表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/138

第参歩・大災害+47Days 其の弐

 長くなりましたので、<+47Days>の序破急の序は分割致しました。本文は、序の後段にて。

 ちょいと大物ゲストを出してみました。

 第二期OPでは、やたらとインパクトが強く印象的ですが、まだ本放送には登場致しておりません。

 ……どんな声しているのか、今からとても楽しみにて♪

 陽が暮れて泥む頃を、逢う魔が時と言い、大禍時とも書く。

 概ね、その刻限に。

 レオ丸は積み上げた“漂泊を続ける者(イェニシェ)”の遺品の前にて、口を真一文字に結んでいた。

 やおら左の袖を捲くり上げ、グルグルと巻きつけた<火蜥蜴の如意念珠>と<風乙女の如意念珠>を手から外し、両手で挟むように握り込む。


「天蓬天蓬急急如律令 勅勅勅! サラマンダー召喚!」


 レオ丸の呼び声に応じて、地面に朱色に近い紅い炎が一つ生まれた。

 亀のような甲羅を背負った特異な姿の、爬虫類的な外見の精霊種。

 炎を纏ったままの<火蜥蜴(サラマンダー)>は、レオ丸の指差す方へ眠そうな目を向けると、ノソノソと歩き出した。

 フンとばかりに鼻息を出すと、サラマンダーは身に纏う炎の色を一際鮮やかにする。

 山のように積み上げた“漂泊を続ける者(イェニシェ)”の遺品に、火が点された。


「天蓬天蓬急急如律令 勅勅勅! シルフ召喚!」


 虚空の一部が渦を巻き、一体の風乙女を吐き出す。

 背に鳥の翼を四枚も生やした、羽衣姿の半透明の少女が、召喚された喜びを表わすように軽やかに宙を舞った。

 レオ丸が指だけで指示を出すと、シルフはクルクルと宙で踊りながらサラマンダーの頭上へと至り、空気に大きなうねりを与える。

 点された火が、徐々に勢いを増して炎へと変化した。

 積み上げられた“漂泊を続ける者(イェニシェ)”の遺品が、更に大きく、更に激しい紅蓮のうねりに包まれる、。

 赤々と燃え上がる炎に照らされながら、レオ丸は懐に手を入れ、ゆっくりと三枚の木札を取り出した。

 レオ丸は、何も敷かれていない地の上へ、背筋を伸ばし直に正座する。

 そして静かに瞑目すると、間を開けずに口を開いた。


“願我身淨如香炉(がんがしんじょうにょこうろ)

 “願我心如智慧火(がんがしんにょちえか)

 “念念焚焼戒定香(ねんねんぼんじょうかいじょうこう)

 “供養十方三世仏(くようじっぽうさんぜぶ)”」


 以前の現実世界では毎日唱えていた、その経文。

 凡そ一ヶ月半振りに唱える文言の意味を、改めて心に刻みながら。

 一言一句を、確かめるような気持ちで。

 レオ丸は、<香偈>から始まる日常勤行の一連の偈文を、穏やかな音調で次々に澱む事なく唱えた。


「願以上来所修功徳一会弔う処の精霊、俗名カレッジ=ベリー之精霊、抜苦与楽追善増進菩提」

「願以上来所修功徳一会弔う処の精霊、俗名ヴァンサン=ビアン之精霊、抜苦与楽追善増進菩提」

「願以上来所修功徳一会弔う処の精霊、“漂泊を続ける者(イェニシェ)”之一切諸精霊抜苦与楽超生浄土」


 陽が完全に没し、夜の帳が訪れた。

 月が煌々と輝き満天の星が瞬き出しても、燃え盛る炎を前に座したままのレオ丸は、供養の念仏を朗々と唱え続ける。



 不意に。

 大きな羽音が、宿地の傍でたてられる。

 羽ばたきが起こした風圧が、レオ丸の衣装袖を大きく煽り、派手に炎に火の粉を天高く巻き上げさせた。

 一拍の間を置き。

 小さいながらも刺々しい、短い間隔で刻まれる足音がした。

 まるで地面に、怨みでも捻じ込むように、ザクザクと。

 <鷲獅子(グリフォン)>の、尾を引くようなか細い鳴き声が、宿地に響き渡る。


「偽善ですか?」


 ささくれ立った足音の主が、レオ丸の隣で立ち止まるや否や、忌々しそうな口調をレオ丸に叩きつけた。


「それとも、罪悪感から逃れたいがための、自己満足的な禊ぎプレイですか?」


 レオ丸は称名念仏を止めると、三枚の木札を大事そうに懐に仕舞う。


「さて、どっちやろね?」


 懐から抜き出された手には、<彩雲の煙管>が握られている。

 それを口に咥え、レオ丸は綺羅星の輝く空へと、五色の煙を噴き上げた。


「ワシが犯した罪過への、所謂一つの自分弾劾裁判が出した判決は、厳刑として適用される“無期刑”やわ。

 勿論、一切の減刑はナシでな。

 自分自身からは、救われる事も、許される事も、絶対に求めてはアカン、そんな感じの刑罰やなぁ。

 せやから、自分が言うた言葉は、どっちも間違いや。

 ワシは単に、死せる魂の安らかなる事を願って供養してるだけで、ワシの救済までは御願いしてへんし、謝罪を請うてる訳でもない。

 <冒険者>の自分の事は横に置いといて、<僧侶>の自分として今出来る事を、多少なりともしとるだけやがな。

 了解してもらえたかな……インティクスさんや?」


 ミナミの街を黒い影で覆おうとしている、<Plant hwyaden>のナンバー2にして実質的な最高実力者であるエルフの冒険者は、ドロリとした溜息をつく。


「大した言い訳ではありませんね、御坊様。実に下らない、言葉遊びです」

「言葉遊び、の何処が悪いんか、ワシには判らへんけどな?」

「悪い、とは言ってません。……下らない、と言ったんです」

「ほほぅ、なるほど。……ほんで、態々と嫌味を言いに来てくれたん?

 そいつはご苦労さんなこって、お疲れさんやったな。おおきに、おおきに。

 ……ほんで? ホンマの処、こんなトコまで何しに来たんや?

 自分で、自分の首を絞めるのに辟易して、息抜きでもしに来たんか?」

「生臭い御坊様を、嫌々ながらスカウトに来ました、と言ったら?」

「へぇ~~~。球団オーナー自らが、トライアウトに足を運んでくれたってか。

 さぞや、契約金を弾んでくれるんやろね?」

「生臭いだけでなく、臆面もない欲惚けなんですね、御坊様は。

 それで、幾ら欲しいんです、意地汚い葬式坊主様は?」

「……例え、800兆万円分の金貨を詰まれたって、誰が入団なんぞしたるかい。

 ワシは既に、自由と契約しとんねん。

 三行半やったら、喜んで署名捺印したるけどな。

 どうしても誘いたいんなら、後二回、出直して来んかい」

「馬鹿馬鹿しい。貴方の何処に、三顧の価値があるというんです?

 遠路遥々、こんな辺境まで態々来てやったのに、手間ばかりかけさせて。

 どいつもこいつも、全く腹の立つ……」

「ざぁんねぇぇん、でした。べ~ろべ~ろば~~~、ってな。

 誰が喜んで、自分の便利な手駒になったるかいな、阿呆くさい。

 眉間に皺を刻んどらんと、もっと建設的な実のある話でも、したらどないや?」

「一昨日に」


 レオ丸のヘラヘラした物言いを、インティクスの言葉が斬り飛ばした。


「濡羽が、ミナミの衛士機構を掌握しました。……街の防衛機能は、我々<Plant hwyaden>の支配下に置きました」

「へぇ?」

「此れで、街に害をなす害虫共は我々の任意により、一切合切纏めて駆除する事が出来るようになりました」

「……何をどないしてそうなったかは知らんけど、ようも欲張って頑張ったねぇ。

 エライ大層な事を仕出かしましたな。

 “よくやらかしました”シールでも作ってプレゼントしたろか?

 濡羽さんと、彼女を焚きつけて動かしとる自分に?」

「私の、与り知らぬ事、です」

「そらまぁ、味方やない相手に大事な大事な秘匿情報を、ベラベラしゃべったりはせぇへんやろうな。

 お互いの利益を最大限に尊重し実現する、……ような間柄でもないし、尋問してまで聞き出さなアカン事でもないしなぁ。

 “与り知らぬ事”を、教えて頂戴って言う方が、間違いやったかな?」

「アキバでは、“円卓会議”とか言う名の互助会が出来たそうです」

「らしい、な」

「……ふん、馬鹿馬鹿しい。誰がトリスタンでパーシヴァルかガウェインなのかは知りませんが、不義の子(モルドレッド)一人に崩壊させられるような惰弱な名を名乗るとは、全く馬鹿馬鹿しい。子供会並みの組織ですわ」

「子供会並み……なぁ。せめて、生徒会くらいには言うたりや。

 彼らかって、必死のパッチで秩序を作り上げようとしとるんやから。

 円卓に対して偉そうな事言うとるけど、<Plant hwyaden>はどないやねんな?

 御飯事(おままごと)の延長線上に、あるんと違うんかい?

 或いは、御姫様ごっこ、みたいな御遊戯未満か?

 ファンタジーな世界でアイデンティティーを護るために、自分のファンタジーを具現化させようと、自分勝手なフェアリー・テイルを紡いでいるんやろ?」

「…………」

「まぁ、言い過ぎてたら御免やで? ワシの御口はファジーなんでな。

 さてさて、と。

 各地のプレイヤータウンを、ワシらはホームタウンと言うたりするやん。

 ホームタウン、言い換えたら“御家(おうち)”やわな。

 円卓は、アキバを“皆の御家”にしようと努力しとる。

 自分らは、或いは濡羽さんは、ミナミを“自分だけの御家”にしようとした。

 彼らと自分らの違いって、それだけやろ?」

「物の見方は……人それぞれですから」

「ほな、全面的に正解やないけど、完全に間違いでもないって事か?

 人間ってのは、ある意味では独占欲で出来とるわな。

 アレも欲しいコレも欲しい、ってな。

 ソレが人類社会発展の原動力になっとる。

 だからこそ、人の世に争いは絶えへん。

 ……あんまり欲張り過ぎたら、無用の争いを起す素やで、インティクスさんよ」

「それの…………何がいけないんですか!?」

「はい?」


 突然、それまで作り物めいた微笑を浮かべていたインティクスが、散切りに近い紫色のショートヘアを振り乱した。

 頭を大きく揺らし、昏い声で毒素の塊のような暗澹とした想いを吐き出す、<エルダー・メイド>のサブ職を持つ冒険者。


「どうして、私が求める人は、私を置いて行くんですかッ!?

 カナミは、どうして、私だけを視てくれなかったんですかッ!?

 どうして今此処に、一緒に居てくれないんですかッ!?」

「愛別離苦も求不得苦も、全部丸っと世の常やろうが、そんなもん」


 レオ丸は、自分の半分ほどしか生きていない年若の女性の慟哭を、軽く往なす。


「他人は他人なり、我は我なり、や。

 相手が自分の想う通りの事をしてくれる、言ってくれるやなんて、そんな都合のエエ事は偶にはあっても、常にあるはずないやんか」

「貴方も貴方、です。……どうして、仲間を、御家を捨てたんですか!?

 カナミと同じように、仲間を集めてお祭り騒ぎをして、それを惜し気もなく捨てて、バイバイの一言だけを残して、あっさりと立ち去るだなんて!!

 ……どうして平気な顔をして、居られるんですかッ!?」


 バチっと一際大きな火柱と火の粉が起き、夜気を僅かに焦がした。


「ワシは皆に、最初に宣言したで。“此処を出る”ってな。

 こんな面白い世界、グズグズと一箇所に留まって居たら、勿体ないやんか?

 せやから、ミナミを後にした。

 後にしてもエエだけの、理由があったからや。

 ナカルナードの阿呆も、元<ハウリング>のヤッハーブ君ら四人も、生真面目過ぎるカズ彦君も、個人的に重要な目的を胸に秘めてたミスハさんも、檸檬亭邪Q君もイントロン君も、それぞれがミナミを後に出来ひんだけの、理由を抱えてた。

 だから、進む道が大きく隔たってしもうた。

 只、それだけの事やん?」

「残された者の心を、踏み躙ってでも出て行く理由だった、と?」

「ほな、出て行きたいと願うた者は、心も夢も押し殺して、社会的立場に起因する都合を無碍にして、全てを断念せなアカンのかいな?

 阿呆言いな。

 カナミのお嬢さんにはカナミのお嬢さんの、ワシにはワシの、意思と都合とその他諸々で生きとるんや。

 誰かに操られて、インプットされた指示に従って生きとるんと、違うで。

 …………ああ、そうか。……それで彼女と行動を共にしとるんか……」

「濡羽には、“理想的な存在”になってもらいます。

 クズで、下衆で、ドス汚れた、ドブネズミみたいな女ですが。

 私の戦いのためには、必要な駒ですので。

 例えボロボロになろうとも、潰れるまで使い尽くします」


 段々と勢いを失くしてきた火柱を見詰める、インティクスの美貌が醜く歪んだ。

 細身の尖った眼鏡の奥で、妖しげな炎のようなモノが、微かに揺らめく。


「酷い死刑宣告もあったもんやな、宣告される当人が居らへんってのに。

 新手の我が闘争(マイン・カンプ)宣言か、それは?」

「いいえ、……宣戦布告です」

「宣戦……布告……?」

「そうです、御坊様。私は濡羽を使って、ミナミを手に入れ、何れその内にヤマト全体を支配するつもりです。

 ヤマト全体の、全ての<冒険者>を手に入れたら、この<エルダー・テイル>を相手に戦争を仕掛けます。

 復讐、という名の、戦争です。

 誰がどれだけ死のうが、私が大神殿送りになろうが、それは些細な事。

 セルデシアが、<エルダー・テイル>が、<大災害>が血反吐を吐いて断末魔を上げて絶命するまで、徹底的に戦って争い続けます」


 パチン、と小さく火の粉が爆ぜた。


「貴様一体、何様のつもりや?」


 炎に暖められていたレオ丸の体から、極寒の冷気のような言葉が発せられる。


「たかが速成栽培(ヘビーユーザー)の分際で、何をぬかしやがる。

 戯言をほざくな、オムツも取れとらん、ガキんちょ(ベビーユーザー)が。

 チンピラみたいに粋がりやがって。

 甘えた事を、吠え盛るんやないわ、ボケェッ!!」


 レオ丸は、<彩雲の煙管>を懐に仕舞いながら、ゆらりと立ち上がった。

 最小限の動きで、メイド服姿の冒険者の前に体を移し、眉を逆立て睨み上げる。


「何が戦争や、巫山戯んなッ!!

 ワシも自分も、戦争を知らんと育った世代って事では、全く一緒やけどな。

 せやけど、自分らとワシらとでは全然違うんじゃッ!!

 大東亜戦争を体験した世代を親に持ち、ベトナム戦争世代の教師に習い、受験戦争を体験し、湾岸戦争をテレビで観て、PKOに一憂も二憂もしてきたワシらより、戦争の事をなーんも知らんと温々(ぬくぬく)育ってきた癖に。

 どの面さげて偉そうに、戦争を語っとるんじゃッ!!

 こちとらな、例え作りもんでもな、自分らが観て来た温い作品とは違う、シビアで厳しい作品ばっか観て来た世代やわ。

 そんなワシらの、足元にすら及ばん盆暗が。

“戦争”なんて単語を、軽々しく使うんやないわッ!!」


 僅かに揺れ動く炎を背に、凍てついた表情で吼えるレオ丸。

 気圧されたインティクスが、踏鞴を踏みながら二、三歩後ずさった。


「此の世は、どないやっても儘ならん。

 自分の都合が、夢が、希望が、理想が、現実の前では簡単に灰燼に帰す。

 当たり前や、それが現実や。

 エエ加減、それに気づかんかい。

 アンポンタンも大概にせぇ。

 ど厚かましい事ばっかり、キャンキャンと喧しい。

 何が、“復讐、という名の、戦争です”や、下らん事を。

 恥かしげもなく、しょうもない、愚にもつかん事を言い腐りやがって。

 臆面もない下衆は、そっちの方じゃ、アホンダラがッ!!!」


 レオ丸が、手にしたままだった二種類の数珠を左手に巻き直してから、大きく一つ手を打つ。

 パーーーン! という硬い音が鳴り響くや、レオ丸の背後の炎が大きく燃え盛り、一際高く踊り上がった後で、虚空へと消えた。

 シルフが宙に溶け込んで霧散し、サラマンダーが地へと姿を消す。

 唐突に火明かりを失った宿地は、月と満天の星に照らされていながら、真っ暗な闇に覆い尽くされた。

 瞬間的に視界を奪われたインティクスの耳に、レオ丸の声が忍び寄る。


「ワシは宣言する。お前は、ワシの敵や。ワシはお前の、敵や。

 ナカルナードも、ゼルデュスも、ジェレド=ガンも、ミズファ=トゥルーデも、イントロン達も。

 お前の指示で動いている限りは、全員がワシの敵や。

 ワシが此の手で殺した、無理からなパワーレベリングで世界を変えようとした、ヴァンサン=ビアンと同じく絶対に許されへん、敵や。

 ワシは、此の世界に居る限り、此の世界を護る。

 何でか?

 こないに面白いビックリ箱は、他にないからや。

 こないに楽しい大百科は、生まれて初めて遭遇したからや。

 此れは全くもって、ワシの勝手な都合や。

 お前が、自分勝手な都合を此の世界に圧しつけるんなら、例え蟷螂の斧と言われても、それに徹底抗戦したるさかいな。

 悪あがきやと思うなよ。

 おっさん(ロートル)戯言(ざれごと)やと、舐めんなよ。

 粗悪品のヒューズひとつで、世界に比類なきほどの巨大な存在でさえも、瞬きしとる間に聳え立つ地獄(タワーリング・インフェルノ)へと変化させる事が出来るんやからな。

 大言壮語を吐いたんや。

 その厚顔無恥な(つら)に免じて、しばらくはお手並み拝見と、しといたろう。

 ワシが手を出すんは、お前が此の世界の、真の敵やと判断してからや。

 お前のやらかそうとしとる事が、真の敵と判断するに値したら、ワシはお前に死刑宣告を熨斗紙つけて、綺麗にラッピングして進呈したるわ。

 此の手を、お前の血で、真っ赤っかに染めさせてもらおうやないか。

 ほんで。

 お前の想いも希望も全て、灰すら残さず焼き尽くしたろうやないか。

 それまでは案じよう、精進しとけや。

 怨憎会苦も、此の世の常やさかいな。けけけけけ…………」



 インティクスの視界が回復した時、目の前には誰も居らず、僅かに消し炭が残されているだけである。

 鈍い音を立てて燻るそれは、遙かな天上世界へと一筋の白い煙を立ち昇らせていた。



「主殿」

「何や、アマミYさん?」

「……御伽噺に出て来る、小物くさい魔王みたいでありんした。

 どっちが正真の悪者なんだか、判らぬくらいでありんす」

「……やっぱりかぁ。ワシもそんな感じがしてたんや、話しとる途中でな。

 せやけど、ついな……」

「つい……何でありんす?」

「自分に、酔ってしもうたんや」

「……それは、実に嘆きの霧が如き、悪酔いでありんすね」

「処でアマミYさん……」

「何でありんすか、主殿?」

「別な理由で酔ってしもうた。……嘔吐リバースしそうや……。

 やっぱ、飛行の逃避行は……うぇッぷ!!」

「待つでありんす、主殿!!」



 何処かの魚河岸の片隅に投げ捨てられた雑魚のように、地に横臥しグッタリとしている契約主を見下ろして、アマミYは心の底から残念そうに首を振る。


「ほんに、至極駄目駄目な、主殿でありんすねぇ」


 だが、その声だけは何処か嬉しそうで、愉しげであった。


「如何致せば良いでありんしょう?

 此のままには、して於けぬでありんすね。

 さりとて、わっちには回復魔法なんぞ使えぬでありんす」


 四肢をだらんとさせたまま、微動だにしないレオ丸。

 それを見遣るアマミYの視線が、レオ丸の首筋に吸い寄せられる。


「主殿を早く回復させるには一度、気絶させた方が良いかもしれぬでありんすね?

 …………決して、空腹だからとか、御腹が空いただとかという、浅ましい気持ちからではないでありんすよ!」


 誰に対してなのか、本人ですら判らぬ言い訳を発した口が大きく開かれ、鋭い牙が瞬く間に伸ばされた。


「では、御免なんす、主殿。……遠慮なく、頂戴するでありんす♪」


 アマミYの凶悪な牙が、首筋へと深く突き刺さった瞬間、レオ丸の朦朧とした意識が明確になる。


「Nooooooo!」


 野太い悲鳴を上げながら、再び意識が混濁としてしまう、レオ丸。

 だが。

 静寂たる闇へと沈む寸前のレオ丸の意識を、何処からか発せられた不穏な言葉が甚だしく刺激した。

 <死霊術師(ネクロマンサー)>、という言葉が。


「誰が、ネクロマンサーやねん……ろっくんろーるしょー……」


 レオ丸は、死力を根こそぎ掻き集めて振り絞り、何処かの誰かに反論を試みた。

 ツッコミに対する、ツッコミ返しとも言うべきそれは、レオ丸に残されていた僅かな意識を全て掻っ攫ってしまう。

 1980年代に放映された、良くも悪くも画期的過ぎた、関西ローカル主体のロックな番組のタイトル。

 其のメジャーでマイナーな、今はなき番組名をネタ元にしたレオ丸の暫定的な末期の台詞は、精霊山近郊の深い山間に複数の疑問符を生じさせてから、虚空の遙か彼方へと吸い込まれ、儚く消えた。

 さぁ、漸く。

 或未品様の御作、『続・取扱説明書 製品名:ユストゥス・ブラウファル【危険物指定】』の、『〈幕間・西の英知?〉その1』に繋がりましたよ!

 さて、皆さん。

 誰よりも私が一番に待ち望んでおりました、愉しい楽しい、コラボの時間ですよ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ