第零歩・大災害+5Days 其の弐
加筆訂正致しました(2014.08.18)。
更に加筆修正致しました(2014.11.16)。
「どんな経緯でそうなったんかは、さっぱり判らんけどな。
ワシが現場に着いた時、刀を手にして突っ立っとる加害者と、血の海に倒れている被害者が、其処に居った。
加害者は、“お前が悪いんや、いきなり襲い掛かってきたお前の方が悪いんや”ってブツブツ言うとった。
……御遺体やったら現実で、嫌になるくらい見慣れているけど。
殺されたてホヤホヤの、死体を見たんは初めてやったわ。
そらもう、驚き桃の木やわ。
気がついたら、その場にヘタリ込んどった。
二日連続で腰を抜かす羽目になるとは、まさか思わんかった。
ああ、勿論。
ちょっとだけ、ちびらさせてもらいました。
そらそーやろ? 殺人事件の現場やで?
しかも、人殺しが眼の前に居んねんで?
平和な日本で、安閑と今まで安全を享受して来た一般人ピープルのワシに、一体何が出来るってゆーねん。
アワアワするくらいしか、出来ひんわ。
ほんなら、そいつ。
呆けているワシに、気づきよったんや。
血走った目で、“ボクは悪く無い”って言いながら刀をこっちに向けよった。
あ、殺られる! って思うたわ……」
懐から煙管を取り出し、一服するレオ丸。
「そやけど、全然ダメージが来ぇへんので何でやろと思うたら、偶々その時に連れてたメデューサが、ワシを守ってくれとってん。
<石化の魔眼>で、そいつ状態異常で行動不能になっとったんやな」
苦笑いした口元から、煙が漏れる。
その煙を、可愛らしい仕草でパタパタと散らす、アラクネー。
「ワシも殺されるんはゴメンやから、このミチコKを呼び出して<捕獲の網>で簀巻きにしたった。
ほんで、追加で呼び出したハーピーに高い処に運ばせてな、パラシュート無しでのフリーダイビングに挑戦してもろた。
三回目のトライで、ようやっとHPが尽きてくれよったわ」
「それが、昨日の辻斬りかいな」
「そや。まさか、ミナミの街中で、しかもギルド会館の真ん前で、自分の仇討ちを仕掛けよるとは、思わへんかったけどな?
プレイヤータウンで、殺意剥き出しに武器振り翳したら、速攻で<衛士>の制裁を喰らう事すら判らんくらい、錯乱しとるとはなぁ。
いやはや、吃驚のコンボ炸裂やわ。
改めて、アンディーツ君。昨日はホンマにお世話になりました、おおきに」
「いえいえ、どう致しまして」
「そんで、おっさんの<PK>自慢が、どないやっちゅうねん?」
「ド阿呆! 誰が<PK>自慢した!?」
レオ丸が力一杯に投擲した煙管は、ナカルナードの額へと綺麗にヒットした。
「……阿呆は放っといて、話し続けんで。
人殺しはどうにか処分したけど、精神的ダメージはデカかった。
抜けた腰が元に戻るまで、しばらくかかったわ。
気がついたら<大地人>の死体は消えとった。
一滴の血痕すら、残さずに。
<大地人>は死んだら消滅する、って設定やもんな、この世界。
後には踏み荒らされた草地と、薄汚れた衣服と簡単な旅支度の荷物だけが残されとるだけやった。
どうしたもんかと考えてんけど、拾うてパクるんもアレやし、其処に穴掘って埋めといた。
まぁ、お墓やな。」
振り返って、先ほどの盛り土を顎でしゃくるレオ丸。
「因みに、殺人現場は其処や」
向き直ったレオ丸が、ナカルナードのお尻の辺りを指差した。
車座が大きく乱れ、煙管を吹かす<召喚術師>とその従者モンスターを除く全員が、その場から飛び退った。
「埋める前に一応ざっと検分したけど、大したもんは所持してへんかったし、身形からしても多分此の辺の住人やなさそうやったわ。
……恐らく、流れモンやったんやろな。
かと言うても確信がある訳やなし、離れた所から暫く此処らを監視しててん。
もしかしたら被害者の知己が来るかもしれん、って思うてな。
ほんで、かなり長い間ジッとしててんけど、暇やんか。
暇潰しに、色々と考えてたんやけどな。
……なぁ、ナカルナード。
ちょいと質問するけど、ミナミの街に<冒険者>はどんくらい居るんかな?」
「知らん!」
煙管の痕が付いた額を摩りながら、ナカルナードが胸を張る。
慌てて、ヤッハーブが助け舟を出した。
「一万人くらいは、居るんとちゃいますか?」
「そんなもんやろな。誤差がプラマイ、二千人って処かな?
ほんなら、ウェストランデの支配圏内に居る<大地人>は、どんくらいや?
百万、二百万では済まんやろな、半分の広さや言うても本州の西側全部を占めるウェストランデやねんから、総人口は結構なもんになるやろなぁ?」
数え切れない程の墓標を淨玻璃眼鏡越しに見ながら、レオ丸は誰にともなく問いかけを発する。
勿論、その墓標の下に遺骸は存在しない。
レオ丸がしたように、個人を記憶する何かが、埋葬されているだけだろう。
だが其処には確かに、肉体の消滅した<大地人>の魂が眠っている。
レオ丸は、そう感じていた。
「もし、その<大地人>と<冒険者>との間の友好関係が壊れたら、どうなるやろか?
ギルド会館や銀行の運営、セントラル大路のバザールに並ぶ数多の商店、ちゃんと味のする生鮮食材の供給をしてくれる農家とか、全て<大地人>に賄ってもらっとる。
それに、<大地人>はワシら<冒険者>に、最も大切なモンを提供してくれる存在やんか。
クエスト、と言う大事なモン、を。
……現状の処、果たしてクエストが存在しとるかどうかは、さっぱりやが。
もし、今回の殺人事件が切欠として、友好関係が崩壊するような事があれば、それら全てが無くなってしまうんちゃうか?
そんな感じに結論着けたんやけど。
……ワシの取越し苦労やろか? 考え過ぎやろか?」
しわぶき一つ無く静まり返る、<冒険者>達。
ミチコKは、マイコニドと戯れる手を止め、そんな彼らを不思議そうに見つめた。
再び一迅の風が草の葉を揺らし、木板を差しただけの簡素な墓標群の間へと消えて行く。
やがて、腕組みを解いたカズ彦が、草むらに消えた煙管を探して這い蹲るレオ丸を見やった。
「そろそろ、本題を話してくれませんか?」
やっと見つけ出した煙管を咥えて、レオ丸はニヤリと笑った。
「その本題やねんけどな、どっちかってぇとワシからの、お願いやねん。
幸いな話、今ん処は<冒険者>と<大地人>の間に、決定的な破局は訪れてへんけど、細かい軋轢は数えきれんくらい発生しとる。
商店を襲ったり、難癖つけたりしとる<冒険者>が居るやん。
自分らの処みたいな大きいギルドは、仲間が沢山おる事が安心感に繋がっとるから、大丈夫やろう。
現時点で、愚連隊ごっこに明け暮れとる奴らは、不安感に押し潰されとる小さいギルドや、ソロプレイヤー達や。
そこでや。
自分らみたいなギルド大手に連帯してもろて、このロクでも無い状況を改善して欲しいねん」
「それは又、えらく他力本願なお願いですね」
冷笑を浮かべるイントロンに、レオ丸は少し真面目な顔をした。
「そや、まごう事なき、他力本願や。
自分で出来る精一杯の事は、頑張ってやる。そやけど、どないやっても出来ひん事はそれが出来る相手に頼む。本来の意味の他力本願や。
残念ながら、ワシはソロプレイヤーやしな。
大勢を動かす力など持ってへん、マイノリティーの一員でしかあらへん。
とんでもないカリスマ性でも持ってたら、別やけど?
そんな便利なモン、前世でも縁がないわ。
秩序があやふやな現状では、多数派工作による“数の暴力”に頼るしかない。
ナカルナードに、<ハウリング>に声掛けたんは、それが理由や。
辻斬り事件がなきゃ、改めてアポを取って頼みに行くつもりやったんや。
ほんで、どっか他の知り合いの、連絡を取り合う大所帯のギルデに声かけてもらおう、と思うててん。
幸い、ヤッハーブ君って素晴らしい補佐役がこっちの思惑を先取りしてくれた。
有難い事に、<狼士組><甲殻機動隊><グランドルミネ><トリアノン・シュヴァリエ>が来てくれた。
更に幾つかのギルドが共同歩調を取ってくれたら、ミナミ全体の一割を超える勢力になる。
一割やと少ない思うかもしれんが、目的を共有する一割は、烏合の衆の九割に勝る力を持っとる。
その力で、現在のミナミをちょっとだけ、マシにして欲しいんやわ。
誰の為でも無く、自分らの為に。
安心して<冒険者>が<冒険者>としていられるように。
言うならば、有志による、緊急避難的な災害対策連絡協議会の設立やな」
「それで、具体的にどうしろ、と?」
ミスハの強い眼差しを、レオ丸はゴーグル越しに受け止める。
「例えば、中小・弱小のギルドやソロプレイヤーの吸収合併や。
先ほど言うた、不安感を拭い去るために。
これから先の事を考えたら、各プレイヤーやギルドが纏まりなく分散行動するんは、能力の無駄遣いやと思う。
究極的には、ヤマトに居る全プレイヤーが纏まれば理想やけど、そんな夢物語までは望んでへん。
……ミナミですら、纏まるかどうか疑問やのに。
せやけど、出来るだけ力を集めな。
どないかして今のリアルから、元の現実へと戻れる方策を図らな。
いつかは現実に戻れるかもしれへんけど、それがいつになるんか?
ワシには、さっぱり判らん。
自分らかて判らんやろ?
そんで、もしそれが叶うた時に、ワシらが自滅してたらどうにもならん。
残念やが、今のまま何もせんかったら、ジリ貧やで。バッドエンド決定やわ。
そして全員不幸せになりました、めでたく無しめでたく無し。
ワシはそんな結末見たないし、全員でハッピーエンドを迎えたいやん!
ほんなら、皆で手分けして役割分担した方が、合理的でエエやん?
<冒険者>としてのレベルは低うても、役に立つ知識を持つプレイヤーかて居るやろうさ。
レベルの高いプレイヤーは、<冒険者>としての能力をフルに活かして、未熟なプレイヤーが出来ひんような無理難題、色んな事に挑戦して欲しい。
お互いがお互いを、助けてあげて助けてもらうんや。
何かする事があれば、少なくとも詰まらん<PK>や、大地人苛めは自然減少するやろしな。
但し、無理強いはアカン。絶対に、や!
<冒険者>はイコール、“自由人”や。
“自由人”は、自ら決断し自らその責任を取る事が出来る人、や。
強引な勧誘は、その自由に決断する権利を奪う事になりかねんから、御法度とした方がエエやろな。
それと後は、……布告をする事、やな」
「布告って、<大地人>に……ですかいな?」
腰から抜いた長い朱扇を弄ぶ邪Qに、レオ丸は微笑んだ。
「そや。<大地人>にお知らせする為に、ミナミにおる全ての<冒険者>に布告するんや。
例えば。
“<冒険者>は、<大地人>を大切な協力者として接すべし”
ってな感じのをバシーッと公布すんねん。
『廊下を走ってはいけません』とか、『痴漢は犯罪です』レベルの、書くまでも無い当たり前の事やねんけどな?
それでも……、やったらアカン事をやる奴は、必ず出て来よるやろなぁ」
「そん時は、俺達の仕事が一つ増えるって訳やな」
不敵に笑うナカルナードを、レオ丸は頼もしそうに見遣る。
「そういう訳や。嫌な役回りをしてもらう事になるのは心苦しいけど、お前にしか頼めん事やねん」
「気にすんなや。目障りな虫けらを潰すだけやし」
「おおきに、有難うな」
ナカルナードに深々と頭を下げると、レオ丸は肩の力を少しだけ抜いた。
「織田信長が布告した、<一銭斬り>ほど苛烈な事はせんでもエエけど、必要であれば一遍殺して大神殿送りにするべきなんやろな。
相手が<冒険者>であれ、<大地人>であれ、人が人を殺すんは此れ以上勘弁して欲しいってのが、正直な話やけど。
殺らなアカン時は、躊躇なく殺るしかないやろうなぁ。
楽しかったゲーム世界も、現実となったら何と血生臭い世界である事よ。
……もし仮に、現実世界の全てのゲーム機が“発臭機能付き”やったら、戦闘系のソフトは全滅するかもな?
さてまぁ、そんな事が起こらん事を願うて、誰にでも直ぐにやれそうな事を簡潔な文章で、布告するんや」
「それで、レオ丸さんは、何をされるんですか?
まさか、俺達に全て丸投げって訳じゃあ、ないですよね?」
「当たり前や! おっさんはこれからウチで、扱き使われるんやからな!」
「おっさん言うな! 強引な勧誘はアカンって、言うたばかりやろが。
それにな、カズ彦君。
ワシは別にギルドに属さんでも、ソロプレイヤーのままで出来る限りの事を精一杯するつもりや」
「へぇ、どんな事を?」
「……耳目に、なる事やな。あちこち動き回って、情報収集して来るわ。
仮にワシのお願いを引き受けてくれなんだとしても、自分らはしばらく身動きが取れへんやろ?
アキバや、他ん処に居る旧知と念話で情報収集出来たとしても、所詮は狭い範囲でしかないやん?
エエとこ、近況報告に終始するだけやろ?
責任ある立場としては、ギルドの仕切りが最優先やしな。
引き換え比べたら、ワシは身軽な無責任プレイヤーや。
ナカルナードやカズ彦君も知っての通り、知りたがりで考察好きで薀蓄垂れんのが生き甲斐や。
それにな。
伊達に長い間、ソロでの活動をしてへんで。
ワシかて、あっちこっちに昔馴染みの知己は居るし、自分らとは全く違う背景を保持しとるさかいな。
機械仕掛けから出てくる神が登場して、全てをチャラにするまでは、此の不思議世界を調べ尽くしたる!
それが、ワシに出来る、精一杯の事やわ」
年内の投稿はここまでに致しとうございまする。ストックが尽きました故に。
皆様、良い御年をお迎え下さりませ。
年明け三日には、『ログ・ホライズン』一挙放送を楽しみに致しませう♪