第壱歩・大災害+18Days 其の壱
加筆訂正致しました(2014.8.18)。
更に加筆修正致しました(2017.09.16)。
遙かなる古の昔、ウェストランデ皇王朝の皇都であった、キョウ。
皇統が廃れ、ヤマトが五つの地域に分裂した後も、皇王朝の正統なる後裔を自任する神聖皇国ウェストランデの、都城であり続けた。
その都の、至近距離に<ヘイアンの呪禁都>という魔界が現出するに至った経緯を要約すれば、約240年前に生を受けた斎宮家の一人の公子に端を発する。
彼の公子の名は、シラミネ。
学問好きで内向的、大人しい性格であったと、古文書には記されている。
そして、公子の立場としては些か度が過ぎるほどに、魔術に傾倒していたとも。
何事も無ければ、変わり者の貴種として歴史に埋もれ、語られる逸話すらないような存在として一生を全うするはずの人物であった。
だが、斎宮家を襲った凶事が、それを許さなかったのだ。
事の発端は、執政公爵家を襲った不慮の事故。
鷹狩りに興じていた執政公爵家当主が、落馬して頚椎を損傷し即死したのだ。
最悪な事にその鷹狩りは、執政公爵家嫡子を後継者として正式に擁立する披露式典の、前祝いの余興の最中であった。
執政公爵家当主の急逝という予期せぬ事態に、その場に居た執政侯爵家を盟主に仰ぐ者達が急遽、会合を開く事に。
参加者は、ケイチョウ侯、ソゼン侯、シーバ侯、ナガトースオ侯、マルフォア侯の五名のみである。
後に、五選家とも呼称される有力な五つの侯爵家当主による選定会議は、事態の早期解決を期すべく話し合いを行ったはずだったが、余計に事態を悪化させる事となった。
ケイチョウ侯は、後継候補筆頭である執政公爵家嫡子の推戴を、ソゼン侯は、執政公爵家当主の次弟の推戴を、それぞれ主張したからだ。
十歳の誕生日を迎えたばかりの嫡子と、壮年ながら継承権四位の次弟。
正統なる後継者は長子相続が基本である、とケイチョウ侯は述べる。
混迷の時代には経験ある為政者が望ましい、とソゼン侯は異議を申し立てた。
<六傾姫>の大乱が収束してから凡そ百年が経過していたが、世界には恐怖と狂乱の残り火が至る処で燻り、それはヤマトの地でも同様である。
故にソゼン侯の発言は、ケイチョウ侯の正論に伍する正当性を有していた。
シーバ侯は、ケイチョウ侯の意見に組し、ナガトースオ侯は、ソゼン侯の意見を是としたが、マルフォア侯は沈黙を保つ。
商都オーディアを拠点とする、商人貴族集団の代表格であるマルフォア侯は、二つの拮抗する意見のどちらに最も利があるのかを、計りかねたのだ。
結局、一度目の話し合いは議決に至らず、改めて会議を開く事を約して、選定会議は物別れとなる。
それは事実としての物別れであり、再び勢揃いとなる事は二度となかった。
事態が、急激に悪化したからである。
執政公爵家の跡継ぎ問題は、以前からいがみ合う立場のケイチョウとソゼン両侯爵家の決定的な対立の火種となり、更に多くの貴族達の欲が絡みつき縺れて、解決の糸口は双方の物理的手段でしかあり得なくなったのだ。
内戦とも言えないレベルの、武力行使。
ウェストランデ領内の彼方此方で、小競り合いが勃発し、暗殺者が行き交い、毒薬が盛大に振舞われ、剣と剣が火花を散らす。
豪奢な屋敷の中で、野外の何処かで、流血の惨事が数限りなく生み出された。
流された血の主な名は、以下の通り。
執政公爵家次弟。
ソゼン侯。
シーバ侯。
ナガトースオ侯。
名はあれど特に記すまでもない、多数の貴族達。
彼らの配下の私兵達も多く倒れ臥し、戦場に選ばれた地域に住する無辜の領民達はそれ以上に無駄に命を奪われた。
そして、斎宮家の当主と、その子供達も。
事の発端から数ヵ月後。
キョウにおいて五選家による、二度目の選定会議が開かれる。
議長役は、マルフォア侯。
ソゼン、シーバ、ナガトースオの各侯爵家は全て、思慮も経験も研鑽中といった若輩の当主に代替わりしていた。
ケイチョウ侯は、何れからかの呪詛を元とする死病に冒され病床にあり、臥したまま明日をもしれぬ状態である当主に代わり、家宰筆頭格が発言権も議決権も渡されぬままに、出席する事に。
策を弄する事なく主導権を掌握した、マルフォア侯。
彼は、思うが侭の独断専行で事態の収束案を提案し、有無を言わさず全会一致の承諾を得るや、速やかに実行する。
惨事の責任を押しつけられた執政公爵家嫡子は、キシュウ半島にある<金剛頂山>のコーヤ聖印大霊廟に幽閉、一年後に不遇のまま早逝。
幾つかの貴族家の取り潰しと、財貨の没収。
利権の再調整と再分配、オーディアの権益の強化。
マルフォア侯の独擅場の結果、執政家の新たなる当主に選出されたのは、継承権二位の執政公爵家次男、僅か七歳の少年であった。
序で、事態に巻き込まれる形で落命した斎宮家の当主の跡目は、存命者の内で最も年長の者が選ばれる事に決する。
それが、変わり者の貴種、シラミネであった。
政治の実権は、執政公爵家を頂点とする貴族達が行う。
斎宮家は、年中行事の祭司さえ務めてくれるなら、誰でも良い。
人形のように口を出さず、操られてくれるなら、尚更都合が良い。
こうして、セルデシアに<冒険者>が招来された年に生誕した公子は、二十四歳で斎宮家の当主となった。
執政公爵家の側に群れ集う貴族達にとり、シラミネは現時点において、実に最良の後継者に思えたのだ。
だが。
その期待は、十数年後に裏切られる事になる。
目の前で、父と兄弟姉妹を殺されたシラミネは、内向的な性格に拍車が掛かったが、生母が存命中はその助けもあり、何とか職務を勤め続ける。
しかし数年後、母の死去と共に心の支えを失ったシラミネは、少しずつ壊れ、少しずつ病んでいった。
祭祀を司る時以外は、イセにある居城に閉じ篭ったまま。
キョウや、ヨシノやイコマなどに住まいする貴族達は、安心して己が望むままに政治を壟断し、シラミネの元に怪しげな者達が足繁く通う事を知らされても、放置する事にした。
今から遡る事凡そ204年前、弧状列島ヤマトに最初のプレーヤータウンたる、アキバの街が建設された、その年。
何の前触れもなく、イセを出立したシラミネの一行が、キョウに現れた。
シラミネは執政公爵家に対し、政治の実権を譲渡せられたし、と一方的に要求する。
貴族社会の荒波に揉まれ、一角の政治家に成長していた現当主は、シラミネの言を受け入れるはずもなく、拒絶の旨を即答した。
異常なほどに痩せ、年齢以上に老け込んだ形相のシラミネは、執政公爵家当主を不忠者と断罪し、死を賜ると宣告。
執政公爵家当主は、馬鹿にした様に鼻で笑い、シラミネに慇懃無礼な物言いで即刻イセへと退去するように返答する。
すると。
シラミネは、配下の者達に抑揚のない静かな口調で、命じた。
“賊徒を、成敗せよ”
イセより来寇した一団は、斎宮家当主の御意に無言で従う。
その日の午後。
神聖皇国ウェストランデの王城たる<中之京禁城>の堀端に、執政公爵家当主にマルフォア侯をはじめとする無数の首が、延々と晒された。
正確に言えば。
“此の世界”においては、死体は残らない。
生者の命脈が尽きた後、遺体は血飛沫も含めた全てが光の粒と化す。
残されるのは、死ぬ寸前まで着用していた衣装のみである。
故に。
累々と晒されたのは、デスマスクに類するモノであった。
隅々にまで刺繍が施されたテーブルクロスと思しき白布に、暖炉の煤で描かれた断末魔の表情。
数多の魚拓ならぬ“顔拓”が、べっとりと純白の布に刻まれていたのだ。
併せて。
粉状の炭が混ぜ合わされた赤黒い塗料で汚された豪奢な衣装が、城壁から数え切れぬほど吊るされる。
微風ではかそとも動かぬ幾多の衣装は、項垂れた旗にも見え、たわわに実る彩り鮮やかな“奇妙な果実”のようにも見えた。
執拗なほどに丁寧な手腕で大量殺戮を執行した者は、後に“<六傾姫>の落とし子”と噂される兄弟であった。
兄は容貌魁偉な武人で、名をシュテルンと言う。
弟のエヴァラーギは、小柄だが引き締まった身体つきで、片手は無骨な義手であった。
恐怖と酷薄でキョウを統べたシラミネは、斎宮家の復権と共に、ある企みの実行を密かに図る。
それは、発掘した古代魔法と修得した魔術を駆使し、<冒険者>にも<モンスター>にも膝を屈する事のない強健な、<大地人>の創造。
何者にも害される事のない、ナニモノかを生み出そうとしたのだ。
しかしそれは、魔術と言うよりは魔道と言うべき禁忌の行い、妄念の具現化を企図するモノであった。
<中之京禁城>を真っ赤に染めた血飛沫が乾き、怨念が染みつくように黒く変色する前にキョウの郊外、南西の地へと居を移す。
奇跡的に大乱の毒牙から逃れ、朽ち果てる事なく過去の栄耀を残し続けていた、旧皇王朝歴代皇帝の別邸。
規模で言えば、一つの街に匹敵するその邸宅に篭り、シラミネは妄念を逞しくさせ、妄執へと肥大化させていく。
それから、瞬く間に十二年という時間が、経過した。
積み重ねられた歳月は、貴賎を問わず数多の命を生贄として貪り喰らっていた時間であり、致死毒の如き悪意を四方へと撒き散らす期間でもあった。
そして遂に、シラミネの企図は最も醜悪な形で、完成する。
ミナミの街が建設された、約192年前の事。
酷く歪な実を結んだシラミネの妄執が、破滅的な音を立ててドロリと弾けた。
その結果。
キョウの至近に、“地獄”が口開いた。
大地人としての肉体を失い、邪悪な思念体と変容した斎宮家当主は<堕天の魔道帝シラミネ>の蔑称を受ける存在と化す。
シュテルンは<羅刹王>に、エヴァラーギは<悪鬼将軍>に、それぞれ変質する。
ヨシノとイコマで難を逃れていた封建貴族の生き残りと、イセに取り残されていや斎宮家の分家は恐れ慄き、キョウの傍に現出した“地獄”への対応策を急ぎ講じた。
封印術式に長けた者達を掻き集め、即座に派遣し一縷の望みを託す。
術者達は自らの命を賭して、使命を果たした。
キョウを護持する、|<神聖北嶺(モン・サン=ノール)>のヒエイ聖印大寺院を大いなる基点とした、巨大な封印の魔術結界が出現する。
北の重要支点は、<金鹿大聖堂>。
東の重要支点は、<銀照大聖堂>。
西の重要支点は、<霊蜂大聖堂>。
南の重要支点は、<護国大聖堂>。
そして、キョウ周辺に存在する無数の社・寺院・聖堂が余す事なく全て、結界の補助的存在として利用された。
二重三重に張り巡らされた結界により、<大地人>から堕ちた異形の化け物達は抵抗虚しく纏めて“地獄”ごと、封印される。
<ヘイアンの呪禁都>は、こうしてセルデシアに誕生した。
「……ほんで、レイド・コンテンツの<スザクモンの鬼祭り>が追加される、と」
文書庫の床に寝そべったままで、レオ丸は『私家版・そーなんか? -セルデシア不思議発見!?-』に書き込みをする。
急造の封印は完璧なものではなかったために、<スザクモンの鬼祭り>の発生頻度は概ね、二年に一度の割合だ。
埃を被り乱雑に積み上げられた、書類や帳簿などを引っくり返している際にレオ丸は、過去に<スザクモンの鬼祭り>に挑戦した冒険者名簿を数冊、発見する。
連綿と記載された名前の一覧を辿れば其処には、レオ丸は自分の名前と共に、幾人もの懐かしい名前が記載されていた。
タイガー丸、カナミ、忍冬、五郎八郎、隼人、ウィスラー、ラムマトン、などなど。
そしてその記録が、今から180年前の欄に記されている事に気づくや、レオ丸は止め処なく涙を流しつつ、腹の底から大笑いした。
「随分前、……処の話と違うやん!」
雑多な他の書類に当れば、<ヘイアンの呪禁都>誕生以降の事跡が、几帳面な文字で詳細に記されていた。
難を逃れた執政公爵家の縁者が、現在の執政公爵家を継承するために、古都ヨシノから大軍を率いてキョウに入城し、即位の礼を挙行する。
分家に引き継がれた斎宮家は、あらゆる実権を剥奪され、改めて聖宮イセの居館へと押し込められた。
執政公爵家配下のブラックバレー子爵家が、代々の襲職としてヤマシロ守護職を拝命するや直ぐさま、荒廃した<中之京禁城>を一から再建する。
続けて、統括するヤマシナ・エリアを二つの管区に分け、前線のフシミ管区に<赤封火狐の砦>を、後衛のレンゲ管区に<金護鳳凰の砦>をそれぞれ建設し、ヨシノやイコマそしてイセを護る為の防衛線を敷いた。
因みに、ヤマシロ守護職の権限は京都府に相当する全域に及ぶが、<ヘイアンの呪禁都>とキョウの一帯を重視するあまり、それ以外の地域は治外法権としているのが現状である。
所詮は貴族達のする事、自己の権益と上層への覚えさえ良ければ、後はどうでも良いのだった。
自衛手段のない村々で無辜の民が、幾らモンスターに襲われ尊い命を散らそうと、自己の利益に直結しなければ取るに足らない些事なのである。
「んで、現在に至る……。どっとはらい」
書き込みを終えた『私家版・そーなんか? -セルデシア不思議発見!?-』を閉じ、鞄に収納してからレオ丸は、草臥れたようにノロノロと床から起き上がった。
「冒険者になって有り難いなぁと思うんは、肩凝り腰痛と無縁になった事やな!」
「ご要望とあらば、全身隈なく内臓までも、揉み解して差し上げますが?」
書架にハタキをかける、姉さん被りに割烹着姿の<家事幽霊>のタエKは、分厚い瓶底眼鏡を殊更妖しく光らせた。
「全然オッケー問題なし! 雨でも風でも大丈夫、やからッ!!」
慌てて手を振り、拒絶のポーズを取るレオ丸に、タエKは舌打ちする。
「……どっかに、お淑やかで心細やかな、モンスターって居てへんかなぁ?
もしも居るんなら、直にでも従者契約をするんやけどなぁ……」
「ご主人さ~んッ! 時間ですよ~~~ッ!!」
突然、騒音と地響きを立てて文書庫の扉が開き、申し訳程度に衣を着けた濃い褐色の巨体が現れた。
一面六臂の鬼神、<暗黒天女>のアンWが軽快なステップを踏みながら満面の笑みで、ライオンの咆哮の如き声を発する。
「教練の、お時間で~~~すッ!」
がさつ、に過ぎるアンWの大雑把な来襲に、綺麗に整理された書類が床に掃き寄せられた埃と共に、ヒラヒラと宙を舞う。
タエKは静かに冷笑を湛えるや、ハタキを圧し折って床に投げ捨てた。
続けて、書架に立て掛けてあったモップを槍のように、鋭く構える。
それら一連の出来事を無言で眺めていたレオ丸は、そっと嘆息する。
「……プリーズ、ギブ・ミー・貞淑。
そんなモンスターが何処かに居るんなら、契約しましょう、そうしよう!
地面に頭が減り込むほどの、土下座をしてでも必ずや……」
タエKのモップで、アンW共々文書庫を追い出されたレオ丸は、一階層の錬兵広場に足取り重く降りる。
広場には、三十名の大地人兵士が並び立っていた。
「一同注目! レオ丸法師殿に、敬礼!」
<赤封火狐の砦>駐留の、常備軍第一防人兵団第五小隊隊長の掛け声に、一糸乱れぬ敬礼をする兵士達。
毎度の事ながらレオ丸は、この時間に慣れる事が出来ない。
刑事物ドラマでよく表現される、捜査本部が設けられた会議室へ管理職が入室するシーンみたいやねんもん、と。
「ええっと、まぁ……楽にして下さい」
「一同直れ! 傾聴!」
腰の高さほどの壇上に立ったレオ丸は、先ほどとは意味合いの違う嘆息をしながら、今日の講義を始める。
「取り敢えず、皆さん座って頂戴な」
「一同跪座!」
「ほな、始めますで?」
レオ丸は短い詠唱で、<亡霊>を従者召喚した。
「皆さんお馴染みの、ファントムでおます。此の程度のレベルやと、攻撃力は大した事あらしまへんわな?」
実体を持たぬぼんやりとしたモンスターはフワフワと宙を漂い、レオ丸の隣で豊かな胸も誇らしげに立つアンWに体当たりをかますも、痛痒を与える事無く弾き返される。
「せやけど、攻撃への回避力は高い」
アンWが腰に差した円月刀を一本、居合い抜きし斬り付けるが、その斬撃をファントムはフワフワとしながら躱す。
「結構、鬱陶しい相手やわな?」
残る五本全ての円月刀を抜き放ったアンWは、憤怒の形相となりながら今日もムキとなりつつファントムに襲い掛かった。
数回の攻撃の後、フワフワと宙を逃げ回るファントムを漸くの事でズタズタに切り裂いたアンWは、人目を憚らずに勝利のダンスを舞い踊りだす。
その姿から視線を逸らして、レオ丸は講義を続けた。
「……結構、鬱陶しいかもしれんけど、気にせんといてな?
さて、ほんでや。
今みたいに物質的攻撃は中々当らへんし、魔法攻撃にも抵抗力がある。無視してもエエけど、目障り此の上ないモンスターや。
特に、大量に現れた場合には、煙幕を張られたんと変わりなくなってしまう。
ほんなら、どうしたらエエやろか?」
眼下を見渡したレオ丸は、指し棒代わりの<彩雲の煙管>で一人の兵士を指し示し、回答を促す。
「<露払い>でしょうか」
襟と袖の徽章の色が他の兵士達とは著しく異なる、<神祇官>の職を持つ若い兵士が、素早く起立して答えた。
「エークセレーント! それも、一つの有効な手や!
でもね。
自分やったら、もっと効果的な方法があるで?
例えば、<鏡の神呪>、やね。
出力を抑え気味にして数度連射したらば、<鏡の神呪>の光線を嫌うファントムの行動を大きく制限し、敵ながら此方の都合通りにコントロールする事が出来る。
大量に現れても、何とか対処するための時間を稼げるし、な。
もしその場に、二人以上の<神祇官>が居るんなら、一ヶ所に追い込んで一網打尽にしたらエエわな。
撃滅する際に有効なんは、マジックアイテムの武器か、魔法攻撃や。
……魔法攻撃に抵抗力がある言うても、効かへん訳や無いからな。
ファントムよりも、レベルが上の魔法職の放つ攻撃ならば、何ら問題なくダメージを与えられるさかいに」
再びレオ丸は短い詠唱で、ファントムの上位種である<幽鬼>を召喚した。
<召喚術師>はレベル上昇する毎に、召喚するモンスターを高位種に変更する事が出来る。
バージョンアップ出来る従者モンスターは、<ファントム><ゴーレム><スライム><ソードプリンセス>の四種類。
多くの<召喚術師>は、その可憐で凛々しい姿の<ソードプリンセス>を向上させる事に血道を上げた。
割合で言うならば、<ソードプリンセス>七割五分、<ゴーレム>一割五分、<スライム>九分五厘、残りが<ファントム>となる。
レオ丸は元々、最も声の小さいマイノリティであった。
現在は、ビルド自体を変更したために、そのような事はないが。
だが、昔取った杵柄は衰えていなかった。
召喚された、黒ずみ古びたボロボロのシーツのようなモンスター。
仄かに赤黒い目を瞬かせたレイスが、レオ丸の頭上に現れる。
「レイスは、ファントムよりもかなり手強い相手や。
HPも回避力も魔法抵抗力も、格段に高い奴やな。
しかも、物質的攻撃力が意外とありよるから、要注意やわな」
黒ずんだシーツの両端が持ち上がり、そこから禍々しい鋭い爪が覗く。
「まぁそれでも、<食屍鬼>の<毒爪>や、<彷徨う悪霊>の<死病の爪>に比べたら追加ダメージがない分、なんぼかマシやけどな?」
一通りの説明をするとレイスを帰還させ、次は<動く骸骨>を召喚する。
その後も、レオ丸の講義は続いた。
<グール><スペクター><燃えさかる悪霊><幻影悪鬼><歩く死体><吸精屍鬼><帰参鬼><滅せぬ死体><殭屍><死霊王>、<白骨の巨兵>、<死肉の巨兵>などは、流石に実物を召喚する術を持たないので、継ぎ合わせて大きくした羊皮紙に、学者スキル<精密真写>で描いた絵を用いて、特徴と注意点を説明する。
アンデッド系モンスターついて語り尽くした後、レオ丸は<人喰い鬼>の解説をするために、オーガの上位種である<喰人魔女>のアキNを呼び出した。
「ってな訳で、本日の座学は終了です」
「一同起立! 教授師、レオ丸法師殿に対し、敬礼!」
「「「御教授、有り難うございました!」」」
「はい、御静聴おおきにさんでした♪」
レオ丸は、深々と頭を下げて敬礼に答える。
感謝の眼差しをする兵士達に背を向け、壇からひょいと降りるレオ丸。
「ほな、小隊長さんの指示に従って班分けしたら、模擬戦を開始してな」
真面目くさった表情で、レオ丸は振り返った。
その背後で、六本の円月刀を振り上げて威嚇するアンWと、巨大な牛刀に舌を這わし威嚇するアキN。
「あ、先に言うとくけど、怪我したらアカンから、今日も模擬刀でやってな?」
ガッシャーン! と、レオ丸の後ろから音がした。
得物を取り落としたアンWとアキNは、しょんぼりと肩をも落とす。
「ほな、始め!」
レオ丸はその一言を残し、再び文書庫へと引き篭もった。
<ヘイアンの呪禁都>の由来をでっち上げました。
くど過ぎたかもしれません。
それと、改めて調べてみれば、アンデッド系モンスターって意外と多いですね。
…ネクロマンサー街道まっしぐらの主人公に、ちょいと同情です(苦笑)。