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第零歩・大災害+4Days 其の弐

加筆訂正致しました(2014.11.15)。

「なぁ、おっさんよぉ。……エエ加減に観念したらどうやねん?」

「あんなぁ、前にも言うたけどな。おっさんやのうて、オッさんと発音してんか!」


 レオ丸は、肩に置かれた手を払いのけるようにして振り返るや、胸を反らし睨み上げた。

 建築機械じみたゴツゴツとした鎧を纏い、むさ苦しいほどの髭面をした巨漢が、迫力満点に見下ろしている。


「おっさんは、おっさんやんけ!」

「確かにおっさんではあるけどな、見た目がワシ以上におっさんのお前に、おっさんて言われるとな、心理的ダメージが計り知れんくらいあんねん。

 それにな、おっさんはオジサンの略でな、オッさんとは意味が違うねん。オッさんはやな……」

「どっちでもエエやんけ、そんなもん。それよりや!」

「キャッチセールスなら、お断りやで」


 面倒臭げに手を振って、会話を切り上げようとするレオ丸。


「また即答かいな……」


 小走りで出口へ向かうレオ丸を、巨漢は大股で追う。


「もうそろそろ、ぼっち生活にケリつけへんか?」

「嫌やね。それにぼっちと違うし!」

「相っ変わらず、ギルドに加入してへんやろが。誰がどう見ても間違い無く、ぼっちもんで確定やんけ!」

「エエから、ほっといてんか」

「ほっとかれへんから、言うてんねん! 寂しいまま孤独死して、一週間後に異臭騒ぎで発見されて、汚物扱い受けて……」

「やかましわ! それにワシら冒険者は、名誉の戦死をしようが腹上死しようが、即行で復活するやろが。

 ピッチピチの蘇りをするさけ、腐乱死体になんぞなるかいや!

 もし仮に、アンデッドになってしもうたら、毎晩お前の枕元に現れて子守唄を絶唱したるさかい、安心して待っとけや!」


 二人はギルド会館の玄関を出るや、階段を一気に駆け下りる。


「アニキにも、頼まれてんねや!」

「何て?」

「アイツを改心さしたってくれ、って」

「余計なお世話や!」


 ラテン気質と称される関西人が集まるこの地では、以前の日常を取り戻そうと行動する者達が、<大災害>の当日には早くも現れた。

 五日目ともなれば、賑やかな会話がそこかしこで見受けられ、郷愁を誘うのか単なる習性なのか、湿った煎餅味のタコ焼きやウドンを頬張りつつ、夜の帳が近づく中でバカ話に花を咲かせている。

 そんな細やかな喧騒に包まれるサターン広場へと飛び出した、<召喚術師(サモナー)>と<守護戦士(ガーディアン)>は、とある舶来アニメのネズミとネコのように追い駆けっこを続けた。


「タイガー丸にも言うた事あるし、自分にも遙か昔に言うたかもしれんが、もう一回言うとくで!

 虫食いだらけの脳味噌に、ようよう刻み込んどけや!」


 人混みを掻き分け、サターン広場中央に据えられた見上げるようなオブジェの許へ急ぐ、レオ丸。

 広場の名前の由来になっている、ロケット状のオブジェに凭れかかり待機していたナオMの傍に立つと、レオ丸はナカルナードを睨め付ける。


「ワシの体には、獅子の蒼き血が流れとんねん。ライオンのブルーブラッドの誇りにかけて、はっきり言うぞ。

 アルプススタンドでジェット風船飛ばすんが生き甲斐の集団と、アホみたいに群れて飛び跳ねる気なんぞ、さらさら無いんじゃ!」


 吐き出された心からの叫びは、周囲にいた冒険者達を刺激した。


「何やと、われぃッ!!」

「俺らに喧嘩売っとんか、コラァッ!!」

「逝てもうたろか、おうボケェッ!!!」


 ミナミの街最大最強と謳われる巨大戦闘系ギルド、<ハウリング>の団員三名が顔を真っ赤にして、その名の通りに吼え盛った。

 さすがに武器を抜いたりはしないが、拳を握り戦闘態勢に入る。

 シャーッと威嚇音を発しながら、ナオMが主人を庇うように前へ出る。

 すわ、一触即発の状態となる、サターン広場。

 娯楽に飢えている他の冒険者達は、火の粉を浴びない距離を取り、無責任に囃し立てた。


「判った!」


 <ハウリング>の団員を押し退けた巨漢は、無精髭でボサボサの顎を擦り、頭を掻きつつ溜息を吐く。


「そこまで言うんなら、もう誘わへんわ」

「へ? 団長のお知り合いですか?」

「そや。せやから此処は俺の顔に免じて、拳を下げぇ」


 渋々と矛を収める団員達。


「スマン! ワシが言い過ぎた。自分らを馬鹿にする心算は無かってん。勘弁な」


 警戒を緩めないメデューサの二の腕を、そっと叩いて控えさせると、レオ丸は深々と頭を下げた。


「ゴメンな、しょうもない事言うてしもて。しかも、“名門出身(ブルーブラッド)”なんて恥ずかしい台詞を口にするなんて……。平民の分際で申し訳無し」

「相変わらず、よう判らん謝罪やな。……まぁエエて、俺もしつこ過ぎたわ」

 

 団長(ギルマス)として<ハウリング>を率いる、“剛勇無双”の二つ名を持つナカルナードも、軽く頭を下げて苦笑いする。


「見せもんは終わりや。はい、散った散った!」


 ナカルナードは大声で野次馬達を解散させると、レオ丸に歩み寄る。


「そやけど、気にかけてんのは、ホンマやで」

「おおきに、ナカルナード」


 どちらともなく手を伸ばし、笑顔で握手を交わす二人。しかし直ぐに、片方の表情が苦痛で歪んだ。


「痛い! 痛いって、ナカルナード!」

「……やっぱ、許さへん」


 レオ丸の手を捻り上げ、凶暴な笑みを浮かべるナカルナード。


「えっ! ちょい待てや!」


 そのまま高々と吊るし上げられ、続いて腰を横抱きにされ、あっという間に両足を掴まれる。

 気が付けばジャイアントスイングの体勢に、レオ丸は持ち込まれていた。


「待て待て待て待て待て、待たんか~いっ!!」


 聞く耳持たないナカルナードは、些か楽しそうに回転を始める。

 助けの手を出しかね、召喚主の危機にオロオロとするナオM。

 観覧する団員達は、面白がって手を叩いた。


「虎をバカにするヤツには、天罰や! 虎ファンちゃう大阪人は、星にでもなってまえ~~~っ!!」


 放り投げられたレオ丸は、暮れなずむ空の雲間に消えて行った。捨て台詞を一つ残して。


「大阪の人間が皆、トラキチやと思うなよ~~~~~~~ッ!」


 彼方でキラリと一つの光が点る。その光を目指し、ナオMは蛇身をくねらせながら大慌てで這って行った。


「あの、団長。大丈夫なんすか?」

「ああっ? 何がや!?」

「その、暴力行為は禁止すっよ?」

「<衛士>が来て、<牢獄>に放り込まれるんちゃいますか?」

「はん! 単にじゃれてただけじゃ! こんなん暴力の内に入るかいな!」

「はぁ、そんなもんすか……」


 ワイワイと騒ぐ彼らの耳に、何かが羽ばたく音が届く。

 音がした方向はナカルナード達が見詰める先、レオ丸が飛ばされて行った方向からだった。


「あ~~~、エライ目にあった」


 捕らえられた小人型宇宙人のように、だらしなく万歳をした格好で、レオ丸が無事の帰還を果たす。

 両手は、鳥の翼を持つ巨大なモンスターの脚爪に、ガッチリと掴まれていた。


<誘歌妖鳥(ハーピー)>、デカっ!」


 <ハウリング>の団員の一人が、思わず呟く。

 確かにそのハーピーは、通常のタイプよりも一回りは大きかった。

 力強く羽ばたく黒い翼が、沈む夕日に照らされ艶やかに映える。


「カフカSちゃん、おおきに♪」


 レオ丸を離すと、カフカSはオブジェを止まり木代わりにふわりと止まり、流麗に一鳴きした。

 不恰好に着地するも、反動で立ち上がるレオ丸。

 後ろからは、もう離れないとばかりにナオMが抱きつき、勇ましくも威嚇音を発している。


「いまいち納得いかんが、一応感謝しといたろう。投げ飛ばしてくれておおきにな、ナカルナード」

「何がやねん?」

「また一つ、この世界が理解出来たかもしれんからや」

「どういうことや?」

「今から説明するわ」


 レオ丸は、先ほどカフカSの出現に驚いていた団員を、思わせぶりに指さした。

 淨玻璃眼鏡(モーリオン・ゴーグル)越しに、ステータス情報を確認するレオ丸。


「え~~っと、名前は、……アンディーツ君か。突然やが、自分に質問や」

「へ、何ですか?」


 しっかりと巻きつけられたナオMの両手を優しく外し、歩き出すレオ丸。


「例えば、軽く当てたパンチ。ちょい強めにいれたキック。知人相手にこれらをしたら、それは暴力行為かいな?」

「微妙っすね」

「ほな、ボケに対するツッコミとして、叩いたり、チョップをかますんは?」

「そんなん、挨拶レベルですわ」

「ほな、リアクション芸人がテレビでよくやられてる、プロレス技をかけられたりするんは、どや?」

「……暴力行為やないと思います」

「じゃあ、苛めっ子に毎日毎日、軽く小突かれていた子が自殺したら、小突くんは暴力行為やろうか、な?」

「……その場合は、暴力行為やと思います」


 手を後ろに組み、行ったり来たりを繰り返していたレオ丸が、ふと足を止めた。

 懐から<彩雲の煙管>を取り出し、口には咥えずタクトのように振り回す。


「実に線引きが曖昧やわな。現実世界でも、この世界でも。

 今さっき、ワシは大怪我どころか下手したら首折って死んどるかもってくらい、投げ飛ばされたやんか。

 せやけど幸いにして、<冒険者>の体や。

 少々の 事では怪我せぇへんし、例えHPが真っ赤な短いバーになったとしても、一晩寝たら全然OK問題無しやん?

 早う直したいと思うんなら、ポーションか回復魔法を使うたらエエ。

 膝蹴り食らって壁にめり込まされたとしても、この世界ならそないに大した事やあらへん。

 ……現実世界やったら大事やし、下手したら大惨事やけどな。

 さて、ここからは、ワシの推論や。不備があったら遠慮無しにツッコんでな」


 煙管でビシッと、アンディーツを指すレオ丸。


「このミナミの街、或いはアキバやナカスなどのプレイヤータウンは全て、<冒険者>に取って絶対安全圏である。

 前提条件でもあるこの事は、<冒険者>だけやなく<大地人>にも適用される、周知の事実や。

 その所以は、<衛士>がガッチガチに守っとるからやわな。

 ほな、<衛士>は何から何を守っているんやろか?

 それは、“敵意”や“害意”から“安心”を守っているんや、とワシは考えとる。

 そんな絶対安全圏での暴力行為って言うんは、“加害者の害意”と“被害者の恐怖心”で成り立っているんと違うかな?」


 くるりと煙管を回転させ徐に咥えると、レオ丸は五色の煙をくゆらせた。


「“害意”と“恐怖心”を並べ比べて判定し、それがある一定の基準を超えたら、<衛士>が出動して加害者を<牢獄>に叩き込んだり、悪即斬殺で<大神殿>に強制送還しやはる。。

 誰が何処でどんな風に、判定してるんかは知らんし、想像もつかへんけどな。

 さて、今の場合。

 ナカルナードに“害意”はあまり無かったやろうし、ワシもそないに“恐怖心”は湧かへんかった。

 結果、その判定基準を超えへんかったから、今の出来事は暴力行為と認定されず、<衛士>は来ぇへんかった。

 もしもや、被害に遭った者が絶望的なほどの恐怖心を抱いても、危害を加えてる奴が全く害意を持ってなかったら、基準を超えへんかもしれん。

 言い換えれば、<善意の虐待>や<愛情溢れる体罰>は、全くお構い無しって事になるかもや。

 ……これって、怖ないか?」


 美味そうに煙を吐き出すレオ丸の、口調は苦いものだった。


「つまり、ワシが一番言いたい事は、や。

 <冒険者>は節度を持って、自分で自分を律しながら生きなアカンって事や。

 大概の事は何とでもなるやろし、何とか出来る存在やからこそ、何をしてエエんか、何をしたらアカンのか。

 それを常に考えなアカンのや。

 いつになったら開放されるか判らん拘束された今やけど、別に自由まで奪われた訳やあらへん。

 かと言って、誰もが自由を謳歌し過ぎたら、誰かの自由を奪う事に繋がるわな。

 <衛士>の存在って、何でも出来るからって何やってもエエって訳やないで! って事を、<冒険者>に知らしめる為に存在するんや無かろうか?

 現実やったら法律があるけど、残念ながら現状はそんなもんあらへん。

 しかも、ゲートから外へ出たら<衛士>って抑止力も出て来ぃひん。

 無法のし放題、治安ゼロの世界へ、いらっしゃ~いやな。

 嫌がる相手を暗がりに引きずり込んで、無理矢理に陵辱したとて、官憲が存在しないんやから逮捕されへん。

 泣き喚く相手をフルボッコの嬲り殺しにしても、罰すべき法も無いんやから、それは悪事では無い。

 実際、時代劇の辻斬り並に、PKを趣味と実益で楽しんどる奴らが居るやん?

 輝く未来と言われた新世紀を迎えて大分経つのに、今のワシらを取り巻く環境はマンガのような世紀末状態やわ。

 せやけど、自制心は所持しとるやろ? 守るべき行動規範は、皆がそれぞれ今までの人生で学んできとるはずや。

 <冒険者>は常に<人間>であらねばならんのや。

 “敵意”と“害意”をばら撒く<モンスター>になったら、絶対にアカンのや!

 今のワシらって、遊びの延長線上に居るつもりで、実は強制的な修練の場に居るんと違うかな?

 後は、やらされる勉強の時間として過すんか、自発的に楽しみながらの学習時間として過すんか、の違いやな。

 まぁ少なくとも、何も身につけんと無為に過すんは嫌やな! ……って、人の話をちゃんと聞けや!」


 耳に小指で穿りながら欠伸をするナカルナードに、レオ丸の怒声が飛んだ。


「説教、長いわ!」

「説教ちゃうわ。ホンマに脳筋はこれやから……」


 がっくりと肩を落とすレオ丸。

 しかしアンディーツと他の団員、それと周囲で立ち聞きをしていた見知らぬ冒険者達が、それぞれ眉根を寄せ真剣に考えている様子を見て、気を取り直す。

 更にもう一つ、とレオ丸が言いかけた時。

 レオ丸の背後から、奇声が発せられた。


 暗がりから飛び出して来た一人の<武士(サムライ)>が、抜き身の太刀を袈裟懸けに振り下ろす。


「武器で傷つける行為は、例えそれが掠り傷でも、“害意”を超えた“殺意”と認定される……」


 不意打ちの凶刃に、背中を断ち割られたレオ丸は激しく血を噴き上げ、糸の切れた人形のようにバタリと倒れ伏した。

『ログ・ホライズン』第7巻の冒頭に登場したナカルナードと、設定にありますタイガー丸を勝手に利用させて戴きました。<ハウリング>は名前からして、恐らくタイガース・ファンの集まりだろうと。因みに筆者は、在阪の西武ファンです。

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