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第参歩・大災害+39Days 其の壱

 今回のお話は、『ある毒使いの死』の50.<正派邪派>および51.<対立の縮図>に触発されて書いてしまいました。

 そして、ユーリアス君に勝手に設定を付加してしまいました。

 いちぼ好きです様、誠に申し訳ありません。てへ?

 そして、投稿即訂正をしています。う~む、この負の連鎖からは、いつ卒業出来るのか? 答えは未解明です(苦笑)。

 更に色々と訂正致しました(2014.08.19)。

 更に加筆修正致しました(2015.03.31)。

 ロマトリスの黄金書府の城壁内部、“都心地区(チェントロ)”の中央部分に建つ六本の尖塔に取り囲まれた円形の構造物、“賢老院議堂”。

 議堂の内部には行政を司る各部局が設置されており、官僚達は屋内の通路を行き来するだけで、街の全てを管理監督している。

 街の行政府に付随する公共施設は、尖塔と尖塔の間に建てられていた。

 “陽炎文庫”の異名を持つヤンヌ伯爵家収蔵図書館は、学術を扱う黄華尖塔と魔術を扱う紫華尖塔の間に存在する。


 “華雅の北都”に入城した翌朝から、レオ丸は其処に入り浸っていた。

 初日は、開館と同時に飛び込み、滞在許可証を元に受付で発行して貰い、百万とも二百万とも言われる公開架図書全ての背表紙をチェックし、巻物を収めた箱蓋の説明全てを漏らさず点検する。

 閉館と共に、街外れへ移動。宿泊客の少ない宿を選び、二階の横並びの三室を借り切り、その真ん中の部屋で休息を取り、記憶した全ての書籍巻物のタイトルを脳内とメモ用羊皮紙で分類整理し、夜中に就寝した。

 次の日からは、興味をそそるタイトルの書籍を抜き出しては、サブ職<学者>のスキルの一つ、<千眼瞬読>で片っ端から読み漁る。

 眼に焼き付けられる文字や図画などの中で、此れはと思う情報は<学術鑑定>スキルを使い、詳細に記憶へと焼き付けた。

 陽炎文庫内に設けられている読書区画の、卓の右側に何十冊と積み上げては、瞬く間に読了し左側に積み上げるレオ丸。

 左側に積み上げられた書籍は、レオ丸の背後に控える<家事幽霊(シルキー)>のタエKが直ぐに、元の置き場所へと返却して行く。

 本の山が霧消するや、レオ丸はタエKと共に書架を巡り書籍を山と抱え、再び卓へと戻って来る。

 その美しい流れ作業は、翌日も翌々日も朝から夕方まで続いた。

 夕暮れを告げる街の鐘の音に追い立てられて、宿に戻れば夜中まで焼き付けた記憶を系統立てて分類し整理しながら、『私家版・怪物亜人大百科』『私家版・エルダー・テイルの歩き方』『私家版・そーなんか? -セルデシア不思議発見!?-』の三冊の無地のページへと書き込む。

 図書館に通い詰めて四日目の、今日の昼過ぎ。

 レオ丸は、初日に選抜した公開架図書の、読むべき物と決めた書籍の全てを読み尽くしてしまった。

 仕方なく休憩を兼ね、レオ丸は連れて図書館の中庭の庭園を散策し、奥まった場所の木陰にてタエKの膝を枕に、眼と脳を休める。

 ユーリアスから念話が掛かって来たのは、そんなタイミングであった。


「レオ丸理事、少しお時間を頂戴しても宜しいでしょうか?」

「オッケーでやすよ」

「……豪く声がお疲れのようですけど、大丈夫ですか?」

「うん! 眼と頭と心が困憊・疲弊・貧窮してるけど、全く問題ないで♪」

「あれ? 大問題ですよね、それって?」

「多かれ少なかれ、皆が抱えてる疲労やし……自分も声が豪い硬いで?」

「ちょっと……色々とありまして」

「そっか。まぁ御互いに気をつけよな。……ほいで、どないしたん?」

「ご存知だと思うので、教えて欲しいんですが」

「はいはい」

「<スザクモンの鬼祭り>に予兆って、あるんでしょうか?」

「<スザクモンの鬼祭り>の予兆なぁ……。ちょい待ってや、思い出すさかいに」


 レオ丸は、<彩雲の煙管>を咥えてから、居住まいを正す。

 足を半跏趺坐に組み、ひと嘗めした両手の人差し指で両のコメカミを刺激してから徐に、法界定印を組んだ。

 傍に控えるタエKが、何故か木魚を叩く音を口遊む。


「ぽくぽくぽくぽくぽくぽく……」


 五色の煙を燻らせながら、暫く瞑想を続けたレオ丸の肩の力が、フッと抜けた。


「ちーん!」


 割烹着のポケットから木綿のハンカチーフを取り出したタエKが、風邪でもないのに豪快に鼻を噛む。


「えっとなぁ、ユーリアス君。ワシの記憶が確かなら、予兆めいた何がしかの事象は、概ね二段階やわ」

「二段階、ですか?」

「せや。ヤサカの地下迷宮の封印が緩んで其処から、<牛頭大鬼(ミノタウロス)>がワラワラッと出て来るんが、第一段階。

 第二段階は、再建された<中之京禁城(カイザーブルク)>の傍にある棄神封印の泉から、<蛟竜(ドラゴンワーム)>がニョロニョロッと湧き出して来よる。

 第一段階と第二段階の期間が共に、七日間ある。

 ほんで、<スザクモンの鬼祭り>の本番が始まりよる。

 <ヘイアンの呪禁都>の本丸である<魔縁羅城(トイフェルブルク)>から“コンチキチン♪”って音が鳴り出すと同時に、<栖裂門(スザクモン)>の封印が解かれて内側に開く。

 <鬼祭り>の前半戦、三日間に渡る<雷光の討ち入り>クエストのスタートや。

 其の三日の間、ずっと鳴り響いていた“コンチキチン♪”が止んだ時……」

「止んだ時?」

「<ヘイアンの呪禁城>を取り囲み封印している四つのドーム、<護国大聖堂(キョウオウ・ドーム)>、<銀照大聖堂(ギンカク・ドーム)>、<霊蜂大聖堂(ミロク・ドーム)>、<金鹿大聖堂(キンカク・ドーム)>の何れかが機能を停止。

 そしたら今度は<栖裂門(スザクモン)>が外側に開き、百鬼夜行がパチスロのフィーバーよろしく巷にどっさりと溢れ出て来よる。

 ……<スザクモンの鬼祭り>の後半戦、<オニの乱>の開始や」

「なるほど。……更にお訊ねしますが、過去の百鬼夜行の進行ルートはどのようなものでしたか?」

「えぇ~~~っとな、……こっちの地名で羅列するよりも思い出し易いんで、元の地名で言うけど、御免やで。

 前回は、大規模な分派戦力が京都市から淀川の北岸沿いに南下して、長岡京から高槻を通り茨木で撃退。主戦力が<赤封狐火の砦(ファイアフォックス・キープ)>で食い止められて終了。

 前々回は、分派戦力のAが比叡山を強襲、陥落寸前に辛うじて撃退。分派戦力のBが亀岡経由で川西に襲来、多田で消耗戦。主戦力が<赤封狐火の砦(ファイアフォックス・キープ)>で殲滅されて終了。

 前々々回は特殊で、主戦力一本の分派なしで、<赤封狐火の砦(ファイアフォックス・キープ)>にてノーガードの、ガチのどつき合い。

 勝機が見えた時に、三田市からミノタウロスの軍団が、三木市からスケルトンの軍団が大量発生して、神戸や姫路がてんやわんやになってん。

 アキバやナカスの助っ人組が来てくれへんかったら、ミナミの街もやばかったかもしれへんな。

 <F.O.E(フシミ・オンライン・エンターテイメント)>もえげつないイベントをぶち込むなぁ、って呆れたもんやで!」

「そうですか……、流石はレオ丸理事、ウチのギルマスより情報が詳細ですね。

 ……という事ならば、此処も安全圏内とは言い難いか……」

「ちょいと訊くけど、自分は今、何処に居るん?」

「四日前までは、ミナミに居ました」

「……何があってん?」

「レオ丸理事の質問に答える前に、一つお訊ねします。

 今現在、貴方は、一体何方の味方をなされておられますか?」

「誰の味方って、……ワシはワシの味方やがな」

「では、質問を変えます。レオ丸理事が今現在、敵対している存在は誰ですか?」

「ふ~む。それは、<冒険者>としてのワシやのうて、プレイヤーとしてのワシへの質問と捉えて、エエんやね?」

「はい」

「ほな正直に答えよう。<Plant hwyaden>とは、反りがあわへん。

 自滅街道まっしぐらの逝かれポンチに付き合うほど、ワシは暇やないさかいに。

 濡羽って娘と、インティクスって娘のコンビ、“貧乏蔓シスターズ”には、目下絶賛嫌われ中やしな、ワシは。

 まぁ、ワシも正直苦手なタイプやさかい、御互い様のドローやわさ。

 新喜劇のチンピラみたいな遣り方は、全然スマートやないしな。

 ほら、ワシってハイソサイエチーでノーメンクラツーラの、インテリゲンチャなパトリキっぽいバラモン階級やん?

 彼女らの遣り方は、ちぃーっとばかし肌に合わんわ。

 それに、な。

 直の目でキッチリと確かめた訳やないけども、聞こえてくる情報に耳を傾けたら、<Plant hwyaden>の我利我利亡者みたいな糞餓鬼の所業には、ドントタッチミーやで。

 後は……せやな、悪賢くて陰険なゼルデュスってェのとは、今ん処は切れそうな糸で細々と繋がっとるなぁ。

 ナカルナードの阿呆んだら、は可愛さ余って憎さ百倍とまでは行かへんけど、此方から連絡を取る事は、もうないかもしれん。

 とち狂った奴とは、付き合いたないさかいに。

 向こうが改心して詫びの一つでも入れてきたら、話くらいは聞いたるかもしれへんけど、現状では望み薄やろね。

 ……恐らくやろうけど、自分も<Plant hwyaden>に泣かされた口か?

 もし、そうやったら“御免なさい”を一言、述べさせてもらうわ。

 責任の一端は、ワシにもあるしなぁ」

「……私は今、グラン=パマに居ます」

「♪この浦舟に帆を上げて、この浦舟に帆を上げて~♪、か」

「はい。……四日前に、<グレンディット・リゾネス>全員で、ミナミの街を脱出して来ました。

 理由は、<Plant hwyaden>と連るんでいる、<ハウリング>が振り翳した拳を避けるためです」

「……重ねて謝罪する。誠に申し訳ない」

「その謝罪のお言葉は、謹んで返上致します」


 ユーリアスの声の調子が、柔らかいものに変化した。


「大体、レオ丸理事がミナミに居座り続けていたとして、降魔折伏が出来えましたでしょうか?」

「……出来る! と即答は出来んな」

「被害者的立場から観察し考察しましても、彼らの行いは彼らなりの必然の結果なのでしょうから、彼らの行いに抗うのは不自然な行為になるのでは、と」

「大人……やなぁ、ユーリアス君。いや、ユーリアス修士」

「えへへ。……とは言っても、その所業を許せるかどうかは、別問題ですが。

 それにしても、レオ丸理事。長年の付き合いの弟分を、よくもまぁバッサリと切り捨てられますね?」

「リアルでも似たような事があったんやけどな。まぁ、それの説明は止めとこ。

 ワシの基本スタンスは、“他人に迷惑をかけ過ぎるな!”やわ。

 社会生活する上で、他人に迷惑をかけるんは当たり前や。

 自分と他人の求めるモノの、質と幅が違うんやもん。

 せやけど、何事にも限度がある。

 ギャンブルであれ酒であれ薬であれ性的欲求であれ、自分の責任が取れる範囲でするか、無人島で一人で没頭する分には、何ぼしようと構わへん。

 身を持ち崩して破滅して生き地獄に堕ちるんは、そいつが望んだ結果やから。

 だけど、や。

 自分以外の誰かに多大な迷惑をかける、反社会的な奴らは例え家族でも友達でも、ワシに取っては忌むべき“敵”として、容赦はせェへん。

 ま、ワシが納得出来る謝罪や、理由があれば許すし、受け入れる事もあるけど、……な」


 レオ丸は煙管を口から一旦外し、口内に湧いた苦い唾を嚥下する。


「……少なくともワシが聞いて、知っている限りにおいて、判断したら。

 <Plant hwyaden>は“敵”として既に認定済みやし、<ハウリング>とナカルナードは“敵対すべき”存在にランクアップや、わ。

 ……残念ながら、……致し方なく、な」

「其れを聞いて、安心しました。又、落ち着きましたら連絡させて戴きます」

「其れについては、此方からも是非ともお願いするわ。

 正直言うて、今のワシが抱え込んでる問題は、ワシ一人の頭脳では処理しきれへんのでなぁ。……ほとほと困ってんねん」


 吐き出す五色の煙も、疲れ切った感じで地を這っていた。


「私で良ければお聞きしましょうか、レオ丸理事の御困り事を」

「ほな、聞いてもらおうか。……序でに答えを知ってたら教えてや」


 タエKに肩を揉んで貰いながら、レオ丸はこの数日で抱えてしまった疑問を、ぼんやりと口にする。


「“現実”、って何やろ?」

「え? え? え……え~~~~っと、…………何でしょう、現実って?」

「ほしたら一緒に考えてくれるかな? ちょいと、ダラダラとしゃべらせて貰うな。

 ワシは今、ロマトリスの黄金書府に居るんやけどね。

 こっちに来てから、ず~~~~~っと図書館に篭ってたんやわ」

「本当ですか! 天国三昧じゃないですか!」

「ワシもな、最初はそう思ってたんや。……べらぼうな量の活字に囲まれてな。

 毎日がヒャッハー! ウッヒョー! ってな、そう思ってたわ」

「違ったんですか?」

「違うたわ。本を読めば読むほどに、このセルデシアって世界がな、広がっていきよんねんわ。

 <大災害>に巻き込まれた当初、ワシの中でのセルデシアってな、単なるMAPやってんわ。ゲームん時のまんまの、な。

 それが、二日目三日目、一週間二週間、日にちが経つにつれて、MAPが立体地図になってな、ジオラマになっていきよった。

 気がつきゃ一ヶ月が過ぎてしもうたやん?

 今じゃ果ての見えない、パノラマやで。

 ほんで、フッと思ったんや。

 どう考えても作りモンやないな、“現実”の世界やってな。

 ほな、以前にワシらが居った“現実”と、どう違うんやろう? ってな。

 自分は<吟遊詩人(バード)>で、サブ職<作家>やん?

 <歌う軍師>って二つ名まで……格好エエなぁ畜生、……それはさておき、熟練のレイダーでもあるし、<グレンディット・リゾネス>のNo.2を勤めてる。

 でも、教科書や学術書を扱う会社で、総務課勤務の入社四年目のサラリーマンで、西宮の実家で両親・弟と住んでいる中流家庭の長男やんか。

 ……ユーリアス君。油井梓佐君。

 君にとっての現実ってぇのは、一体どっちや?

「ゆい・あずさ、の……方です」

「じゃあ、ユーリアスって夢か幻か?」

「いえ、……ユーリアスも現実です……」

「ワシも同じやねん、全く以ってな。

 西武蔵坊レオ丸ってのも、松永忠順(まつなが・ちゅうじゅん)の方も、どちらも現実の名前で、同等の存在やねん。

 現実では、寺の住職をしとるが、別の現実では<冒険者>を今、しとる。

 <冒険者>の<召喚術師(サモナー)>の<学者>って、ロールプレイやん?

 でもな、<社会人>で<僧侶>ってのも、ロールプレイちゃうか? って、思えてきてしもうたんや」

「…………」

「例えば、どっかの家庭の第一子として生まれて、その後に弟か妹が生まれてきたら、“お兄ちゃんなんだから!”とか“お姉ちゃんなんだから”って言われたりするやんか。

 “小学生なんだから”“中学生なんだから”“高校生なんだから”“大学生なんだから”、ほんで“社会人なんだから”って何かにつけ言われるやん。

 自分でも自分に対して、言うたりするやん。

 結婚したから“お父さんなんだから”“お母さんなんだから”“親なんだから”って言われたり言うたりするやん。

 外人さんを相手にしたら、“日本人なんだから”ってな。

 これって、ロールプレイと一緒ちゃうか? って思ったんや。

 現実でもゲームでも、ゲームから現実になったこの世界でも、ワシらは生まれてから死ぬまで、死んでからもずっと何かを演じ続けて居るんやな、ってな」

「……何でしょう、足元の土台がグラついてきた気がします」

「人が何かを演じて居る時、それは現実ではなく幻想の世界と違うかなってな。

 人は皆、“幻想”の中に生きている。

 その“幻想”が破れた、と思った時に、人はどうなってしまうんやろか?

 “幻想”と言えば、宗教とか思想とか信念とかも、そうやん?

 宗教が“幻想”って、ワシが言うたらアカンのやろうけど。

 ま、それもさておき。

 例えば“神(ジ・ワン)”という幻想が破れたら、欧米やイスラム社会はどうなってしまうんやろか?

 随分前にテレビでな、中国ってなんで統一国家の体を成しているんだろうか? って問う特番を観たんやわ。

 中国って多民族国家やんか。……つまり一つに纏まるんが、本来は不自然な国やねんてな。

 じゃあ、何故一つに纏まって居るのか?

 ……それは、“漢字”の力に因るんやて。

 民族も文化も習俗も住む場所も違う人らが、漢字を使えば自己表現も相互理解も出来るからやねんて。

 ……セルデシアっちゅーか<エルダー・テイル>には、自動翻訳機能と念話があるから、“漢字”が必要ないやん。

 ほんで、現実では国家を統制していた共産党、っていう強大な武力を持つ思想母体が此処には無いやんか?

 今の中国、……華国ってどうなっているんやろな?

 現実っていう幻想を具現化していた、道具と仕組みが失われているんやから。

 抑圧され虐げられていたエゴと、思うが侭に剥き出しにされていたエゴが、ぶつかりあっているんとちゃうやろか?

 アメリカ、……ウェンの大地も、そうや。

 “自由”と“平等”って理念は、世界中の<冒険者>の誰もが持っとるやん?

 “開拓精神(フロンティア・スピリット)”も、当たり前に持ち合わせとる。

 “アメリカ・イズ・ナンバーワン”ってのも、今は昔の話や。

 今のアメリカって、“自由”と“平等”の名の下に暴力と退廃が蔓延しているか、誰もが“ヒロイズム”に犯されて“正義”の名の下に暴力が横行する社会、それはもう社会では無いけどな、そんな世界になってるんとちゃうやろか?

 欧州やアラブやインドや東南アジアやアフリカは、古代か中世の群雄割拠時代に戻っているんとちゃうかな?

 ほんなら日本は、ヤマトはどうやろか? と考えた時に……」

「考えた時に、何々ですか?」

「……つくづく、日本人で良かったなぁ! ってな」

「どういう事でしょう?」

「日本ってな、遥か古代から現代まで、実にボンヤリとした社会やんか。

 明確な意思を発揮した時は、歴史的大転換をするけど、その原動力である民衆は実に曖昧模糊とした、“何となく”でそれをしてしまいよる。

 ボンヤリとしているから、万世一系の皇統を護持し続けられるし、全ての事を和解で解決しようとする。

 律令の時代から、国家成立の大事な源の憲法も、その時その時の解釈で何とでもしてしまいよる。

 それがエエか悪いかは、その人の都合次第やろな。

 そして世界に冠たる、クールでカルチャーな国やん。

 ノベルやコミックやゲームなどで、日常がファンタジーで満たされている。

 外人からしたら、日本自体がファンタジーやねんな。

 つまり、我々日本人にとっては、<大災害>以前の“現実”もファンタジーなら、<大災害>以後の“現実”も同じくファンタジーやねん。

 そやから、ヤマトっていざこざは有っても、平穏なままなんやと思うねん。

 全くない訳やないけど、民族対立を感じる事はほとんどないし、な。

 地域格差はあっても、自動翻訳機能を使わずに北の果てから南の果てまで、誰とでも会話が出来る。

 相手を理解せずとも、自分を理解して貰わずとも、“いやいや”“まあまあ”で意思の疎通が図れるからな」

「……頭、疲れませんか?」

「……めっちゃ、疲れてるわ。くったくたやで」

「そこまで、ぶっちゃけられたのなら、私から更に質問がしたいんですが」

「何でやしょう?」

「東の方から聞こえてくる噂について、御存知の事はありませんか?」

「そいつは、ノーコメントにさせて貰うわな、御免やで」

「……何を、御存じ何ですか、レオ丸理事?」

「悪いが、今は言えん!」

「後でなら、教えてくれるって事ですね」

「いつになるかは判らんけどな」

「なるほど。……レオ丸理事もアキバの事に、噛んでらっしゃると」

「いや、そいつにだけは明確にしとこ。答えは、NO! やわ」

「違うんですか?」

「情報収集しとる際に、漏れ聞こえた断片情報から、勝手に推測しただけやねん」

「へぇえ~」

「……推測は、ドンピシャの正解やったで♪」

「じゃあ、その断片情報を、是非とも教えて下さいよ」

「そやなぁ、……ユーリアス君一人になら、この機密情報を教えたっても構わへん。

 けどな……、この機密情報はな、ギルド全体で共有せんと意味ないねんわ。

 ほんでギルド全体で共有した瞬間に、此れは機密情報やなくなる。

 だから、教えられへんねんわ。

 せやけど、ヒントはプレゼントしたろう」

「はいはい」

<牛頭大鬼の殺戮者(ミノタウロス・マローダー)>とかを退治したらな、稀に変なドロップアイテムが出て来よるやん。“生肉”の類が、さ」

「ああ、そういえばありましたね。必要ないので、回収してませんが」

「そいつは、勿体無い!」

「何故です? <鷲獅子(グリフォン)>や騎竜が居るなら兎も角も」

「騙されたと思ってな、次にドロップしよったら必ず全部、回収しとき。

 後で、必ず役に立つから! これが今言える、精一杯のヒントやわ。

 後はタネ明かしがされるまで、自分でようよう考えてみ。あー・ゆー・OK?」

「Aye,aye,sir!」

「さて、そっちも更なる引越しで忙しいやろうし、ワシもしゃべり疲れたし。

 今日は此の辺にしとこか?」

「何だか色々とお疲れ様です。有難うございました」

「せめて、イギリスに仕事でトンズラした奴が、ヤマトに居ったら多少は楽が出来るんやけどなぁ……」

「エルゴスム小木戸さん、ですか?

 今は何処で、どうなさっているんでしょうかね」

「<妖精の輪>を調べては、独りニマニマとしとるんちゃうか?」


 レオ丸とユーリアスは、乾いた笑いを上げながら、どちらともなく念話を終了させた。


「さて、寝るか」

「旦那様」

「ん、どないしたん、タエKさん?」


 改めて午睡を楽しもうかと思ったレオ丸の頭を、膝枕の持ち主がそっと揺する。


「少し、お時間を頂戴します」


 寝転がったままのレオ丸が見上げる先に、身形の良い豪奢な衣装を着用し、シンプルなデザインのロッドを持った、如何にも魔術師然とした男が立っていた。

 

 < 名前 / ヴァンサン=ビアン >< 大地人 >

 < 種族 / 人間 >< 性別 / 男 >

 < 職業 / 妖術師 >< Lv.58 >


 体を起こし、胡坐を掻いた姿勢で頭を下げる、レオ丸。


「初めて御意を得ます、ヴァンサン卿」

「西武蔵坊レオ丸殿、で宜しかったですよね」

「はいな」

「もしお忙しくなければ、私の執務室でお茶でもどうですか?」

「頂戴しまひょ」


 レオ丸は立ち上がるや、恭しく一礼する。

 そして後ろを振り返るとタエKに、渡りに船といった笑みを見せた。

 こういう往復書簡的な、お話を書くのはとても楽しいです。

 ラブレター的でしたら、……堪忍して下さい。私はLGBTを否定しませんが、性癖はいたってノーマルですので。

 ですが、こういうお話ばかりだと、レオ丸の台詞に終止して話が進まない進まない。

 次話は、もう少し進めます(反省、反省)。

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