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第漆歩・大災害+114Days 其の弐

 <第漆歩・大災害+114Days 其の壱>と併せて一つの話にしよーとしましたが、上手く纏められなかったんで、分割しました。

 うーむ、早く文章が上手くなりたい!

 一部是正致しました(2017.07.30)。

 此方に到着してから、凡そ三十分が過ぎた頃。


 山路みたいな大路をえっちらおっちらと歩きながら、ワシは何となくこう考えた。

 智に働いたら角が立ちよるし、……サドルをパクられたママチャリみたいに。

 情に棹さしたら流されよるし、……湯切りにしくじって器の隅から零れた麺の切れ端みたいに。

 意地を通したら窮屈やし、……朝七時半頃の環状線内回りの車内で『 WHERE’S WALLY? 』をするみたいに。

 あーだこーだでうだうだと、兎角に人の世は住み難いもんや。

 住み難さが高じたら、気安い住み易い家賃の安い所へでも引っ越したくなるんは、古今東西の世の常人の常。

 せやけど何処へ越したとて、住み難いんは一緒やなぁーって悟ったら?

 そん時はきっと成仏出来るやろーし、もしかしたら厭世的で捻くれた詩が生れるかもしれんし、あるいは風刺的でシュールな画が出来たりするかもしれん。

 天地を創造したんは神様かビッグバンやろーけど、人の世を作らはったんは何モノやろう?

 ソレは、神さんでもなけきゃ、鬼どんでもあらへん。

 やっぱ向う三軒両隣りでチラチラと、八十年代の広島カープの監督さんみたいに顔を半分だけ覗かせとる、外面如菩薩内面夜叉な只の一般人ピーポーやわ。

 一般人ピーポーが作ったファンキーでスタンダードな人の世が住み難いわー、ってゆーたからとて、越す国はあらへんやろーて。

 もしあったとしたにゃらば、人でなしの国やなかろーか?

 ……人でなしの国、なぁ。

 そいつぁさぞかし、人の世よりも尚一層の事、住み難いやろーなー。


「……って、今の状況がそーやんけ」

「……何がでありんすか?」

「“家にあれば ()に盛る飯を 『草枕』 旅にしあれば 椎の葉に盛る”ってな」

「其は『万葉集』、有馬皇子が捕囚となりし時に詠みしとか」

「夏目漱石御大が提唱しはった“非人情”の境地へは、結構な道程やなぁってな。

 ほら、ワシってさ、三角の世界の住人たる芸術家とは違うやん?

 何と言っても、常識が摩滅せずにピッカピカに輝き聳えとる四角四面の世界の住人やもの!」

「……左様でありんすか」

「……主様の冗句は理解し難いものでありますゆえ」


 ワシの襟元の奥に潜む家族(ファミリア)と、ワシの後ろに従う家族(ファミリア)とが、異口同音に異議を申し立ててくれはった。

 全くコレやから、“人でなしの国”の住民は!

 って……まぁ、しゃーないか。

 ミレー画伯の『オフィーリア』みたいに、物言わぬ状態でスルーされるよりはマシやもんなー。


 そーゆー訳で。

 今のワシは、山岳都市イコマの中心部へと到る石畳を、えっちらおっちらとしていたりする。

 刻限は定かやないけど、日暮れまでは随分と余裕のある時分の日差しは、ズボラな怠けモンにゃちょい厳しい。

 尾崎紅葉大先生風にゆーたらば、

“未だ宵ながら、彫刻で飾り立てたる門は一様に鎖籠(さしこ)めて。

 真直ぐに長く西のミナミの街より東に横はれる大道は、掃きたるように物の影をこれっぽっちも留めず。

 いと寂しく往来の絶えたるに、例ならず繁き足音も車輪の(キシリ)も、あるべきものなく閑古鳥のみ忙かりし”って感じやね♪

 三百六十度、……マクニール家のリーガン嬢みたいに首を巡らせたらカラス神父に祓われるまでもなく首が捻じ切れてお陀仏やけど……普通に見渡したら、中世の町並みが広がっとる。

 学校で習った“暗黒時代”っぽい“ルネサンス”的な建物が、ギュッと詰まった感じで。

 そーゆーたら。

 中世って“暗黒時代”か“ルネサンス”でイメージが大きく変わるんやけど、両方の要素がミックスされたんが本来の“中世”って時代なんよな。

 “ルネサンス”ってゆーたら、一般的な感覚やと十四世紀~十六世紀やねんけども。

 九世紀のフランク王国じゃ、“カロリング朝ルネサンス”があったし。

 十二世紀に始まったゴシック建築は、所謂“十二世紀ルネサンス”の一部やったし。

 『アーサー王物語』も『ローランの歌』も『ニーベルンゲンの歌』も、“十二世紀ルネサンス”期に吟遊詩人が巷に溢れて宮廷で騎士道物語を謳い捲くった結果なんやし。

 そもそも“ルネサンス”って“古典古代文化復興運動”……ワシらの世代は“文芸復興”やったけど今は使わへんらしい……の事や。

 復興を目論む運動やねんから、当然の事として復興を望まへん勢力も居るんが当たり前。

 カラフルな花の都フィレンツェをどす黒いモノトーンでベッタリと塗り潰し、反動的な神権政治で支配したサヴォナローラなんかは、其の代表やろーな。

 宗教改革の先駆者って讃える向きもあるよーやけど、マルティン・ルター師に比べたらネガティブ中のネガティブやわなー。

 ……何の話やったっけ?

 ああ、そうそう……中世っぽい町並み、や。

 中世っぽい町並み、ってゆーたら実に有名なフレスコ画がイタリアの地方都市にあるわいな。

 十四世紀前半に活躍したアンブロージョ・ロレンツェッティ画伯の代表的な作品で、タイトルはズバリ『都市と田園における善政の効果』!

 一階部分がやたらと広い、大きな玄関ホールを備えた“パラッツォ”と呼ばれる館が軒を連ねた、重層的な町並みと其処で生活する人達が描かれとる。

 通りには、袋詰めの小麦か何かの荷を背負った馬、着飾った貴婦人を乗せた馬、羊飼いに置いたてられた羊の群れ。

 テーブルを囲んで話に興じる者、商売をする者、並べられた商品を品定めする者、楽器を持って路上で歌い踊る者、屋根の上で建築に携わる者などなど。

 私塾のような市井の学校では多くの生徒が授業を受けていたりもする、実に平和な町の風景。

 全体的に観りゃ、何とものっぺりとした印象を受けるけど、そいつぁまぁ、遠近法が確立する以前の作品やさかいにしゃあないわな。

 今、ワシがプラプラしとるイコマって町は、プブリコ宮殿の壁を飾る傑作で活写されたシエナの町によく似とった。

 石畳を歩くってトコだけピックアップしたら、昨日と似た事しとるんやけど、昨日に比べたら何処か開放感があるんは何でやろう?

 やっぱ、閉塞的な空間やないって事かねぇ。

 何せ此処は山岳都市やから、昨日よりも空が近く感じるんよなぁ。

 ……感じるだけで、実際には標高三百メートルそこそこやから、大した事はないんやけど。

 ま、気は心って事で。

 もう一つ似とる、場所があらーな。

 イタリア半島の爪先近くにモラーノ・カーラブロって名前の基礎自治体(コムーネ)に、ちょこっとだけな。

 モラーノ・カーラブロってのは、数え切れぬほどの家屋敷が頂から裾野まで山一つ分を覆い尽くしたトコや。

 規模でゆーたら、此処は丘に近い高さの山やねんし、立ち並ぶお屋敷が埋め尽くしてるんは全体の上半分だけ、って謙虚さじゃあるけれど。

 さて他に類似点を探しゃ、防衛拠点としての価値はほぼゼロって事くらいやね。

 難攻不落と讃えられてたけど色々あって陥落したイェリコみたいな頑強さも、秀逸なボードゲーム名にも使用されたカルカソンヌみたいな無骨さも、どっちも備えてへんのは当然っちゃ当然。

 オウム返しで復唱すりゃ、だって此処は別荘地であって陣地やないのだもの。

 もし軍事都市的側面が欠片でもありゃ、騎士団の宿営やら屯所やら物見台やらなんやらで、もっとゴツゴツとした無愛想さが感じられるやろうて。

 せやけど、此処にある建物の大半は、お屋敷ばかり。

 そないなお屋敷が立ち並ぶ石畳を、六根清浄ドッコイショーと歩けど歩けど全然ひとっこ一人居やしねぇ。

 イタリアの絵画に描かれたよーな人影はおろか、馬も羊も一頭たりとて見かけへんし。

 住人だけやなしに沢山の観光客がさざめくイタリアの街とは、雰囲気が似ても似つかねーやな、全くよー。

 どいつもこいつも誰彼も一体全体何処に居るんか、とお空に訪ねたら?

 ……此処よりもズーッと下った更に其の向こうの方や、と何処かの誰かの代わりにワシが代弁致しやしょう。

 元の現実でゆーならば、今から十年以上も前、関西一円を網羅する巨大な電鉄会社が球界再編とやらでプロ野球チームを放り出した年の夏に、七十数年の歴史に幕を下ろした遊園地があった辺り。

 閉園後は遊園地のあった記憶ごと土地が穿り返され、幼稚園や小学校を内包する新興住宅地となってしもーた場所、ってゆーべきか。

 “此の世界(セルデシア)”じゃ、然して大きくもない村やけどね。

 此処に住んでた住人達の一部はつい先日、イーリスタイヒって大層な名のついた其の村に引っ越しはった。

 尤も、其処だけやと収容しきれへんさかいに、大半は古都ヨシノと其の周辺へと引っ越しはってんけどね。

 ……引っ越し、ってゆーのはこっちの言い分やな。

 あっちの言い分やと、強制退去で強制移住になるんやろーな。

 此処、山岳都市イコマって町は大地人貴族の別荘地なんで、住人のほとんどが屋敷を管理する使用人達か、彼らを相手に商売しとった商人達しか居らへんかったんで、移転は実にスムーズ(・・・・)やったけど。

 そりゃまぁ、雇い主である殿上人さんの其のまた上に鎮座()します雲上人さんの御言葉は、厳命以外の何物でもない。

 更にゆーたら、理由は他にもあったりする。

 此の地の警備を主目的として、イコマの外延部に駐屯地を所持してはった近衛騎士団の人らが、率先して退去したから……やねんけど。

 正確な理由までは知らん。

 知らんけれど、彼らが実に好意的な態度で整然と去って行かはった、らしいわ。

 いやはや、不思議思議摩訶不思議だ~わ~♪

 大地人の皆さん方は、立つ鳥跡を濁さずを地で行くように塵一つ残さず、綺麗に居らんよーにならはった。

 佐々木道誉公みたいに立花(りっか)やら七珍万宝やらで邸内を飾りつけた上に、宴会の準備まで……は、してくれへんかったけど。

 ……盗人に追い銭したくなかったんか、其れとも其処まで気が廻らんかったんか、はてさてどーなんだろーね?

 其れはさて置き、棚上げしてと。

 どんな取り決めが行われたんかも知らんけど、大地人達は此処を<Plant hwyadenプラント・フロウデン>にまるっと明け渡しよった。

 多分、暫定的な処置やと思うけどね。

 何故ならば。

 ウェストランデの政治的中心部の上の方と、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>の中央執行委員会のトップは、毎日毎日顔つき合わせて暴力を伴わへん殴り合いの真っ最中、やからや。

 どちらがどれだけ相手に有効打を放てるか。

 レフェリーが居らへん試合やから、反則なんざやりたい放題し放題。

 上手くコーナーポストに追い込んだらば、ボコりたいだけボッコボコにボコり倒す。

 相手がスリップダウンしたら、コレ幸いとマウントしての連打連打連打や。

 忍者学校に通う子供が主人公のアニメの、主題歌のサビみたいに!

 何とまぁ実に平和的で優雅な、踊る阿呆に見る阿呆な会議だコト。

 誰がオーストリア帝国公爵の外相閣下で、誰がフランス王国首相の主席全権閣下かは知らんけど。

 そーいや前者の事をヘンリー・キッシンジャー御大は、

“複雑で繊細に彫刻され、すべての面が微妙なプリズムのように輝くロココ風人物”って表現してたなぁ。

 因みに。

 帝政フランスのナポレオン一世陛下は後者の事を、“絹の靴下の中の糞”やと罵倒しまくってたけど♪

 当時のおフランスの世間は、“金儲けに精を出していないときは、陰謀を企んでいる”って酷評してたっけ。

 ……“此の世界(セルデシア)”における<冒険者>は、どないな感じに評価されとるんやろう?

 “それは悪魔のように黒く、地獄のように熱く”かな?

 “天使のように純で、まるで恋のように甘い”かな?

 カフェで例えてくれたら御の字やけど、内情は泥縄を結うた時に滴る泥水やもしれへんねー。

 まぁ両者共に、為政者としては傑出した能力は持ち合わせてへん、いたって凡庸な政治家やったそーな。

 せやのに何で歴史に名を残せたんかとゆーたら両者共、実に有能な外交官やったからで。

 前者は、ナポレオン後のヨーロッパに安定をもたらした“ウィーン体制”の中心的人物やし、後者は革命期と帝政期と王政復古期の波乱万丈を生き残ったサヴァイバー精神でフランスを護り切った人物やし。

 外交ってのは、表面上はウィットに富んだ優雅な会話を楽しみつつ、水面下で悪辣で卑劣な行為に勤しむ、平和的な戦争(ドンパチ)の事。

 あからさまな敗者にならなきゃ、双方が共に勝利宣言をアピール出来たりする、何とも不可解で難解な戦争やわ。

 甘い罠が爛れに爛れて腐臭プンプンやとしても、鼻を突くよーな死臭にゃなってへんのが、物理的やない暴力沙汰たる外交の実に素晴らしい処!

 そんで腐汁を苦汁に変えて、全身に塗れた敗北を喫せぇへんためには“外交カード”と称される“武器”を事前にどんだけ用意出来るんか、ってのが物事の肝要となりよる。

 其れがワイルドカードや切り札ならば、尚結構。

 さて今回、先にそいつを行使したんは<Plant hwyadenプラント・フロウデン>側やったそーな。

 外交カード(そいつ)の名は、サブ職<料理人>。

 “此の世界(セルデシア)”でやったらアントナン・カレーム氏に相当する技量とゆーても過言やない、彼らを協議の場に随行したんが“大々吉”やったみたいやね。

 何でかとゆーたら。

 “味のある料理”は、冒険者(こっち)にあって大地人(あっち)にはないんやもん。

 今まで食うた事のないを“美食”を賞味すりゃ、どんだけ慎重居士であろうともガッチガチに固く閉ざした口を滑らせたりするんは、仕方ねーやな。

 そんな訳で。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>は神聖皇国ウェストランデの枢要との交渉開始早々に、山岳都市イコマにおける冒険者の一時的滞在許可を、永住権に限りなく近い在留許可に更新する事に成功しよった。

 ビザが、グリーンカードに化けよった……って事や。

 此の意味合いは、非常に大きいわ。

 既に取り決められた事であっても交渉次第で変更出来る、ってな“前例”を作ったって事なんやからさ。

 其の結果、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>は此の土地の“上っ面”だけを掠め取る事に、まんまと成功。

 所謂、“租界”ってヤツやね。

 “租界”ってのは、“居留地”とも“植民地”ともちょいと定義が異なる領域やわ。

 “居留地”は、一定地域に限り余所者に居住と商業活動を認可する事で、主権は認可する側に有利となる場合があったりする。

 例えば幕末の横浜とかにあった外国人居留地なんかは、外国人が勝手気侭にウロウロして欲しいないさかいに、居住と行動を制限するために規定したってな側面があった。

 一方“植民地”やと、其の土地の所有権を含むありとあらゆる権利は全て余所者が分捕り、本来の地権者には何一つ残されへんかったりする。

 ほな、“租界”はとゆーと、居留地以上の植民地未満や。

 植民地みたいに土地の所有権はあらへんけど、居留地では曖昧な行政自治権と治外法権を明確な権利として保有しとる場所。

 さて此処で知っとかなアカンのが、租界とは“租借地”と同様に本来の主権者や地権者に地代を払わないとダメやねんね。

 其れと租界と租借地では権限の及ぶ範囲、言い換えたら面積が違う。

 租界やと、都市ひとつ分にも満たぬ一区画でしかあらへん。

 租借地やと、例えばマカオ島や九竜半島みたいに島ひとつや半島全部を、ってな具合に。

 パナマ運河と運河地帯両岸も、1999年にパナマ共和国へ返還されるまで永久租借地としてアメリカ合衆国の管理下に置かれ、南米大陸における米軍の軍事拠点となってたし。

 そーいや、一時話題やったグアンタナモ海岸は、未だにアメリカがキューバから租借って名目で借りパチしとるんやったっけ。

 ほいで<Plant hwyadenプラント・フロウデン>は、相手さんが発言撤回をする前に、代金を目の前に積み上げて言質を確定させたとか何とか。

 代金ってのは、此の一ヶ月の間で得た大量の金貨と不要なドロップアイテム、言い換えたら供給過剰気味の余剰財産。

 札束詰めた金属ケースでぶん殴るみたいに払い込んだ当座の地代が、如何ほどなんかは知らんけど。

 <スザクモンの鬼祭り>では、稼いだゼニを湯水のように消費せなならん局面もあったが、全体としての収支決算は“莫大×膨大”な大幅黒字やったよーやし、少々の出費は問題ないんやとか。

 其れは其れとして。

 前言を覆すよーで何やけど、彼らがテーブルを挟んでウダウダしているであろー事は、果たして“外交”なんて大層なモンなんやろーか?

 大地人の側は紛れもなく“国家”やけど、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>は組織であっても国家やないさかいに、対話による交渉……やわなぁ。

 恐らく、あちらさんは外交をしているんやと思うが、こっちはそんな心算はないやろう。

 そんな意識の齟齬が、租界の獲得に繋がったんやと思う。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>側は、<赤封火狐の砦(ファイアフォックス・キープ)>を借り受けた時と同じように、建物を一軒貸して欲しい程度の認識で申し出たに違いない。

 そしたら向こうは、恐らく一軒二軒やのーて区画ひとつ分を提供する旨の言葉を思わず洩らしてしもーた。

 想定以上の土地を言い出され慌てた<Plant hwyadenプラント・フロウデン>は多分、思考停止に陥ったんやろう。

 向こうは向こうで、一度口から発した言葉を翻す事が貴族らしくないと、躊躇ったんやと思うわ。

 どーやらホンマに区画で貸してくれそーだ、と理解した<Plant hwyadenプラント・フロウデン>はそれなりの代価が必要やと、取り敢えず手元にあった金目のモンをドカンと出して、コレで良いかと顔色を窺う。

 あちらさんは恐慌したやろーなー。

 何せ大地人とは比べ物にならん武力を持った奴らが、莫大な財力すら所持してるって事を目の前で証明されてしもーたんやから。

 其の結果が、区画やのーて山岳都市イコマ全体が租界と相成りました、チャンチャン♪

 以上の経緯は、洩れ聞こえて来た断片情報を元に推理したもんやさかいに、正解するカドうかまでは、責任が持てへんけどね?

 でもまぁきっと、当たらずとも遠い……ってな事はないやろう。

 四角四面やないお付き合いを心がけとって、ホンマに良かったわ。

 ワシが知らん事、知りたい事を教えてくれる友垣らの有難さよ。

 ソレにしても……御大尽は違うやねー!

 不動産を持つモンは土地の価値を、動産を持つモンは金品を、持てる者は己の手に持つモンを低く見る傾向があるさかいなー。

 ワシみたいな、ないない尽くしだよ人生は! ってな生活をしとるモンからすりゃ、理解出来ひんし実行も出来ひんけどな。

 出来る事ゆーたら、安心して無為徒食の身に甘んじさせてもらうくらいやわさ♪

さてさて、ソレはソレで“何故に、ワシは此処に居るんやろーか?”ってな大問題に繋がるんやけど……。


「……ワシは一体、何をしとるんやろう?」

「主様?」


 いつの間にやら足を止め、ワシは無人の館の一つに片手をついて、反省のポーズを取っとった。

 横から覗き込むアヤカOちゃんの、案じるような眼差しにすら気づかぬままに。

 あー全く、一家の家長さんが庇護すべき家族(ファミリア)に心配されて、どーすんねん?

 バーミンガム大学の研究やと、植物にも脳みたいな機能があって細胞が会話を交わしながら成長のタイミングを判断しているらしいが。

 ワシの脳内お花畑じゃ、どーやら其処まで高尚な行いはしてくれてへんみたいやな。

 細胞一個一個やなくて、人間ひとりひとりのレベルに話を広げたら。

 独りぼっちの判断じゃあ不安の塊にしかならんでも、寄って(たか)れば文殊の知恵になるやもしれん!

 ……そーならずに、烏合の衆になってしもーたギルドに嫌気が差して、ワシはソロ生活をしとるんやけど♪

 ただまぁ今みたいな、判断に迷ってどーしたもんかと悩む時は、ギルドに所属してた方が良かったかなぁ、と思ったりもするわ。

 全く、人の行い営みとは度し難いねぇ。


「主殿、日干しとなる前に日陰へと入りんす」

「へいへい」


 人ならざるモンに襟の内側から尻を叩かれるたぁ、ホンマに度し難い!

 そんな度し難い連中が欲得ずくで群れ集った<Plant hwyadenプラント・フロウデン>とやらの度し難さは、果たしてどんなモンなんやろーか?

 グレガー・マグレガーに匹敵するんか、せーへんのか?

 ミナミの街を皮切りに、ウェストランデ圏内を侵食したり搾取したり併呑したりして、“ポヤイス国”でも建国するんやろーか?

 もしそーならば、濡羽嬢は差し詰め“ジョゼファ王女”やな。

 肥沃な大地、豊穣の海、潤沢な山野、川底には金の粒がザックザク。

 そないな謳い文句に引き寄せられ、波をチャプチャプと掻き分け海越えて、行くぜ希望の世界へと。

 ……望みを絶たれて、コメカミに銃口押し当てて引鉄をカチンとする羽目にならなきゃエエけれど。

 まやかしの世界で、作り上げるんは天麩羅国家か?

 其れとも、誰もが均質的な幸せを享受出来る自称“善政”のディストピアか?

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>を運営する者達は“ビッグ・ブラザー”として冒険者達の上に君臨したいんか?

 或いは“オーバーロード”となって、異界の未開人たる大地人達を教導したんか?

 ……其れ以前に、ビジョンをどれだけ持ってるのやら。

 1908年を元年とする“フォード紀元”に基づいた、あの『すばらしい新世界』をもう一度! ってか。

 そうなりゃワシは『鋼鉄都市』に移住するか、『高い城の男』ごっこをするしかねーやな、全く。

 『ジュラシック・パーク』に迷い込んだ子供達よりはサバイバル能力も戦闘力もあるけれど、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』で右往左往する生存者並みに頼りないもんなぁ、ワシらは。

 さてさて、此の先どーなりますやら。

 先ずは、ゼルデュス達のお手並み拝見と洒落込むか。

 其のためにゃあ、ローラ・パーマーの如く簀巻きにされて遺棄されへんよう、上手い事立ち回らんとね?

 ああ、こっからやと<二頂の丘(ツインピークス・ヒル)>が綺麗によく見える事!

 元の現実なら、二上山は大昔に巨大な火山やったよーやけど。

 “此の世界(セルデシア)”にも、マグマが地底に渦巻いてるんやろーか?

 まぁ少なくとも、人の欲望はドロドロと此処(イコマ)にも其処(ミナミ)にもあそこ(ヨシノ)にも渦巻いてるみたいやけどね。


「主殿?」

「主様?」


 おお、怖!

 こっちはヒュードロドロや!

 二体の家族(ファミリア)に責っ突かれながら、ワシは傾斜した前途を目指して歩き出す。

 『坂の上の雲』は遥か遠くに見えども、道程は果てしなし。

 とどのつまり、……平常運転で進むしかねぇって事かぁ?

 さぁ間も無く、御盆でござんす。

 例年同様、八月一日から月末まで、終日休み無しの日々を過す私です。

 皆様、お墓参りはくれぐれも気をつけて。

 御先祖様あっての私達ですから、感謝の念でお手合わせ下さいませ。

 お手手の節と節を合わせてフシアワセ、南ぁ~無ぅ~♪

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