第陸歩・大災害+112Days 其の壱
ちょいと、投稿期間と文章が長くなりまして、誠に申し訳なく候。
選曲に、ちょいと時間が掛かり過ぎましたのですよ、ゴメンなさい(平身低頭)。
誤字・誤記を訂正致しました(2017.06.13)。
蛇足を付け足しましたんで、二分割に致しますです、ゴメンなさい(2017.06.16)。
「“然れば疾く始めよ”、との御上意である。
者共に申しつく、謹んで拝受すべし」
恭しい所作で勅旨を奉戴した伝奏役女官が、一段下で控えていた御側御用取次の任に就く文官へと申しつける。
上意を承った御側御用取次は直ぐさま、更に一段下で膝をついた姿勢で侍っていた殿上待遇の近衛都督府大夫、言い換えれば爵位を持った近衛騎士へと下命した。
近衛騎士としては上位の身分を持つ者が手振りのみで、地上で屹立している配下へと無言の指示を飛ばす。
上覧席に据え置かれた御輿の御簾の内より発せられた言葉が、段階を踏んで地下へと伝達されて行き、最終的に受け取ったのは一人の冒険者であった。
仮設とは思えぬほどに確りとした造りの上覧席は、絢爛豪華ではなくとも流麗な装飾が丁寧に施された四階建てである。
最下段には、女官を含めた従者達が肩を寄せ合うようにしてズラリと並ぶ。
二段目には、宮廷文官あるいは近衛都督府の任に就く、三十名の准爵や男爵といった下級の大地人貴族が腰かけていた。
三段目には、各二名の子爵を背後に侍らせた伯爵位の大地人貴族が十名、ゆったりと座っている。
そして最上段には、四方を御簾で閉ざした二基の御輿が厳重に設置されていた。
右側は蒼地に花鳥を白色であしらった、<葵飛鳥文様螺鈿御幸御輿>。
斎宮家当主の伯母である、悠紀宮オキナガ姫が座す御輿だ。
左側は黒地に幾何学模様を金色であしらった、<黒曜方円金箔巡行御輿>。
執政公爵家の三弟であり、神聖皇国ウェストランデの宮内尚書として皇国内の儀典を全て掌握している、マーカイ侯爵が座す御輿である。
着飾った貴賓達を一瞥した冒険者は、全てがゲームであった頃から愛用している製作級アイテムのトランペット、<ゴッド・セイブ・レッド>を口に当てた。
本来はもう少し緩やかな旋律の曲を、勇ましいアップテンポで高らかに吹き鳴らす。
真紅の野球帽を斜に被った<吟遊詩人>のボールin theFarSkyが、上覧席の前に設えられた演台の上で独り真剣な表情で演奏するのは、『花咲かじいさん』だ。
事前の打ち合わせの時、<馬揃え>のオープニング役を依頼されたFarSkyは、企画実施の現場責任者たるおっさんに訊ねた。
何を演奏すれば良いのか、と。
「自分のレパートリーの中で、吹いてて一番気持ちの良い曲でエエさかいに♪」
首を傾げながらも指示された通りに選曲した結果、FarSkyにとって最も吹き慣れた曲が、『花咲かじいさん』であったのだ。
今から九年前に広島市内の一等地に開場したスタジアムの、ライトスタンドで数え切れぬほどに吹き鳴らした其の童謡は、御贔屓チームの応援歌であるのだから。
“宮島の神主さん、三連覇成就を頼んますけぇ”、と思いながら一曲吹き終えたFarSkyの耳に、何処からか幾つもの打楽器、管楽器、弦楽器の音色が聞こえて来る。
其れは、<フシミ天覧馬揃え>を大いに盛り上げるべく編成された、<吟遊詩人>達の“自称”オーケストラだった。
“自称”という、冠と但し書きの合間的表現が付加される理由は明白である。
通常のオーケストラならば絶対に存在しない、トーキング・ドラム、和太鼓、オカリナ、ケーナ、バグパイプ、琵琶、バラライカ、などが混じっていたからだ。
大がかりなチンドン屋とビッグバンドの狭間から、明後日の方向へと補助線を長々と引いたような楽団は、何とも楽しげな曲を奏でている。
曲目は、『ゲバゲバ90分のテーマ』。
選曲者は勿論、現場責任者たるおっさんだ。
出丸の裏口から意気揚々と現れた行列の先頭は、其のおっさんであった。
<獅子女>の背に揺られながら、珍しく四角四面の表情を顔に貼りつけている。
キリリと口を真一文字に結んだ中年の後ろには、<召喚術師>の集団が付き随っていた。
翼を折り畳んだ黒色の<鋼尾翼竜>が十頭、尻尾を引き摺りながら二本の足でノッシノッシと歩む其の背には、<召喚術師>が三人ずつ跨っている。
ずり落ちぬようロープで体を固定した彼らは手に手に駕籠を抱え、上質の色紙でこさえた様々な形の造花を、辺り一面に満遍なく撒き散らしていた。
ワイヴァーンが進む毎に、グラウンドは千紫万紅の園となる。
色鮮やかに飾られた、文字通りの花道。
美しく装飾された道筋を踏み荒らさぬよう摺足気味に進むのは一体のモンスター、見上げるほどの体躯の<単眼巨人>である。
威厳たっぷりに堂々と行く其の肩には、一人の女性冒険者が腰かけていた。
二十世紀初頭のドレスコードを厳守した<吟遊詩人>は、ヴァイオリンの弓を指揮棒として使いながら、優雅に体全体でリズムをとっている。
そして後続する、別種の巨大なモンスター達。
のっしのっしと歩く<巨石兵士>が四体がかりで担ぐのは、太い丸太で出来た手輿のような、舞台であった。
其れが、計八台もある。
舞台には其々、十五人から二十人の<吟遊詩人>が乗っており、些かの音程の狂いもなく楽器から美しい音色を賑やかに空へと解き放っていた。
更に其れらを囲むポジションで、プロの軽業師を凌駕する跳躍力を見せつけるのは、約八十名の<盗剣士>達である。
彼らは、演奏時のエフェクトとして咲き乱れる七色の音符をダンス・パートナーにしながら、華麗な空中演舞を行っていた。
<盗剣士>達は、一畳サイズの旗を結わえた儀仗用の短槍を携えている。
半数が純白の旗、もう半数が深紅の旗で、其れがバサバサと風鳴りを立てる度に地を舐めるように振られ、宙を右に左にと行き交っていた。
カナダに本部を置くエンターテイメント集団と中国の名門雑技団をミックスしたような者達を引率する楽団の演奏が、グラウンドの隅々にまで満ち溢れる。
<召喚術師>を差配役にした行列は、出丸前のグラウンドの中ほどまで進んでから直角に曲がる。
其処で、<盗剣士>の集団が行列から離脱し、純白の旗を掲げる集団と深紅の旗を掲げる集団とに分離した。
途切れる事ないリズムに合わせ、紅白の旗は二列となってグラウンドを駆け巡る。
躍動的に併走する旗の列が、グラウンドをキャンバスとして時計回りに旋回する光景は、二色で色分けされた“尾を飲み込む蛇”のようだ。
一方、<召喚術師>と<吟遊詩人>達の行進も上覧席の前まで来るや、隊列を変化させる。
上覧席の前で、スフィンクスを真ん中にワイヴァーンが五頭ずつに分かれて立ち止まり、百八十度方向転換した。
演奏舞台を担ぐゴーレム達もまた四組ずつとなり、ワイヴァーンの外側に向きを変えずに陣取る。
演台の直下で佇むスフィンクスの前まで真っ直ぐ進んだサイクロプスの体が、不意に光を纏った。
キラキラと輝きながら薄れていく巨体の肩から、スッと跳び上がるやクルリと一回転し、優美に着地を決めるヴァイオリニスト。
彼女がニコリと笑みを浮かべながら差し上げた左手に、<スザクモンの鬼祭り>の際に彼女の下で副官役を務めたFarSkyは、左手を合わせた。
パチンと音が鳴った後、指揮者は演台から上覧席へと一礼し、コンサートマスターはゴーレムが支える演奏舞台へ身を躍らせる。
「ジョン・ウィリアムズ、『 Star Wars Main Theme 』♪」
指揮棒の代用品であった弓が、ヴァイオリン型アイテム<提琴#K525>の弦に触れた瞬間、演台と演奏舞台で音が一気に爆発した。
ある種、暴力的と言っても過言ではない弦楽器と管楽器が同時に発した音の高鳴りが、大きなうねりとなる。
演台の前で留まっていたスフィンクスは前肢を振り上げるや、サイクロプスの消え去った前方へと翼を広げながら一気に駆け出した。
充分な助走を取ったスフィンクスが、契約主を背に乗せて空へと舞い上がったのは、二色の旗が舞い踊る場の間際である。
機を合わせて、巨体を揺らしながら前進したワイヴァーン達も、上覧席から距離を置いた場所で開翼した。
一斉に飛び立つ先は、澱んだ雲に覆われた大空。
形容し難い渦と奇妙な筋が幾層にも折り重なった雲海、其れに閉ざされた空に鮮やかな青が一つ、点される。
青は、点から線に形を変えてグルリと円を描く。
其れは、真っ青なスモークであった。
機を同じくして、其の周囲に現れ六個の青い点が円を囲い込むように、線を刻む。
雲をキャンバスに仕立てて描き出されたのは、一片一片が矢鱈と細長い、奇妙な六芒星に似た図形であった。
其の図形は、まるで京都市の記章のようである。
しかし其れはただのマークではなく、<ヘイアンの呪禁都>を封じる要衝に刻まれた紋章なのだ。
大は、東の封印たる<銀照大聖堂>、南の封印たる<護国大聖堂>、西の封印たる<霊蜂大聖堂>、北の封印たる<金鹿大聖堂>など。
小は、弧状列島ヤマトにて最も崇拝されているユーララ神の石像を祀る、犬小屋サイズの祠に至るまで。
余す事なく全ての堂宇もしくは祠の門扉に刻印された、ウェストランデ皇王朝時代に由来する、神聖なる紋章。
其れが、空にくっきりと表される。
まるで分厚い雲が切り刻まれ、青空が透間から顔を覗かせたように見える光景に、其れまでどよめきしか発していなかった上覧席の至る所から、感嘆の吐息が洩れた。
空に描かれた紋章は大地人貴族にとり、恐怖をもたらす怨敵を封じ込めるために必要不可欠な印だけを意味するモノなのではない。
歴史に名が記された家門の先祖や一族の先達が残した汚点を、綺麗に拭い去った証しでもあったのだから。
大地人貴族には日常茶飯事である権力闘争が、些か過剰になった結果が新たな事象の要因となり、最終的に<スザクモンの鬼祭り>という名の恐怖となった。
其の発生源である<ヘイアンの呪禁都>を日常から隔離し封印するための紋章は、上覧席を占める者達の矜持を強固にする象徴なのである。
例え、其れが事実を捻じ曲げ逸脱したストーリーで上書きした、糊塗と隠蔽による産物であったとしてもだ。
「布袋寅泰、『 BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY 』♪」
指揮者の発した声に対し即座に反応したのは、楽団の中に居た数人のギタリストであった。
一糸乱れぬ演奏は、複雑に絡まり一本の力強い旋律となる。
ギターだけで奏でられていたリズムが二十秒ほど続いた処で、其の他の弦楽器が、更に打楽器と管楽器が激しい勢いで乱入してきた。
其れは、グラウンド内で二色の旗を掲げて走り回っていた<盗剣士>の動きにも変化をもたらす。
純白の旗が左へ、真紅の旗が右へと一斉に退避して行くと、グラウンドにはいつの間にか新たな冒険者達が屹立していた。
揃いの漆黒のマントを羽織った<武士>と、銀色のマントを羽織った<守護戦士>が凡そ八十人ずつ、武器を構えて対峙している。
陰影の如き軍団の先鋒に立つ黒い甲冑姿の<武士>、が気合を声に乗せて白刃を縦に振るえば、月光を連想させる軍団の先陣に居るオレンジ色の全身鎧を装着したエルフの女性がブロードソードを横に薙いだ。
太刀が攻め込み、剣が防御に徹する。
威勢の良い鬨の声を上げながら、一方的に斬り込み続ける<武士>達。
「すぎやまこういち、『 ロトのテーマ 』♪」
管楽器を携えた冒険者達が、盛大にファンファーレを奏でた。
其れを切欠に、防戦一方であった<守護戦士>達が剣を一閃し、前へ前へと逆撃を開始する。
攻守が交代した剣舞は、前半後半併せて約七分に亘ったが、観覧する者達は飽きる事なく其の勇壮な出し物に見惚れていた。
特に、近衛都督府に属する騎士達は全員が、目の色を変え前のめりとなっている。
普段は古都ヨシノに常駐し、冒険者と交わる機会のない近衛騎士達の目に映ったのは、異常とも言える光景であった。
宝物庫でもなければ目にする事もない鎧を身に着け、恐らく一生手にする事のない剣を自在に振るう冒険者達の集団。
武人としてはプロ中のプロである彼らからすれば、動きに拙さを感じられる部分は多々あれど、戦場で相見えれば絶対に敵わぬ軍勢である。
だがグラウンドで繰り広げられた演目は、近衛騎士の立場からすれば決して御遊戯などではない。
戦う者、と言うには技術的に凡庸かもしれぬ冒険者も、強靭な肉体と強固な武具をもってすれば強大な戦力と為り得る。
其の事実を衝撃的な形で突きつけられ、大地人の男達の大半が恐怖すら覚えた事に気づいた者は、一人だけであった。
出丸の壁際で整列し、護衛の任に就いている冒険者達の指揮官であるイントロンは、上覧席を眺めてから口の端を微妙に震わせる。
古の都キョウへの道すがらでも、<ヘイアンの呪禁都>近辺でも、そして<赤封火狐の砦>への道程でも、随行する冒険者達を高価なブリキのオモチャであるかのように見ていた、尊大な大地人達。
其れが今では、体だけではなく心から萎縮し始めているのだ。
何とも滑稽な見世物だ、とゼルデュスの腹心はともすれば緩みそうになる口元を、必死で引き締めていた。
「大野雄二、『 Lupin the third 80 』♪」
出だしは管楽器であったが、派手なビートを刻む打楽器の連打が直ぐにとって変わる。
手にした刃を一旦頭上高く突き上げてから、鞘へと納めた<武士>と<守護戦士>達が一礼するのももどかしく、足早に後退した。
再び空白地帯となったグラウンドの中央に、四方八方から冒険者達が飛び込んで来る。
紫色の襷をした<暗殺者>達と、黄色の頭巾で頭部を覆った<武闘家>達であった。
活気溢れる賑やかなジャズサウンドに合わせ、双方共にアクロバティックな動きを見せるが、職種の違いが明確に現れ出でている。
風に舞う木の葉のように、風を切り裂く飛燕のように飛び回る、軽々とした身のこなしの<暗殺者>達。
得物目がけて一気呵成に疾駆する野獣のように、得物を仕留めて舞い上がる猛禽のように、力強く振る舞う<武闘家>達。
空を飛び地を駆ける彼らの姿は、まるで海を走る波涛のようだ。
演奏舞台が間断なく生み出す七色の音符と同じように、様々なスタイルで跳んで跳ねてをしていた冒険者達の演舞は、曲目の終わりを告げる楽器の乱打を合図に、潮が引くようにグラウンドから捌けて行く。
「チャイコフスキー、『 Торжественная увертюра “1812 год” 』♪」
始まりは、弦楽器の穏やかで緩やかな旋律。
暫くしてから管楽器が参加するも、其の静けさは変わらない。
だが、凄みがほんの少しずつ、其処に加えられていく
次第に高まりだす、音の奔流。
不意に、グラウンドに幾つもの光が瞬いた。
其れは魔法陣が放つ、眩い光であった。
上空からキラキラと、光を纏わせて無数の羽毛を降り注がせる魔法陣。
一頻り宙を舞った羽毛が消え去れば、即座には数え切れぬほどの虹色の光線が柔らかな曲線を描いた。
ふわりと空気が動き、何処ともなく湧き出した花の香りがグラウンドを包み込む。
上覧席下段と最上段に居た女官達は、漂って来た癒しの効果を伴った馨しさに、うっとりとした表情を見せた。
演奏舞台の上では、出現した大勢の<豊穣の祖霊>が手を繋いでクルクルと輪をなし、舞台下では<野生の祖霊>の群れがグルグルと円を描いている。
漂う芳香の中で、取り分け梅の香りが強くなった。
梅の花吹雪がグラウンドの中で唐突に起こり、其処に冒険者達が忽然と出現する。
現れたのは、和装に身を包んだ百人ほどの<神祇官>達。
周囲に小さな瑠璃色の勾玉に似たモノを浮かべ、澄んだ鈴の音を発しながら典雅な趣で、拡げた袖を棚引かせながら跳躍する。
其処に三十名の<付与術師>が混ざった途端、舞い踊る全員が銀色の靄に覆われた。
高まり行く旋律。
突如、銀色の靄の中から空へと多数の火炎弾が撃ち出された。
上空を吹きぬける風により刻まれた図形は既に形を失い薄れており、ただの青い膜と化している。
そんな上空に一定の間隔ながら、密に撃ち込まれる<フレアアロー>は大気を焦がすだけではなく、大空を支配する不気味な雲海に穴を穿とうとするかのようであった。
炸裂する火炎に時折混じる火山雷の如き電光は、<ライトニングネビュラ>であろうか。
膠着した戦況を打破すべく放たれる重砲の斉射にも劣らぬ魔法攻撃が、天を赤々と焼き払い、不自然な青紫色に煌めかせる。
曲調はいつしか、行進曲と移行していた。
いきなり、一陣の強風がグラウンドだけを襲い、一瞬にして銀色の靄を吹き飛ばす。
すると其処には、冒険者達が勢揃いしていた。
先ほどまでとは異なり、グループ分けされておらず職種の別なく雑多な状態ではあるが、姿勢正しく肩を並べ両手を大きく振り、足を上げて前進する。
そして、総勢八百五十六名による行進が演奏舞台の寸前で立ち止まると同時に、<吟遊詩人>達による演奏が終了した。
楽団の指揮者は、晴れやかな笑顔で上覧席へと向き直り一礼すると、同じく一礼を終えた演奏舞台の演者達と共に地上へと降り、仲間の列の一員となる。
入れ替わりに、演台に登壇したのはレオ丸であった。
上覧席へ慇懃な態度で深々と頭を垂れる事、凡そ十五秒ほど。
無礼になるかならぬかの微妙な間をおいてから上体を起こすと、背筋をピンと伸ばしつつ徐に懐へ手を入れ取り出したのは、一通の封書。
折り畳んだ封書を両手で広げたレオ丸は、大きく口を開いた。
「謹み畏みて、御前にて言上仕る。
格別なる御意向にて、いと尊き御身の御方様に御来駕賜りし栄誉を頂戴致しましたる事、誠に恐悦至極に存じます。
さて、御臨席賜りし諸侯、諸卿、諸々の殿上人に申し上げ奉る。
本日、我々<冒険者>が此の地に集いし目的は如何なるものでありましょうか。
其れは、此の地において武運拙く倒れた英霊達を慰撫せんがためであります。
彼らは尊い命を、神聖皇国と安寧を守らんがために捧げたのであります。
彼らは全く、良き漢達でありました。
彼らは、神聖皇国の臣民として幸福な生活をおくる権利を有しておりました。
ですが、其の権利に拘泥する事を潔しとせず、身命を賭して戦い、儚くも戦場の露と消え果ててしまったのです。
いと尊き御方、諸々の殿上人の方々に、僭越ながら御心へとお伺いを立てさせて戴きたく存じます。
彼ら、防人の将兵達は何故に散華する事と相成りましたのでありましょうか。
其の解答は唯一つであるのでしょう。
彼らは神聖皇国と安寧を守らんがために、其の身命を擲ったのだと愚考仕ります。
武人として、是ほどまでに崇高と尊厳に満ちた死がありましょうや。
いと尊き御方、諸々の殿上人の方々。
私達は此処に確りと、明記せねばなりません。
神聖皇国と安寧こそ命を代償にしてでも、護持するに値するものであるのだと。
彼らこそ護民の精神を、身を以って示せし者達、誇り高き益荒男達。
“同胞達よ、死を恐れるな、共に戦おう、神聖皇国の臣民達の安寧のために”。
彼らが残せし、私達への遺訓は斯様なものであろうと、愚考仕ります。
バルフォー=トゥルーデ砦将万歳! 防人兵団万歳!」
読み上げた封書を丁寧に折り畳み直し、懐へ納めたレオ丸は先ほどよりも短い一礼をすると、踵を返す。
入場の際と同じ表情で足下に居並ぶ冒険者達の顔を見渡し、静かに語り始めた。
演出として、以下の魔法を使用致しました。
<施療神官>……<天使のささやき>&<オーロラヒール>。
<森呪遣い>……<キュアブルーム>&<従者召喚アルラウネ>&<従者召喚グレイウルフ>。
<神祇官>……<飛び梅の術>&<快癒の祈祷>。
<付与術師>……<アストラルチャフ>。
<妖術師>……<フレアアロー>&<ライトニングネビュラ>。