第参歩・大災害+47Days 其の弐
長くなりましたので、<+47Days>の序破急の序は分割致しました。本文は、序の後段にて。
ちょいと大物ゲストを出してみました。
第二期OPでは、やたらとインパクトが強く印象的ですが、まだ本放送には登場致しておりません。
……どんな声しているのか、今からとても楽しみにて♪
陽が暮れて泥む頃を、逢う魔が時と言い、大禍時とも書く。
概ね、その刻限に。
レオ丸は積み上げた“漂泊を続ける者”の遺品の前にて、口を真一文字に結んでいた。
やおら左の袖を捲くり上げ、グルグルと巻きつけた<火蜥蜴の如意念珠>と<風乙女の如意念珠>を手から外し、両手で挟むように握り込む。
「天蓬天蓬急急如律令 勅勅勅! サラマンダー召喚!」
レオ丸の呼び声に応じて、地面に朱色に近い紅い炎が一つ生まれた。
亀のような甲羅を背負った特異な姿の、爬虫類的な外見の精霊種。
炎を纏ったままの<火蜥蜴>は、レオ丸の指差す方へ眠そうな目を向けると、ノソノソと歩き出した。
フンとばかりに鼻息を出すと、サラマンダーは身に纏う炎の色を一際鮮やかにする。
山のように積み上げた“漂泊を続ける者”の遺品に、火が点された。
「天蓬天蓬急急如律令 勅勅勅! シルフ召喚!」
虚空の一部が渦を巻き、一体の風乙女を吐き出す。
背に鳥の翼を四枚も生やした、羽衣姿の半透明の少女が、召喚された喜びを表わすように軽やかに宙を舞った。
レオ丸が指だけで指示を出すと、シルフはクルクルと宙で踊りながらサラマンダーの頭上へと至り、空気に大きなうねりを与える。
点された火が、徐々に勢いを増して炎へと変化した。
積み上げられた“漂泊を続ける者”の遺品が、更に大きく、更に激しい紅蓮のうねりに包まれる、。
赤々と燃え上がる炎に照らされながら、レオ丸は懐に手を入れ、ゆっくりと三枚の木札を取り出した。
レオ丸は、何も敷かれていない地の上へ、背筋を伸ばし直に正座する。
そして静かに瞑目すると、間を開けずに口を開いた。
「“願我身淨如香炉”
“願我心如智慧火”
“念念焚焼戒定香”
“供養十方三世仏”」
以前の現実世界では毎日唱えていた、その経文。
凡そ一ヶ月半振りに唱える文言の意味を、改めて心に刻みながら。
一言一句を、確かめるような気持ちで。
レオ丸は、<香偈>から始まる日常勤行の一連の偈文を、穏やかな音調で次々に澱む事なく唱えた。
「願以上来所修功徳一会弔う処の精霊、俗名カレッジ=ベリー之精霊、抜苦与楽追善増進菩提」
「願以上来所修功徳一会弔う処の精霊、俗名ヴァンサン=ビアン之精霊、抜苦与楽追善増進菩提」
「願以上来所修功徳一会弔う処の精霊、“漂泊を続ける者”之一切諸精霊抜苦与楽超生浄土」
陽が完全に没し、夜の帳が訪れた。
月が煌々と輝き満天の星が瞬き出しても、燃え盛る炎を前に座したままのレオ丸は、供養の念仏を朗々と唱え続ける。
不意に。
大きな羽音が、宿地の傍でたてられる。
羽ばたきが起こした風圧が、レオ丸の衣装袖を大きく煽り、派手に炎に火の粉を天高く巻き上げさせた。
一拍の間を置き。
小さいながらも刺々しい、短い間隔で刻まれる足音がした。
まるで地面に、怨みでも捻じ込むように、ザクザクと。
<鷲獅子>の、尾を引くようなか細い鳴き声が、宿地に響き渡る。
「偽善ですか?」
ささくれ立った足音の主が、レオ丸の隣で立ち止まるや否や、忌々しそうな口調をレオ丸に叩きつけた。
「それとも、罪悪感から逃れたいがための、自己満足的な禊ぎプレイですか?」
レオ丸は称名念仏を止めると、三枚の木札を大事そうに懐に仕舞う。
「さて、どっちやろね?」
懐から抜き出された手には、<彩雲の煙管>が握られている。
それを口に咥え、レオ丸は綺羅星の輝く空へと、五色の煙を噴き上げた。
「ワシが犯した罪過への、所謂一つの自分弾劾裁判が出した判決は、厳刑として適用される“無期刑”やわ。
勿論、一切の減刑はナシでな。
自分自身からは、救われる事も、許される事も、絶対に求めてはアカン、そんな感じの刑罰やなぁ。
せやから、自分が言うた言葉は、どっちも間違いや。
ワシは単に、死せる魂の安らかなる事を願って供養してるだけで、ワシの救済までは御願いしてへんし、謝罪を請うてる訳でもない。
<冒険者>の自分の事は横に置いといて、<僧侶>の自分として今出来る事を、多少なりともしとるだけやがな。
了解してもらえたかな……インティクスさんや?」
ミナミの街を黒い影で覆おうとしている、<Plant hwyaden>のナンバー2にして実質的な最高実力者であるエルフの冒険者は、ドロリとした溜息をつく。
「大した言い訳ではありませんね、御坊様。実に下らない、言葉遊びです」
「言葉遊び、の何処が悪いんか、ワシには判らへんけどな?」
「悪い、とは言ってません。……下らない、と言ったんです」
「ほほぅ、なるほど。……ほんで、態々と嫌味を言いに来てくれたん?
そいつはご苦労さんなこって、お疲れさんやったな。おおきに、おおきに。
……ほんで? ホンマの処、こんなトコまで何しに来たんや?
自分で、自分の首を絞めるのに辟易して、息抜きでもしに来たんか?」
「生臭い御坊様を、嫌々ながらスカウトに来ました、と言ったら?」
「へぇ~~~。球団オーナー自らが、トライアウトに足を運んでくれたってか。
さぞや、契約金を弾んでくれるんやろね?」
「生臭いだけでなく、臆面もない欲惚けなんですね、御坊様は。
それで、幾ら欲しいんです、意地汚い葬式坊主様は?」
「……例え、800兆万円分の金貨を詰まれたって、誰が入団なんぞしたるかい。
ワシは既に、自由と契約しとんねん。
三行半やったら、喜んで署名捺印したるけどな。
どうしても誘いたいんなら、後二回、出直して来んかい」
「馬鹿馬鹿しい。貴方の何処に、三顧の価値があるというんです?
遠路遥々、こんな辺境まで態々来てやったのに、手間ばかりかけさせて。
どいつもこいつも、全く腹の立つ……」
「ざぁんねぇぇん、でした。べ~ろべ~ろば~~~、ってな。
誰が喜んで、自分の便利な手駒になったるかいな、阿呆くさい。
眉間に皺を刻んどらんと、もっと建設的な実のある話でも、したらどないや?」
「一昨日に」
レオ丸のヘラヘラした物言いを、インティクスの言葉が斬り飛ばした。
「濡羽が、ミナミの衛士機構を掌握しました。……街の防衛機能は、我々<Plant hwyaden>の支配下に置きました」
「へぇ?」
「此れで、街に害をなす害虫共は我々の任意により、一切合切纏めて駆除する事が出来るようになりました」
「……何をどないしてそうなったかは知らんけど、ようも欲張って頑張ったねぇ。
エライ大層な事を仕出かしましたな。
“よくやらかしました”シールでも作ってプレゼントしたろか?
濡羽さんと、彼女を焚きつけて動かしとる自分に?」
「私の、与り知らぬ事、です」
「そらまぁ、味方やない相手に大事な大事な秘匿情報を、ベラベラしゃべったりはせぇへんやろうな。
お互いの利益を最大限に尊重し実現する、……ような間柄でもないし、尋問してまで聞き出さなアカン事でもないしなぁ。
“与り知らぬ事”を、教えて頂戴って言う方が、間違いやったかな?」
「アキバでは、“円卓会議”とか言う名の互助会が出来たそうです」
「らしい、な」
「……ふん、馬鹿馬鹿しい。誰がトリスタンでパーシヴァルかガウェインなのかは知りませんが、不義の子一人に崩壊させられるような惰弱な名を名乗るとは、全く馬鹿馬鹿しい。子供会並みの組織ですわ」
「子供会並み……なぁ。せめて、生徒会くらいには言うたりや。
彼らかって、必死のパッチで秩序を作り上げようとしとるんやから。
円卓に対して偉そうな事言うとるけど、<Plant hwyaden>はどないやねんな?
御飯事の延長線上に、あるんと違うんかい?
或いは、御姫様ごっこ、みたいな御遊戯未満か?
ファンタジーな世界でアイデンティティーを護るために、自分のファンタジーを具現化させようと、自分勝手なフェアリー・テイルを紡いでいるんやろ?」
「…………」
「まぁ、言い過ぎてたら御免やで? ワシの御口はファジーなんでな。
さてさて、と。
各地のプレイヤータウンを、ワシらはホームタウンと言うたりするやん。
ホームタウン、言い換えたら“御家”やわな。
円卓は、アキバを“皆の御家”にしようと努力しとる。
自分らは、或いは濡羽さんは、ミナミを“自分だけの御家”にしようとした。
彼らと自分らの違いって、それだけやろ?」
「物の見方は……人それぞれですから」
「ほな、全面的に正解やないけど、完全に間違いでもないって事か?
人間ってのは、ある意味では独占欲で出来とるわな。
アレも欲しいコレも欲しい、ってな。
ソレが人類社会発展の原動力になっとる。
だからこそ、人の世に争いは絶えへん。
……あんまり欲張り過ぎたら、無用の争いを起す素やで、インティクスさんよ」
「それの…………何がいけないんですか!?」
「はい?」
突然、それまで作り物めいた微笑を浮かべていたインティクスが、散切りに近い紫色のショートヘアを振り乱した。
頭を大きく揺らし、昏い声で毒素の塊のような暗澹とした想いを吐き出す、<エルダー・メイド>のサブ職を持つ冒険者。
「どうして、私が求める人は、私を置いて行くんですかッ!?
カナミは、どうして、私だけを視てくれなかったんですかッ!?
どうして今此処に、一緒に居てくれないんですかッ!?」
「愛別離苦も求不得苦も、全部丸っと世の常やろうが、そんなもん」
レオ丸は、自分の半分ほどしか生きていない年若の女性の慟哭を、軽く往なす。
「他人は他人なり、我は我なり、や。
相手が自分の想う通りの事をしてくれる、言ってくれるやなんて、そんな都合のエエ事は偶にはあっても、常にあるはずないやんか」
「貴方も貴方、です。……どうして、仲間を、御家を捨てたんですか!?
カナミと同じように、仲間を集めてお祭り騒ぎをして、それを惜し気もなく捨てて、バイバイの一言だけを残して、あっさりと立ち去るだなんて!!
……どうして平気な顔をして、居られるんですかッ!?」
バチっと一際大きな火柱と火の粉が起き、夜気を僅かに焦がした。
「ワシは皆に、最初に宣言したで。“此処を出る”ってな。
こんな面白い世界、グズグズと一箇所に留まって居たら、勿体ないやんか?
せやから、ミナミを後にした。
後にしてもエエだけの、理由があったからや。
ナカルナードの阿呆も、元<ハウリング>のヤッハーブ君ら四人も、生真面目過ぎるカズ彦君も、個人的に重要な目的を胸に秘めてたミスハさんも、檸檬亭邪Q君もイントロン君も、それぞれがミナミを後に出来ひんだけの、理由を抱えてた。
だから、進む道が大きく隔たってしもうた。
只、それだけの事やん?」
「残された者の心を、踏み躙ってでも出て行く理由だった、と?」
「ほな、出て行きたいと願うた者は、心も夢も押し殺して、社会的立場に起因する都合を無碍にして、全てを断念せなアカンのかいな?
阿呆言いな。
カナミのお嬢さんにはカナミのお嬢さんの、ワシにはワシの、意思と都合とその他諸々で生きとるんや。
誰かに操られて、インプットされた指示に従って生きとるんと、違うで。
…………ああ、そうか。……それで彼女と行動を共にしとるんか……」
「濡羽には、“理想的な存在”になってもらいます。
クズで、下衆で、ドス汚れた、ドブネズミみたいな女ですが。
私の戦いのためには、必要な駒ですので。
例えボロボロになろうとも、潰れるまで使い尽くします」
段々と勢いを失くしてきた火柱を見詰める、インティクスの美貌が醜く歪んだ。
細身の尖った眼鏡の奥で、妖しげな炎のようなモノが、微かに揺らめく。
「酷い死刑宣告もあったもんやな、宣告される当人が居らへんってのに。
新手の我が闘争宣言か、それは?」
「いいえ、……宣戦布告です」
「宣戦……布告……?」
「そうです、御坊様。私は濡羽を使って、ミナミを手に入れ、何れその内にヤマト全体を支配するつもりです。
ヤマト全体の、全ての<冒険者>を手に入れたら、この<エルダー・テイル>を相手に戦争を仕掛けます。
復讐、という名の、戦争です。
誰がどれだけ死のうが、私が大神殿送りになろうが、それは些細な事。
セルデシアが、<エルダー・テイル>が、<大災害>が血反吐を吐いて断末魔を上げて絶命するまで、徹底的に戦って争い続けます」
パチン、と小さく火の粉が爆ぜた。
「貴様一体、何様のつもりや?」
炎に暖められていたレオ丸の体から、極寒の冷気のような言葉が発せられる。
「たかが速成栽培の分際で、何をぬかしやがる。
戯言をほざくな、オムツも取れとらん、ガキんちょが。
チンピラみたいに粋がりやがって。
甘えた事を、吠え盛るんやないわ、ボケェッ!!」
レオ丸は、<彩雲の煙管>を懐に仕舞いながら、ゆらりと立ち上がった。
最小限の動きで、メイド服姿の冒険者の前に体を移し、眉を逆立て睨み上げる。
「何が戦争や、巫山戯んなッ!!
ワシも自分も、戦争を知らんと育った世代って事では、全く一緒やけどな。
せやけど、自分らとワシらとでは全然違うんじゃッ!!
大東亜戦争を体験した世代を親に持ち、ベトナム戦争世代の教師に習い、受験戦争を体験し、湾岸戦争をテレビで観て、PKOに一憂も二憂もしてきたワシらより、戦争の事をなーんも知らんと温々育ってきた癖に。
どの面さげて偉そうに、戦争を語っとるんじゃッ!!
こちとらな、例え作りもんでもな、自分らが観て来た温い作品とは違う、シビアで厳しい作品ばっか観て来た世代やわ。
そんなワシらの、足元にすら及ばん盆暗が。
“戦争”なんて単語を、軽々しく使うんやないわッ!!」
僅かに揺れ動く炎を背に、凍てついた表情で吼えるレオ丸。
気圧されたインティクスが、踏鞴を踏みながら二、三歩後ずさった。
「此の世は、どないやっても儘ならん。
自分の都合が、夢が、希望が、理想が、現実の前では簡単に灰燼に帰す。
当たり前や、それが現実や。
エエ加減、それに気づかんかい。
アンポンタンも大概にせぇ。
ど厚かましい事ばっかり、キャンキャンと喧しい。
何が、“復讐、という名の、戦争です”や、下らん事を。
恥かしげもなく、しょうもない、愚にもつかん事を言い腐りやがって。
臆面もない下衆は、そっちの方じゃ、アホンダラがッ!!!」
レオ丸が、手にしたままだった二種類の数珠を左手に巻き直してから、大きく一つ手を打つ。
パーーーン! という硬い音が鳴り響くや、レオ丸の背後の炎が大きく燃え盛り、一際高く踊り上がった後で、虚空へと消えた。
シルフが宙に溶け込んで霧散し、サラマンダーが地へと姿を消す。
唐突に火明かりを失った宿地は、月と満天の星に照らされていながら、真っ暗な闇に覆い尽くされた。
瞬間的に視界を奪われたインティクスの耳に、レオ丸の声が忍び寄る。
「ワシは宣言する。お前は、ワシの敵や。ワシはお前の、敵や。
ナカルナードも、ゼルデュスも、ジェレド=ガンも、ミズファ=トゥルーデも、イントロン達も。
お前の指示で動いている限りは、全員がワシの敵や。
ワシが此の手で殺した、無理からなパワーレベリングで世界を変えようとした、ヴァンサン=ビアンと同じく絶対に許されへん、敵や。
ワシは、此の世界に居る限り、此の世界を護る。
何でか?
こないに面白いビックリ箱は、他にないからや。
こないに楽しい大百科は、生まれて初めて遭遇したからや。
此れは全くもって、ワシの勝手な都合や。
お前が、自分勝手な都合を此の世界に圧しつけるんなら、例え蟷螂の斧と言われても、それに徹底抗戦したるさかいな。
悪あがきやと思うなよ。
おっさんの戯言やと、舐めんなよ。
粗悪品のヒューズひとつで、世界に比類なきほどの巨大な存在でさえも、瞬きしとる間に聳え立つ地獄へと変化させる事が出来るんやからな。
大言壮語を吐いたんや。
その厚顔無恥な面に免じて、しばらくはお手並み拝見と、しといたろう。
ワシが手を出すんは、お前が此の世界の、真の敵やと判断してからや。
お前のやらかそうとしとる事が、真の敵と判断するに値したら、ワシはお前に死刑宣告を熨斗紙つけて、綺麗にラッピングして進呈したるわ。
此の手を、お前の血で、真っ赤っかに染めさせてもらおうやないか。
ほんで。
お前の想いも希望も全て、灰すら残さず焼き尽くしたろうやないか。
それまでは案じよう、精進しとけや。
怨憎会苦も、此の世の常やさかいな。けけけけけ…………」
インティクスの視界が回復した時、目の前には誰も居らず、僅かに消し炭が残されているだけである。
鈍い音を立てて燻るそれは、遙かな天上世界へと一筋の白い煙を立ち昇らせていた。
「主殿」
「何や、アマミYさん?」
「……御伽噺に出て来る、小物くさい魔王みたいでありんした。
どっちが正真の悪者なんだか、判らぬくらいでありんす」
「……やっぱりかぁ。ワシもそんな感じがしてたんや、話しとる途中でな。
せやけど、ついな……」
「つい……何でありんす?」
「自分に、酔ってしもうたんや」
「……それは、実に嘆きの霧が如き、悪酔いでありんすね」
「処でアマミYさん……」
「何でありんすか、主殿?」
「別な理由で酔ってしもうた。……嘔吐リバースしそうや……。
やっぱ、飛行の逃避行は……うぇッぷ!!」
「待つでありんす、主殿!!」
何処かの魚河岸の片隅に投げ捨てられた雑魚のように、地に横臥しグッタリとしている契約主を見下ろして、アマミYは心の底から残念そうに首を振る。
「ほんに、至極駄目駄目な、主殿でありんすねぇ」
だが、その声だけは何処か嬉しそうで、愉しげであった。
「如何致せば良いでありんしょう?
此のままには、して於けぬでありんすね。
さりとて、わっちには回復魔法なんぞ使えぬでありんす」
四肢をだらんとさせたまま、微動だにしないレオ丸。
それを見遣るアマミYの視線が、レオ丸の首筋に吸い寄せられる。
「主殿を早く回復させるには一度、気絶させた方が良いかもしれぬでありんすね?
…………決して、空腹だからとか、御腹が空いただとかという、浅ましい気持ちからではないでありんすよ!」
誰に対してなのか、本人ですら判らぬ言い訳を発した口が大きく開かれ、鋭い牙が瞬く間に伸ばされた。
「では、御免なんす、主殿。……遠慮なく、頂戴するでありんす♪」
アマミYの凶悪な牙が、首筋へと深く突き刺さった瞬間、レオ丸の朦朧とした意識が明確になる。
「Nooooooo!」
野太い悲鳴を上げながら、再び意識が混濁としてしまう、レオ丸。
だが。
静寂たる闇へと沈む寸前のレオ丸の意識を、何処からか発せられた不穏な言葉が甚だしく刺激した。
<死霊術師>、という言葉が。
「誰が、ネクロマンサーやねん……ろっくんろーるしょー……」
レオ丸は、死力を根こそぎ掻き集めて振り絞り、何処かの誰かに反論を試みた。
ツッコミに対する、ツッコミ返しとも言うべきそれは、レオ丸に残されていた僅かな意識を全て掻っ攫ってしまう。
1980年代に放映された、良くも悪くも画期的過ぎた、関西ローカル主体のロックな番組のタイトル。
其のメジャーでマイナーな、今はなき番組名をネタ元にしたレオ丸の暫定的な末期の台詞は、精霊山近郊の深い山間に複数の疑問符を生じさせてから、虚空の遙か彼方へと吸い込まれ、儚く消えた。
さぁ、漸く。
或未品様の御作、『続・取扱説明書 製品名:ユストゥス・ブラウファル【危険物指定】』の、『〈幕間・西の英知?〉その1』に繋がりましたよ!
さて、皆さん。
誰よりも私が一番に待ち望んでおりました、愉しい楽しい、コラボの時間ですよ!!