第壱歩・大災害+13Days 其の参
諸行無常。全ては「運命じゃ!」の一言なんですが。
こうも年初から訃報が続くと、寂し過ぎますね。
加筆訂正致しました(2014.8.18)。
更に加筆修正致しました(2014.12.1)。
「主殿」
アマミYは、そっと膝を揺り動かした。
レオ丸は勢いよく上体を起こして、頭を一振りする。
「冒険者の体のエエとこは、目覚めがスッキリしている事やな。
残念なとこは、微睡を楽しまれへん事かなぁ?」
「主殿、複数の者が此方へ近付いて来なんす」
「……やれやれ、やっと来はったか」
「主殿の知り人でありんすか?」
「知り合いとは違うよ。誰が来るんかを知ってるだけや。
ワシらが赴く先の途上にな、<赤封火狐の砦>ってのがあんねん。
其処からの巡検隊が来るんを、待ってたんやわ」
「何故でありんす?」
「必要な手続きの、再確認をしたいねんわ」
ヤマト・サーバにて定期的に行われるビッグ・イベントが、二つある。
東の<ゴブリン王の帰還>と、西の<スザクモンの鬼祭り>。
<ゴブリン王の帰還>は、イースタルの北の辺境域に位置するオウウ地方の奥深く、<緑小鬼>族の<七つ滝城塞>を舞台とする。
一方、<スザクモンの鬼祭り>の舞台は皇都キョウの至近に存在する、<ヘイアンの呪禁都>だった。
その成り立ちの初めから、幾つもの仕掛けにより完全に封印されている、怨念と呪詛の渦巻く場所、<ヘイアンの呪禁都>。
しかし、その内部に蓄積された負のパワーは凄まじいものがあり、万全を尽くし施された封印に綻びが出来る事がある。
その頻度は、ゲーム内時間にして概ね二年に一度。
封印に綻びが出来た時、<ヘイアンの呪禁都>南面の巨大な門が開き、<スザクモンの鬼祭り>が始まる。
それは、二種類の違うイベントにより構成されていた。
前半は、ダンジョン攻略戦である、<宵闇祭り>。
後半は、モンスター迎撃戦である、<本闇祭り>。
ヤマト・サーバが管轄する幾多のダンジョンの中で、<スザクモン>内部のダンジョンの難易度は、最高値と言われていた。
そして、イベント後半のモンスター迎撃戦の難易度は、ダンジョン攻略戦の結果次第に左右されるため、毎回変異する。
故に、連動イベントである<スザクモンの鬼祭り>の完全攻略は、無理ゲーと噂されていた。
イベント開始直後。
<スザクモン>は先ず、内側へと開く。
勇躍、冒険者達は難敵が待ち受ける地へと、討ち入りを仕掛けるのだが、待ち構えているのは鬼種とアンデッド系を中心とした身の毛もよだつモンスター達だけではない。
ダンジョンである<ヘイアンの呪禁都>内部通路には、他所とは比べ物にならぬほど多種多様な、“落とし穴”が無数に埋設されている。
冒険者が気づかずに“それ”を踏み抜いた瞬間、鋼鉄の顎門が牙を剥き、劫火が噴き上がり、強酸のプールが煮え立ち、鋭い槍衾が待ち受けているのだ。
足元を気にしながら、閉鎖空間で強いられるモンスター戦は、正にデスゲームである。
そして、イベント開始から七十二時間が過ぎた時。
<スザクモン>は、自動的に閉門する。
ダンジョン内部へ討ち入りをした冒険者達は、閉鎖される前に必ず外部へと脱出しなければならない。
何故ならば、HP残量の有無に関わらず“即死”というペナルティーを、強制的に課せられてしまうからだ。
そして、後半イベントが開始されるまでに、ハーフタイムと言うべき二十四時間のインターバルがある。
冒険者達はその間に、アイテムの補充や武具防具の整備なども考慮しながら、戦力を整え直さねばならない。
後半イベントも、前半と同じく所要時間は七十二時間だ。
数多の冒険者の死を飲み込んだ<スザクモン>は、今度は外側へと開く。
前半戦において、冒険者達が倒し損ねたモンスター達が、悪夢のようにドッと吐き出されるのだ。
因みに、ダンジョン内に出没するモンスターの総数は、三千体。
その生き残った何割かが、物理的な恐怖を伴った百鬼夜行となり、先ずは手近なキョウへと進攻をする。
しかし、ウェストランデの首都であるキョウは、魔法陣により完璧なまでに防備を固められた都市だ。
如何にモンスターの残存戦力が多くとも、その堅牢な防衛システムを打ち抜き暴虐の嵐を撒き散らす事などは出来ない。
換わりに、その災禍の対象となるのがキョウ周辺の各都市である。
山岳都市イコマ、古都ヨシノ、商都オーディア、麗港シクシエーレ、更にミナミの街も。
だが、それらの都市はまだマシである。
防衛の魔法陣はなくとも、城壁と大地人の騎士や兵団が常駐しており、対抗戦力たる冒険者も数多く居るのだから。
悲惨なのは、城壁もなく対抗戦力も持たない、多くの村々だ。
モンスターが進攻すれば、それらの村は住人と共に地図から消滅する。
故に、キョウの周辺、つまり<ヘイアンの呪禁都>の近距離には大地人の居住地は存在していない。全てが、魔物共に喰らい尽くされたのだ。
あるのは、防衛拠点のみ、である。
インターバル・タイムを含め、一週間を要する<スザクモンの鬼祭り>の実施期間中、キョウを中心としたウェストランデの中央部分は、大地人達にとって地獄と化す。
大地人達の頼みの綱は、無敵の英雄にも比する存在である、冒険者達。
だが、冒険者達と比べれば非力ながらも、大地人のみで編成された防衛組織というべきものが、神聖皇国ウェストランデにはあった。
執政公爵家配下の軍隊、<防人兵団>がそれである。
駐屯するのは最前線基地である城砦、<赤封火狐の砦>。
更にその後方にある<金護鳳凰の砦>の支援を受けて、山岳都市イコマと古都ヨシノを防衛する役目を果たしている。
大地人にとっての希望であると同時に、<スザクモンの鬼祭り>に挑む冒険者の出撃拠点でもある<赤封火狐の砦>は又、別の側面を兼ね備えていた。
この周辺でしか入手出来ない、マジックアイテムや素材アイテムの採取を目的とする冒険者達の、簡易宿泊所としての役割である。
とは言え、ウェストランデに住まう大地人にとっては、生命線を握る軍事基地である為、おいそれと気軽に立ち寄って良い場所ではない。
必ず手続きを踏んで、砦の司令官から許可を得る必要がある。
オグラ冠水帯のナカツカサ島は、その手続きの始めの場所であった。
周辺に配置された退魔バリケードを点検する為に、<赤封火狐の砦>は巡検隊を定期的に派遣する。
派遣された巡検隊は、各所の点検を済ませた後、レオ丸が今居る広場へとやって来るのだ。
巡検隊は、ナカツカサ島にて冒険者に相対すると、誰何をする。
誰何を受けた冒険者は名乗りを上げ、次に冒険者である事の証明として、巡検隊の立会いの下でサファギン狩りを行わなければいけない。
冒険者レベルの十分の一匹以上を狩れば、砦への同行を許される。
これらの手続きを経る事で漸く、防人兵団が発行する利用許可証を受理する事が出来るのだ。
レオ丸は既に、その利用許可証を所持していた。
「これが、それ何やねんけどな」
鞄からA4サイズくらいの羊皮紙を取り出し、アマミYに広げて見せる。
慣れた者でしか読めない飾り文字で、城砦の利用を許可する旨が記されていた。
「それなら、直接行けば良いと思いなんす」
「確かにその通り、やねんけどな……」
思案顔で、煙管を燻らせるレオ丸。
「これが、今でも有効なんか判らへんねん。……それに試したい事もあるしなぁ」
「試したい事、でありんすか?」
アマミYは、胸に着けたブローチに目を落とす。
「成功するんを願っているけどねぇ?」
レオ丸は、段々と近付いてくる馬蹄と車輪の音の方へ、顔を向けた。
やがて。
広場の入り口付近にて、その音が止まる。
アマミYを背中に回して立ち、神妙な面持ちでお約束の瞬間を待つ、レオ丸。
燃え盛る炎を意匠化した、紋章入りの軽金属製の鎧姿の五人の兵士が、揃って下馬する。
その内の一人が広場に足を踏み入れ、腰の剣に手を添えたまま、誰何した。
「<死霊術師>のレオ丸法師とは、そなたか?」
アマミYはレオ丸の耳に、そっと囁く。
「主殿、話が違うでありんす」
「おやぁ~~?」
狐尾族の兵士は、再び誰何しようと口を開こうとした。
気を取り直したレオ丸は、右手を挙げ慌てて答える。
「はいな、申し遅れました。ワシが<召喚術師>の、西武蔵坊レオ丸です。
そやけど、ワシのビルドは<幻獣の主>であって、ネクロマンサーみたいな、特殊でアレな趣味の持ち主やないで」
「レオ丸法師であるなら、それで良い。証明する物は、お持ちか?」
「スルーされた。……はいはい、こちらで」
利用許可証を広げて提示する、レオ丸。
「間違いないようだな。結構! 砦将閣下が、そなたを客人としてお招きしたいと申されている。
用意して来た馬車に御乗車を願う。……そちらの御婦人は、法師のお連れか?」
「さいです」
「ならば、御同乗戴こう」
「了解や。お招きに感謝する」
レオ丸は胸に手を当てて一礼すると、アマミYを誘い馬車に乗り込もうとする。
「ちょっと! 私はどうすんの!」
口の端からサファギンの脚を垂らしたミキMが、両手を振り上げ抗議した。
突然、島の影から現れた巨大なモンスターの姿に、五人の大地人の兵士が慄き慌てて、一斉に抜刀し構える。
レオ丸は急いで、彼等の前に両手を広げて立ちはだかった。
「ゴメン、ゴメン。決して忘れてた訳や……無いと思うで」
小刻みに痙攣するサファギンの脚を飲み込み、頬を膨らますミキM。
レオ丸は、軽く頭を下げて謝罪し、北の方角を指差す。
「ほしたらお願いやけど、ワシらがあっちの岸に到着するまで、随行を宜しく!」
「ドーンと、任せといて!」
勇ましく力強いガッツポーズを取り、そのままの姿勢で濁った水面に身を没するミキMを、レオ丸は敬礼して見送る。
「法師の……従者なのか、今のは?」
馬車のステップに脚を掛け、さっさと乗車するアマミYに続こうとしたレオ丸は、兵士の問いかけに上半身を捻り首肯した。
「従者って言うよりは、“家族”ですけどな」
「なるほど。それは……家計が大変そうだな!」
「ウチは各自が自給自足やさかい、安いモンだっせ。……多分」
水面下で、サファギンの群れを嬉々として追いかけ廻す、ミキM。
レオ丸は目を細めてそれを一瞥してから、馬車へと乗り込む。
直ぐに馬車は、巡検隊の兵士に守られつつ、ナカツカサ島を出立した。
ゲームの時とは、些か違う手続きを経て。
「主殿」
「ん? どないしたん?」
俯き加減で今日半日で観察した事柄を、『私家版・エルダーテイルの歩き方』に書き込んでいたレオ丸は、アマミYの声に顔を上げた。
「試みは、成功したのでありんすか?」
「そやねぇ、一先ずは成功と言えるやろなぁ。
……アマミYさんの事を、“御婦人”と呼んでたし。
それよりも気になるんは、何で<赤封火狐の砦>の砦将がワシを名指しで、招いたのかやわさ。……何でやろうね?」
レオ丸は<大師の自在墨筆>を口に咥えて、腕組みをする。
「お知り合い、とは違うんでありんすか?」
「うん、会うた事は一遍もない……はずやわ。確か、前に許可証の発行をしてくれたんは、受付担当の武官やったし」
「よくもまぁ、それで招待を受けたものでありんすね?」
「ヒトの事をネクロマンサー呼ばわりする奴に、一言文句言いたいやん?」
「おや? 主殿はネクロマンサーだと、わっちも思っていなんした」
「違うで!!」
「お言葉ではありんすが、わっちと言い、<家事幽霊>と言い、<首無し騎士>と言い、従者契約を結んだ他の仲間達と言い……。
<竜牙兵>の招請に成功なされた時の、欣喜雀躍振りもそうでなんした。
主殿が幾ら否定されようとも、ネクロマンサーそのものでは、ありんせんか?」
「そっかぁ。他人の目には、そう映るんやなぁ……」
「左様でありんす」
「でも、ワシは全力で否定するで! 他人がどう思おうと、ワシがそれを認めへん限り、絶対に違うんや!」
「酔っ払いが、酔ってないと言い張るのに、似た言い訳でありんす」
「バールのような物と、バールくらい違うねん! それにな……」
「それに?」
「ネクロマンサーって、出落ちのヤラレキャラっぽくて、嫌やわ!」
他愛の無い会話に終始する馬車と、無言で職務をこなす騎乗兵達は、急ぐ事なく架橋を渡り続ける。
その橋脚の間を何度も擦り抜け、架橋に近付こうとするサファギン等の水棲モンスターを、ミキMは遊び感覚で追い散らす。
架橋にも、架橋の土台となっている島々にも、バリケードが設置されているので、実際には必要のない行為ではあるが。
それでも、モンスターが身近から追い払われるのは、大地人である巡検隊兵士の精神的にとても宜しかった。
冒険者とは違い、武人と言えども大地人は死した後に、復活する事はありえないのだから。
小半時を要した後、一行はオグラ冠水帯を渡り終える。
御者役の兵に馬車を停めるよう頼んだレオ丸は、降車するなり両手を広げた。
「お疲れさん! ミキMさん、また宜しゅうに!」
レオ丸は笑顔で謝意を示し、広げていた両手を勢いよく打ち合わせて、大きな音を一つばかし鳴らす。
流れるような一連の動作で、頭上に両手でもって大きな輪を作ると、輪の中でドロドロと渦巻く白い光が現れた。
「次は、もうちょい活躍させてよね!」
ケートーは少し不満そうに言うと、その巨大な体を宙でくねらせるや、輪の中へと一瞬にして吸い込まれる。
「お待たせしました」
上半身を泥だらけにしたレオ丸に、アマミYと五人の兵士は顔を顰めた。
召喚したウンディーネと<火妖精>の力を借り、身綺麗にし用意を整えると、再び車中に収まるレオ丸。
一行が進むのは、ヤマシナ・エリア。<ヘイアンの呪禁都>のやや南に位置する管区であった。
その左半分を占めるのが、これから向かう<赤封火狐の砦>を中心とした、フシミ幻野ヶ原ゾーン。
空は息苦しく感じるほどの、陰鬱な雲に覆われている。
車窓から見える範囲は全て低い樹木に覆れているが、全ての枝が奇妙に歪んでいるのは全て、<ヘイアンの呪禁都>から漏れ出す呪詛の影響を受けているせいだ。
ケイハン街道の側だけは辛うじて、ガードレールのように立ち並ぶ退魔バリケードのお陰で、視界が確保出来ている。
「……画面で見るんと、直に見るんとでは、禍々しさが全然違うなぁ」
「わっちの故郷に似て、とても懐かしい気持ちでありんす」
「<ルサティアの殯笛山地>のナダシュディ平原か」
「左様でありんす」
「帰りたなったんか、アマミYさん?」
「答えは“Nie”で、ありんす。主殿が、わっちとの契約を破棄するまで、わっちは主殿と共にありんす。……出来得るならば、其の日が来ない事を、願いなんす」
アマミYは、隣に腰掛けるレオ丸の肩に、頭を凭せ掛けた。
「主殿の血は、わっちにとってはこの上無く甘美な、<至高の霊薬>でありんすから」
「……それは、嬉しいなぁ♪って、喜んでエエんかな?」
ナカツカサ島を出て、おそらく1時間以上は経とうとした頃。
馬車を真ん中にした巡検隊一行は、ケイハン街道から分岐した支道へと進み、漸くにして<赤封火狐の砦>へと到着した。
下ろされた跳ね橋で幅広く深い堀を渡り、強固な扉が開かれた重厚な城門を潜って、城砦内の地上階にある広場と思しき空間へ。
馬車から降りたレオ丸は、最上層まで吹き抜けとなっている砦を、広場中央辺りからすっくと見上げた。
<赤封火狐の砦>は、平野から突き出た峻厳な山を刳り貫き、建てられている。
一層目は、馬場を兼ねた錬兵広場。
二層目から最上部の十層目までは、宿舎や武器庫などの各施設に割り当てられていた。
<マジック・トーチ>と同じ効果を持つカンテラが、階層毎に幾つも灯され、内壁全体に満遍なく貼られた雲母が、その淡い光を増幅させている。
暗くも明るくもない城砦内部の片隅には、ロープが括り付けられた大きな籠が五つぶら下がっていた。
内一つで、一階層の床に接地している籠へと、身振りのみで案内されるレオ丸とアマミY。
同乗した兵士が籠の扉を閉め、内部のレバーを操作する。
上方から滑車が回る重い音がし、籠が床を離れ、ゆっくりと上昇して行く。
「エレベーター完備ってか? まぁ、五階建て以上やねんし、当然やな」
暫く上昇を続けた籠は、最上階の十階層で停止した。
兵士に先導されるまま装飾の一つもない廻廊を進み、扉が大きく開け放たれた部屋へと案内される。
「砦将閣下がお出でになるまで、此方で待たれよ」
踵を合わせて鳴らし、一礼した兵士は部屋から出て行った。
レオ丸は、アマミYと顔を見合わせ、鼻を鳴らす。
「ほな、待たせてもらおか。アマミYさんは、此処にお掛けよし」
部屋の中央には、樹齢が千年はありそうな巨木を輪切りにしただけの、質実なテーブルが一つと、取り巻くように置かれている、革張りの一人掛け椅子が数脚。
椅子の一つを引き、レオ丸はアマミYを座らせる。
「主殿も、腰かけなんし」
それには答えず、窓に近づき彼方の空を見つめる、レオ丸。
上空を吹き抜ける風が、不気味な唸りを上げ、内側へと開けられた分厚い雨戸を揺らす。
乱れ吹く風が、空を覆い尽くす陰鬱な暗い雲を、掻き混ぜていた。
空が幾重にもうねり、次から次に黒雲が生み出される。
レオ丸は、幼子のような笑みを口の端に浮かべると、窓に背を向け、右手の人差し指を伸ばした。
そのまま指一本で宙に魔法円を描き、<金瞳黒猫>のマサミNを呼び出す。
宙を跳ねたマサミNは、レオ丸の腕の中にすっぽりと納まった。
その合間に、闇に限りなく近い曇天を切り裂き消える。
激しい雷鳴が鳴り響く中、暗い室内に浮かび上がるレオ丸のシルエット。
「ぐぅわっはっはっはっはっは!!」
不吉な感じがする雷鳴音をBGMに、子猫姿のマサミNの頭を撫でつつ、レオ丸は仰け反りながら突然、高らかに哄笑した。
「……何をしているので、ありんすか?」
「悪の親玉ごっこ。……一遍やってみたかってん」
「はぁ?」
「だって、こんな絶好のシチュエーション滅多に、ないやん?」
達成感に浸るレオ丸の腕の中で、マサミNが退屈そうに欠伸をした。
やれやれと、アマミYはベールの下で溜息を漏らす。
その溜息に被せるように、聞き慣れた声がレオ丸の耳朶を打った。
「レオ丸学士、貴方もやはり、高笑いしましたか……」
扉の影から現れたのは、薄笑いを浮かべたゼルデュスだった。
「自分もしたんか、ゼルデュス学士?」
「ええ、……自然に笑い声が出てしまいました」
「ヌルフフフって?」
「いえいえ。いたって普通に、フフフフフ、と」
「ククククク、の間違いやろ? ……んで、何ぞ用かいな?」
「……その前に、驚かないんですか?」
「そやねぇ、吃驚したわ。一応、な。
でもまぁ、<大災害>以降は驚きの連続やったからなぁ。何があっても、今更って感じやな。
自分の替わりに、虎縞ビキニの宇宙人のおねーちゃんでも出てきたら、声出して驚いたかもしれんな?」
「それは、驚愕の事態ですね、確かに」
「ほんで? 用件は何なん?」
「幾つか教えて欲しい事がありまして」
「ほう?」
「例えば……」
ゼルデュスは、レオ丸に一番近い椅子へと腰を下ろし、テーブルに肘をつき尖り気味な顎を乗せる。
「レオ丸学士が会得された、<最終奥義>について、とか?」
レオ丸は、ゼルデュスの傍を離れ一番離れた席、アマミYの隣に腰を下ろす。
「<免許皆伝>のなり損ねなぁ。……どうしよっかなぁ?」
マサミNを膝に乗せ、取り出した煙管を咥えたレオ丸は、五色の煙を細く長く吐き出した。
「こっちの提案を、無条件で呑んでくれるんやったら、エエよ」
<スザクモンの鬼祭り>の内容を、でっち上げてみました。
因みに、砦はの位置は、あそことあそこです(苦笑)。
次回はダラダラと、会話劇の予定です。