第参歩・大災害+47Days 其の参
さて、楽しい楽しい、或未品様とのコラボの、レオ丸視点ヴァージョンの始まりですよ。
本文をお読み戴きます前に、或未品様御作の
『続・取扱説明書 製品名:ユストゥス・ブラウファル【危険物指定】』
<幕間・西の英知?>
上記をお読み下さいませ。何卒宜しく御願い申し上げます。
御作と拙著の両方は、表裏一体ですので♪
「知らない、天井や……」
ボンヤリとしていた意識のまんま呟いた自分の声に、ワシの意識は漸う動き出しよった。
エライ掠れた、どっちか言うたら嗄れ声やな。……今なら、彼の演歌の大御所の物真似大会で優勝出来るかもしれんね?
ゴンバンヴァ……って、いやいやそうやないやろ!?
今のワシは、どないなってんねん?
確か。
インティクス相手にグダグダな面陳咬まして、トンズラこいて、飛行酔いして、山ン中に不時着して、アマミYさんに思いっきり血ぃ吸われて、気絶してたんやよな?
それより今は、全身機能のチェックが先や。
右手は……動くな。 ファックユーの形が出来るし、指にも問題ないやな。
左手は……こっちも大丈夫やな。ちゃんとグワシの形が出来よる。
右足……左足……オッケーオッケー、モーマンタイや。
体にも、骨折などのダメージも確認出来ひんっと。
状態異常は、[衰弱]のみか。どっちか言うたら[脱水症状]やと思うけどなぁ?
そらまぁ、そうか……今回はえらい吸われたからなァ……。
HPもMPも赤表示やったし、えらい怒っとるやろな、アマミYさん。
そらそうやな、二連荘はアカンやろ、二連荘は。学習能力なさすぎやな。
……あー、ハラ減った。喉も乾いた……って!!
あそこに見える、暗色の天井は恐らく布製やなって事は、此処はどっかの天幕の中か。
さては、小人の国の住人に捕まったんか?
……あれは野外での緊縛放置プレイやん? 此処は幕舎の屋内やん?
あれが何かってのが判別出来るって事は、視覚も……<淨玻璃眼鏡>にも、異常なしって事やな。
床から天井までは、そないに高くない。周囲は、広さは、……ふむ、キャンプ用のちょいと大型のテントみたいやな?
野営用の荷物が片隅に纏められとるが、あの量からしたら五人以下って事はないし、十人以上って事もなさそうやね。
こんだけ広けりゃ、八人は寝れるか? ど真ん中を独占させてもろうて、恐縮やな。
うん? そーいや、背中がエライ柔らかいな? 下草でも敷いてあるんかな?
気分は、アルプスの少女やな♪
……間違うても、アルプススタンドの痴女とは違うで?
足の下は、巻いた毛布か。
……足を心臓より上にするってのは、貧血の時の対応やったっけかなぁ?
と、言う事はや、此のテントに態々ワシを運んで寝かせてくれたんは、それなりに救急の知識があるようやね。
その知識の持ち主は、<大地人>か……いや多分、<冒険者>やな。それも、少なくとも敵ではなさそうやけどな……。
そやけど、それ以上に。
「どこやココ!?」
うわ、吃驚した。思ったよりデカイ声を出してしもうた。
うん? 何や外がザワザワしとんなぁ。
まぁ、こないなテントの所持者やねんもん、そら居るわな。
「主殿! 此方へと御座りなんし!?」
ありゃ、アマミYさん!?
何や彼女は外に居ったんか。……って事は、外は安全で、冒険者は敵ではないって事で確定ですか、そうですか。
ほな、表に出てみよか。……敵やのうても、鬼か蛇かもしれんけどな?
取り敢えずは、半身だけでも出してみるか。
え~~~っと。
焚き火の周りに居る知らん人らは、ひのふのみっと四人か。……ほんで、仁王立ちしてるアマミYさん。
いつもより、声が怖いなぁ。
「……この状況、助けてもろうておおきに! で、エエんかな?」
「ええ、結果」
「早う出て来なんす!!」
アマミYさん、やっぱ怒ってはんなぁ。
推察せんでも、見た目で判る狼牙族の冒険者君が何ぞ言いかけてたのに、そない怖い声で遮らんでも……。
「……わっちの主殿は、助けてもらった者らに礼を逸した作法をするような主殿ではありんせん」
何やろ? は!! これが所謂一つの、ツンデレやな!?
デレられたらしゃあないね。面映いけど、アマミYさんのお顔を立てとこう。
……どう考えても、彼らに助けてもろうたんに違いはないし、な。
「せやったな、いやえらいすんまへん。アマミYさんのゆー通りや」
取り敢えず、照れ隠しに頭でも掻いとこか。
さてほな、天幕を出て、ファーストコンタクトでもしよか。
デビルズタワーの宇宙人を相手に手話で遣り取りするよりは、会話が弾むやろうしね?
先ずは社会人としての、大切な礼儀から……仁義を切った方がエエかもしれんけど、初対面相手にダダ滑りしたら格好悪いし、普通に、あくまでも普通に。
「改めて、助けてもろうておおきに。
自分は」
「西武蔵坊レオ丸殿、お初にお目にかかります。私は≪狐将軍≫ことエルヴィンです。
<せ学会>の会合になかなか参加することができず、大変申し訳ございません」
うわ! 普通にしようと思うたら、先に言われた!
やっぱ、第一声は“お控えなすってでごいす。お控えなすって、とは仁義でござんす。ごいすとは、甲州弁でごいす”やった……か?
ん? エルヴィン?
エルヴィンって、エルヴィンか?
エル・ヴィーンって言い方したら、神のワインっぽい名前の?
ワシは、自然と手をポン、って打ってしもうた。所謂、エア合点。
相手が何処のナチュラル・ホースズ・ボーンでも、エイリアンでもない事に安堵したせいで思わず破顔してしまう。
「ああ、自分がエルヴィンか!! ホンマ狐尾族なんやな、自分。ハマりすぎやろ。
いやいや、こちらこそ自分の発表したレポートで随分と、この世界について考えさせてもらったで」
「あ、いえ、あれは私が全て考えたわけでなく……」
狐尾族の彼は、変な雰囲気で言い澱んで、狼牙族君をチラ見しよる。
何のアイコンタクトや?
「私の酒の席での与太話を形にしたそうでしてね。後で権利関係について相談する予定です」
エルヴィン君の後を受けて、言葉を続けたんは狼牙族君やった。
何の話や?
情報が少な過ぎて、彼らの関係性がさっぱりと読めん。
見た目からやと、長幼の順はエルヴィン君の方が上に見えるんやが?
どーやら主導権は、ウルフマンの方が上みたいやね。
ほな、交渉の主席は、彼で一択なんやね?
「……まずは、ちょいとお尋ね。おたくらのお名前、 何てーの?」
やっぱ、こーゆー時は、トニー谷御大の言い方に限るな!
算盤が手元にないんが、残念やけど。
ほっほー、考えとる考えとる、どう返事したらエエか、無駄に頭を使うとる♪
おもろいなー。
真面目に答えよるんか、こっちのテンポに合わせるんか?
さぁ、どっち?
「こりゃまた失礼いたしやした。……こんなんで合ってます?
申し遅れました。
私はエルヴィンと同じく、<月光>所属、ユストゥスと申します」
無責任と真面目の折中案で来たか。思考法は、最適値を求む、か。
……ん? ユストゥス、やて?
「……聞いたことあるなァ、確か<シルバーソード>の攻勢防御担当、やったかな、“道化師”?」
うえ! 道化師は道化師でも、ピエロやのうてトリックスター!?
温厚そうな顔しとる、コイツが!?
嘘やろ?
ガンバレル型反応爆弾で玉乗りをしながら、パイナップルとパンツァーファウストでジャグリングしてる、って御近所の奥様方の間でひそひそと噂されとるGONZOが、眼の前に!?
「初めまして、レオ丸殿。『お名前』と『ご活躍』は伺っております。
……ゲームの頃と、『現状』の両方で」
……コイツをスワヒリ語で表現すんなら、“危ないよ!”の一言やな。
いきなり脅しをかけて来よったで。
活躍、って言い草は何やねん? ヤーサンの常套的発言そのものやんけ。
喧嘩を売る心算はありませんが、喧嘩を売る準備は出来てますよ、ってか?
イエローやのうて、レッドアラート発令やな。
ほう。
態と苦虫を噛み潰したったのに、しれっとしたまんまか。
おもろいなぁ、君?
「こちらはイアハートと葉月。ここにはいませんが、ワタルノフと龍之介が同道しています」
ほんで、何事もなかったように、身内の紹介を続けるんかい?
ふぅ~~~ん、エルフの女の子が、イアハートさんか。別嬪さんやねぇ。
もう一人が、…………葉月?
おやおや、まぁまぁ。
そーですか、葉月さんですか!!
眼の前の四人の内、存知が一名、既知が一名、未知が一名、……ネタが一名か。
プププのプ、やね?
後は、此処に居らへん二名の、ワタルノフってぇのと、龍之介って奴か。
どっちの名前も知らんけど、別行動しとるって事は、それなりの手練って認識しとくんが正解やろな。
「我々はこれからイズモへと赴く予定でして、道を急いでおりましたため、このような夜半にも関わらず移動しておりました。
その道すがら、悲鳴のようなものを聞きつけて馳せ参じましたが、どうやらレオ丸殿とアマミY嬢との仲睦まじいひと時を邪魔してしまった様子。
……流石に道のど真ん中でいちゃつくのは経験ないんで、かなり驚きましたよ。
いや、本当に申し訳ない」
ほうほう、イズモに。
ホンマかどうかは判らんけど、エライあっさりと教えよんなぁ。
パッシブの次は、アクティブソナーってか?
ほな、異音で返したろう。
「……自分、悪びれとるんか開き直ってるのかどっちかに統一してくれへんかな?」
「難しい注文ですね、私としては真摯に謝罪しているはずなんですが……では開き直りで」
「真摯ちゃうやん!! 完全に分かっててやっとるやん!!」
なんや、此の展開?
警戒レベルを更に上げた方がエエんか、下げた方がエエんか、どっちや?
まぁ何と、態とらしい表情しよってからに。
口の端が微妙に、ヒネとるんが見えてんで、ユストゥス君よ。
「まさか!! いやしかし、そう思われるのでしたらそれこそ謝罪致します。
……すみません、アマミY嬢」
「あい。恥ずかしゅうありんしたが、わっちは気にはしとりんせん」
それに乗るんかい、アマミYさん!!
いきなり孤立無援かい!?
「ちゃうやん!! ワシ相手やないやん!! しかも許すんかいアマミYさん!!」
「「おおー……」」
「流石本場は違うなぁ、“彼”に見習わせないとなぁ」
何やろう? 感心されとるで?
今の流れの何処に、ブラボー・ポイントがあったんや?
誰でもエエわ。
ワシに教えてんか?
「……なんかいちゃついてる気がした。あいつらめ」
「オマエがいうな。腹立つ」
ワシが状態異常やない[混乱]に陥ってる間に、狼君と狐君は誰かと交信していたらしい。
……念話でとは違うみたいやけど、何やろう?
ま、エエか。
基礎情報の少ない事象をクヨクヨ考え込んでても、しゃあないし、……それより。
うぁ、寒ッ! ヤバくね? の一歩手前くらいに冷えて来よった。
体力もそうやけど、体調もよくないなぁ、何となく低体温っぽい?
血が足りねぇ……って、ヨーロッパの小国に潜入した三代目の泥棒さんの台詞か!
いや事実、足りてへんのやけどね?
体温下がったら抵抗力も下がるし、早う暖めんとアカンな。
六月言うても山ん中は、春先みたいなもんやし、な。
ほな、そうさせてもらおか。
「あー、ちと寒いんで、そっち行かしてもろうてエエかな?」
狼君は軽く頷いて、アマミYさんの隣を指差してくれた。
くすくすくすくすくすくす。
こいつは、好都合な所を。
少しだけ俯いて、顔を見せへんようにしてるけど、軟体な御御足が全然さっぱりと隠れてまへんで、葉月さん♪
「おおきに。
……あー、意外にぬくいなぁ。エエなぁ、たき火って」
ホンマ、あったかいなぁ。
「そろそろスープもできるので……しばしご歓談を」
「結婚式か!? ってスープ?」
おいコラ、“鍛冶が嬶”! “弥三郎婆”! ……いや、狼男ジャポニカン!
今、何て言うたッ!?
「ええ、私は<料理人>なので。ちなみに初日には気付いてましたよ。
おかげでこいつらときたら、うまい飯を食わせろと毎日毎日。調味料がないんで燃えますけどね。
……今アキバでは<料理人>への転職フィーバーですよ」
はー、そーでっかー。
昨日の情報収集では、其処まで拾いきれんかったしなぁ。
<円卓会議>と<Plant hwyaden>の事ばっかり聞いてたからなぁ。
と、言う事は。
こっちも料理が出来るって情報は、解禁してもオッケーって事か。
アキバに行っても、素人料理を喰わんでも済むって事か。
「……<料理人>やってる、ホンマもんの<調理師>が、自分の手で調理したんもあるんやろなぁ」
「あ、うちにもいますよ。だから私がこうやって離れられるんですよ。
それだけじゃなく、<調剤師>が自分の手で作れば、<黒色火薬>が創れますよ」
……今、物騒な事を口にしよったんは、ワシの聞き違いとは違うよな?
口調が弾んでいたんも、気のせいと違うよな?
え? 暢気に御玉で鍋を掻き回してる、人を食った狼さんよ?
「……仕込んだのは誰やか知っとるん、自分?」
今、鍋でコトコト言わしとる、エエ香りの鳥出汁の事を訊いたんと、違うで?
「シロエくんですよ。おかげでこちらの考えていた『商売』も少し修正しなくちゃなりませんでしたし」
何や? 溜息ついてからに。何ぞ不服な事でもあったんか?
カナミのお嬢さんの秘蔵っ子に、含む事でもあるんか?
メッチャ訊きたい処やけど、そろそろ反撃をさせてもらわんとな?
ボチボチとネタを弄ったらんと、ねぇ?
「……ふぅん? ま、エエわ」
ワシは、ユストゥス君からエルフのお嬢さんの方へ、嫌そうに顔をこっちから背けて逃れようとしてる、もう一人の方へと徐に目線を向けたった。
「で、そちらのきれいどころ……エルフがイアハートさんで、ハーフアルヴが葉月さんやね?」
或未品様が投稿なされましてから、ほぼ一ヶ月遅れとなりました。
全ては私の怠慢と懊悩と、太陽が真東から昇り真西に沈んだ所為にて(苦笑)。
しかし、素晴らしき御話を或未品様が先に紡いで下さっていた御蔭で、文章を書くのが楽で楽で♪
そうか! 郭公が托卵するのって、こんな気持ちなのか!?
いや、違うやろ!!