第参歩・大災害+47Days 其の肆
前回より、レオ丸の独り言音声にて、御伝え致しておりまする。
レオ丸節前回で書くのは、とても楽です♪
さてさて、反撃開始っと。
ああ、ロッキード・エレクトラを操縦していたお嬢さん、そないに怪訝な顔をせんでも大丈夫やで。
ワシの喋りは、難解やと言われる事が偶にあるけど、あんたの由来みたいに、八十年以上も行方不明になったりせぇへんよってに、安心しとき♪
別に、当てずっぽうで種族を断定したんとは違うさかい、な。
……おや、“穂張り月”さん、どないしたん?
何で震えてんのん、“初来月”さん?
顔色が悪いで、“南風月”さん?
“尊厳ある者”の身分でありながら、そないに子犬のように震えてたら、ワシの腹が捩れてしまうやんか!
ああ、もう我慢出来ひんわ!!
「ぷーくすくす! ひ、久し振り、やなぁ……“イカ娘”!」
「……っ!? や、やっぱり!!」
イカん! 笑いが止まらんやないでゲソ!
頼むさかいに、引き攣った顔で睨まんといてや!
こっちの横隔膜の痙攣が、治まらへんやん!!
「そ、その節はエエ肴になりましたわ、あいや、なったんじゃなイカ? ぷぷぷ……」
「ひっ!! お、思い出させるんじゃないさね!! それとその名前も語尾も禁止!! 次言ったら張っ倒すさね!!」
怯えてんのか、威嚇してんのか、どっちや? 支離で滅裂やで?
「りょーかい♪ 踏まれるんはエエけど、ビンタは勘弁やからねぇ。もう、そうは呼ばへんさかいに。
あ、そーいや、何やったっけ? 自分がさぁ、<大会合会頭>にさぁ、ならはった理由はさぁ?」
「っ!!」
あらあら、虚勢はどないしたん?
引き攣った御顔が、ブルーホールよりも藍よりも青いでぇ?
ほな、ボチボチと甚振るん止めて、止めを刺しとこか?
「確か、……“ク”から始まって、“ン”で終わる……」
「ひゃあああ!!」
ほな、留めの一撃を♪
「そや!! <魔怪獣>!!」
会心の一撃! クラーケンは水底に沈んだ、ってか?
「……うぅ……ぐすっ、ひどいよぉ……あの時だって、あれだけ嫌だ、って言ったじゃなイカ……」
え!? 泣いた!? 泣かしてしもうた!?
やべッ!! 調子に乗り過ぎてしもうたッ!?
泣いたらアカンやん。泣かせたら、もっとアカンやん!
地頭には勝てたとしても、泣く子には絶対に勝たれへんやん。
しかも相手は、エエ歳こいた……もとい、妙齢の女性やで?
しもうた! やってしもうた!
相手の弱点を突いたつもりで、ワシ自身の弱点を抉ってしもうた……。
自分ルールで禁止しとる事やのに、自分で自分を唆して破らせるとは!
所謂一つの、オウンゴール?
こんな時はどないしたらエエんや?
更にツッコミした方がエエんか? それともフォローか?
こんな時のフォローって、どないしたらエエんや? 笑えばエエんか?
ぶつり。
何や、今の鈍い音。ウチのゴールネットが揺れた音か?
…………チガウヨネ? ごーるぽすとガはかいサレタおとダヨネ?
音がした方を、確認せんとアカンのやろな…………、嫌デモナー。
自分戒律を破った事の、お仕置きの時間のスタートかぁ……。
はぁ~~~、やれやれ。
ほな、覚悟を決めて!
ほ~~~ら、人化した<魔狂狼>が仁王立ちしとるやん!
リアル人狼やん。
ワシは、か弱い村人A、もしくはBやで?
エリトリア解放戦線(ELF)のお嬢さんも、一緒に仁王立ちしとるんは、単なる仲間同士の連帯感からかいな?
エルヴィン君は、何で耳を塞いで、眼を閉じてるんやろうね?
そんなん、今はどうでもエエわ。
ああ、何て見事な憤怒の形相なんやろう、二人共。
今やったら、天台宗の御仏壇の御本尊になれそうやで、二人共?
特に、ワシを見下ろしとる、ユストゥス君よ。
表情が、御不動さんにマジでクリソツやで?
「おうおっさん、ナニ俺の女泣かせてんだ、ああん?」
いや、御不動さんは、そないに下衆な台詞は言わはらへんで……。
「おうおっさん、ナニ私の“抱き枕”泣かせてるの、ああん?」
背中に、“中間圏発光現象(elves)”みたいな雷光を轟かせといて、イアハートさんは何を口走ってるんや?
汚物を見るような感じでワシを見下してくれるんは、ある種の御褒美みたいなもんやから別に構わへんけど、何から何まで台無しやで?
「うえぇぇぇん!! 潤さん!! 悠さん!! おっさんがー、おっさんがー!!」
「なんかいったらどうだ、ああん?」
「どうなんだよ、ああん?」
何じゃこりゃ? 流石にこないな展開を切り抜ける方法なんて、何処の総会屋対策マニュアルにも書いてへんで?
無理ゲー攻略本にもな?
ワシ一人では、絶体絶命やで。……ダレカ、タスケテ……って、ワシには絶大なる絶対の味方が居てるやん!!
なぁ、アマミYさん!!
「……流石、“妻妾同衾”、息ぴったりでありんすな、主殿?」
レスキューもサルベージもしてくれへんのかい、アマミYさん!!
見てるだけって、殺生やで!
千尋の谷に、命綱なしでバンジーしてしもうた哀れな子獅子やで、今のワシ!
「心底感心した様子で見とらんと助けたってや!!
てかなんなんその“妻妾同衾”て公序良俗に反する四文字熟語!?」
「……人を呪わば穴二つ、でありんすよ?」
「……なるほどぉ、確かに二つやけども、って」
ナニを口走っとんねん、ワシも!? ……何って、ナニやん?
いや、そやないねん。ワシって今、[混乱]の状態異常喰らっとる!?
「「ナニいっとんのじゃコラァ!!」」
「ひいいっ!! すんませんすんません!! 全面的にワシが悪ぅございました!!」
取り敢えず、此処は土下座やッ!!
五体投地接足作礼までは、せぇへんけどな!
「……ひっく……でも、私もう一つも」
「「知ってるけどそのネタはやばいから!!」」
「なんなん!? なんでこんな下ネタにアグレッシブやねん!! 大丈夫なんかアキバ!! ナニしとんねん“円卓”の偉い人!!」
頭を下げながら混乱して、困惑しながら土下座してたら、天啓が降りて来よった。
誰かが、どっかで、深く深―く嘆息しとるイメージが!
……あ、今あきらめた感じしたんやけど?
何処の誰やねん、溜息の持ち主は!?
と、全力で聞き流しつつ頭を下げる、というテクニックを駆使しとったら、ようやっと相手さんの攻撃の手が止まりよった。
「……ったく、おう、次から気ぃつけろや」
ぺっ、と唾を吐きよったけど、<淨玻璃眼鏡>で視線を誤魔化しながら見ていたワシの眼は、誤魔化されへんで。
単なるフリって、…………怒ったフリ、ってか?
「おっと、スープが煮立っちゃうね?」
ほんで、何事もなかったみたいに、御玉で鍋を掻き回すんかい。
憤怒の形相はあっさりポイ捨てして、もう温厚そうな表情を顔に貼り付けとるんかい、ユストゥス君よ?
変幻自在っちゅーよりも、自由気侭過ぎるんちゃうか、君?
「……怖いわーなんなんこの人ら……」
「慣れれば大したことないですよ」
頭を上げて、首振って、思わず呟いたワシに、エルヴィン君が自嘲気味なフォローをプレゼントしてくれた。
いやいや、それフォローちゃうで、追認やで。
ホンマ、桑原桑原。触らぬ神に祟りなし、タブーやったら“ちょっとだけよん♪”もありかもしれんけど、こいつは禁忌や。
取り敢えずイカのネタは当分、イカんでゲソ。
ってな、益体もない事を考えとったら。
「戻りましたー」
ワシの背後から、若いにーちゃん特有の張りのある声が、しよった。
所謂、全員集合!! ってヤツやな?
処で今は何時くらいやろう? 八時だニョって事はないやろうけど?
ほんでまぁ、振り返って見たら、下草を掻き分け出て来たんは、ドワーフのにーちゃんと、その後ろに長身の猫人族のあんちゃん。
「今日は猪ス。えーっと、桜肉ス」
猫のあんちゃんが、デカイ塊を軽々と背負いながら、ボケを炸裂させよった!
ツッコミの血が騒ぐやんけ!
「猪は牡丹!! 桜は馬や!!」
「あ、起きたんスね。大丈夫スか?」
ツッコミやのうて、単なる間違いの指摘になってもうたけど、猫のあんちゃんはモリアオガエルみたいに、けろりとしとる。
あ~~~、天然素材120%か~~~……。
「レオ丸殿、こちら先ほど言っていたワタルノフと龍之介です。
こちら西武蔵坊レオ丸殿……って、さっき紹介はしてもらったか」
さっきまで、怒髪天を突いとったはずのウルフガイもメキシコジムグリガエルみたいに、けろりとした表情で二人を紹介してくれよった。
……ああ、なるほど? “演技”なんやな、これは。
ユストゥス君ってぇのは所謂、劇場型の思考をしとるんか。
世の中の全ての事象に対して、自分が“演者”として関わっていると考え、そん時そん時に合致する、“役”を瞬時に選択して、“演じ”とるんやな。
オッケーりょーかい、エブリシング納得やわ。随分と大概な考えもっとるなぁ……。
思わずワシも、溜息ついてまうわ。
此れがホントの、『放心演技』か?
って事は、眼の前に居るコイツは、“人間宝貝”か?
……考えたら、<冒険者>って存在自体が“宝貝”みたいなもんやしな。
そんな究極超人であ~るワシらやけど、中身はヘーボン族やしな。
多かれ少なかれ、無理して演技しとるかって……先日此れ、ユーリアス君にダラダラと愚痴ってしもうた、出口の無い思索の入り口やんけ?
止め止め! 終了! はい、御疲れさん! 撤収!!
……また暇な時に考えよ。それにしても、相手のペースに乗っかって会話をするんも、久々やなぁ。頭の別んトコを使うんも、偶にはエエな。ボロを出したらアンタの負けよ、ってな!
ほな、まぁ。
ワシの方かて、見境なしに喧嘩ふっかける野蛮人やない、文明人であるって処を改めて示しとこか。
文明人の証、所謂社交辞令的挨拶や。勿論、感謝の意を込めてやで?
「西武蔵坊レオ丸ですわ、先ほどは助けてもらっておおきに」
「初めまして、ワタルノフです。ご覧の通り、ドワーフで<守護騎士>です。サブは<採掘師>です」
「どもス、龍之介ス。<暗殺者>で、<剣闘士>ス」
アサシンでグラディアトルという、“山の老人”がいそいそとスカウトしに来そうなニャンコの介君は、屈託のない笑みを見せつつ、猪を背中から地面に下ろしよった。
フゴフゴ言うてるトコを見たら“豚丼(仮称)”は、未だ生きとるみたいやな。
「じゃお願いします、先輩」
「猪か、じゃあこのスープを流用しよう。二品目は牡丹鍋だね」
ほえ? 殺して、ドロップアイテムの肉塊にせぇへんねや?
……生きてるの捌くのはキッツイでぇ……お、そうや♪
ウチにも、家事全般のリーサルウェポンが居るって事を、披露したろう。
どないやったって、今夜はコイツらと共に過ごさなアカンようやし。
こんだけ色々と手の内見せてくれよったんや、こっちも一寸はサービスサービス♪ したらんと不公平やもんな。
……こんだけ御馳走あるのに、アンタはコレだけってオートミール出されても、今のワシの立場やと文句も言えんしな。
ニンニクラーメン、ニンニク抜きって、嫌やんか?
「天蓬天蓬急急如律令 勅勅勅! タエKさん、出撃せよ!」
いつものように空中へ魔法円を描いて、虚空からの通用門を開いたったら。
いつものように、姉さん被りで頭髪をキチンと納め、晒した瓜実顔に薄く紅を差し、格子柄の和服に襷掛けで割烹着姿で、彼女が直ぐに来てくれた。
いつもと違う、後方かかえ込み3回宙返り、いわゆるG難度技を華麗に決めながら。
「お呼びですかぁ、旦那様ぁ~」
余りの渾身の出来に、ワシは知らずにガッツポーズをしてしまう。
「10.00やな!」
序でに言わんでもエエ、点数まで与えてしもうた。
ま、最近“対応が冷たい”って言われたばっかしやし、此れくらいエエやろ。
せやのに。
折角こっちがサービスしてやった、っちゅーのに誰も注目してへんやん!
何でや!?
……理由は、直ぐに判ったわ。
「スプラッタが苦手な方は向こう向いて、耳を押さえて、少し口を開けてあーって言いながら衝撃に備える~♪」
妙な抑揚つけて、ルー・ガルーなユストゥス君が、変な注意喚起をして。
「「「あー」」」
って他の野郎共が、呆れるほど素直に、その指示の通りにしとって。
いつの間にかフェンリルちっくな料理人が、<でっかい肉斬り包丁>を抜いて、大きく頭上に振り上げてて。
ワシの頭の中に、先日までの色々な、血生臭い経験がフラッシュバックしてしもうて。
ワシは僅かな瞬間、躊躇ってしもうて。
出来たんは、耳を塞いで、その場に伏せることだけで。
ほんで、「あー」までは言われへんかった。
果たして。
アマミYさんに血を吸われた時みたいな、パチモンの断末魔やのうて、本当に命を奪われる時の断末魔が耳に届いてしもた。
ほんで。
ごろん、って重そうな物体が、想像せんでも猪の生首と判るそれが、地面を転がるような音と、派手な噴水みたいな、どう考えても血飛沫の噴出音がして。
「……ああ、勿体無いでありんす……」
ワシの契約従者の、心底から悔いているような口調の、何とも場違いな感想が聞こえてきよった、って……オイッ!!
「アマミYさん、動物の血でもいいんですか?」
「あい。ただ、死んでしまうと鮮度が悪ぅなりんす。今のような、ちょうど〆たてがいいんでありんす」
……おいおい。
「じゃあ、よっと」
ケダモノな青年の掛け声と、重い物体を持ち上げられるような音と、更に激しさを増しよる液体の流出音がして。
おや?
何で突然、音の調子が変わんねん?
吹き出た血が、地面を叩く音が弱まるねん?
其処の君ら、一体何をしとるんや?
答えは、アマミYさんの喜悦した声が、教えてくれよった。
……教えてくれんでも、大体は理解してしもうとるけどな?
「おお、なるほどの!!」
「これを移して……さ、“食前酒”でございます」
「行き渡ったわね」
「じゃ、こっちも」
「「「カンパーイ!!」」」
…………やっぱ、そういう事かい、呑むんかい、猪の生き血を!!
「んぅー、たまには主殿以外のもいいの!! 何しろ“量”を飲めるでありんすからな!!」
「さっすが、いい飲みっぷり」
「はぁ、その色を見ちゃうと、やっぱりワイン飲みたいわ」
基本的に、生き血は飲みモンやおまへん。
政府広報のCMでも言うてたやろ! 言うてへんか? 言うはずないか……。
其処の吸血鬼と、吸血行為スキーな、女性陣よ。
ラジオニュースで解説されよる猟奇殺人事件よりも、音声的にちょびっと怖いで、君ら?
「さ、解体ショーだよ♪
解体しましょ~、解体しましょ~、さてさて骨が~残るだけ♪」
あんなぁ、ユストゥス君。いや、ユストゥスさんや。
見えへん音符が見えそうなくらいに、楽しげに歌っとるけどや。
ワシ、こう見えても、僧侶やねんで?
つまり、や。
御骨やったら、髑髏だろうが恥骨だろうが、充分に慣れとるけどや。
生ものは此れっぽっちも、慣れとらへんねん。
ましてや、解体ショーやで?
君は料理人であって、屠殺人と違うやろ?
十八禁やX指定どころやない、流出禁止絶対ダメよの恐怖音源、ヤバさ超絶技巧クライマックス・ハイやで?
「……もうやだ。なんやのんコイツら……」
げんなりとした台詞も吐きとうなるで、ホンマ。
此れ以上ずっと、地面に額を擦りつけとったら、“聖痕”が出来てまうやんか?
ハレルヤ! やのうて、腫れるやんか!?
ざりざりざりざり……。
遂に、安達が原の鬼婆のクッキング・タイムのスタートかいな……。
此の状況を、誰か何とかしたってぇな……。
そや! タエKさん! 自分が居ったやん! 最後の望みは自分に託した!
「……なかなか手際はよろしいようですね」
違うねん。そや、ないねん。
誰も冷静に、ユストゥス氏の解体の手際を、論評せぇとは言うてへんねん!
……偶には契約主の意向を、忖度してくれへんか、なぁタエKさん?
ですが、偶にだから面白く書けるんでしょうね。
大阪弁って言うよりは、所謂一つの関西弁にて。
もし、読みにくかった場合は、関西弁に代わり私が陳謝申し上げまする。
全ての事は、秘書がやりました!! 私は、無実です。記憶にございません(苦笑)。




