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第漆歩・大災害+116Days

 先月はなんやかんやで更新出来ずに申し訳ございませんでした。

 謹んでお詫び申し上げると共に、先に旅立たれた多くの御霊の安らかなるを祈念して合掌礼拝致します。

 ジェリー・ルイス御大の御魂に幸いあれ、ハレルヤ!

 一部、訂正追加を致しました(2017.09.09)。

「私、<委員会>により任命され、本日も議長を務めさせて戴きます、内政局企画部部長の1等大事老、なのです。

 皆様におかれましては御多忙の処、御出席戴き有難く存ずるのです。

 凡そ定刻かと思うので、第六次<委員会>組織制度改革準備会議の開催を此処に宣言するのです。

 既に皆様御承知の通り、本会議における出席者は、<委員会>が選定された者達でのみ構成されており、出席者以外が参画する余地はないのです。

 なのですが、時に<委員会>により許可を与えられた方がオブザーバーとして会議に参加なされる場合が、本日のようにあるのです。

 オブザーバーの方の発言は当然の事ながら、公式の場での発言であり議事録へも記載致すのですが、オブザーバーの方には議決権が与えられておりませんので、オブザーバーの発言を如何様に受け止められるかは、議決権を有する会議出席者一人一人に帰するものなのです。

 では、会議を開催するに当たり、出席者皆様の確認をさせて戴くのです。

 前回よりも参加者が増えておりますので、前回より引き続き御参加戴いております方々には煩瑣ではございますが、宜しくご協力願いたいのです。

 私の右手から順に御名前と所属を、着座したままで結構ですのでお願いするのです。

 併せて、御手元の資料に間違いないかどうかも、精査下されば幸甚なのです。

 では、お願い致すのです」

「ガンズ&スプリングスティーン、でがんす。

 内政局東部方面施政統括官の任に当たってるでがんす。

 名前が長いんで、おいの事はガンズと略してもらって結構でがんす」

蟲愛(むしめ)ずる奇知姫、と申します。

 内政局環境調査研究所代表を勤めています」

「ママカリ・チェーン、でーす。

 外政局情報部主席分析官でーす」

「ニャア少佐、だピョン。

 外征局後方本部長だピョン」

「ドキンチョPINK、だ。

 <委員会>官房直属、警邏総隊本部諸士取調方参謀……判り易く言や、<壬生狼>監察役のリーダーだ」

「ジョニー54、だぎゃ。

 <委員会>官房事務監をしとるがや」

「ミルミルムーン、ざぁます。

 <委員会>官房内侍司上臈……言い換えれば濡羽様にお仕えするメイド部隊の一員ざぁます」

「有難うございました、手元の資料にも誤謬がないようなのです。

 ガンズさん、蟲愛ずる奇知姫さん、ママカリ・チェーンさん、ミルミルムーンさん、初めましてなのです。

 少佐さん、ドキンチョさん、ジョニーさんの御三方には、前回同様に今回も宜しく御願い致したいのです」

「あ、私も奇知姫で宜しいですよ」

「ワタシもママカリって呼んで欲しいでーす」

「アテクシは略さずに、ミルミルムーンと……」

「了解しました、では今回からの新規参加者の皆さんは、ガンズさん、奇知姫さん、ママカリさん、ミルミルムーンさんと呼称させて戴くのです。

 議事録にも其の旨、記させて戴きますので御了承戴きたいのです。

 では、時間は有限ですので早速に会議を始めさせて戴くのです。

 昨日開催致しました第五次<委員会>組織制度改革準備会議までの推移は、御手元の資料に記してますので、宜しく通覧下さいますよう。

 さて本日の議題ですが、前回の第五次会議において結論が出ませんでした、所謂<大地人>との関わり合い方について、忌憚なき意見を開陳戴きたい処なのです」

「議長」

「はい、ミルミルムーンさん」

「<大地人>との関わり合い方、について結論が出なかったと仰ったざぁますが、此の資料に記されているように二者択一のどちらかに帰着すべきものと考えれば良いのざぁますか?」

「いえ、決してそうではないのです。

 他に良き案がございますれば、其方へと議論は決する事もあると」

「議長」

「はい、ドキンチョさん」

「前回の会議で結論が出なかったのは、二者択一ではなく“四択”だったからじゃないのか?」

「ああ、そうなのです……正確には」

「正確には、とはどういう事でがんす、議長?」

「其れはですね、大筋としては我々が構築しようとしている新たな組織図、指揮系統の中に<大地人>を内包するかしないかの二択を、明確にするかしないか、という事なのです」

「詰まり、“おみゃーは仲間だわ”ってのを言って付き合うか言わずに付き合うか、“おみゃーは仲間じゃねーだで”ってのを言って付き合いを断るか言わずに断るか、って事だで」

「此処には“現状を継続する”“現状を改める”としか書いてないピョンが、具体的に述べれば更に選択肢は増えるはずピョン」

「ジョニーさん、少佐さん、補足有難うなのです。

 <委員会>の主要メンバーとして現在の処、ミズファ=トゥルーデ、ジェレド=ガン、ロレイル=ドーンと三名の<大地人>が名を連ねているのです。

 ミズファ=トゥルーデとロレイル=ドーンの二名は、現役の騎士なのです。

 とは言え、其の所属は全く違いますが。

 前者は現在、近衛都督府将監の位……分かり易く言い換えれば国防軍准将に相当するそうなのですが、彼女は内政局長の引き立てがあるのです。

 後者は、執政公爵家直下の騎士団の上級幹部、序でに濡羽様の親衛隊長を自任しているようなのです。

 どちらも<委員会>の主要メンバーでありながら、<委員会>における役割は現在の処、特にないのです。

 平たく言えば、濡羽様を首班とする内閣の無任所大臣といった感じなのです。

 もう一人の主要メンバーである<大地人>、ジェレド=ガンは内政局長の顧問的ポジションなので、諮問機関か有識者会議みたいな立場なのです」

「濡羽様は執政公爵家達との折衝もなされてるでがんすから、首相兼外務大臣でがんす?」

「されば、アテクシの上役は御役の通り、官房長官兼任の宮内庁長官ざぁます」

「わたしんトコの親分は防衛大臣だけでーす♪」

「此方のトップは……財務、総務、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境の大臣……ですねぇ」

「ウチの大将は、国家公安委員長兼警察庁長官だな」

「法務大臣は誰です?」

「クオン……は違いますね」

「アイツも無任所大臣だぎゃ」

「外務副大臣か官房副長官あたりだピョン」

「法務は恐らく、動力式甲冑の衛兵システムじゃねぇかな」

「改めて思うざぁますが、誠に歪過ぎる組織ざぁますね」

「内政って、要は“ありとあらゆる全部の事”なので仕方ねぇでがんす」

「人手はあっても人材不足なのが心配でーす……」

「そう、そうなのです。

 人材の確保、人材の拡充が<Plant hwyadenプラント・フロウデン>には急務なのです」

「議長さんよ、ソイツを<大地人>に求めるってか?

 そりゃあ無理ってモンだろう」

「何故でしょうか、ドキンチョさん」

<大地人(やつら)>は<冒険者(おれら)>じゃねぇ、ってのが第一にして唯一の答えってこった」

「確かに<大地人(かれら)>は<冒険者(わたしたち)>ではないのです。

 ですが彼らは“此の世界(セルデシア)”の住人にして、絶対的な大多数なのです。

 不明な手段で“此の世界(セルデシア)”へと強制参入させられた私達ですので、どうしても少数派にならざろう得ないのです。

 文言だけなら“少数精鋭”と豪語すれども、ミナミを本拠とする私達は一万人以上も居るので、“少数”と言い切るには余りにも多過ぎるのです。

 しかし、一万人と数千人という数は“此の世界(セルデシア)”と向き合うにしてはかなり少な過ぎるのです。

 其れが<Plant hwyadenプラント・フロウデン>に属する<冒険者(わたしたち)>の現状なのです。

 此のどっちつかずの現状を改善するには、如何に是正すべきか?

 そう模索する中で生まれた議題が、<大地人>との距離感をどうすべきかというものなのです。

 ママカリさんは、如何考えておられるのです?」

「そうでーすねー……貴族階級を族滅、特に執政公爵家を九族もろともに族誅するのが良いと思うのでーす」

「……些か過激な意見なのです」

「そうでーすか?」

「ええ、いきなりなもので少々吃驚してしまったのです。

 何故に、そう思われたのです?」

「私達が“此の世界(セルデシア)”で生きていくのに必要なのは、何をさておいても食料だけだと思うのでーす。

 何処かの誰かの御蔭で……アキバの<三日月同盟>とか其の他の者達の御蔭で、私達は念願の美味しい食事にありつける事が出来るようになったのでーす。

 美味しい食事に必要なのは、高レベルのサブ職<料理人>と食材でーす。

 食材を確保するのに必要不可欠なのは、農業と漁業と畜産業、言い換えれば農家と農地、漁師と漁場、畜産家と牧場でーす。

 彼らを確保するのと同時に、彼らが安心して家業に従事させる事が出来れば問題なしでーす。

 そして、彼らの生活必需品である道具や生活雑貨を生産する者達も必要でーす。

 農具や漁具や鍋釜は鉄器でーすから、鉱山を確保する事も重要でーすし、木材も必要でーす。

 彼ら、第一次産業と第二次産業、其れを仲介する第三次産業の商業及びサービス関連も確保したいのでーす。

 でも彼らを支配するのは貴族階級でーす。

 弱っちぃクセに偉そうな態度で、踏ん反り返っているのがムカツクのでーす。

 彼らを排除して私達が保護者となれば私達との距離も近くなりますし、<大地人(ランダー)>達はモンスターの脅威に晒される事も減る事で、安心して生活が出来るようになるはずでーす」

「途中の論旨は兎も角として、一考する意見だと思いますが、皆さんは如何お考えになられますか?」

「議長、宜しいですかピョン」

「はい、少佐さん」

「外政局の立場としては、やらなければならない事が二つあるピョン。

 其れは、護民と平定だピョン。

 外征局長自らが遠征軍を率いて西の平定作業をしている間、僕らに出来る事は後方支援を完璧に調える事だピョン。

 もし其の障害があるのなら、全力で排除するだけピョン。

 坊やだから言える綺麗事など、現実の前じゃ無力だピョン」

「なるほどなのです」

「議長」

「はい、奇知姫さん」

「内政局の立場から申しますと、大地人貴族を排除する事には反対の意を表明致します」

「理由を述べて戴きたいのです」

「はい、議長。

 大地人貴族を排除するのは全く以って、費用対効果が悪過ぎます。

 彼らは元の現実の日本で言えば、中央官庁であり、地方行政体であり、農協や漁協であり、商工会議所でもあるからです。

 統治機構である彼らを排除したならば、我々が其れを代行せねばなりませんが、我々には其のノウハウを持ち得ておりません。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>のギルメンを総攫えすれば、元の現実での経験者を見つけられるかもしれませんが、必要相当数の人材を確保するのは無理でしょう。

 ゆえに、脅して賺して大地人貴族を我々の協力者に仕立て上げる方が、最も効率が良いと思います。

 餅は餅屋です。

 我々の得意な事は我々が行い、我々が不得手な事は丸投げすれば良いのです。

 其の為にも、我々は<大地人>を組織内により積極的に取り込むべきだと愚考致します。

 では、如何なる立場の者を取り込むべきでしょうか?

 貴族階級……は、かなり難しいと考えます。

 下級貴族ならもしかすれば、と思いますが、上級貴族はダメでしょう。

 上級になればなるほど貴族としての矜持があるでしょうから、貴族階級というモノを実感し得ぬ社会で生まれ育った私達では、対話どころか会話も侭ならぬはず。

 ……濡羽様ならば、貴族とのお付き合いも御茶の子さいさいでしょうが、同じ事を私達が出来得るはずがありません。

 私達が交流出来る<大地人>とは、村民町民ら庶民階級と、恐らくは騎士階級だけでしょう。

 庶民階級との関係構築に関しては言わずもがなでしょう、既に商店での売買や簡易クエストの受注など様々な形で始まっていますから。

 騎士階級との関係もまた然りです。

 幸いにして、私達は<赤封火狐の砦(ファイアフォックス・キープ)>において騎士という階級に触れる事が出来ました。

 残念ながら彼らが全員戦死した為に、友好関係を継続させる事は叶いませんでしたが。

 ですが、騎士階級との友好関係が絶えた訳ではありません。

 ミズファやロレイルが居りますから。

 彼らを足がかりにして、実務を担当している下級の大地人貴族達と繋がる事が出来れば我々の労苦は大幅に軽減出来るのでは、と愚考致します」

「議長」

「はい、ガンズさん」

「奇知姫さんの発言を補足させてもらうでがんす。

 おいの肩書きである内政局東部方面施政統括官っていうのは、主にナゴヤを中心とした一帯……愛知・岐阜・三重を管轄としてやして、状況が整い次第に静岡県も統制するつもりでがんす。

 職務上、おいは遠隔地に領地を持つ下級貴族達と折衝する機会があるんでがんすが、彼奴らは概ねにして有能にして無能でがんす。

 支配領域の統治者としては、まぁ有能だと思うでがんす。

 貴族ってぇのは見栄切って張って生きる存在ですんで、其の見栄の土台である領民達を其れなりに大事にしてるでがんす。

 詰まり、下級貴族になればなるほど領民との距離が近いって事でがんす。

 距離が近ければ近いほど、領民達の抱える不平不満と至近距離で向かい合わなきゃなりませんので、其れなりに有能な者が多いのも当然でがんす。

 有能でなきゃ、不平不満を解消したり、上手く逸らしたりって芸当が出来ねぇでがんすから。

 じゃあ、何処が無能かと言えばでがんす。

 下級貴族ってぇのは領地が狭く領民が少ないんで、領主に仕える官吏の人数が少ないんでがんす。

 官吏が少ないってぇのは詰まり、騎士の数も少ないって事なんでがんす。

 騎士団編成なんて以ての外、最少単位なら領主一人で騎士兼任なんでがんす。

 大地人の騎士が一人で討伐出来るモンスターなんて、高がしれるでがんす。

 だから下級貴族達は、上級貴族を戴いた群れを作るんでがんす。

 もし上級貴族を排除するとしたら、我々が其の役割を果たさなきゃいけなくなるでがんす。

 トップの居ない集団は、烏合の衆でがんすから。

 群れが瓦解するってぇ事は即ち、群れを構成する下級貴族達の連帯が瓦解するってぇ事でがんす。

 連帯が瓦解すれば、社会秩序が渾沌となるに違いないでがんす。

 其れは得策とは言えないでがんす。

 群れを維持させるのは必須でがんすが、我々が其れを指を咥えて見ているのも間抜けでがんす。

 彼らには彼らの仕事をさせて、我々は我々の出来る事をするんが一番良いんでがんす。

 我々の出来る事は“此の世界(セルデシア)”の社会秩序に貢献する事、って目的でチョボチョボと介入する事だけでがんす。

 今ん処、四人ないし六人のパーティーを五十組編成して、東部方面の要所要所に駐在させて哨戒任務に当たらせてるでがんす。

 目的は、モンスターの発生し易い場所と発生する種類及びレベルの確定、そんで間引きでがんす。

 コレは奇知姫さんの部門が主導する、モンスターの生態及び分布調査も兼ねた事業でもあるんでがんすが」

「ちょいと質問なんだが、議長」

「はい、ドキンチョさん」

“此の世界(セルデシア)”にゃ、“平民”の官吏は居ねぇのかい?」

「少なくともウェストランデには居ないでがんす。

 そもそも、西洋ファンタジーを基礎としたゲーム世界である『エルダー・テイル』において、もしくは其れと酷似した“此の世界(セルデシア)”において、庶民が通う学校という“教育機関”は存在しないでがんす。

 元の世界の中世ヨーロッパであれば、教会が運営する神学校や町の司祭が手遊びで教える教室があるでがんすが、“此の世界(セルデシア)”においては其のようなモノはないんでがんす。

 此処じゃ、宗教勢力がほとんど力を持ってないんでがんすから。

 “此の世界(セルデシア)”では、少なくとも弧状列島の西半分はインドのカースト制度みたいに、人は生まれついた身分で一生を終えるのが標準なんでがんす。

 ま、就学率が哀れなくらいどん底なのに比べれば、庶民の識字率は最低限の読み書き……自分の名前が読める書けるくらいはあるようでがんすが……」

「本来、教育とは贅沢なのざぁます。

 生活基盤が未整備の社会においては、子供であろうと大事な働き手になるのは至極もっともな事なのざぁます。

 水道が整っていない場所では、水汲みも立派な労働にならざるを得ないざぁますし、其れならば幼子でも出来る最小限労働ざぁます。

 アテクシ達が暮らしていた現代の日本という国は、インフラが津々浦々にまで整備されており、近代以降は義務教育が施行されており、しかも平和であるのは周知の通りざぁます。

 ですが、残念ながら地球上には其のような場所ばかりじゃないざぁます。

 なればこそ、便利な魔法はあれども旧態依然とした中世モドキの“此の世界(セルデシア)”において読み書きが出来るレベルではなく、算数数学が出来て文章を作れるというのは、其れが許される“贅沢な階級”にのみ許された事なのざぁます。

 労働者を使役する立場、“特権階級”という貴族なればこそなのざぁます。

 一部の裕福な貴族達は使用人達を使用人足らしめるべく、独自の教育を行っているようざぁますが、其れを更に拡大するのは無理ざぁます。

 アテクシ達は“国民”という概念があるざぁますが、“此の世界(セルデシア)”の支配者層には“領民”しか居ないのざぁますから。

 富める者が持てる富で以って豊かに暮らす手段を行使する、其れが“階級が存在する社会”の常識ざぁますが、其の範囲はあくまでも“領内”のみざぁます。

 そして“特権”を甘受出来るのは、更に限定された“身内”のみざぁます」

「要するに、居ねぇって事だな。

 俺達の常識は此方では非常識、って事か」

「庶民が手っ取り早く庶民階級を抜け出して立身出世したいなら、商家に丁稚奉公して番頭を目指すか、自警団で頭角を現して騎士の従者になり引き立ててもらうしか方法はないでがんす。

 要領の良さ、腕っ節の強さ、自助努力、其れらの内の二つを手に出来れば、特権階級の目に止まるチャンスを得られるかも、でがんす」

「文字が読める、文字が書ける、四則計算が出来る、食うに困っていない、住む場所がある、立身出世の機会が何処にでもある、基本的人権が守られている、生存権が保障されている。

 百パーセントとは言えませんが、日本人のほとんどが当たり前に享受出来ている事は、“此の世界(セルデシア)”ではちっとも当然ではありません」

「皆様、活発な御議論誠に有難うなのです。

 此の辺で一度、其々の論旨を要約させて戴きたいと思うのです。

 主張戴きましたのは、<大地人>という大きな枠組みではなく、<大地人>の貴族にのみ限定した距離感もしくは向き合い方をどうするかなのでした。

 展開されました御意見は、概ね二つに集約されるようなのです。

 片や、非平和的な手段で我々<Plant hwyadenプラント・フロウデン>が、彼らの占める位置を譲渡させて戴く、といったものなのです。

 片や、今以上の友好的な関係を構築するも、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>は<大地人>との距離感をほど良く保つ、というものなのです。

 では此れら二つを主題として議論を深めて行きたいと思うのですが、私としてはオブザーバーのお二方の意見を聞いてみたいのです。

 皆様、如何でしょうか?」

「異議なし」

「異議にゃあが」

「異議はない」

「異議ないピョン」

「異議なしでがんす」

「異議なしでーす」

「異議なしざぁます」

「では、お願い致したいのです」

「……其れでは、私から発言させてもらうとしましょう。

 食料を如何に確保するかが大事だという点は、私も同意します。

 私の仕事の三分の一くらいは、“此の世界(セルデシア)”で私達が生き残るための環境保全、特に物資をキープし続けられるかですからね。

 其れは、1等大事老もガンズ&スプリングスティーンも蟲愛(むしめ)ずる奇知姫も、よくよく理解しているでしょう?」

「重々承知なのです」

「ハイでがんす」

「仰る通りです」

「さて、<会議>では物資をキープするための方法として<大地人>を有効活用するかしないかを議論されていましたが、そもそも物資はどれくらい必要なのでしょうか?

 現時点で把握している<Plant hwyadenプラント・フロウデン>のギルドメンバーの総数は、一万一千六百五十二名。

 全員が一日三食を摂取するとすれば、単純計算で三万四千九百五十六食が必要となります。

 まぁ、一日二食の者も四食の者も、間食をする者も居るのでしょうから、必要分をザックリと一日三万五千食としましょう。

 冒険者の一食に必要な食材は、果たしてどれくらいなのでしょうか?

 穀物、肉類、魚介類、野菜、果物、加工食品、調味料、何がどれだけ必要となるのでしょうか?

 どれだけ用意すれば、毎日ひもじい思いをせずに生活出来るのでしょうか?

 私達日本人は、いや私達ゲーマーは餓えに、ひもじい生活に耐える事は出来ないでしょう。

 朝起きてから夜寝るまでズーッと働き詰めで、其れでも余裕を持つ事が出来ぬ生活をしているのならば、耐える事が出来るのやもしれません。

 しかし、ゲームという非生産的活動に勤しむ暇と言うか余裕と言うか、まぁ余計な事に時間を割ける生活をしている……していたのが私達、“プレイヤー”です。

 震災、水害、土砂崩れなどで自宅を生活基盤を破壊され、避難所生活を経験した、或いは今現在も其のような苦境にあるプレイヤーが居るかもしれませんね。

 ですが其のような避難所生活をされている人達でも、二週間三週間、一ヶ月以上も餓えた状態で等閑(なおざり)にされる事はありません。

 処が“此の世界(セルデシア)”では、餓える事はなくともひもじい思いをせねばならない事があり得ます。

 御存知ですよね、味のない食事の不味さを?

 私達は味のある食事が当たり前の世界から、そうではない世界へと飛ばされ、改めて味のある食事に遭遇して、其の有難さを痛切に実感しました。

 此れからの私達は“此の世界(セルデシア)”で以前のように“味のない食事”に甘んじる事は出来ず、“味のある食事”を執拗なほどに求める事でしょう。

 まるで、何かの中毒患者のように。

 詰まる処、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>の所属員が多く住むミナミには、より多くの食材を供給させ続けなければなりません。

 何故か?

 供給が滞った時、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>が作り上げた秩序が瓦解する可能性があるからです。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>頼むに足らず、と思われてしまったら、脱退し自活する者が多数出るでしょうからね。

 古代ローマの詩人ユウェナリス曰く、

 “……imperium, fasces, legiones, omnia, nunc se

  continet atque duas tantum res anxius optat,

  panem et circenses……”

 所謂、“パンと見世物”の故事です。

 見世物……まぁサーカスとも訳されますが、其れはモンスター討伐、クエスト達成など各自の楽しみがありますから、大丈夫でしょう。

 問題は、先ほどから皆で言及している通りの“パン”です。

 『管子』<牧民>に曰く、

 “凡有地牧民者、務在四時、守在倉廩

  國多財、則遠者來、地辟舉、則民留處

  倉廩實則知禮節、衣食足則知榮辱”

 食わせる事の出来ぬ為政者は、いつの時代にもどの世界でも無能の謗りを受けるのは当然の事。

 現状、ミナミは食料の生産地が近郊にあるため、差し迫った状況には陥っておりませんが、いつまでも今の状態が続くかどうかは判りません。

 今、私達が為し得ているのは、生産地で生産者が余剰生産してしまった産物を購入し、ミナミへ食材として供給している、其れだけです。

 “此の世界(セルデシア)”の生産地で行われている方法は、お天気に左右される旧態以前とした方法です。

 疫病に弱く、日照りに弱く、長雨に弱い。

 漁業も比較的安全な沿岸の漁場で、小船による細々としたもの。

 牧場もまた、モンスターの脅威から逃れるために、都市近郊で小規模にしか行われておりません。

 此のままでは、先細りするのは目に見えています」

「毎日毎日モンスターぶっ倒してるんですから、有り余る金貨で買い漁れば良いんじゃないですかい?」

「其れでインフレを起こして、大地人社会における金貨の価値を暴落させて、社会的混乱を引き起こせと?

 金貨の価値が伝説のジンバブエ・ドルにしてしまえば、金貨が幾らあっても食料が買えなくなってしまいますよ。

 其れに、生産者が産地で生産する産物は、領主へ納める税でもあるのですよ。

 ただでさえ<大災害>の混乱から完全に脱し切っていない我々が、更なる混乱の主因となり、未曾有の混乱に巻き込まれる事態は、最も避けるべき事でしょうに。

 私達が向き合わねばならぬ<大地人>達とは、そういった社会で生きている者達です。

 我々が早期に構築せねばならぬのは、如何にして安定した食料供給地である産地を手中に収めるか、です。

 <南の朱大門>の先にあるサキシマ庄、アベノ庄、スミエ庄、ナガイ庄、ヒラノキレ庄の大地人の集落は、幸いにしてウェストランデの貴族達の領地ではなく、ミナミの属領として認識されています。

 農地、牧場にするには充分な土地があります。

 在地の大地人達に任せるだけではなく、サブ職<農家><酪農家><遊牧民>などを屯田兵宜しく派遣する事。

 ヨド大運河流域と河口、ミナミに近い<ヤマトの内海>の湾岸部の大地人漁師達の元へ、サブ職<漁師><船乗り>などを派遣する事。

 元の現実での明延、生野、多田などの鉱山に、サブ職<坑夫><採掘師>などを派遣する事。

 サブ職<採取人><狩人><鑑定士>などを四方八方へ派遣し、領主の居らぬ土地に埋もれた埋蔵資源を見つけ出し、其処へサブ職<貴族><領主>を送り込んで地権者確定をする事。

 サブ職<交易職人><配達屋>などをウェストランデ圏内の要衝へと派遣し、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>独自の輸送ルート、通商網を構築する事。

 貴族達の領地かどうか曖昧な村落は其処彼処にあるでしょうし、貴族達の支配権を脱した自由都市未満の町などと提携するのも良案でしょう。

 用心棒を買って出てやる事で、安心を代価として安価を入手するのです。

 併せて、“此の世界(セルデシア)”の貴族達の中で、ある意味最も手強いであろう商人貴族達が巣食う商都オーディアへ、サブ職<交渉人><会計士><詐欺師>などを派遣して彼らの既得権益、利権を一部なりとても奪取する事も重要案件です。

 出来得る限り、思いつく限りの手段を用いて数限りなく既成事実を積み上げれば、<委員会>を代表する立場がヨシノにて執政公爵家との交渉も有利になるはずです。

 必要な人材を必要と思われる場所へと送り込み、<冒険者><大地人>の別なく必要と思われる人材は積極的に登用する。

 ミズファは、故バルフォー閣下の姪であり、彼女を取り込む事によってウェストランデ圏内の騎士達の心象は格段に良くなる事でしょう。

 “此の世界(セルデシア)”において最も多いのは庶民階級ですが、次に多いのは騎士階級です。

 気位高く付き合い辛い上級貴族達よりも、よほど付き合いやすく扱い易い者達ですからね。

 ロレイルは、執政公爵家配下の騎士団に属する身ですから、執政公爵家への楔にも使えます。

 鶏肋よりも使い勝手があるでしょう。

 故に彼らには改変予定である<委員会>において、それなりの席を与えるのが吉であると私は判断します。

 下級貴族達は、……あまり気にしないで良いと私は考えています。

 彼らが今までと変わりなく此れからも勤めを果たしてくれるのならば、全ての事は須らく此れからも恙なく、でしょうから」

「ああ、なるほろ……そーゆー事やったんか!」

「オブザーバーであれども、私語は慎んで欲しいものなのです」

「おっけー了解、ほな議長さん。

 ワシも発言させてもろうても宜しいやろうか?」

「……どうでしょうか、内政局長?」

「別に構いません」

「では……“相談役”、発言をどうぞなのです」

「へいへいおおきにアリガトサン!

 相談役ってゆーよりは、“御伽衆”的な“雑談役”やけどな?

 ってな余談は兎も角として。

 先の<スザクモンの鬼祭り>の時に、なーんで無駄に過剰な決戦兵器たるバカ……ナカルナードと其の仲間達が居らへんのかなー、って疑問の回答がそーゆー事やったんか。

 戦闘馬鹿の脳筋集団達は、ゆーたら“欠食児童”の群れやもんなー。

 “腹減った!”“飯食わせ!”って暴れ出す前に、適当な名目と暴れてもエエ場所を与えて、一時的にミナミから追い出したって事やったんやな。

 <スザクモンの鬼祭り>でどれだけ物資が必要となるか判らんのに、更に厄介事を起こすかもしれへん扱い辛い暴力装置を、西の彼方へとおっぽり出したんか。

 んで、仕事を与えて其の他の者達もミナミから送り出す。

 ……体の良い“口減らし”、無駄飯喰らいに用はなく、働かざる者食うべからず政策って事やったとは。

 いやぁ、素晴らしい策やなぁ、インド人も吃驚やな!」

「駄洒落を解説されるくらいに鬱陶しいので、無駄口は止めてもらえませんかね?」

「一時的でも邪魔者を追い出して、<スザクモンの鬼祭り>を内政局主導で解決する事で地位を高めて、更にミナミの差し迫った危機も棚上げする。

 一石三鳥たぁ、参った参った隣の神社、何である? これぞアイデアである!

 陰険眼鏡に一点の曇りなしやなぁ、ホンマに!」

「学士?」

「エエやん別に、C調で驚嘆しとるだけやん……褒めてはいいひんけどな♪」

「無責任よりもマシだと思いますが?」

「ホンマ、コツコツやるヤツぁ、ホントにホントにホントにホントに御苦労さん、やなぁ!

 さて、ソレはソレとして。

 最初に提言があった、お貴族様一網打尽に抹殺計画やけど……誰が実行するんやろーか?」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「ワシがゆーのも何やし、言えた身分やあらへんけど……人殺しってのは極刑ものの大罪やぞ。

 <PKプレイヤーキラー>合戦に明け暮れる、の延長戦やあらへんねんで。

 “此の世界(セルデシア)”の<冒険者>は殺しても殺しても殺しても死なへんけど、<大地人>は一回殺したら“ハイ、ソレまでよ”やねんで。

 一般公募で、殺戮者と鉄砲玉を大募集するんか?

 其れとも、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>のメンバーリストにダーツでも投げて、強制指名するんか?

 ……ああ、そうか、PK共に殺らせるんか?

 実行犯に実行させてあたしゃ知らぬと頬かむり、トテチントンテンってか?

 そいつぁ甘いで、ベタベタに。

 そいつぁ……立派な殺人教唆やで?

 機械的に死刑執行書を発行しまくったアイヒマンも重罪人やけど、アイヒマンに仕事を押しつけたナチス政権が其れ以上の重悪大罪に問われたんやで?

 自分らは、鉤十字の腕章つけてチョビ髯生やしたオッサンなんぞに成り下がりたいんかいな?

 たった一人でも惨く殺せば、虐殺や。

 力のある者達が、力なき者達に実力を行使したら、弾圧や。

 其の二つが合体したら、大量虐殺や。

 パリのサン・バルテルミとシカゴの聖バレンタインデーとを、一緒くたに実行したいんか、自分らは?」

「……<大地人>同士なら……」

「<大地人>が<大地人>を殺すんやったら、<冒険者>の手は汚れへんってか?

 そんな弩腐れな事を考えた時点で、お手手どころか(はらわた)までドロッドロに汚れて、鮮血でボッタボタやろーが。

 一体誰を実行犯に仕立て挙げる……ああ、ミズファとロレイルを唆して行わせる、と言いたいんか?

 詰まり、一段も二段も低く見られとる騎士階級を心理的手段か何かで追い込んで、クーデターでもでっち上げてさせるってか?

 ソレこそ本末転倒やん。

 ウェストランデみたいな厳とした階級社会で下剋上が起こったら、ソレはクーデターやのうて、“革命”ってゆーんや。

 フランス革命ってな、王権へ反抗した貴族達の擾乱が始まった1787年から、ナポレオンによる帝政が樹立した1799年までの、十二年間の事を言うんやで。

 王権や帝政が打倒されて、新政権が成立するにゃ何年も何年もかかるんや。

 ほいで、プール何十杯分もの血が流されるんや。

 流される血は、旧政権の人間と新政権の人間だけやのーて、無辜の民の血が一番流されるんや。

 無辜の民、って誰や?

 農地で、漁場で、牧場で、山野で、町中で、村と町と街とを繋ぐ道筋で、汗水垂らして働いてはる人達の事やんか。

 自分達が欲しい欲しいゆーとるもんを生産してはる人々を殺して、生産物が流通する取り敢えずは安定しとる社会を数年がかりでぶっ壊して、人も食料も物資も何もない不毛地帯に自分らは一体何を求めるんや?」

「皆さん、“コブラ効果”という言葉をご存知ですか?

 インドがイギリスの植民地だった頃の話です。

 総督府政府は、デリー市にコブラが多過ぎる事を憂慮しました。

 其処で総督府政府は、死んだ全てのコブラを買い取る、とお触れを出しました。

 当初、報酬目当てに多数のヘビが殺されましたので、施策は一応の成果を挙げました。

 しかしです。

 一部の人々が、更なる報酬を得ようと目論み、コブラの飼育を始めてしまったのです。

 総督府政府が其の企みに気づくや、報酬支払いの施策を停止しました。

 するとコブラを飼育していた者達は、価値ゼロとなってしまったコブラを、野に……街に放ってしまったのですよ。

 野に放たれたコブラはドンドンと数を増し、デリーは以前よりも危険な状態になってしまいましたとさ、です。

 一見、正しいと思える問題解決策は、状況を悪化させる事もある、といった事例ですね。

 詳しくはドイツの経済学者ホルスト・シーバートの著作を……此処にはそんな物ありませんでしたね、失敬。

 さて此れは、意図しなかった結果、いえ出来なかった結果なのやもしれません。

 ですが何事も考えに考え、間違いが起こる事を前提に対策を先んじて用意する事が肝要なのですよ。

 人は間違いを起こす、間違いを起こさないと思った者が起こすのですよ。

 マーフィーの法則の通りに、ね。

 まぁ私が、偉そうに言えた義理じゃありませんが、経験則としてアドバイスさせて戴きます……オブザーバーとして」

「古代ローマの詩人ユウェナリス御大は、こんな事もゆーてはる。

 “orandum est, ut sit mens sana in corpore sano”

 大和言葉に翻訳したったら、“健全なる精神は健全なる身体に宿る”ってな。

 自分らは健全なる肉体とやらを持ってるんやろう?

 ほな、健全なる精神とやらで物事を考えへんと、な。

 ……<冒険者>とゆーても、ワシらは“人間”。

 <大地人>とゆーても、彼らも“人間”や。

 人間なら、人間相手に“人道的”な手段で以って、相対するんが真っ当な“人間”のする事や。

 <冒険者>も<大地人>も、不自由が幅を利かせとる“此の世界(セルデシア)”で生きていかざるを得ない、不遇な“お仲間”同士やねんから、な?」

 さて、今回も試行錯誤の連続でした。

 複数人の会話だけでのみ構成するって、ホンマに難題でした。

 其れと。

 ナカルナードが<スザクモンの鬼祭り>に参加しなかった本当の理由を今回書きましたが、コレは今回の話を書いている最中に思いついたネタでして、伏線回収でもなんでもありません。

 自転車操業で書いている私に、そのような事は出来ませんので。

 実に不思議な“予定調和”? のよーなモノでございました(平身低頭)。

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