪魔な置物の、アレや。

 カタカタカタカタと、人間には解読しようがない長い長いトイレットペーパーみたいなパンチカードを吐き出しながら、頭の片隅が無意識の内に高速回転し始めよった。


「その通りです。人間が作りだしたお酒の原点とも言えるものです。

 柔らかくしたコメをよく噛んで唾液と混合することで、唾液アミラーゼがコメのでんぷんを単糖にまで分解します。

 これにより、サッカロミセス・セレビシアエと呼ばれる、まぁイースト菌ですね、これが糖をアルコールへと変換するんです。

 本来であれば、発酵とは化学現象と言うよりは生物の代謝なんです。

 あいや、逆か。生物が行っている代謝が、化学反応であると証明されている、ですね。

 だから、<調剤師>がお酒を作れない理由はこの部分、化学反応でも生物が介在する現象には干渉できない、ということなんでしょう。

 でも、それだと<料理人(わたし)>がこの方法でお酒を作ることができる理由の見当がつかない。

 ……でも、だからこそ。

 この矛盾(・・)に、付け入る隙(・・・)があると思っています」

「……付け入るって、“誰”にやねん?」


 意識出来る処理機能が低下してしもうたワシが、思わず素で漏らした問いに、ユストゥス氏は珍獣でも見つけたような、不思議なモノを観る眼で此方を見よった。


「……え? マジで言ってます?」

「すまぬの、たまに主殿は抜けておりんす」


 主人を主人と思わんアマミYさんの態度に、口をへの字にして一応抗議はしたものの、ワシは意識的思考と無意識的思考を、並列させてみた。

 うん、無理や。

 知恵熱がでそうや。所謂、オーバーワーク。いや、オーバーヒートか?

 “認知科学”という単語が不意に、脳裏にフワッと浮かび上がり、直ぐに思索の闇に消えて行きよった。何々やろう?


「まぁ、途方もない話ですね。

 ……ただ、私としては一番分かりやすくて、一番可能性があると思ってますよ」

「……ふむ、わっちにはその考え方そのものが分かりんせん。主殿はじめ、お主らにはその存在、身近な思考なんでありんすか?」

「うーん、我々の“故郷”では、そこまで身近に考えている、もしくはきちんと意識している方々はかなり限られますね。レオ丸さんはその数少ない中のおひとりですね。

 ただ、面白いことに、身近に考えていないのに信じている、という存在ではあります。

 それに、我々の“故郷”では、意識として捉えていないのに、そこらじゅうに存在している、という考え方はむしろ浸透(・・)しています。

 うーん、自然信仰、というのでしょうか、その、アマミYさんが腰かけている石にも存在している、という考え方です」

「ふむ、それならわっちにも分かりんす。

 しかし、お主や主殿が追いかけておるのはもっと……こんな石ころでなく、大きな存在、なんであろ?」

「大きいのか小さいのかもよく分からないですね。存在なんて、個人の感覚的なものじゃないですか。

 私にとっての()葉月(・・)、アキバに残してきた“仲間”は、アマミYさんにとってはそこまで重要ではありませんよね? でも、アマミYさんにとってのレオ丸さんは……ってことです」

「くはは」

「……ふぅ、厄介でありんすな、お主は。よくもまぁ、イアハートと葉月が我慢しておりんす」

「そこはホラ、痘痕(あばた)笑窪(えくぼ)と言いますか」

「蓼食う虫も好き好き、でありんす。言葉は正確に使いなんし!」

「くはは」

「くふふ」


 ワシがショート寸前の思考回路♪ の対応に苦慮しとる間に、ユストゥス氏とアマミYさんは、何や判りおうて笑顔で見詰め合ってやがった。

 今度は胸の片隅の警戒システムが、危険察知の警報を鳴らし出しよる。


「……この男は敵や! 全男の敵や!」


 早打ちし出した胸の鼓動と連動させながら、ワシは大きく五色の煙を、怒りと共に力一杯胸一杯に吐き出してやった。


「もー! ウチの子に手ぇ出さんといて!!」


 ほしたらや、彼と彼女は、や。

 ワシを、憐憫色に染まった目で見て、コソコソと小声で会話しやがりよる。

 ワシの許可なく、ワシの家族と判り合わんといてんかッ!!


「また! ユストゥス、自分には二人も居るんやし、四杯もいらんやろ!!」


 未来世紀の専任捜査官か、お前は!

 ウドンは、二杯も喰うたら充分やろが!

 ウドンの大食いしとる暇があったら、電気羊スライムの夢でも見とけや!

 お前なんか、もう、呼び捨ての刑じゃッ!!

 己には、一号さん(ホンゴウ)も、二号さん(イチモンジ)も、居るん違うんかいッ!

 勝手に内のアマミYさんを、風見志郎(ブイスリー)扱いせんといてんか!

 と、心のアプリで罵声(ツイート)し捲くっていたら、彼はニコリともせずに、更にしれっとほざきやがった。

 “いいね!”くらい言えや、愛想のない!


「ネタはよく分かりませんけど。

 私はいればいるほど」

「自分はブリガム・ヤング万歳主義者か!?」

「……あ、すみませんちょっと先走ってました。

 流石に55人は養えませんから。上限七人ですかね?

 いやいや、違います。あ違わないけど、私は、“現実”で家族が欲しいんですよ。

 だから、何があっても“現実”に戻りますよ」


 ユストゥスの野郎の口調が、不意に改まりよった。

 ???……、どないやねん? 唐突にどないしてん?

 口を噤み、傍らに置いていた瓶とグラスを再度手にすると、JINROは徐に四杯目を注ぎ静かに飲み干し、更に五杯目も喉に流し込んで、口を閉ざしよった。

 パチパチと、焚き火が小さく爆ぜる音のみが、辺りに響く中。

 雰囲気を瞬時に一変させたユストゥスが、口を開くまでの間、ワシは黙り込む事にしたんは、別に遠慮したせいやない。

 そうせなアカンと、自然に思ったからや。

 それは思考的判断でも、心理的判断でもなく、……何となくの結果やったが。

 けど、それで正解やった。

 彼が再び紡ぎ出した言葉は、それはそれは重たい言葉やった……。

 改めて、拙著をお読み戴いて下さいます皆様方に、最大級の感謝を!

 今期のライオンズは実に不甲斐無い結果でありましたが、ドラフトの成果を活かして、来期こそは必ず首位争いをするものと確信致しております。

 新入団の台湾の投手は、またもや郭という苗字。

 彼もまたきっと、活躍してくれるでしょう!

 ……おや? 何の話だっけか?

 え~~~っと兎に角、ホンマに皆さん誠におおきに!!!

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