第壱歩・大災害+20Days
色々と急がしかったのと、クエスト?の文面を整えるのに、えらく時間が掛かりました。書式を考えるのが、実に難産でした(苦笑)。
色々と訂正致しました(2014.8.18)。
更に加筆修正致しました(2014.12.14)。
リンリンと、昔ながらの黒電話を思わせる何かが、音高く鳴り響いていた。
深い眠りの底にいたレオ丸は、無理矢理に目覚めの水際へと引き摺り上げられる。
レオ丸は無意識に手を伸ばし、寝言のようなモノを漏らした。
「お客様がお掛けになられた番号は、現在電波が届かない所か、電源が入っておりません……」
「寝ぼけんな、おっさん! 起きんかい!」
「誰がおっさんじゃ、ゴルァッ!!」
頭に響き渡る念話越しのナカルナードのがなり声に、反射的に意識を覚醒させたレオ丸は、負けじと大声で怒鳴り返す。
「ジジイにしては、寝起きのクセに元気やんけ!」
「当たり前じゃ! 四捨五入して四捨五入したら、こちとら零歳児やわい!」
「……どんな計算やねん?」
「ほんで、朝っぱらから人を叩き起こして、何やねん!?」
「もうすぐ昼やで」
「……それで、お昼前の貴重な時間に、どのような用件なのかね、ナカルナード君?」
「お、おおぅ? いきなりキャラ変えすんな! おっさんに頼まれた件や」
「もっぺん、おっさん呼ばわりしてみぃ、ぬっ殺すぞ!」
「おっさん! おっさん! おっさん!」
「うぬれ、きさん! 絶対に許さんきに! ……で、そろそろ話を進めよか」
「おう、そやな。一昨日に頼まれた件やが、こっちの方で話が進んだんで、その事後報告や」
「ん? 事後報告って何や?」
「一足先に俺だけ、今そっちへ向かっているさけ、もうすぐ到着するで」
「何やと! 早よ言えや、こんボケが!」
ベッドから飛び起きたレオ丸は、宿泊用に貸与されている部屋の扉を蹴り開け、怒涛の勢いで廻廊の階段を駆け上がる。
間もなくレオ丸は、二階層目から一気に最上階のテラスへと到り、いつものように監視員を監督するバルフォーの元に大股で走り寄る。
「砦将閣下! お騒がせして、すんません!」
「うむ? そんなに慌ててどうしたのだ、レオ丸殿?」
バルフォーの前で立ち止まり、少し息を調え、レオ丸は口を開こうとしたが。
「報告します! 南西の方角より、飛翔体一つを確認!
<鋼尾翼竜>と思しきモノが、真っ直ぐ此方へと向かって来ます!」
レオ丸が言葉を発する前に、周辺監視の兵士の声がテラスに響く。
右の眉だけを動かしてレオ丸を見る、バルフォー。
「……ホンマに、お騒がせして、すんません」
穴があったら入りたい気持ちのレオ丸は、バルフォーに深々と頭を下げた。
「報告のモンスターは、ミナミからの来客で間違いないのかな、レオ丸殿?」
「はい、そうです。一昨日に依頼した通り、ミナミが<冒険者>達を派遣してくれたようです。
……残念なアホが一人、抜け駆けしよりましたんですけど」
レオ丸の脳内に、繋ぎっ放しだった念話を通じて、ナカルナードの怒声がわんわんと反響する。
「誰が、残念なアホじゃ!」
「お前以外、誰が居るか! こんドアホッ!!」
宙を睨みながら怒鳴り散らすレオ丸に、バルフォーは目を丸くした。
「エエか、砦の傍に出丸があるから、……出丸って何かやて?
砦の傍に、お前の大好きな球場くらいの、でっかいグラウンドがあるから、其処に着地せぇ!
ワシも直ぐ行くさけな!!」
念話を切ると、レオ丸は改めてバルフォーに頭を下げる。
「事後報告の形になって、ホンマにすんません。ミナミからの派遣隊の一部が、後先考えずに飛んで来たようです。お借りする出丸に、降ろさせてもらいます。出迎えと指導と制裁が済みましたら、挨拶させに来させますんで。一先ず、御前を失礼致します!」
一息で話すや、すたこらとテラスの片隅に移動し、一階層への直通転移陣の上に立つ、レオ丸。その姿は、直ぐに消えた。
「ふむ。……あそこまで狼狽するとは、よほどの者が来たのだな」
顎鬚に手をやるバルフォー。
その頭上、濃い灰色に塗り潰された天空を切り裂くように、一頭のワイヴァーンが翼を羽ばたかせて横切った。
シルフを召喚し、現実世界では出し得ない加速で、砦の城門から専用通路を使い、出丸へと一目散に駆け込むレオ丸。
広場へと到着するのと同時に、降下して来るワイヴァーン。
「よぉ! やって来てやったぜ、おっさん!」
「きょーいくてきしどーキィ~~~ック!!」
ワイヴァーンから颯爽と降り立ったナカルナードの顔面に、シルフの助けを借りたレオ丸の、ドロップキックが炸裂した。
話は、一昨日の午後に遡る。
バルフォーとの対話の後、第一防人兵団の幹部も加えた会議にて細部を詰め、レオ丸はその内容を伝えるべくミナミの要人、ゼルデュスへと念話を飛ばした。
そしてゼルデュスを相手に、その新たな課題を検討する。
検討した結果を砦の幹部会議に諮り、バルフォーが裁可を下した。
決した内容は、次の十ヶ条。
一つ、冒険者と大地人は、同等の権利を有し、対等の立場で連帯をする。
一つ、連帯の証として、冒険者は大地人より、<赤封火狐の砦>の出丸を租借する。
一つ、その租借権は、ミナミを拠点とする冒険者全員の、共有の権利である。
一つ、出丸は、冒険者が共同で管理する。
一つ、出丸には、常に五名以上の冒険者が駐留し、<ヘイアンの呪禁城>及びその周辺地域を、定期的に探索する。
一つ、探索の際に得られた金貨とアイテムの所有権は全て、それらを獲得した冒険者に帰する。
一つ、砦の出丸内で発生したトラブルは、冒険者の定める規約に基づき厳正なる審査の上で処断される。
一つ、冒険者の定める規約は、砦の出丸内だけに適用される。
一つ、冒険者の定める規約は、大地人には適用されない。
一つ、冒険者の定める規約と、大地人が定める法が相互に抵触する際には、双方の代表者による話し合いにより解決する。
こうして、ゲーム時代には存在しなかった、<冒険者>と<大地人>との新たな取り決めが、生み出された。
産みの親は、レオ丸の舌先三寸。
<フシミ十則>とも言われる内容をクエストの体裁にして、レオ丸はゼルデュスを含む五人の友人達に、念話で依頼した。
ナカルナード、カズ彦、ミスハ、邪Q、イントロンの五人に。
レオ丸の立場は、その時点ではバルフォーの代理人だった。
何れ砦を出立する時には、その立場をゼルデュスに引き継ぐ事も、決定事項となされている。
恐らくその頃になれば、ゼルデュスがミナミの行政を取り仕切る団体の、筆頭になっているであろうと見込んでの事であった。
ミナミでは、レオ丸が代理で伝えたクエストに対し、依頼を受けた者達の間で、急ぎ会合が開かれた。
会合は、ゼルデュスの主宰により、各ギルドの合同で受ける事に同意する。
一先ずは先遣隊を派遣し、現地にて大地人と直接交渉し、暫くは関係者のみで実地演習を行う。
その期間は、一週間とされた。
そして、その結果が良好であれば改めてミナミの街全体に布告し、街を拠点とする全冒険者を対象に、常駐を希望する者を公募する事を、会合出席者は全会一致で承認した。
先遣隊のリーダーは、ナカルナードが就任。暇だから、と真っ先に立候補したからである。
サブリーダーを任されたのは、ミスハ。理由は勿論、お目付け役であった。
先遣隊メンバーの選定が終了し次第、準備を整え、馬で砦へと出立する。
ゼルデュスからの連絡では、明朝にミナミを出立し、同日の午前中に到着する予定との事だった。
そう聞いていたレオ丸は、連日の心理的疲労も有り、今日は終日惰眠をむさぼるつもりで、安閑とベッドに潜っていたのだ。
「約束は明日とちゃうんかい!」
レオ丸は鼻息荒く、蹴り倒したナカルナードを睨みつける。
「俺は用意出来たのに、何でグズグズしとる奴らを待たなならんねん!」
地面に胡坐をかいたナカルナードが、赤くなった鼻を摩りながら口を尖らせる。
「お前は、遠足前夜のガキんちょか……」
がっくりと膝に手を付き、大きな溜息を吐くレオ丸の脳内で、念話の呼び出し音が鳴った。
「もしもし、レオ丸学士! ああ、やっと通じた。一時間も前から、幾度か連絡していたんですよ!」
「済まん、ゼルデュス学士! 思いっきり爆睡してた」
「大至急お伝えしたい事が……」
「前髪が変色しとるクソガキなら、ワシの目の前に居んで」
「……そうですか、既に到着していましたか……」
「……まぁ、想定して然るべし事態、ってヤツかな?」
「止める事が出来ず、申し訳ありません」
「まぁ、済んだ事はしゃあないわな。寝てたワシも悪いし。
こっちの対応は、上手い事やっとくさかい」
「お願い致します。先遣隊の残り二十八名の選抜は完了しましたので、予定通り明朝に出立させます」
「おおきに、お疲れさん! 何卒宜しく!」
念話を終えたレオ丸は、座り込んだままのナカルナードと、もう一人の冒険者に、やれやれと首を振りつつ目を向ける。
「ナカルナード! 取り敢えず此処の大家さんに、お騒がせした事を謝りに行くぞ!
……ほんで、エエっと自分の名前は……?」
「トリニータです! <ハウリング>一軍闘手隊所属です!」
「丁寧な挨拶、おおきに。ワシは西武蔵坊レオ丸や、何卒宜しゅうに」
「此方こそ、宜しくお願いします」
「……ベンチがアホやと、大変やね?」
「もう既に慣れました。平常運転やと思い、諦めています……」
「そいつぁ、良かった! ……いや、良くないか? まぁ、エエわ。
此のアホを、ちょっと借りてくよってに」
「了解です!」
「アホで悪かったな!」
むくれるナカルナードに、レオ丸とトリニータは合い通じる苦笑を浮かべた。
「ほな、手持ち無沙汰にさせてゴメンやけど、此処で暫く待機してて頂戴な」
ワイヴァーンと共にトリニータを出丸に残し、ナカルナードを横に従えたレオ丸は、砦へと移動する。
「見た処、トリニータ君は<武闘家>のようやけど?」
「せや。それが、どないしてん?」
「……そうか! サブが、“ペット職”なんやな?」
「ああ、そうや。<竜使い>を持っとる。ウチの貴重な、航空戦力や」
「ほう、そうかそうか。後で色々と、話を聞かさせてもらおう♪」
「それよりも、何で俺が、大地人に頭下げなならんねん?」
「はぁ!? 何言うとんねん。お前が約束破って、不意打ち紛いの行動をしたからに決まっとるやろが!?」
砦への途上、専用通路の真ん中辺りでレオ丸は不意に足を止め、偉丈夫体型のナカルナードを睨み上げる。
「礼を失したんやから、謝罪すんのは当然やろが?」
「それが、判らん!」
ナカルナードも歩みを止め、中背のレオ丸を見下ろして言い返す。
「なんぼ偉くても、相手は<大地人>なんやろ? たかが、<大地人>やんけ!」
瞬間、レオ丸の頭に血が上る。
口をパクパクとさせ、何か言葉を発しようとするも侭ならず、口を閉ざして鼻で大きく息を吸い、平静を取り戻すためにゆっくりと吐き出した。
「ナカルナード、ちょっと其処に座れや。……ワシと話をしよ」
「おお?」
「ワシも座るさけ、お前も座れ!」
レオ丸が腰を下ろすと、ナカルナードも釣られてどっかと胡坐を掻く。
「聞くけどや、ワシら<冒険者>がこの世界に現れたんは、いつや?」
「知らん、覚えてへん!」
「ほんなら、教えたろ。セルデシアの歴史では二百と四十年前、ゲームで言うたら二十年前の事やな」
「さよか」
「今から二十年前にゲームが発売された時点で、<大地人>と称される人間やアルブやエルフやドワーフ達は共に、ずっとずっと昔から既に存在していたんやな。……NPCとしてな」
「それが、どないしてん?」
「ついこの前、ワシらは改めて、<冒険者>としてこの世界に招来させられた。
ゲーム世界に閉じ込められたんか、別次元のゲーム設定とそっくりの世界かは、今ン処は不明やけどな。
……お前は、どっちやと思うとる?」
「どっちって?」
「ゲーム世界か? 別世界か?」
「そう聞かれると、判らん! としか言いようが無いやんけ!」
「そやろな。ワシにも、どっちか判らん」
「なんじゃそら」
「判らんけどや、他の事で判る事がある」
「何やねん?」
「ワシらが、他所モンやって事や」
レオ丸は、取り出した煙管で一服する。鮮やかな五色の煙が、風に靡いた。
「さっきも言うたけど、本来の此処の住人は<大地人>や。
ワシらはお客さん……みたいなモンや。誰に招かれたんかは、知らんけどや。
ほんで少なくとも、<大地人>がワシら<冒険者>を招いたんとは、どうやら違うようや。
つまり、<大地人>からしたら、ワシら<冒険者>は、招かれざる客、言わば闖入者みたいなモンやねん」
「闖入者?」
「せや。自分の家に突然やって来た、な。
それが、追い出されたり邪魔者扱いされたりせぇへんのは、ワシら<冒険者>が、<大地人>の命を脅かす<モンスター>と戦っているからや」
「ほな、闖入者やのうて、救世主とちゃうんかい?」
「救世主か、……ある意味では、正解やな。
せやけど、自分に置き換えてようよう考えてみぃや。
自分家に突然、凶悪な暴漢が現れた。襲われて必死に抵抗しとったら、急に誰だか判らんヤツがやって来て、暴漢と戦ってくれた。今現在は、誰だか判らんヤツと一緒に、暴漢と戦っている真っ最中。
救世主って言うたら救世主やけど、暴漢と同じくらいに闖入者やんか?」
「せやけど、颯爽と現れた救いの手であるのに、変わりないやろが?
言うならば、それは正義の味方やんけ」
「正義の味方なぁ……、ホンマにそう思うか?」
「ちゃうんか?」
「正義の味方が、正義の味方として存在してられるんは、物語の中だけやで。
現実の世界に居るんは自称“正義の味方”、つまり“自分の持ちたる正義を他者に実力行使する者”、やな。
もしかしたら、暴漢にも“暴漢の正義”ってのが有るかもしれへんやん?」
「……………」
「因みに聞くけど、現実世界でお前は、“正義の味方”やったか?」
「そんな訳あるかい!」
「ワシの知るお前は、正義感は強いけど一介の公務員やわな。
ほな、さっきのトリニータ君は、どないや?」
「確か、市立大学の一回生や」
「ワシやゼルデュス、カズ彦君達かて、現実世界では名もない儚い一般人ピープルでしかないわなぁ。
武器を使って、魔法をぶっ放して、誰かを護って賞賛される。
此処に来るまで、そんな経験を現実世界でしたヤツは、誰一人居らへん。
<大地人>から見て、ワシらが“正義の味方”やったとしても、実情は“正義の味方みたいな行動をしている者”でしかないんや。
ホンマに“正義の味方”なら、少なくとも“災難に見舞われた被害者”である<大地人>に迷惑かけたらアカンのと違うか?」
先日までのミナミでの荒れた光景を思い出したのか、ナカルナードは黙りこくってしまう。
「それにな、ワシらよりもよっぽど“正義の味方”をしてはる人が、此処には居てはるんやで!」
「……誰やねん、その“正義の味方”って?」
「此処の指揮官さんや。四十年以上も最前線でモンスターと戦い、大地人の民を護ってきた、生粋の軍人さんや。
……いや、“最高の武人”と言うべき人やな。
今からその人に、自分を紹介するさかい。
社会人として、恥ずかしない礼儀できっちり接っするんやで」
「…………判った」
「相手を<大地人>と見下すなや。
能力が低うても、決して格下の存在やないんやからな。
自分を<冒険者>やと驕るなや。
ワシらは決して、選ばれた至高の存在やないんやからな」
「五月蝿いなぁ、判ったちゅうたやろが!」
「過去の事を思い出しても、お前にはクドイくらい言うた方がエエからな!」
子供扱いされて腐るナカルナードの肩を、苦笑いしながらレオ丸は、少し力を入れてどやしつけた。
「ほな、挨拶しに行こか!」
沙伊さんの御作『アキバへの旅程』(http://ncode.syosetu.com/n3771bp/)にございます設定を一部お借り致しました。事後報告、誠に申し訳ありません。問題がございますれば、即座に削除・訂正致します。
次話の投稿も、少し時間が掛かるやもしれませぬ。誠に申し訳無いです。