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第参歩・大災害+35Days 其の肆

 今回は先々の、ネタフリの回にて候。

 色々と訂正致しました(2014.08.20)。

 更に加筆修正致しました(2015.03.31)。

 落日してからほどなく、レオ丸主従はロマトリスの黄金書府の正門へと到り、検問所で衛兵による入管審査を受けた。

 <赤封火狐の砦(ファイアフォックス・キープ)>での通行許可証を提示し、簡単な審問を受けただけで滞在許可が下りた事に、レオ丸は拍子抜けする。

 <シノダ葛の若葉>を加工したブローチを胸元に付けたアマミYも、大地人への偽装がばれる事なく、審査を通過した。


「ワシって、結構凄い発明をしたんかな?」

「大地人が雑なだけでありんしょ」

「……そやねー」


 発効されたB5サイズの滞在許可証を丸めて懐に仕舞うと、レオ丸はアマミYの手を取り、上層へと続く階段へと誘う。


「其処の案内板を見たら、見学自由で時間制限がないようやし、ちょいと登ろか?」



 小高い丘の上に立つ、輪切りにした丸太のような円形状の構造物。主な建材は大理石だろうか、照り返す雪面のように夜灯りを反射していた。

 色が違う尖塔が、等間隔で其の周囲を取り囲んでいる。

 更に視界を広げて見れば、商店が立ち並ぶ地区は勿論の事、大通りに面した御屋敷街も、細い路地が縦横に張り巡らされた低階層居住区も、ほぼ全ての建物に灯りが点り、沢山の街灯が道々を明るく照らしていた。

 灯りの色違いや濃淡は、バグズライトなどの魔法の灯り、オイルランプや蝋燭などの火の灯りが混ざっているためだ。

 例えるならば、暗い部屋にある大きな台の上に、無数の煌くビーズが撒き散らされ、その中央に火の点る六本の蝋燭が立てられた、フレッシュクリームのホールケーキが置かれている様な感じか。

 サイ=オ水路、アサノ=メ水路、スチル=ステイル水路、オーノ水路、と街を区切り流れる大小四本の水路が街の灯りを更に増幅させ、雲間から差し込まれる月光と相俟って、ロマトリスの黄金書府の城内全体が光に包まれ、輝いていた。


「実に贅沢な、綺麗さやねぇ」


 街の正門である“鼓楼閣門(ポルタ・グランカッセ)”の展望台に立つレオ丸は、<彩雲の煙管>を吹かしながら手摺に顎を乗せる。

 傍らに立つアマミYが、鼻を軽く鳴らし異議を唱えた。


「わっちには、馥郁たる夜を愚弄しているようにしか、見えぬでありんす」

「それも真理の一つやねぇ」


 現実の地球の夜景を見たら、激怒するやろうなぁ。

 実際には見せる事が出来ない事を、レオ丸は残念に思った。

 夜の暗さと対立する街の灯りは、外縁に進むに従い薄くなり、やがて墨で塗り潰されたように真っ黒になる。

 精霊山を含むヒダ山系の稜線が、微かに見えるだけ。

 街を見晴らす展望台の上部は、丸みを帯びた特異な屋根が設えられていた。

 夜目にも鮮やかな朱色を見上げつつ屋根下を抜け、反対側へと歩むレオ丸主従。

 堅固な造りの楼門を挟み、高い城壁に護られたロマトリスの黄金書府の“都心地区(チェントロ)”と正対する、湾岸部の“内灘地区(ラグーナ)”。

 現実の大都会で見上げる星空、程度にしか灯りが見えない。

 その疎らな灯りの向こうは、見渡す限りの闇の世界。

 <ヤマトの塩海(しおみ)>、現実での日本海である。

 <エルダー・テイル>が販売された当初、地球上の一部の人々から猛烈な抗議が寄せられた其のネーミングだったが、国連が採用する標準的な世界地図と“国際水路機関”(IHO)が定める現行の『大洋と海の境界』を元としてグランドデザインしていると、発売元のアタルヴァ社は一切の余念を排除した。


「……文句があんなら、クルーゼンシュテルンに言うたらエエのに」

「誰でありんす、其の者は?」

「……有名やないけど、著名な海軍提督さんや」


『日本海』と最初に命名し、世界に発信したとされているロシア海軍提督の名前に、アマミYは首を傾げる。

 その仕草に、レオ丸は苦笑いした。

 大半の日本人が同じように首を傾げるやろな、『神輿万国全図』にもちゃんと記載されているんやけど、と思いながら。


 howwwwwwwwwwwwl………


 闇にそよぐ海からの風が、何処からかで発せられた悲鳴のような獣の遠吠えを、楼門まで運んで来た。


「何や、心がザワザワする声やな」

「……ひと狩りして来なんしょうか?」

「いや、エエやろ。……それに誰が見てるか判らんしな」


 よっこいしょ、とレオ丸は屋根を支える太い柱の一本に背を預け、腰を下ろす。


「今から宿探しするんも億劫やし、今日は此処で夜明かししよか」

「あい」

「自分以外にも、ブローチが使えるように出来たらエエんやけどなぁ」

「…………」

「そーしたら、魔法の法則を理解する一助となるやも……な?」


 寄り添うアマミYが、妙に静かで大人しい事に違和感を覚えたレオ丸は、そっと隣を窺がった。


「どないしたん、アマミYさん?」

「わっちは今、悋気と葛藤しているでありんす」

「ふむ?」

「主殿を共有する仲間達と、更に共有の度合いを深めるのが正しいとは、理解しているんでありんすが、……主殿を独占出来る此の時を、いつまでも大事にしたいとも思うんでありんすよ」

「ワシが所有やのうて、自分らが共有ってか。これが所謂、主客転倒ってヤツか?

 しかしまぁ、……モンスターにはモンスターの、悩みがあるんやねぇ」

「……主殿は、わっちらに心が無いとでも、思っていたでありんすか?」

「んにゃ、んにゃ。そないに怖い声を出さんでも、ワシなりに理解してるって。

 ……<冒険者>や<大地人>や<モンスター>やと立場が違えど、言葉を交わし意思の疎通が出来れば、そない大した違いはねぇやな、ってな」


 ポスン、とアマミYの頭がレオ丸の肩に乗る。


「わっちも、一匹の雌で、ありんすよ」

「そやね……」


 レオ丸が首だけを巡らし、アマミYの頭越しにオーロパルーデの、幻想的で豪勢な夜景を眺めた。


「今思えば、<エルダー・テイル>って身体にハンデのある人達にも、優しい作りのゲームやったんやなぁ」


 例えば肢体不自由な者や、呼吸器機能や内蔵に障害を持つ者も、全力で野山を駆け回り、武器を手に戦う事が出来る。

 無菌室でなければ生活出来ない者も、水遊びが出来、誰とでも自由に触れ合う事が出来る。

 聴覚障害を持つ者も、文字チャットを使えば何不自由なく、互いに負担を強いらずに他者と会話が楽しめる。

 例えそれが、仮想空間での話だったとしても。

 それが今では仮想ではなく、リアルな現実空間なのだ。

 思う存分に、現実では出来ずにいた事が、現実に出来るようになった、今。

 車椅子から解き放たれた者が、何処かで走り回って居るのだろう。

 病床から解き放たれた者が、何処かで踊って居るのだろう。

 手話から解き放たれた者が、何処かで仲間との長話に興じて居るのだろう。


「もし仮に、視覚障害を持つプレイヤーが居ったとして、誰かに手伝ってもらいながらゲームに参加していたとして、ほんでログイン中に<大災害>に巻き込まれたんやとしたら、きっと視力が回復して居るやろうなぁ。

 近眼のワシかて、視力が格段に良くなってんねんし。

 ほんなら、その回復した視力で、此の世界の素晴らしくも美しい光景と、厭らしくて醜い暗部を見たとしたら、果たして何て言うんやろな?」

「長い独り言でありんすな、主殿」

「改めてな、考えとってん」

「何をで、ありんすか?」

「此の世界は素敵やな、<大災害>も悪いばっかやないなぁ、ってな」

「当たり前でありんす!」

「ほえ?」

「わっちを生み出した此の世界が、素晴らしくない訳がないでありんす。

 それに、<大災害>が主殿の有り様を、変えてくれなんした」

「そっか! そっちからしたら、こっちが変わったんやもんな。

 別にそっちは、以前も今も変わりない訳やもんな」

「左様でありんす」

「……せやけど、此れからも普遍的に不変なんかは、判らへんわな?」

「雌は雄の有り様で、雄は雌の有り様で、幾らでも変わるものでありんす」

「……絶対の真理やな」

「……されど、<巨大蛞蝓(ジャイアント・スラッグ)>は、雌雄同体でありんす。

 ()のモノは、変わりようがないでありんすか、主殿?」

「いや、……そんな事を聞かれても、一介の<召喚術師(サモナー)>には、さっぱり見当もつかへんわ」

「くふふ」

「けけけ」


 <ヤマトの塩海(しおみ)>の方角から湧き出した雲が、月と星々を覆い隠し段々と深まっていく闇の中、どっしりと地に建ち街を外敵から警衛する楼門の上で、一人と一体は顔を寄せ合いながら仲睦まじく笑い合った。

 五色の煙が冴えた空気に入り混じり、風に翻弄され消えて行く。


 howwwwwwwwwwwwl………


 夜の片隅から再び、得体の知れぬ何モノかの微かな遠吠えが、韻と響いた。


「何の鳴き声やろうねぇ?」

<魔狂狼(ダイアウルフ)>に、似ているでありんすね」

「まぁ、街の外から聞こえてくるようやし、街の領域内でなきゃ何ぼ鳴いても構わへんけどな。……さて、時間も時間やしボチボチと晩御飯にするか」

「ならば、わっちも」

「後でな!」


 レオ丸はメニュー作成で虚空から、白粥を取り出した。

 魔法鞄から、ハチマンで分けて貰ったカレー粉の入った小瓶を取り出し、白粥にひと掛けする。

 芳醇なカレーの薫りが、レオ丸の鼻腔をくすぐった。


「やっぱ、世界最強の調味料やな、カレー粉は! C&Bと大和屋の方々、有難う!」


 キチンと手を合わせ、戴きますと言ってから、器に付属していた散蓮華を取りハフハフ、モソモソとカレー味の粥に舌鼓を打つ、レオ丸。

 魔法鞄から水筒を取り出し、容れられていた林檎ジュースをゴクゴクと飲み、レオ丸は手を合わせ、御馳走様と言った。

 そして黙り込んだまま、首を少し傾げる。


「如何したでありんすか、主殿?」


 合掌したまま固まったような姿勢のレオ丸の肩を、そっとアマミYが突く。


「『器は、砂か?』」

「……頭が、如何したでありんす?」

「頭がどーかしてんのは、昔も今も一緒や! ってほっとけ!

 そんな事はさておき、や。以前に<せ学会>の東京分室で話題になった小論文のタイトルやねんけどね。

 会員の誰やったかが、会員やない誰かの考えを<せ学会>で公表してね、 大阪でも感心仕切りの内容やってんわ。

 会員が考えた小論文やったら、あの年の<述べる魔法賞>受賞間違いなしやってんけどなぁ……」

「…………」

「ワシらがメシを食おっ! て思ってメニューで作成するとやな、こうして虚空から食いモンを取り出して、喰う事が出来るやんか。ちゃんと器に容れた状態で。

 せやけど、一定時間が経ったら……大体三十分くらいかな、こうやって消えてしまいよんねん、器ごとな。

 中身が一定量残ってたら、もうちょいかかるんやけどね」


 レオ丸主従が見守る前で、白粥が入っていた土鍋が、光に包まれた端から崩れるように消えて行く。まるで砂で作った器が、風に侵食されたかのように。


「な? さっきまで有った実体が、瞬時に風化して無くなってもうたやろ?

 此れは、どーいうシステムなんやろうかって考えた奴が居ってね。

 粒子崩壊だとか不確定性原理だとか、何だかかんだか。

 そもそも、作成した料理自体がナニモノなのかってのも、考察してたなぁ。

 HPやMPに直接作用する、エネルギーの塊なのでは? とも。

 ……こんだけ味が無いってのを考えたら、確かにそうかもしれへんなぁ。

 見た目がこんなに違うのに全て同じ味、無臭で湿気ったダンボール味っていう同じ味ってのが、エネルギーの塊説の信憑性を妙に感じるなぁ。

 エネルギーの塊を容れるに相応しい器は、エネルギーで出来た器。

 だからこそ、一定の時間しか形が保てずに、自然崩壊し消滅するって、な。

 ……って、何で寝てんのん、アマミYさん?」

「夜は寝るものでありんすよ?」


 気がつけばアマミYは、展望台の床で丸くなっていた。


「単に、ワシの話が退屈やっただけやろ?」

「否定はせぬでありんすよ、主殿」

「……まぁワシかて、虚ろな記憶を掘り起こして、しゃべっただけで理解するまでには至ってへんし。

 文系一直線のワシには、理系の話は難しいやね」

「わっちには、主殿が何を語っておられるのか、最初からさっぱりでありんす」

「ああ、“こっち”には存在せぇへん単語でしゃべってたもんなぁ」

「“こっち”、とは何でありんす?」

「けっけっけっけっけっ、“こっちの話”や」

「左様でありんすか」

「おや、牙が伸びてんね、アマミYさん。……しゃべり辛そうやね?」

「食事中に話すのは、不作法でありんすから」

「流石は元貴族、お上品やねぇ?」

「主殿、それではお約束通りに頂戴するでありんす」

「血を吸うんはエエけど、今夜は控え目にしてな。せやないと、もし誰かに見られてしもうた時に、誤魔化しが出来ひんさかいな」

「あい、主殿」


 文字通り、首筋に齧りつくアマミYの体温の低い肩を抱きながら、レオ丸は思索に耽る事にした。



 新しい何かが見つかったら、今まで判っている事も含めて、纏めてユーリアス君に丸投げしよっかな?

 つっても状況が許さへんやろうなぁ。

 どっちか言うたら、彼が能動的思索と行動指針を立て易いように、ボチボチと情報を出したらなアカンくらいやしな。

 彼には、丸投げよりは助力を頼む形が賢明か。

 ミナミ近辺の人間で、現在の処はっきりと信用が置けそうなんはユーリアス君の他は、“ジェネラル”ルーグ閣下くらいかな、今は?

 もしかしたら、……ミスハさんもかね?

 現在進行形の、誰かの企む状況が落ち着いたら、アキバの誰かに押し付けるってのもありかもな。

 アキバやと誰がエエやろか?

 調べたり考えたりが好きな奴が一番集まってるんは、<ロデ研>やなぁ。

 やったら、カズミ嬢とリエ嬢経由で、ブチ込むってのもエエかもしれん……。

 ユウタ君には、ちと荷が重いやろうし。

 エンちゃんは、……いや止めとこう。彼には、もっと別の事で活躍してもらお。

 ほな、……<せ学会>なら誰が居るやろ?

 理事しとる奴で気安いんはログインしとらんかったし、セルデシアに居る奴は付き合いが薄い奴らか、馬が合わへん奴やしなぁ。

 <大災害>に巻き込まれるのが判ってたら、もうちっと金蘭の交わりをしとくんやったよなぁ、ってそんなん事前に判るか!


 ……ホンマの事を言うたら、広く多くの智慧を集約するシンクタンクを作るんが、一番なんやろうけどなぁ。

 ミナミもアキバも、ナカスもススキノも全てを巻き込んで、ヤマトが一個の頭脳になるような……。

 あれ? これってもしかして、濡羽って娘が考えている事か?

 そっかぁ、誰よりも先に考えて行動しとったんやなぁ、彼女は。

 ……だから、ワシは彼女の行動に対し拒否反応を示し、彼女とインティクスがワシを拒絶したんか!

 沢山の頭脳を集めれば集めるほどに、それぞれの頭脳が勝手な行動を始めて、他の頭脳に干渉し、干渉された頭脳は受諾提携するか、拒絶対立しよる。

 結果、派閥争いから内部崩壊を起こし、最悪の場合は、敵対する者達へ攻撃する事にのみ頭脳を使い、ペンペン草さえ残っているかどうかになるやろなぁ。

 希望の存在しない、絶望的な未来の到来やな、桑原桑原。


 沢山の頭脳が平和的に共存するには、限定された対立による競争しかないやろね。

 対立軸の一つは、全ての頭脳を集約して監督する、特定の頭脳集団の合議により意思決定をするシンクタンク。

 対立軸のもう一つは、全ての頭脳を集約して支配する、特定の頭脳をトップにして、それを支える少数の頭脳集団による意思決定をするシンクタンク。

 共和制と専制の違い、やな。

 共和制では、意思決定に時間がかかり過ぎるし、衆愚に陥る可能性がある。

 専制では、決定された意思が間違っていても正せず、堕落も早い。

 共和制では、自由意志が保障される。

 専制では、即断即決が出来る。

 ミナミの進む道は、濡羽達が選択したんは“Road to Autocracy”か。

 アキバが同じ道を進まぬ事を、陰膳据えて祈るしかないねぇ?


 さて、他の道を考えてみよう。

 一部の限定された頭脳だけによるシンクタンクを作ったら、どうや?

 ……都市伝説にある、世界政府か秘密結社を作るだけやな。

 テンプル騎士団かアーネンエルベみたいに、他者により滅ぼされるか勝手に自己崩壊してまうのがオチか。

 一部以外の、大多数の怨嗟の的にされ、磔刑に処せられてバッドエンドやね。

 何だか判らない事をやっている、秘密主義集団そのモノやもんなぁ。


 ほな、ワシは何を目指して、どう行動するんが最適やろか?

 大多数の頭脳を集約した団体を、結成したり所属したり出来るくらいなら、そもそもワシはソロ活動をしてへんわな。

 少数の限定した頭脳グループを、結成したり所属したり出来るんなら、そもそもこんな苦労をしてへんわな、ワシは。

 結局の処、ワシが出来る事は、一人でチョロチョロしながら消化出来る程度の情報を一人で呑み込んで、食べきれない情報は誰かに御裾分けするくらい、か。



「御馳走様で、ありんした」


 その声が呼び水となり、現実へと意識が復帰するレオ丸。


「御言葉の通りに、控え目にしたでありんすよ?」


 ステータス画面を開けば、HPとMPのメーターが辛うじて青色を維持していた。

 数瞬の間を置き、レオ丸は煙管を咥えながら穏やかな笑い声を立てる。


「何が可笑しいんでありんすか、主殿?」

「いや、……おおきにな、アマミYさん」

「また……頭が如何したんでありんす?」

「安心し。頭やのうて、心の問題やわな」


 レオ丸は、アマミYの肩を抱き寄せたまま、ゴーグル越しに光のない闇の空の其の先に、スッと目を凝らした。


「『Puttin' It Together(繋ぎ合わせる)』、か。

 何と何とを、誰と誰とを、それが実に難しいなぁ。

 全てが既に、“重なり合った状態”やしな。

 正しく観測せんと、生きてる猫を死んだ猫にしてしまうし……。

 “如何なる作戦も大胆であれ!大胆な作戦とは、一か八かの賭けとは違う。大胆な作戦は、常に予備と代替の作戦計画を持っている”

 って、誰の名言やったっけ?

 ……ロンメル将軍、か。……何で突然、“砂漠の狐”が出てくんねん?

 ………………あぁそっか、そーいう事か、……エライ長い前振りやったな。

 “メモ帳”機能に書き込みし過ぎると、こんな悪戯(てんご)をしよんねんな」


 丸刈り頭を、レオ丸は空いた右手でポリポリと掻く。

 アマミYは契約主の苦笑いに釣られ、涼しげな笑みを浮かべた。


「“ドクトルE”! エルヴィンか! 東京分室の会員の誰やったかっ、て!

 ずっと思考の片隅に引っ掛かってたから、関連項目が湧き出したんか。

 記憶って、相変わらず謎の分野の一つやよねぇ。

 頭脳の神秘に翻弄されとるようでは、シンクタンクなんて夢のまた夢やわな!

 やっぱ地道に、“汗を流せ、血を流すな”の御言葉を実践するか!

 “自分の人生は、自分で演出する”しか、あらへんしな。

 ……自分の人生なんやもん、決断するんも尻拭くんも、自分次第ってな」


 闇夜から視線をずらし、アマミYの顔を直近で見る、レオ丸。


「改めて、おおきにな、アマミYさん。ホンマに、おおきに。

 自分らが居てくれるさかいに、ワシは此処で生きていけるんやわ。

 これからも、エエ事もアカン事も見境なしに、鯨飲馬食し続けれるわ」

「何が何だか理解に苦しむでありんすが、顰めっ面をなされているより、そうやって笑っている主殿の方が、わっちは好きでありんす♪」

「♪願いはいつも叶うと信じてる♪ やね」


 レオ丸は、御伽噺をベースにしたアニメのエンディングを口遊みながら、アマミYを抱き寄せる手に、ほんの少しだけ力を込める。

 その耳に、得体の知れぬ遠吠えは、もう聞こえては来なかった。

 『ある毒使いの死』より、ユーリアス氏。

 『疾風と西風』より、ルーグ・ヴァーミリオン氏。

 『<ロデ研>材料分科会』より、カズミ嬢&リエ嬢。

 『辺境の街にて』より、ユウタ氏。

 『残念職と呼ばないで。(仮)』より、エンクルマ氏。

 『the passage of time ~廃人がリアル友人巻き込んで楽しくやってた頃~』より、狐将軍ことエルヴィン氏。


 御先達同志諸兄の皆様の御好意に甘えまして、お名前のみ御出張を頂戴致しました。誠に有難く、感謝申し上げます。


 さてさて、ちょいと私信を記させて戴きやんす。

 既に御存知の方も、お気づきの方も居られましょうが。

 当方は、夏に忙しい業界の人間でありんす。8月はお盆、9月は秋彼岸がありますので。

 故に、来月早々からは暫く、新規投稿が滞りがちになりんす。

 今月中は、もう少し頑張りますが。

 何卒平に御容赦下さいませ。

 ……あっしの留守中に、どこかでヒョイヒョイと顔出しさせて下さいますれば、皆様誠に幸甚でがす。

 したらば、厳しい大暑の頃ですが、皆様めげずにボチボチと参りましょう♪

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