表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/138

第参歩・大災害+35Days 其の弐

 前話に比べ短いですが、キリが良さそうなので。

 色々と訂正致しました(2014.08.19)。

 更に加筆修正致しました(2015.03.30)。

 荷台から降りたレオ丸は、不平不満を言い募るミキMにペコペコと何度も頭を下げてから虚空へと送還する。

 次に、魔法鞄から取り出した<イシュタルの遮光眼鏡>をナオMに装着させ、ロック鳥が残した金貨やドロップアイテムの回収を命じた。

 ナオMは、大地人から譲られた大き目の布袋を肩にかけ、北領廻廊と平原とを区切る、高さ一メートルほどの防護壁を下半身をくねらせて乗り越える。

 向かう先は、二体の大型モンスターが潅木林を薙ぎ倒し作った、浅いクレーターのような空き地だった。

 その姿を見送った後に、久々に召喚した竜牙兵の出来栄えに満足そうに眺めてから、虚無へと撤収させる。

 消し去った従者達を思い名残惜しげな表情をしていたレオ丸に、大地人の老人が歩み寄り膝をつき、深々と頭を下げた。


「危難を排して下さりました事、誠に忝く存じます」


 老人の後ろに、もう一台の馬車の乗客達が並び、同じく膝をつき頭を垂れる。

 只一人立っているのは、ジーン=ベリーと呼ばれた童女だけだった。


「かたじけ」


 童女もペコッと、頭を下げる。


「袖摺り合うも多生の縁やし、情けは人のためならず、ですわな。

 御宅さんらが、ワシを拾い上げてくれはったから、お互いに助かったって事で。

 まぁ何事も須らく全て、相身互い、でんなぁ」


 伸ばされたレオ丸の両手が、老人の手を優しく取り、立ち上がらせる。


「そんで、……御宅さんらは、どなたさんですのん?」

「そうでしたな。御挨拶が遅れ失礼致しました。誠に申し訳ない。

 私の名は、カレッジ=ベリー。

 デシル氏族を直接の祖とする、クーン支族に連なる者。

 我らは、“漂泊を続ける者(イェニシェ)”。

 巷間においては、“白き者(ミガルー)”とも呼ばれています」



 “イェニシェ”。中部ヨーロッパを中心にヨーロッパに広く在する移動型民族で、北インド系に端を発するとされるロマとは民族が違い、ケルト系だと推測されているが、詳細は不明。ドイツ語表記では、Jenische。


 “白き者(ミガルー)”。アボリジニの言葉で、“白い奴”の意味も含む。

 1991年に目撃されて以来、オーストラリア東部の海岸に偶に姿を現す、世界的にも稀有な存在である全身が真っ白なザトウクジラに、研究者が名付けた渾名として知られている、名称である。


 “漂泊を続ける者(イェニシェ)”。別称、“白き者(ミガルー)”。

 威儀を正した正装が似通っているため、かつてのフォーランド公爵領において、領内に点在する聖者の遺跡や霊場を巡礼していた“遍路の(インフィニティーズ)”と同一視されるが、全く異なる存在。

 マイナー神の一柱である、此の世の理を紡ぐ女神ク・クリサン・チムを信仰対象として崇めながら、ヤマトの北の海岸線沿いを移動し続ける民。

 ウェストランデにもイースタルにも属さぬために、両陣営から迫害を受けた歴史を持つが、現在は東西交流の一端を担う存在となっている。

 但し、あくまでも設定上の存在で、クエストやイベントには一切関係が無い。

 引用元、『公式マニュアル <エルダー・テイル> ワールドガイドⅢ』。



 レオ丸の頭の中に、三種類の“メモ帳”の記憶が湧き出した。

 相変わらず節操のない情報の羅列に、レオ丸は苦笑いを零しそうになったが其れ以上に、<大災害>以降の世界の変容の一端を目の前にして、心が沸き立つ。


「ははぁ、なるほど。御宅さんらが、“漂泊を続ける者(イェニシェ)”さんですか!

 お初に(まみ)えます。改めて御挨拶を。西武蔵坊レオ丸と申します。

 冒険者の端くれで、<召喚術師(サモナー)>でおます。何卒宜しゅうに」


 全ての事共がゲーム上の設定(フレーバー・テキスト)に集約されていた時代には、文章の中においてでしか存在しなかった人々を、レオ丸は興味深げに観察する。

 童女、ジーン=ベリーが曇りなき瞳で、真っ直ぐ見返してきた。


「さもなー?」

「せや、モンスターと友達になったり、家族付き合いしてる人の事や。

 残念ながらウチの家族は、……可笑しなんと、変わりモンと、口が悪い娘しか居らんけどな。

 ……良い子は決して、マネしたらアカンで?」


 レオ丸が苦笑いすると、ジーンもニパッと笑う。

 その屈託のない笑顔に釣られて破顔一笑するも、直ぐに其れがしおしおと弱りきった顔になる。

 無意識に懐を探り、気を失う直前まで手にしていたはずの、<彩雲の煙管>が其処にない事に気づいたからだ。

 突然、カナブンのように忙しなく体の彼方此方を探りながら、ジタバタとし出すレオ丸。


「はい、主殿」


 拾い集められた<多頭竜(ヒュドラ)の牙>と共に、アマミYが横から煙管を差し出した。


「おおきに、サンキュー! 流石は、出来のエエ子や♪」


 レオ丸は受け取った煙管を早速に咥え、美味そうに五色の煙を吐きながら、<ヒュドラの牙>を懐に仕舞った。


「さて、と。一服ついて明鏡止水的に落ち着いた処で。

 カレッジ殿に少々、お尋ねしたいんですけど、宜しいやろか?」

「何でしょうかな?」

「御宅さんら、クーン支族の皆さん方は、どちらまで行かはるん?」

「我らは一先ず、ロマトリスの黄金書府まで向かう処でして」

「それは好都合! ……すんませんけど、ワシも其処まで行きたいんで、御一緒させてもうてもエエやろか?」

「それは有難い! 我らも道中、安心して進めるというもの。

 此方こそ、宜しくお願いしたい」

「ほな、そーいう事で、何卒宜しく! じゃあ、早速出発! って行きたいけど。

 ……すんません、従者のメデューサが戻って来るまで、お待ち下さいな」


 深々と下げたレオ丸の頭を、小さな手がポンポンと叩く。


「よろしこ」


 胸を張り、仁王立ちしたジーンのドヤ顔に、煙管から五色の煙が宙を暢気に揺蕩うた。



 やがて。

 二台の馬車は再び馬首を、北へと巡らす。

 ゴトンゴトンというリズムに合わせて、うつらうつらと揺れる童女の頭。

 ジーンは祖父である、カレッジの腕に抱かれながら、安心し切ったように船を漕いでいた。

 レオ丸は、ロック鳥がドロップした品々を詰め込んだ布袋に凭れて、『私家版・そーなんか? -セルデシア不思議発見!?-』を膝の上に広げ、せっせと<大師の自在墨筆>を動かしている。


「ほほぅ、“漂泊を続ける者(イェニシェ)”には、氏族の系統が二つありますんか。

 一つが、ルカス氏族。現在はカーツ支族、マッカラム支族、ダイクストラ支族の三つに分かれている、と。

 もう一つが、御宅さんらの祖である、デシル氏族でっか」

「如何にも。我らクーン支族の他に、メレディス支族、バーガー支族、ブリッシュ支族の四支族に分かれています」


 カレッジの説明を聞きながら、レオ丸はルカス氏族に“SW(笑)”、デシル氏族に“ST(笑)”と余計な書き込みをする。


「ほいで、デシル氏族さんとルカス氏族さんの、大元はどんな人達やったんですかいな?」

「伝承では、……“銀の代の民”であるとか」

「“銀の代”……シルバータイム、やのうてシルバーエイジ……か」

「“銀の代の民”は、<六傾姫(ルークインジェ)>が世に災いをもたらした時に、他の民や種族と同様に絶滅の危機に瀕したとか。

 僅かに生き残った者達を、ルカスとデシルの兄弟が率いて最果ての地に隠れ、世の災いが治まった後に、それぞれが半数ずつを従えて生き残りを図ったと言います。

 ルカス氏族は、海を渡り大陸の何処かへと赴き、デシル氏族は、海を渡らずに最果ての地、このヤマトへと残りました。

 “賓(まれびと)”たる<冒険者>の貴殿方が顕現なされた頃には、我々は家族を増やし四支族に分かれていました。

 メレディス支族は北へ、バーガー支族は南へ、ブリッシュ支族は東へ」

「御宅さんらクーン支族は、西に広がった、と」

「その通りです。……とは言え、端々にて細々と日々を送っているだけですが」

「ああ、せや。序でにお訊ねしたいんですけど、さっき言うてはった“御霊(みたま)共を綾なし給える”って、何ですのん?

 如何にも其の通りって感じで、適当に返事してましたけど、ホンマは何のこっちゃ判りませんねん」

「御主人様は、相変わらず適当ですね」

「ほんに、適当でありんす」


 巻いたとぐろを器用に御者台へと納め手綱を操るナオMの感想に、レオ丸の襟元へと再び潜んだアマミYが同意した。


「……最近の空耳は口が悪いな! ……ほんで、どないな意味ですのん?」

「其れは、ですな。……迂遠な説明をさせて戴くならば、<大地人(われら)>と<冒険者(あなたがた)>の違いですかな」

「ほう?」

<大地人(われら)>は命が尽きた後、神々が調えられた理により、<魂>は霊峰フジへと向かう流れである<御魂(みたま)の流れ>に集約され、<魄>は地に帰ります。

 ですが稀に、<魂>の“滓(かす)”というべきものが、<魄>にこびり付き残る事があるとか。

 ……執着が強すぎる者の<魂>は、残りやすいそうですが。

 <魂>の残滓が付いた<魄>が地に帰るという事は、神々が調えられた理に則った正しき形ではありません。

 正しき形ではないが故に、地へと戻らずに別の流れへと吸い取られます。

 我ら、“漂泊を続ける者(イェニシェ)”は古来よりそれを悪しき流れ、<御霊(みたま)の流れ>と呼んでおります。

 正しき流れである、<御魂(みたま)の流れ>とは異なる、悪しき流れの<御霊(みたま)の流れ>。

 <御霊(みたま)の流れ>とは所謂、亜人の<魂>とモンスターの<霊>を集約するものです」


 まさか此処でも、<魂魄理論>を聞かされるとは!

 レオ丸は、苦笑いしながら煙管を吹かす。


「悪しき流れに集約された<大地人>の<魂>の残滓は、モンスターの<霊>へと変化します。……<死に損なった輩(アンデッド)>と成るのです」

「ああ、なるほど。……ワシが竜牙兵、つまりスケルトンの上位種を召喚し使役しとったから、“御霊(みたま)共を綾なし給える”って発言になった、と」

「如何にも」

「納得しましたわ」


 『私家版・そーなんか? -セルデシア不思議発見!?-』に、今聞いた情報を克明に記録するレオ丸。


「銀河、やなくて、セルデシアの歴史がまた、一ページ! ってな」


 満足げに五色の煙を吐き出すも、一転してレオ丸は眉根を寄せ考え込む。


「カレッジ殿」

「何ですかな?」

「<大地人>の<魂>が、神々の領域たる霊峰フジに集約され、改めて世に再分配されるってのは了解しました。

 ほな、亜人の<魂>やモンスターの<霊>は、何処に行きますのん?」

「我らの伝承では、あそこだと伝えられております」


 カレッジは、北領廻廊を睥睨するかのように聳える、精霊山を指差した。

 第一話目に書いたレオ丸自身の疑問に、回答を用意してみました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ