第壱歩・大災害+22Days 其の壱
久々にレオ丸の契約モンスター達を登場させました。アニメのキャラと創作キャラも何人か。戦闘シーンの描写は、実に難しいですね。
編集画面では大丈夫だと思ったのですが、やはり可笑しな文になっていましたので、色々と訂正致しました(2014.8.18)。
更に加筆訂正致しました(20141217)。
<人外王の大剣>が唸りを上げて、ゾンビ・ウォーリアーの胴体を叩き潰すように両断する。
ナカルナードは振り下ろした姿勢から手首を返すや、その反動で素早く愛剣を引き上げ、得意の上段の構えに戻した。
右では、濃い褐色の旋風がスケルトンを数体、木っ端微塵に粉砕する。
六本の腕に握る真っ赤な円月刀を振り回し、<暗黒天女>のアンWが牙を剥き出し高らかに吼えた。
舞うように高くゆっくりと旋回する<誘歌妖鳥>のカフカSが、甲高い叫びを二度発して眼下に危険を知らせる。
<神祇官>の加羅美亭ジェーンが、プイプイとラッパを軽妙に吹き鳴らし、防御魔法を省略呪文で発動させる。
熟練の祈祷師ビルドらしく展開させた<護法の障壁>は、三体の<骸骨の弩兵>が放った強矢を弾き返した。
その懐から顔を覗かせた、<金瞳黒猫>のマサミNの金色の瞳が妖しいほどに爛々と煌く。
MP付与能力を使い、ジェーンのMP補助する増槽の役割を果たしているのだ。
新たな矢を番えようとしたスケルトン・アーチャーは、音も無く滑るように接近した<煉獄の毒蜘蛛>のミチコKが、ドッと吐き出した<カンダタの糸>に絡め取られ、身動きを封じられる。
「<ラピッドショット>!」
ミスハの両手が、残像すら残さず動く。
鋭利な掛け声と共に投じられた複数の<蓮華弁手裏剣>が、動けなくなった三体の頭部を纏めて砕いた。
「<アンカー・ハウル>ッ!!」
地面にめり込むほどに力強く両足を踏み締めると、ナカルナードが雄叫びを上げる。
込められた気合に呼応するかのように、ゴツゴツとした重厚な<赤髭皇帝の城郭甲冑>が鈍い深紅から、鮮やかな緋色に輝きを変える。
伸ばされた歪な枝葉が街道の左右を覆い、揺れ動く靄が視界前方を遮る森林地帯。
<トリバネ古戦場>の前方奥から、足を引き摺るようにして現れた新手のゾンビ・ウォーリアー五体と、一体のスケルトン・ナイトが敵対心を煽られ、ナカルナードへと赤錆びた剣を向けた。
連続する遭遇戦に崩れかけた陣形が、タンク役が稼ぐ僅かな時間を利用して整え直される。
停車している一台の軍用馬車を中心に、右翼のアンWと左翼のミチコKが、油断無く側面へと警戒の目を向けていた。
遊撃役のミスハは、前衛を務めるナカルナードの少し後ろに位置し、陣形全体への目配りをする。
馬車の傍から、空かさず<禊ぎの障壁>を前衛へと飛ばす、加羅美亭ジェーン。
馬車の御者台に立つ<妖術師>のフジキューが、<角一つの始祖の葛巻く杖>を両手に持ち頭上に翳し、攻撃のタイミングを計った。
「カウントダウン、5、4、3、2、1、<サーペント・ボルト>!」
青紫の雷の束がフジキューの杖から放たれ、標的となったスケルトンナイトを撃ち抜くと同時に、分裂して周囲に居るゾンビ・ウォーリアー達にもダメージを与える。
「逝てまえやぁッ!!」
スケルトンナイトに<クロス・スラッシュ>を決め撃破するや、直ぐに元の位置へと後退するナカルナード。
「残りは任せた!」
「イェッス、ボス!」
馬車の後背から駆け出して来たトリニータが、ナカルナードを飛び越えて前衛の任に就き、即座に得意技を繰り出した。
「<竜尾旋風>!」
龍の尾に見立てられたトリニータの右脚が、群がる敵を一斉に薙ぎ払う。
通常ならば、一体当たりに与えるダメージ量はさほど多くは無い範囲攻撃だが、既にHPを大幅に削られていたゾンビ・ウォーリアーには、致命傷となった。
瞬く間に三体が光の粒子と化し消滅し、残る二体も続けざまに放たれた<ワイバーン・キック>により屠られる。
「後背に敵影なし。問題ありません!」
馬車の後方守備を担当していた<吟遊詩人>のあるみーが、御者台に乗り込んで報告する。
「現状、視界の範囲内に敵影は確認出来ず。但し警戒レベルは維持せよ」
フジキューの指示に、偵察班メンバー達は周囲に散らばった金貨やドロップアイテムを素早く回収し、確認もせずに馬車の中へと無造作に放り込んだ。
不意に、上空哨戒役のカフカSが、短く鳴いた。
馬車の後方警戒を担当する、<施療神官>のセラノミクスが、緊張した面持ちで周囲に目を凝らす。
前衛の者達は、相変わらず視界の定かならぬ前方を見渡すと、生い茂る樹木と濃密な靄の中から、無数の小さな黒い影が一斉に現れ出でた。
馬車から数メートルほど離れた所で、黒い影は群れ集って渦を描き、一体の人の形に変容する。
それは、漆黒のヴェールを付けた黒い天鵞絨ドレス姿の女性であった。
<吸血鬼妃>のアマミYは、鋭い二本の牙を見せ付けるように細く笑い、腰を折って深々と一礼すると妖しげな濃紫の光へと変化し、馬車へと吸い込まれる。
「ほんで、後どんくらいで此処から出れんねん、おっさん?」
「おっさん、言うな!」
馬車の中から一枚の金貨が文句と共に飛び出し、フジキューとあるみーの間をかすめて、ナカルナードの無防備な頭にヒットする。
レオ丸がのっそりと馬車から降り立ち、煙管を咥える。
後頭部を摩りながら、ナカルナードは金貨を拾い上げ、振り向き様に力一杯投げ返した。
「はっずれー」
馬車の屋根をかすめて、何処か明後日の方向へと消えた金貨を見送り、レオ丸は舌を出した。
「それで、如何でしたか、レオ丸法師? <幻獣憑依>した結果は?」
いつものやり取りに呆れ気味のミスハが、両手を腰に当てて馬車に身を寄せ序でに、レオ丸の顔を覗き込む。
怖くてキツイけど、美人さんは美人さんやなぁ♪
一瞬見蕩れるも、眉根を寄せ眼光を強められるや慌てて真顔になり、レオ丸は皆に聞こえるように、高めの声で報告した。
「ゾーンの境目まで残りニ百メートル。遭遇戦がもう一回あるかもしれん。
<大取り>との戦いは、その直後やな。
出口の所に、デッカイ骨が散乱してたさかいに。
接近するなり組み上がる、<白骨の巨兵>のトラップや。
倒さん事には、此のゾーンからは出られへんシステムやわ。
ワシの記憶では一体だけやったと思うねんけど、シャレコウベが二つあったんが気になる処。
二体なんか、それとも二面一身なんかは、ざっと見では判別付かず。
予定通りに<護国大聖堂>で一旦休憩するには、ちょいと骨が折れそうやわ」
「全員、聞いたな? おっさんのボケは超詰まらんけど、偵察報告の方は信用に値いする。後少しや、気張れよ!!」
「「「了解!!!」」」
偵察班メンバーの返事を聞き、ナカルナードは頼もしげに頷く。しかし、その目に油断の色は無い。
レオ丸が、馬車内に散らばった金貨を幾枚か握り締め、投擲の姿勢を取ろうとしていたからである。
「じゃあ、行きますよ!」
「「はいッ!!」」
無駄な内部抗争に強制終了を宣言する、ミスハ。
自分の方へとそれぞれ向けられた<蓮華弁手裏剣>の切っ先の輝きに、レオ丸とナカルナードは素直に即答した。
ナカルナードを先頭にした偵察班は、均されていない<トリバネ古戦場>の悪路を慎重に進んだ。
御者台に腰を下ろしたフジキューが、軍用馬の手綱を巧みに操り、ゆっくりと馬車を動かす。
廃棄処分名目で砦から放出された馬車の車体は、<地這い巨大虫>の外皮が鋲打ちされた上質な硬木製で、防水耐火布の幌で覆われていた。
一頭立てではあるが、詰めればフル装備の鎧兵士が六人は乗れる広さがある。
馬車内部へと戻り、金貨やアイテムが乱雑に散らばる床に、胡坐を掻いて座り込むレオ丸。
アマミYに取り憑き偵察活動をしていた間、堅い床に横たえていた体を解そうと、座したまま軽くストレッチをする。
ゴトゴトと揺れる車内を見渡すも、限界まで積載された<エンクウ丸太>に視界は全て塞がれていた。
斑無く朱色に塗られた<樹妖>からのドロップアイテムは、片方の先が鋭く削られ一抱えもある杭となっている。
その山と積まれた朱く太い杭の天辺に跨り、一人の小柄な冒険者が一心不乱に何かを彫り付けていた。
「忌無芳一君、お疲れさん」
<刻印呪師>がサブ職の神祇官は、陰陽紋が刺繍されている頭巾を乗せたイガグリ頭を上げ、線のように細い眼の眦を下げる。
<殭屍>を一躍有名にした映画の、主役が着ていたものと同じ道士服を着た青年は、得意げに彫刻刀を一回転させて黙々と作業を続けた。
変則的な九名編成で、夜明けと共に<ヘイアンの呪禁都>を目指し<赤封火狐の砦>へと出発した偵察班。
リーダー役のナカルナードは、<ハウリング>のギルドマスターをしている<守護戦士>で、サブ職は<将軍>だった。
副リーダーのミスハは、<トリアノン・シュヴァリエ>の司令長を務める、<暗殺者>で<人斬り>。
班員の編成も、各ギルドからの寄せ集めとなっている。
<ハウリング>からは、フジキューとトリニータ。<妖術師>で<執事>のエルフと、<武闘家>で<竜使い>の狼牙族の二人。
狐尾族のあるみーは、<トリアノン・シュヴァリエ>の中堅隊員で、<吟遊詩人>で<軽業師>。
<施療神官>で<星詠み>であるセラノミクスは、<甲殻機動隊>古参のハーフアルブ。
<神祇官>の一人、加羅美亭ジェーンは<グラン・ルミナリエ>所属であるが故に、当然の如く<ちんどん屋>である。
もう一人の<神祇官>、法儀族の証である刺青が頬にある忌無芳一は、<壬生狼>の二番隊組長を任じられていた。
「法師が寝ている間に、局長から念話がありました」
全ての作業を終え、するすると杭の山から下りるや、レオ丸の横にちょこんと座り小声で耳打ちする忌無芳一。
床に散らばった金貨を集めて布袋に詰め、回収されたアイテムと共に隅に寄せていたレオ丸は、何気ない風を装いながら<壬生狼>のギルドマスターからの伝言に耳を傾ける。
「“ポンバシに又行きたいんですが、ヤンバルが営巣中で大変です。カラスは飛んで行ったまま戻って来ないし”。以上です」
カズ彦からの伝言を聞いたレオ丸は、右手に持った彩雲の煙管を左の手の平に打ちつけつつ、沈思黙考し始める。
レオ丸は、砦の文書庫に引き篭もり中にカズ彦と念話で幾度か話し合いをし、幾つかの暗号を決めていた。
難しくしても即座に理解出来なければ役に立たないのだからと、冗談レベルに留めてはいたが。
“ポンバシ”とは、大阪ならばオタクの街である日本橋電気商店街の略称で、転じて“アキバの街”を意味する。
“又行きたい”だと“変化なし”の事で、変化があれば“行きましたか?”となる。
“ヤンバル”とは“インクティス/秧鶏”を、“カラス”とは“濡羽”をそれぞれ指す。
“営巣中”とは、“ミナミでの活動再開”を表現したものであった。
「……文字送信や留守電の機能があれば、念話ってもっと便利やねんけどね?」
「そう考えると、僕らの居た元の世界って、メッチャ便利な世界でしたね」
「ホンマになぁ。……まぁ、色々考えるんは休憩地点に着いてからにしよっと」
「今日は何を教えてくれるのか、楽しみにしてます」
忌無芳一の柔和な顔に、釣られて頬が緩むレオ丸。
だが、その表情は瞬時に厳しいものに変わった。
「エンカウント!」と、セラノミクスの会敵を告げる声に。
朱色の杭の山を乗り越え、幌を捲って地面に飛び降りるレオ丸。
その視界に映るのは、通過して来た道の彼方から接近して来る、数え切れぬほどの矮小な人型の影だった。
「うえッ! <餓鬼>かいッ!!」
大きさは乳幼児サイズ、疎らに生えた頭髪と醜悪な面構え、骨と筋ばかりの手足、襤褸布を纏った褐色の体は腹ばかりが膨れた貧弱なもの。
しかし侮る事は出来ないモンスターである。
禍々しく伸ばした爪と牙に触れれば、麻痺のステータス異常を喰らうからだ。
レベルは<ゴブリン(緑小鬼)>程度でも、一匹出れば十匹以上出て来ると言われるくらい群れで襲って来る、実に鬱陶しいモンスターだった。
「こんなん相手にしてたら、日が暮れてまうわ!
セラノミクス君、ちょいと手伝ってくれるか?」
「了解!」
レオ丸とセラノミクスは、馬車へと急いで潜り込んで杭を一本ずつ抱えるや、押っ取り刀で飛び降りる。
「トリニータ君!!」
「イエッサー!!」
宙返りをしながら、馬車の屋根を飛び越えて来るトリニータ。
怪鳥のような声を上げ、レオ丸とセラノミクスが支える杭の真上に、加速度と体重をかけたキックをかます。
朱い二本の杭は、その半ばまで地面に打ち込まれた。
素早く杭から身を引く<武闘家>と<施療神官>。
一人立ち止まったレオ丸は、両手を打ち合せて合掌する。
「若人欲了知 三世一切仏 応観法界性 一切唯心造!!」
レオ丸が“破地獄偈”を唱えると同時に、杭の朱色が輝き出す。
表面を飾るように掘り込まれた真言文字が眩しく光り、大きな火花を道幅一杯に撒き散らした。
荒れ狂う火花は、眼前にまで迫っていたハングリー・ゴーストの先頭集団を、盛大に巻き込んだ。
醜悪極まりないモンスター達は、聞くに堪えない悲鳴を上げ、体表を焼かれ次々に来た方へと弾き飛ばされていく。
「ギリギリ、セーフ!」
両手を水平に広げたポーズで、レオ丸は安堵の溜息をついた。
大地人の術師達が、キョウを防御する為にあちらこちらに立てた、鳥居に似た形状の<退魔バリケード>。
その強化版である<退魔の朱御柱>は、レオ丸の言葉をキーワードとして発動し、遺憾なく能力を発揮する。
何十と現れたハングリー・ゴースト達は、僅か二本の杭により前進を阻まれ、偵察班に襲い掛かる事も出来ず悲鳴を上げ続けた。
「後方担当、ハングリー・ゴーストとエンカウント。
集団に接近を許すも、<退魔の朱御柱>を二本使用し、撃退。
忌無芳一君の匠の技により、被害は皆無なり!」
レオ丸が声高に馬車前方へと報告すると、賞賛の声が帰って来る。
「ほな、行こか。セラノミクス君もトリニータ君も、グッジョブでした」
レオ丸が恭しく頭を下げると、二人は照れ臭そうに、はにかむ。
「もうすぐ、出口や。<がしゃどくろ>を景気よう倒して、すっきりと一息入れようや!」
「「「イエス!!」」」
馬車から降りて来た忌無芳一と共に、セラノミクスとトリニータは威勢よく拳を突き上げた。
そして偵察班の一行は、意気揚々と前進を続ける。
二本の<退魔の朱御柱>に攻撃を阻まれた群れ蠢くハングリー・ゴーストの、悔しげな声をBGMとしながら。
テレビ放映終了の余韻に浸り、時節柄のお勤めをこなしている内に、前回投稿から十日も過ぎてしまいました。反省反省。
秋の第二期放送を楽しみにしつつ、森田一義アワーの終了に寂しさを覚えつつ、次話の執筆に励むとします。
発売されましたTRPGリプレイの巻末資料を参考にしまして、設定を一部変更しました。