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第壱歩・大災害+22Days 其の参

いつも評価を下さる皆様、誠に有難うございます。

訂正を致しました(2014.8.18)。

更に加筆修正致しました(2014.12.22)。

「嬉しいような、悲しいような。正に、有難迷惑……」


 加羅美亭ジェーンが、それを見ながら何とも微妙な顔をする。

 火力重視で編成されている偵察班は、偶発的な強敵との戦闘を、苦戦する事なしで勝利した。

 ミノタウロス・マローダーは、断末魔の叫びを上げるや光の粒子と化し、大量の金貨とドロップアイテムを残して消滅する。

 そのドロップアイテムが、微妙な問題を招いていた。


「ロース、カルビ、ハラミ、牛タン……」

「ミノタウロス印のミノに、山盛りのホルモン……」

「食べ放題、¥2980ってか?」


 金貨の山の横に積み上げられた、生肉の山。

 <ハウリング>の三人も呆れた表情で、それを見下ろした。


「それだけを見ていたら、美味しそうなんだが。……元がアレ、だもんなぁ」


 セラノミクスも、うんざりした様子で肩を竦める。


「ほな、ワシが全部頂戴!」


 忌無芳一に手伝ってもらいながら、<退魔の朱御柱>で結界の補修をしていたレオ丸が手を上げた。


「流石は、現役・生臭坊主」

「はっはっはっ、面白い事を言うやないけ、ナカルナード。

 ……尻にズブリと、<退魔の朱御柱>を挿したろか?」


 レオ丸は咥えた煙管を上下させて、不吉な笑みを浮かべる。


「ワシには<契約モンスター(ファミリア)>が多いんでな、彼女らの御飯用に出来たら欲しいんやわ」

「あ、それなら俺も欲しいっす!」


 尻に手を当て内股気味で顔を青くするナカルナードのその隣で、トリニータが元気良く挙手した。


「俺もドラッキーの餌にしますんで」

「ドラッキー?」

<鋼尾翼竜(ワイヴァーン)>の名前っす」

「ああ、あの子か。そら、よう食うやろなぁ。ほな、折半にしよか?」

「私の<鷲獅子(グリフォン)>にも、少し回して戴けませんか?」


 あるみーを連れて周辺探査をしていたミスハも、名乗りを上げる。


「ほな、ワシとトリニータ君で五分の二ずつ、ミスハさんが五分の一って事で」


<飛翔天馬(ペガサス)>が、草食で良かった……」と、フジキューは独り言ちた。


 馬車に積んでいたアイテム、<スノーマンの保冷箱>に生肉をそれぞれ収納し、袋詰めした金貨と共に荷いで、<銀照大聖堂(ギンカク・ドーム)>へと移動する偵察班一同。

 先ほどと同じく、一階の“地図の間”へ至り一息入れる。

 そして天井に魔法陣を現出させ、昏い光の渦を取り巻く幾多の光点を再確認し、異常がない事をの色合いが他の光点と遜色無くなっている事を確認した。


「一丁解決、問題なしやな」


 天井を見上げるナカルナードが、胸を張りながら不敵に笑う。


「そうやとエエけどなー」


 盆の窪に手を遣りながら、レオ丸は否定的な口振りだった。


「補修したし、問題無いやろが?」

「補修したから、問題やねん」

「何でや!?」

「ワシらが用意した<退魔の朱御柱>と、大地人が巡らせた退魔バリアとでは、性能が違い過ぎるんや」

「最新式高性能バッテリーと、旧式バッテリーの並列ですからね」

「忌無芳一君の言う通りや。崩れたバランスは、その内に破綻するでな」

「ほな、全部を最新式に取り替えたらエエやんけ」

「アホ言え。今さっき立てたヤツで在庫切れや。

 大体、全部取っ替えるのに何本要ると思うとるねん?

 <トリバネ古戦場>に立てたのんを回収しても、微々たるもんやぞ」

「それに、原材料が圧倒的に足りません」

「例え<樹妖(トレント)>を狩り尽くして、ドロップさせまくったとしても……」

「僕と同じ<刻印呪師(シジルマンサー)>か、<符術師>でもない限り<エンクウ丸太>の退魔加工など出来やしませんよ」

「そう言うこっちゃ。ミナミはおろかヤマト全体でも、この二つのサブ職はそう沢山居らへんしなぁ。

 現実的な対応策は、大地人の術師に新規製作してもらうか……」

「砦の在庫に当たるか、ですか?」

「そやけどアソコの倉庫は、名前がドから始まるペンギンマークの大型雑貨店並みやで、ミスハさん?」

「……それは、うんざりですね」

「まぁ、解決の方策は自分らに丸投げするわ、な。無責任で御免やけど」

「仕方ありませんね。……法師はミナミを捨てられるんですから!」


 ミスハの強烈な皮肉に、虚を突かれたレオ丸は口を噤み俯く。


「それは、しゃあないやろ!」


 間髪を容れず、“地図の間”の壁に叩きつけられたナカルナードの声が、わんわんと大きく反響した。


「おっさんには、おっさんの考えがある。それに、おっさんはミナミを捨てるんやない、ちょこっと留守にするだけや」


 悄然としたレオ丸の肩を、どやしつけるナカルナード。


「そやろ、おっさん?」

「まぁ、な」

「旅に飽きたら、いつでも帰って来いや。<ハウリング>に席を用意しといたるさかいに!」

「それは、断る」


 ナカルナードに感謝の目礼をしながら、レオ丸はきっぱりと言った。


「ギルド活動は、ホンマに懲り懲りなんや、スマンな。

 悪いけど、ボウフラみたいにフラフラさせといてぇな」

「ホンマ、始末に負えんおっさんやなぁ……。ま、目障りになったら蚊トンボみたいに、一捻りに潰したったらエエか」

「おう! その前にフィラリアでも感染させたるさかい、覚悟しとけや」

「仲良しなんだか、仲悪いのか……」


 ミスハは、歯を剥き出してナカルナードと笑い合うレオ丸に正対し、両手を横に揃えてすっと頭を下げた。


「言い過ぎました、済みません」

「いや、エエよ。ミスハさんの言も真理の一面やしな」


 さっぱりとした笑顔を見せると、レオ丸は一つ手を叩いて、モヤっとした空気を一掃させる。


「処で、偵察班はこれからどうすんのや?」


 外からの明るさがギリギリ届く辺りにしゃがみ、<マリョーナの鞍袋>から地図を取り出し、床に広げるレオ丸。


「ワシはこれから、|<神聖北嶺(モン・サン=ノール)>のヒエイ聖印大寺院を訪ねて、その後は<ニオの水海>に出るつもりやが」


 地図の周りに集まり腰を下ろす偵察班メンバーは、リーダーの顔を見る。


「そやなぁ、キョウの様子を確認してから、<ヘイアンの呪禁都>をぐるりと一周してもエエけど、時間的に厳しいかもな」

「戦闘も続きましたし、今日は一旦、出丸に帰投する方が良いでしょうね」


 ナカルナードの判断に、ミスハも同意する。


「キョウの様子……なぁ?」

「何だか、奥歯にモノが挟まったような言い方ですね、レオ丸法師?」

「う~~~ん。あんな、フジキュー君」

「何でしょう?」

「自分は、ゲーム時代にキョウに入城した事あるか?」

「え!? いえ、ありませんけど」

「そうやろう、なぁ。……だって、入られへんねんもん、あそこって」

「「「えっ!?」」」


 惚けたようなレオ丸の呟きに、偵察班のメンバー全員が驚愕の表情となった。

 彼らのリアクションに、レオ丸の方が驚いてしまう。


「え!? マジかい!? 誰も、知らんかったん!?」

「知りませんでした!」


 いち早く平常に復帰したミスハが、代表して感想を述べる。


「そっかー、知らんかったかー。

 まぁ、しゃあないか。先だってのヒラノキレと一緒で、行く必要性のない場所やからな、キョウって。

 キョウでしか発生しない、解決出来ない、キーポイントとなるようなクエストなんかあらへんし、な。

 <ヘイアンの呪禁都>に挑んで敢えなくなってしもうても、蘇りポイントでも何でもないし。

 ゲーム時代には、冒険者には金輪際関わりのない場所やってん。

 ほんで、な。

 去年の事やけど、アキバの友人となどんな処か一遍行ってみよ! って話が盛り上がってな、行ってみてん」

「それで、どうだったんですか?」

「門前払いを喰らって、終わりや」

「は?」

「正確に言うたら、“此れより先に進む事は出来ません”ってメッセージが表示されて終わりやった。

 何で行かれへんのかな? って思って<F.O.E(フシミオンラインエンタテインメント)>に質問してみてんけどな」

「ええ」

「“キョウは大地人のためだけの都市であり、冒険者の皆さん方がお立ち寄りになられる所ではありません”やってさ」

「はぁ……」


 珍しく鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているミスハを見て、苦笑いを浮かべたレオ丸は、顎をポリポリと掻きながら言い足した。


「多分、設定がキチンとなされてなかった、って事なんやろうなぁ。

 ほんで、今や。

 果たして、どーなっているんやろうねぇ?

 ウェストランデの首都で、執政公爵家と斎宮家の住まう所?

 碁盤目状の街並みは防御結界の魔法陣の役割を果たしているらしい?

 でも、周りをよーく見てみ。

 人気(ひとけ)が全然あらへんやん?

 弧状列島ヤマトの本島の、西半分を支配する華の都やで?

 それを護持する大事な大事な大聖堂が、此の有様なんやで?

 推して知るべし、と違うかな?」


 キョウの上空一帯を覆う、荒波うねる冬の海を思わせる陰鬱な色の雲海。

 レオ丸は窓の方へと首を伸ばし、ぼんやりと空を見上げ、溜息を一つ吐いた。


「アスペラトゥス波状雲、……やったっけ、か?」

「何ですか、また訳の判らない事を言って!

 兎も角、法師の御言葉を要約すれば……」

「行くだけ無駄! って事なんやな、おっさん?」

「おお、素晴らしい! お前のモッサモサのむさ苦しい頭も、伊達や酔狂で其処にある訳やないんやな!」

「何やと、ゴルァッ!!」

「やるんか、オゥッ!!」

「はいはい、其処まで」


 顔を真っ赤にして犬歯を剥き出しにしたナカルナードと、その太く逞しい腕に胸倉を掴まれ吊り上げられ、空中で足をジタバタさせているレオ丸。

 ミスハは、額にかかった前髪を掻き揚げながら実に投げ遣りな言い方で、じゃれ合いにストップをかけた。

 窘められた二人は、何事もなかったかのように身を離す。


「ほな、此処で解散やな」

「そやな」

「その前に!」


 レオ丸とナカルナードの停戦合意に、フジキューが割り込んだ。


「<退魔の朱御柱>の起動方法を教えて下さい、レオ丸法師!」

「そうですよ! 僕は法師の指示に従って、呪文を刻印しただけなんですから!」


 忌無芳一も、負けじと身を乗り出す。

 二人の勢いに押され、仰け反りそうになるレオ丸。

 だが直ぐに体勢を立て直し、懐から煙管を取り出して咥えるや、のほほんと五色の煙を立ち昇らせる。


「では、ヘボい秘術を授けよう」


 勿体振る事なく、レオ丸は左手の袖を捲り上げた。

 晒されたひ弱な腕には、色が違う数種類の数珠が填められている。

 その内で唯一、無色透明な一巻きの数珠を外し、忌無芳一に手渡した。


「アイテムの名前は、<諷経(フギン)の念珠>や。

 <付与術師(エンチャンター)>の魔法、<マナトランス>と同じ効果を発しよるねん。

 但し、こいつは非常事態に遭遇した時の緊急避難用のもんや。

 何せ効率が目茶目茶悪いしな、乱用するんは余りお勧めせぇへん」


 忌無芳一は、渡された数珠を嬉しそうに早速、手に填める。


「どんくらい効率が悪いか言うたらな、此方のMPを対象の誰かか何かに移すのに、ロスが八割もあんねん。

 つまり、20%しか委譲出来ひんねん。

 しかも習熟度なんざ関係あらへんし、使い込んだとてロスを軽減させられへん、所謂一つの残念アイテムやわ。

 忌無芳一君に彫ってもらっていた呪文は、<エンクウ丸太>内にあるマナを、<退魔の朱御柱>のバリアに変換し、永続的に効果を発揮させるためのもんでな。

 呪文の出典となる原本は、砦の文書庫にあるさかい、砦将閣下の許可さえあれば閲覧出来るし、暇な時に研究しといてくれると有難い。

 ほんで、そのマナやけど。

 切欠がないと、バリアを発生させるエネルギーに切り替わらへん。

 ワシらのMPを付与して、切欠を与えたらなアカンのや。

 まぁ、付与するMPは、100もありゃ十分やけどね。

 それと、発動させんのにキーワードは、実は必要おまへん。

 勿論、呪文詠唱もいらへん。

 無言で念じて付与するんでもエエんやけど、何か納まりが悪いやん?

 日本人の様式美からしたら、ミサイルの発射ボタンを押す時も、気張った声を絞り出しながら、無駄なアクション付で押さんとね?

 だもんで、それらしい文句をテキトーに唱えてただけや。

 ホンマはこんなん使わんと、本物の<付与術師>に<マナトランス>をしてもらうんが、一番効率がエエんやで?」


 レオ丸は元通りに袖を下ろし、地図を畳んで鞍袋へと仕舞い直す。


「……どや、ヘボいやろ?」


 煙を吐き出しながら苦笑いするレオ丸を、忌無芳一は大袈裟に伏し拝んだ。


「法師の形見分け、有難く頂戴致します」

「まだ、死んでへんよ!」


 年長の<召喚術師>と最年少の<神祇官>の会話に、“地図の間”が和やかな雰囲気に満たされる。


「ほな、戦利品の山分けをしとこか。おっさんに、餞別を渡さなならんし」


 ナカルナードが顎をしゃくると、トリニータとフジキューが立ち上がり、屋外へと出て行った。

 暫く後に、馬車に積んでいた金貨の詰まった袋と、ドロップアイテムを放り込んだ木箱を抱えて戻って来る。

 現時点では使い道が殆どない金貨を横に置き、総出でアイテムを種類別に仕分けして並べる。


「<霊刀・鬼哭返し>が一振り。

 <亡者の剣(ファントム・ソード)>が六本。

 <瘴気の弩(ミアスマ・クロスボウ)>が四丁。

 <厭魅矢>が百五十本。

 <黒炎の甲冑>がヘルメット込みで一セット。

 <紫雲の霊石>の大が十個、小が十八個。

 <魔導砂>が二十二杯。

 <狂骨の欠片(マッド・ボーン)>が一抱え。

 ……碌でもないネーミングのアイテムばっかやんけ」

「アンデッド共のドロップアイテムやしな。

 ……<美しき月乙女の羽衣>なんかが出て来た方が、反対に驚くで?」

「まぁ、そらそうやけど。で、おっさんは何が欲しいんや?」

「武器も甲冑もワシは使われへんから、そちらで分けといて頂戴。

 強いて言や、<紫雲の霊石>の大を一個か、小を五個か。

 それと、<魔導砂>を二杯。

 後は、<狂骨の欠片(マッド・ボーン)>が全部欲しいな」

「そんだけでエエんか? こっちは別に構わへんが」

「霊石や砂は、魔法効果を上げる触媒ですから判りますが。

 ……無駄に大きいだけの骨なんか、一体何に使うんです?」

「エエ質問やね、セラノミクス君。百聞は一見に如かずって言うし、説明するよりも見てもらおか?」


 <狂骨の欠片(マッド・ボーン)>を抱え上げると、レオ丸は“地図の間”からさっさと出て行った。

 ナカルナード達が連なり、興味津々でその後を追う。

 抱えていた骨の山を地に投げ出すと、レオ丸は馬車に歩み寄るや繋いでいた馬に手を掛け、引き綱を解いた。

 <召喚笛>で呼び出され使役されていた軍馬は、嘶き声を上げながら何処かへと駆け足で去って行く。


「おいおい、おっさん。此れから馬車で移動すんのに、どうすんねん!」

「まぁ、黙って見とけ。ほんで、おっさん言うな!」


 腰に着けた<ダザネックの魔法の鞄>に手を突っ込み、レオ丸は一つのアイテムを取り出した。


「ジャジャーン! <冥王の傀儡(ハデス・ドール)>!」


 レオ丸が自慢そうに右手でぶら下げたのは、小さな人形であった。


「土産物で売られている、骸骨のキーホルダーを思い出しますね……」


 ミスハの視線の先には、禍々しさとみすぼらしさが微妙に入り混じった感じの、鎖に繋がれた10cmほどの人形がまるで首吊り死体のように、何ともだらしなく揺れている。


「見た目はアレやけど、実は中々の優れもんなんやで♪」


 それを<狂骨の欠片(マッド・ボーン)>の山の上に、レオ丸は無造作にポイッと投げ置いた。

 

「忌無芳一君。御免やけど<魔導砂>を二杯、持って来てもらえるかいな?」

「はい!」


 まるで忠実な飼い犬のように、忌無芳一は<銀照大聖堂(ギンカク・ドーム)>内部へと駆け込み、直ぐに戻って来る。


「どうぞ!」

「お……おおきに」

「それで、何をどうされるんですか?」

「これをやね、こうしてな……」


 渡された<魔導砂>を二杯とも、レオ丸は骨の山の上に打ち撒けた。


「ちょっと皆、離れてな」


 距離を取った偵察班の見守る前で、合掌し呪文を唱え出すレオ丸。


「頂禮頂禮 奉請四方精霊入道場 天蓬天蓬急急如律令 勅勅勅!」


 レオ丸の紡ぐ言葉に反応し、<狂骨の欠片(マッド・ボーン)>が妖しく明滅し始め出した。

 明滅はやがて、毒々しい赤い輝きへと変化する。

 骨の山を包み込んだ輝きは、瞬く間に見上げるほどの大きさになり、一際強く光線を四方に放つや、急に消えた。

 光が消えた後に現れたのは、一体の<白骨の巨兵(ボーンゴーレム)>であった。


「どやッ!」

「……どやッ! って言われてもなぁ」


 ナカルナードが呆れたように肩を竦め、他の者達も似たような反応を見せる。

 独り目を輝かせるのは、忌無芳一だけであった。


「これって、<従者召喚>スキルじゃ無いですよね!?」

「よう見たな、忌無芳一君」


 余り受けなかった事に少し肩を落とすも、レオ丸は気を取り直し説明を始める。


「此のアイテムは、西欧サーバのギリシャ……やのうて<アクロポリスの大神領>にある<地獄の第六圏迷宮>で手に入れた、世にも貴重アイテムやねんで!

 此れさえあれば、<召喚術師(サモナー)>であってもなくても、シャイで無口で従順なボーンゴーレムを召喚出来るんや。

 し・か・も、MPは召喚時に1000ポイントを支払うだけ。

 たったの1000ポイントぽっきり、やで!

 力持ちやし、大声で喚いたりせんし、柱で爪を研ぐ事も抜け毛もない!

 餌っちゅうか、命の素っちゅうか、三日に一度だけMPを500ポイントぽっちを与えてやれば、破壊されるか、召喚を解除するまで居続けてくれるんや!

 一家に一体、必需品ってヤツやんな♪」


 体長が五メートルを越す白骨の巨体を、レオ丸は頼もしそうに叩く。


「……何でか知らんが、全然羨まし無いな」と、ナカルナード。

「法師の取り出すアイテムって、どうしてこうも残念アイテムが多いんでしょう?」と、ミスハ。

「俺ならタダでもいりませんわ」と、トリニータ。

「全く激しく同意」と、フジキュー。

<施療神官(クレリック)>を選んで良かったと、心底思いました」と、セラノミクス。

「笛吹きながらコレを連れて歩いたら、高感度駄々下がりですねー」と、加羅美亭ジェーン。

「太鼓叩きながら歩いても、皆がドン引きですね」と、あるみー。


 馬車の引き綱をボーンゴーレムの骨盤に結わえていたレオ丸は、不評の集中砲火を浴びせられ気息奄々状態に。

 そんな中、打ちのめされたレオ丸に近づく者が一人。

 忌無芳一は、力なく垂らされたレオ丸の両手をしっかりと握り締めた。


「素晴らしいですよ、法師!」


 どん底から一気に浮上する、レオ丸。


「そうか! 判ってくれるか、忌無芳一君!」

「はい! 法師は、ミナミで一番の<死霊術師(ネクロマンサー)>です!!」


 その一言がトドメの一撃となり、レオ丸はバッタリと倒れ伏した。

 オロオロする忌無芳一と、溜息を漏らし首を振るナカルナード達。


<死霊術師(ネクロマンサー)>と、ちゃうねん……」


 彼らの耳に、レオ丸の往生際の悪い台詞は届かなかった。

次話からは、一人旅の再開です。

第零歩は、大阪篇。第壱歩は、京阪篇。次回からの第弐歩は、滋賀篇の予定です。

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