第壱歩・大災害+13Days 其の伍
加筆訂正致しました(2014.8.18)。
更に加筆修正致しました(2014.12.3)。
「卑怯者の飛び道具、ですか」
「そや。反則技だろうが、裏技だろうが、何でも使うてな。ワシみたいなんは、小狡く立ち回らんと」
「では、そのアイテムが、反則技の一つなんですか?」
「うん、荒業かもしれんけどな。……サブ職<学者>は、有りもしないモノは記録出来ない。
そやけど、有ったモノの情報を複数繋ぎ合わせて、有り得るかもしれん可能性に体裁を整えたら、記録出来るんや。
記録出来た事は、この世界に存在する事象と化す。
つまり、例えそれが捏造であっても、体裁さえ整えたら事実になるんや。
……知らんかったやろ?」
「捏造、ですか……。それはまた、何とも……」
「<外観再決定ポーション>のもう一つの主原料は、<純潔なる雌熊の毛皮>。
<嵐熊>のメスが、稀にドロップする素材アイテムや。
<外観再決定ポーション>は、“情報”を“物理的”“理論的”の両面から変質させる事で、身長や体重は当然の事、髭の有無や瞳の色まで変える事が出来る。
<純潔なる雌熊の毛皮>は、物理的変化の触媒。
<シノダ葛の若葉>は、理論的変化の触媒なんやね」
「それで理論的変化、つまり情報操作の面だけを取り上げた、と」
「条件その一、<シノダ葛の若葉>は、情報を理論的に変化させる事が出来る。
条件その二、<動く骸骨>の上位種に、<竜牙兵>が存在する。
条件その三、竜牙兵は竜種の牙を媒介として、現出する。
条件その四、竜牙兵の外見は、召喚主の任意で決める事が出来る。
事実から都合の良い部分だけを抜き出して、破綻のないように文章を構成し、ノートに書き込む。
<大学者ノート>は、<妖精王の紙>と似たようなモノみたいやねんな。
後は、その文章を脳裏に浮かべながら、スケルトンを召喚する。
手順は以上や。考えてる最中は難しいなぁって思ったけども、答えに辿り着いてみたら大した事はなかったなぁ」
「流石は、レオ丸学士、ですね。……参りました」
「ステータス確認をすると、ハイスペック・モンスターやねん。……ステータスは、な。
けど、実際の竜牙兵とは違うから、強さはスケルトンとなんら変わり無いねん。
所詮は視覚情報の変化、どっちか言うと視覚情報の変造やな。
ワシが会得した<口伝>の名称は、<虚仮威し(ショウイング・オフ)>やった。
……会得を知らせるメッセージが出た途端、膝が砕けそうになったで。
もうちょい、格好エエ名称にならんか? ってな。
まぁ、言われたら確かに、そんな感じの技やねんけどな?」
「実に有益な示唆ですね。御教示、誠に感謝致します」
「サブ職にも、出来る事が何かあるはずや、って思うてたらホンマにあってん。
……あ、良かったら何枚かページを切って、あげよか?」
「宜しいんですか?」
「ゼルデュス学士にも、何か新しい発見や発明が出来ひんか、色々試してみて欲しいねんわ、マジで」
「ですが、切り離したら効果がなくなるのでは?」
「ノートに綴じてても、バラバラの紙片になっても、アイテムの名称が変わるだけで、能力は全く変わらへんねん。……鑑定してみたら判るわ」
「確かに、<大学者の覚書>となってますね、十枚とも全て」
「タネ明かししたら、大した事やないやろ?」
「いえいえ、十分に大したもんですよ。……そちらの女性の事も」
「やっぱ、判る?」
「ええ、判ります。ステータス確認すると、表示される情報に、時々ノイズが走りますから」
「<大地人>は騙せても、<冒険者>を騙すんは難しいな」
「注意深く観察すれば、一発でバレますね。……うっかり者ならば、引っかかるかもしれませんが、ね」
「彼女が胸に着けてるブローチな、鑑定したら判るやろうけど、<シノダ葛の若葉>を加工したモンやねん。
これも以前、<細工師>職の知り合いに造ってもろうたモンや。
効果は、ステータス表示を誤表示させる、って程度や」
「それも、<大学者ノート>を使用されたんですか?」
「うんにゃ、違うよん。これは<シノダ葛の若葉>製のブローチに、<シノダ葛の若葉>パウダーの煙を纏わせて、効果を倍化させただけや。……そろそろ効果が切れるんかな?」
「なるほど」
「ワシの連れ合いで、外見が人間と変わらへん者がほとんど居らへんねんわ。
ブローチの効果のほどに今一自信がなかったんでな。
見掛けが一番人間らしいんが、彼女だけやねん。
ま、バレても何とかなるかなと。
……それで、聞きたい事は、以上で終わりなん?」
「そうですね、現時点では以上です」
「ほな、ワシからの提案を言わせてもらうけど、エエかいな?」
「どうぞ、お聞きしましょう」
「ワシからの提案は、三つや。
一つ目は、今までとは違う新しい冒険を模索せんと人生がドン詰まりになるかもしれへん、未熟な冒険者達に目配りして欲しい」
「具体的に、言ってもらえますか?」
「<PK>やら何やらで、ミナミに引き篭もってしまった人ら、やな。
恐らく、よっぽどの事がない限り、冒険者らしい行動は出来ひんやろう。
そんな冒険者達が、ミナミの街でちゃんと生活が出来るような施策を、考えて欲しいんや」
「それは、彼らの問題では?」
「そやねんけどな。こうやってミナミを離れるとな、何か大事なモンを見捨てて来たような気がしてな……」
「気にし過ぎじゃないですかね?」
「かもしれん、かもしれんけどな、……どーも気になるねん。
果たして、此れから大きく変容するやろうミナミで、冒険に出られへん冒険者が果たして、生きていけるんかな?
差別されたり、排除される対象に、ならへんかな?」
「否定は出来ません、ね」
「昨夜、クロストライアングル広場で合唱する歌声を聞いた時、思うてん。
此の輪の中に入れんかった人らは、これからどうなるんやろ? ってな。
ワシら日本人は、村社会で生きるのが一番安心出来る民族やん。
その村から飛び出して、独力で頑張れる奴なんて一握りしか居らん。
ワシかて、念話でいつでも自分らと繋がれるし、連れ合いが何人も居るさかいに、こうやってミナミを離れる事が出来たんや。
小さくとも、村社会に属し続けているからこそ、冒険が出来るって訳や」
「つまり、村社会に属し損ねた者達への、救済措置ですか……」
「もしかしたら、そんな冒険者が、此れから更に増えるかもしれんし。
それにな、彼らを救済する措置は、そのままミナミに住む大地人への融和政策にもなるんや。
<大地人>も、<冒険者>の村社会から、外れた存在やからな。
さて、ゼルデュス学士。
自分なら、その方法を見つけられるとワシは思うたんやが、無理やろか?」
「買い被り過ぎのような気がしますが、高く評価して戴いた事には、感謝します。
……分かりました。レオ丸学士の課題に、挑戦させて戴きます。
経営学修士の資格が伊達じゃない、って事をお見せましょう!」
「二つ目の提案は、ナカルナードやカズ彦君、邪Q君にミスハさんにイントロン君達、彼らに色々と配慮して欲しいんやわ」
「また、他人の事ですか?」
「ワシの事は、一番最後や。
後始末を全て押し付けたのに、彼らの事をさて置いて、自分だけのお願いを言うほど厚かましい生き方が出来るんなら、もっと暢気にえげつなく行動しとるわ。
出て行け! って言われても、図々しくミナミに居座り続けるって!」
「確かに、レオ丸学士がそんな人間なら、私も付き合い方を考える処ですね」
「せやろ?
それで、ナカルナードは心と体は最高値やけど、頭は期待値以下やからな。
<ハウリング>の幹部連中がフォローしとるけど、暴走を始めたら止まるまでに、どれだけ被害がでるやら判らへん。
その辺を上手いこと、コントロールしたって欲しい。案じよう頼むわ。
カズ彦君は、真面目な人柄なんでな、此れから更に背負い込むモンが増えるやろうと思う。
彼が負担を増やし過ぎひんように、留意したって欲しい。
邪Q君やミスハさんは、それぞれ自分の得意分野で行動する事が多くなるんと違うやろうかな?
それが更により良い形になるよう、アドバイスしたって欲しい。
イントロン君は、多分大丈夫やろうけど、目配りだけは忘れんといて欲しい。
……まぁワシも、ほったらかしにする気はないけど、念話だけやとしてやれる事には、流石に限界があるしな……」
「私がすると、どれもこれも指し出口になるのでは?」
「『トライアル』の運営本部長を務めた、実績があるやん?
誰も文句が言えん実績を持つモンの発言は、全て有難いアドバイスになる。
どんどんアドバイスをしたってや。
ほんで、ミナミが一つに纏まるなら、実務担当のトップは絶対にゼルデュス学士、自分が務める事になるやろ」
「私以上に有能な人物が居るなら、喜んでその地位を譲りますよ」
「ははっ! 言うたなゼルデュス学士、良くぞ吠えたわ。
まぁ……ホンマに居るんやったら、とうの昔に頭角を現しとるって」
「そうかもしれませんね?」
「“First Among Equals”の言葉に耳を傾けん奴には、無理にでも聞かせたらエエ。
もし聞かへんのやったら、そいつは其処までの奴って事やろ?
それと、色々と画策しとる二人のお嬢さんが、これから何をするんか知らんけど、その行動に掣肘を加えられるんも、自分だけやと思うし。
……彼女らの目的は、何やろか?」
「私も存じかねます」
「でも、察しは付いとるんやろ?」
「ノーコメントです」
「大地人の騎士を手下にして、ヨシノに向かったそうやんか?」
「はて、そうでしたか?」
「ロレイル=ドーンとかいう名前やったかな? イコマで誑し込んだようやけど。
……冒険者だけやなく、大地人にも手を出すとは、全く恐れいったわ!」
「相変わらず、耳聡いですね。……ミスハ情報ですか?」
「ノーコメントや」
「まぁ、別に隠すほどの事でもありませんので、何れ伝わるとは思っていました」
「何しに行ったかまでは、教えてくれへんやろうな?」
「ええ、私も詳しくは存じませんので」
「了解や。ヨシノには、金輪際近寄らん事にするわさ!」
「此方も了解しました。私の力の及ぶ範囲にて、レオ丸学士の御希望に副えるように、鋭意努力するとしましょうか。
それで、最後はレオ丸学士、御自身の事ですか?
……まぁ、私自身は貴方の行動に、とやかく言うつもりはありません。
お好きなようにお好きなだけ、アリストテレス主義を貫いて下さい」
「そりゃ、おおきに」
「“証明不可能とは、存在否定とイコールではない。実証を重ねるべし。”
それをトコトンまで貫いて下さって、結構ですよ」
「貫いた果てに、全ての元凶である創造主に会えたら、サイコーやねんけどな?」
「……本当に、存在するんですかね?」
「居ってもらわな、そら困るがな、ホンマにな!
犯人が居ない大量拉致監禁事件の被害者、そんな破綻したミステリーの登場人物の一人やなんて、ワシは絶対に嫌やで?」
レオ丸は、天井に向けて大きく煙を吐き出した。
「処で、此処の砦将さんは何処に居てはるん?」
「上の物見台に居られます」
「今更ながらに、気が付いたんやけど。此処の主に挨拶もせんと、自分と長話してしもた。
……エライ失礼してもうて、怒ってはらへんやろか?」
「私が砦将閣下にお願いして、先に時間を使わせて戴いたんです。
お気になさらなくても、大丈夫ですよ」
案内しましょう、とゼルデュスは室外へと誘う。
膝上で惰眠を貪るマサミNをそっと頭に乗せたレオ丸は、アマミYの手を取り、その後に従った。
廻廊を半周し、幅が広く頑丈な造りの階段を登る。
幾つかの踊り場を通過し、二人と二体は屋上の広々としたテラスへ到着した。
無色透明のクリスタル製の天井が、お椀のように被さっており、床面以外の全方向をクリアに視る事が出来る、物見台というよりは展望台のようなテラス。
その壁面に据えられた遠眼鏡を覗き、数人の兵士が周辺監視を行っている。
彼らを監督するように、テラスの中央で屹立する銀髪の偉丈夫。
「お待たせして申し訳ありません、砦将閣下」
ゼルデュスが声を掛けると、その偉丈夫が振り返り、綺麗に整えられた白い髭に埋もれた口を開く。
「おお、ゼルデュス殿。密談は終わられましたかな?」
耳に心地良いバリトンに、レオ丸は畏敬の念を覚えた。危うく跪いて、頭を垂れそうになる。
「初めて御意を得ます。冒険者の西武蔵坊レオ丸と申します。
お見知りおき戴ければ、誠に幸甚にて」
素早く煙管を懐に仕舞い、そっとマサミNを足元に下ろし、右手を胸に当てて深く低頭するレオ丸。
後ろに立つアマミYも、堂に入った実に優雅な所作で、それに倣う。
偉丈夫は鷹揚に頷いてから、拳を握った右手を胸に当てながら踵を合わし、頭を下げる。
「丁重な挨拶、痛み入る。
儂はウェストランデ皇国常備軍第一防人兵団司令、バルフォー=トゥルーデだ。
命により、此の砦の将の任に着いておる」
「お招き戴きました事に感謝申上げると共に、御挨拶が遅れました事を此処に陳謝致します。何卒御容赦下さいますよう」
「それは、貴殿の責任ではなかろう?」
意味ありげにゼルデュスを見やり、バルフォーは歯を見せた。
「今更聞くのも間抜けな話し何やけど、ゼルデュス学士はいつから砦将閣下と親しいしとんの?」
「私が閣下とお近付きになったのは、……昨日の事ですよ」
「ありゃま、そうなん?」
「『トライアル』開始直前に、運営本部にお越しになられ、顔合わせをしたのが初めてです」
「その通りだ。ミナミの街で多くの<冒険者>が、何か大掛かりな“何か”をしようとしている。
神聖皇国ウェストランデの平穏安寧を司る一員としては、気になるのが当たり前であろう?
部下を遣わせて探りを入れさせても良かったのだが、報告を受けるより直に確かめた方が早いと思ってな。
幸いにして、<ヘイアンの呪禁都>も特に異常を示す兆候もなかった故、視察を兼ねて押しかけたのだ」
「その応対をしたのが、私でして。
影でコソコソされず、正面から堂々とお越しになられましたのですから、賓客として遇し観客席に御案内させて戴きました。
……レオ丸学士が、遅刻されなければ、こんな説明は不要だったんですがね?」
「それは、まぁアレやん。……済んだ事やし、便所に流そう」
「昨日は実に面白い、実に胸躍る、興味深い催しであった。
……我々と貴殿らの強さの相違が理解出来ただけでも、実に有意義であった」
「折角、知己になれたのですから、その縁をより強固なものにしたく思いましたので、非礼を承知でこうして来訪させて戴いた訳です」
「実に楽しい語らいであった。ゼルデュス殿のお話を聞き、改めて<冒険者>という存在が如何なるモノか、少なからず理解出来た」
「ついでに昨日のイベントの、本当の仕掛け人が誰かも、お話させて戴きました」
腰に手を当て仁王立ちするバルフォーに、頭の天辺から爪先までじっくりと見つめられ、レオ丸は首を振りつつそっと嘆息した。
「砦将閣下が、ゼルデュス学士から何を囁かれたかは存じませんが、ワシはそないに大したモンやおまへんで」
「大した人物かそうでないのかは、儂が勝手に判断させてもらおう。
貴殿の自己評価などは、どうでもよい。
同伴されている御婦人、でよいのかな?
そのような者を連れておるのだし、足下で欠伸をしている使い魔を見ても、貴殿がどのような人物なのかは判る。
……失礼ながら貴殿は、中々の臆病者のようだ」
バルフォーの発言に、ゼルデュスは目を丸くし、アマミYは唇を吊り上げ、マサミNは欠伸を途中で止める。
「お褒め戴き、誠に忝く」
レオ丸は苦笑しながら、恭しく一礼した。
亜錬さんの『ゲームのおわり リアルのはじまり』を読んで、「しまった!」と思い、当初の設定を一部変更致しました。お陰様で、主人公の胡散臭さが増したので、返って良かったのかも。
会話劇から通常に戻しましたが、頭を切り替えるのが中々難しかったです。
ボチボチと、過去の投稿文章を、再点検改訂をした方が良いかも、と思ってます。