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第陸歩・大災害+103Days

 今更ながらですが此方でも、明けましておめでとうございます。

 ま、小正月やからエエですやんね?

 さてさて、随分前からの櫻華様との御約束も果たさせて戴きました。

 本来の形は、御作『天照の巫女』の第七話『テンプルサイドでの攻防−守る者と戦う者−』http://ncode.syosetu.com/n0622ce/8/と、第九話『大遠征−ザントリーフ戦役−』http://ncode.syosetu.com/n0622ce/10/を、御拝読下さいませ(平身低頭)。

 不備を是正し、一部を改正致しました(2017.01.15)。

 歴代総理大臣の中で、大阪府に生まれた人物が二人居る。

 一人は、終戦内閣の首班であった第四十二代の鈴木貫太郎だ。

 しかし彼は本籍地が千葉県であるため、純然たる大阪出身者とは言い難い。

 残るもう一人は、外務大臣に幾度も再任された門真第一村出身の、幣原喜重郎であった。

 東久邇宮稔彦王が僅か五十四日間で総辞職をした後、第四十四代に就任した彼は、政界引退後に一つの論文を発表している。

 内容は、戦前の対中外交における考えを記したものだ。


 曰く、

“どこの国でも、人間は同じく、心臓は一つです。

 ところが中国には心臓は無数にあります。

 一つの心臓だと、その一つを叩き潰せば、それで全国が麻痺状態に陥るものです。

 たとへば日本では東京を、イギリスではロンドンを、アメリカではニューヨークを仮に外国から砲撃壊滅されると全国は麻痺状態を起こす。

 取引は中絶される。

 銀行だの、多くの施設の中心を押さえられるから、致命的な打撃を受ける。

 しかし中国という国は無数の心臓を持っているから、一つの心臓を叩き潰しても他の心臓が動いていて、鼓動が停止しない。

 すべての心臓を一発で叩き潰すことは、とうてい出来ない。

 だから冒険政策によって中国を武力で征服するという手段を取るといつになったら、目的を達するか、予測し得られない。”云々かんぬん。


 長々と引用したが、此の論をミナミの<Plant hwyadenプラント・フロウデン>やアキバの<円卓会議>に、当て嵌める事は出来るであろうか?

 レオ丸の視点で勘案すれば、<円卓会議>には当て嵌まるだろうと思える。

 単純に考えると、十一ギルドの代表者で構成された<円卓会議>には、十一個の心臓があるのだ。

 既に収集済みの情報に照らし合わせてみれば、クラスティ、シロエ、アイザック、ミチタカと際立った心臓が四つもあり、カラシンやロデリックやソウジロウといった心臓も充分に強固である。

 例えどれか一つが叩き潰されたとしても、全身が機能不全状態に陥る事などありえない、とレオ丸には考えられた。

 合議制による組織の運営とは、物事の決断実行の速度に難はあっても、実効性の精度を高める事と安全機構を万全に働かす事に意義を認める、仕組みなのだから。

 さりとて呉越同舟に陥った時には、“小田原評定”と化してしまうのではあるが。

 一方、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>の方はと言えば?

 濡羽を無比なる権威(オンリーワン)として戴いているために、レオ丸から見れば心臓は一つしかないとしか思えない。

 唯一にして絶対である心臓を潰せば、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>は一瞬にして瓦解してしまうだろう。

 だが、其の“たった一つの心臓”を守りきる事が出来れば、強固な組織として弧状列島ヤマトの西半分を支配し続ける事が出来るに違いない。

 レオ丸が知り得る限り、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>を運営する幹部達は其れを自覚しているようだ。

 故に。

 濡羽は常に安全な場所に秘匿され、公の場で指揮指導役を果たすのは、其の配下の幹部達であった。

 しかし此処で、別の問題が発生する。

 <円卓会議>は十一個の心臓を所持している御蔭で、方針さえ定まれば十一個の心臓が其々、個々の判断が出来た。

 つまり、十一個の組織に分かれて、別個に行動する事が出来るのだ。

 他方、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>は一個の心臓しか持たぬが故に、<円卓会議>のような行動はなし得ない。

 心臓ではない他の臓器が心臓の形を借りねば、無比なる権威(オンリーワン)の威光と名を借りねば、何一つ事を起こせぬ組織なのだ。

 十一個に分裂出来る<円卓会議>と、常時一個体としてしか行動出来ぬ<Plant hwyadenプラント・フロウデン>。

 其れが、不都合が生じている現時点での、不具合に繋がっていた。


 <ゴブリン王の帰還>という災禍(イベント)が発生したイースタル圏内において、<円卓会議>は次のように即応した。

 十一個の心臓を最前線担当・後方支援担当・本拠地留守役担当・大地人との折衝担当と、四つに役割を分担したのである。

 そうする事により、不意打ちの如くに襲いかかって来た大いなる災厄(イベント)を、即座に迎え撃つ事が出来たのだった。


 対して。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>は、<スザクモンの鬼祭り>という非常事態(イベント)が生起したウェストランデ圏内において、如何なる対応をしたのか?

 近々に起きる事を想定し、想定に即した準備を整え終え、事態発生に際しては先手を打つべく整然と行動を開始したのである。

 しかし、(あに)(はか)らんや。

 後手を引く羽目に、受身に過ぎる状態になってしまったのだ。

 其れは幹部達にとっては、実に予想外の事であった。

 されど、冷静に考えれば当たり前としか言いようがない事実である。

 想定済みの対応を状況に当て嵌め、実行してしまったのだから。

 想定は想定でしかなく現実は常に想定を凌駕する、といった事は世の常である。

 盤上演習や、書類上の計画は、万全を期したとて都合の良い空想に成り下がる事がままあるのは、自明の理。

 幹部達が想定していた以上に、現実は想定外であったのだ。

 安易に考えた“因”で実行してしまった事により、生じた“果”は最悪寸前となって顕現した。

 戦闘をする事と、戦闘をし続ける事は、全く異なるモノである。

 戦闘を仕掛ける事と、戦闘を強いられる事もまた、全く違うモノなのだ。


 斯様な事を、別の視点で述べれば。

 心臓が多いか少ないかとは、人材をどれだけ抱え込んでいるか、とイコールだと言えた。

 心臓が一つしかなくても、手足が多数あれば問題ないのかもしれない。

 しかし手足は、血液が送られなければ動かせず、壊死するだけなのだ。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>の現状をレオ丸が観察すれば、限度ギリギリの状態で動いているようだった。

 兎に角、人手が足りない。

 所属する人員は、“此の世界(セルデシア)”に存在する全てのギルドの中で、恐らく一番であるはずなのに、何故か人手が足りないのだ。

 理由は簡単である。

 連合体である<円卓会議>と違い、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>は単体であるからだ。


 人は何かの組織(グループ)に所属している時、義務や裁量権などを与えられなければ、何もしようとしない。

 自発的に動く事は、実はとても面倒臭いものだ。

 意志を持って自由に行動しようとすれば、派生する労苦や責任も全て被らなければならないのは、当然過ぎる事実。

 自由を得るとは即ち、“責任者”になるという事なのだ。

 元の現実であれば其のような当たり前の事も、“此の世界(セルデシア)”では違った。

 <冒険者>という存在は、其のような至極当然な事を無邪気に吹き飛ばしてしまう存在なのである。

 病気をしても直ぐに直るし、死んでも人生は終りとならない。

 味と食感さえ我慢すれば、メニュー作成で生み出した物で、容易に空腹を満たす事も出来る。

 眠る場所も、贅沢を言わなければどうにかなった。

 無理をして仕事をせずとも、其の辺のモンスターを適当に討伐すれば、日銭は容易く稼ぐ事が出来る。

 ゲーム時代に溜め込んだ貯金がある程度あれば、ソレすらも必要としない。

 自由を謳歌するのに、制約も掣肘も感じずに生きていけるのが、“此の世界(セルデシア)”の<冒険者>なのだ。

 <大災害>に巻き込まれ、“此の世界(セルデシア)”へ強制移住させられた、“難民”同然の立場であるのに、何となく生きていける生物。

 其れが、<冒険者>である。

 不便ではあれど、まぁ其れなりな“難民”生活。

 “責任者”などにならずとも、自堕落に寝て暮らせる気侭な立場。

 戦う事こそ生きる道と叫ぶ戦闘系ギルドが、剣を掲げようとも。

 開発という光明を得た生産系ギルドが、日々知恵を絞ろうとも。

 ミナミに住まう大多数の<冒険者>達は、意欲的に活動する者達が獲得した成果から僅かに零れる滴りを舐め取れれば充分だと、怠惰に暮らして居た。

 其れは、もしかしたら。

 深刻に考えなければ、毎日が日曜日であると考えがちな関西人特有の、俗にラテン的と称される、楽天的な気質に起因するのかもしれない。

 日々常々、笑って居られるのなら其れで良し。

 だが、其れでも。

 人間(じんかん)到る所敵意(モンスター)ありの“此の世界(セルデシア)”で生きて行くには、“安心感”だけは確実に必要であった。

 気侭に生きて行くためには、最低限の社会保障(セーフティネット)が必要とされたのだ。

 其の“安心感”を提供する組織として、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>がウェストランデ圏内の<冒険者>の前に、声高らかに登場する。


“共に過しましょう、皆が一緒になれば、もっと楽が出来ますよ”


 暢気な表情の下では、密かに心細い思いをしていたソロ・プレイヤー達は、其の甘美な囁きに、一も二もなく飛びついた。

 時同じく、不遇を託っていた零細・弱小ギルドが合流を果たす。

 後は水が低きに流れるように、ミナミの街においての大勢が決した。

 多くの<冒険者>の避難場所となり(おお)せた、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>。

 一気呵成に巨大ギルドへと急成長を果たした<Plant hwyadenプラント・フロウデン>だが、其の設立理由は与える事を目的として結成されたギルドではない。

 決して、人道的な慈善団体ではなかったのだ。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>は“安心感”と言う、何ともあやふやな幻想を供給する事で、莫大な実益を易々と得る事に成功する。

 徴用する事なく、理想的な形で望むモノを搾取出来てしまったのだ。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>が求めたモノ、其れは“数”である。

 元の現実であれ、“此の世界(セルデシア)”であれ、“数”は常に“力”なのだから。

 敵対するモノに対しては、“数”を暴力に変えて執行する。

 交渉を求める者に対しては、“数”を背景として折衝する。

 “数”とは詰まり、唯々諾々と従う<冒険者>達の事だ。

 物言わぬ多数派(マジョリティ)である<冒険者>達は其のままで、物言わぬままで、大人しくしていて欲しい。

 自発性など必要ではないし、俄かな“責任者”になどなってもらわずとも結構、只其処に居てくれるだけで良い。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>を運営する、物言う少数派(マジョリティ)である幹部達は、そう考えた。

 其の方が、何かと都合が良いと。

 <Plant hwyadenプラント・フロウデン>というギルドの実体は、数匹の狐が率い、百匹以上の(イタチ)が跳梁し、数百頭の餓狼が吠え盛り、数十頭の番犬が守る、子羊の大群であるのだ。

 運営する者達の思惑は、想定された道筋を順調に進み続けられるはずであった。

 <スザクモンの鬼祭り>が、無慈悲な現実を突きつけるまでは。


 特定の少数が実権を掌握する寡頭制とは、プロフェッショナルが行ってこそ初めて機能する。

 そう理解しているレオ丸からすれば、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>の方針は噴飯此の上なしと、胸中で嘲笑し罵倒する。

 言い換えれば。

 面罵は、しなかったのだ。

 公に、あからさまに笑う事をしなかった理由は、只一つ。


“ならばお前がやってみろ!”


 其のような面倒臭い事を、言われたくはなかったからである。

 自分が望まぬ責任は絶対に取りたくないし、責任を取らされるのならば出来るだけ最小限に止めておきたい。

 小心過多、保身剥き出しである事は重々承知の上で、其れがレオ丸の嘘偽りなき心情であった。

 とは言うものの、心の内を完全に隠しきれるほどに、ポーカーフェイスは得意ではなかったが。

 故にレオ丸は、いつも<淨玻璃眼鏡(モーリオン・ゴーグル)>を掛け続けている。

 雄弁過ぎる目の表情を、他人に読まれたくないからだ。

 泳ぐ視線も、横目も、邪まな目の色も、何もかも。

 常に隠し続ける眼差しで仔細に眺めれば、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>とは何とも危う過ぎる組織であった。


 もし、“ちゃんとしたギルド”へと一段高い組織に脱皮したいんなら?

 後生大事にしているたった一つの心臓(濡羽)を完全に棚上げ、……祭り上げてしまうこっちゃな。

 ホンで、他の臓器が“我動く故に我心臓なり”って自覚を持って、自発的な行動する事やろうな。

 まぁ既に、統括担当が狐の親玉(インティクス)、内政担当が鼬の元締め(ゼルデュス)、軍事担当が餓狼の親分(ナカルナード)、治安担当が善良なる番犬(カズ彦君)ってな具合に、仲良く仲間割れしとるみたいやねんし。

 二昔前の政権与党みたいに、党内に与党と野党を作って切磋琢磨やら、内ゲバやらでもやらかしたらエエねん。

 ほなまぁ少々歪んだ処で、何とかなるやろうさ。

 ビンボウカズラみたいに、歪みと歪みで補強しあったらエエねん。

 もしや、スカタンかまして其れが叶わなんだら……枯れてしまうだけの事やし。

 とは、ゆーても。


 薄曇の空を仰ぎ、荒れた地を見渡し、レオ丸はソッと嘆息する。


「今、立ち枯れてしもうたら、マジで難儀やしなー」

「また独り言でありんすか、主殿?」

「うん……所謂“声に出して言いたい戯言”ってヤツや」

「其れは其れは、非生産的で内向きな遊びでありんすこと」

「まーなー」


 誰よりも高い所で胡坐を掻くレオ丸は、<彩雲の煙管>から五色の煙をヒョロヒョロと立ち昇らせた。

 序でに、襟元から発せられた<吸血鬼妃(エルジェベト)>の辛辣な台詞を、右から左へと聞き流す。

 陽光は遮られていても、盛夏の熱気までは防げぬ世界。

 其の中で、十日近く前の会話を何とはなしに、脳内で再生し出すレオ丸。

 アキバの街に在籍する人物との間で行われた念話は、レオ丸に取って決して愉快で痛快なものではなく、鉄錆び味のする実に苦々しいモノであった。

 だが其れをあからさまに声で表しては、無粋に過ぎる。

 相手もまた、レオ丸と同じ思いであったようだ。

 無言の合意を了解し合った二人は、剣呑な内容を朗らかに表現し合う事で、殺伐とした世間話に花を咲かせたのであった。



「おー。御前さん、ドンパチの結果はどないな塩梅で収まりましたん?」

「まあ、概ね良好です。

 追っ手は“結界の効力”を全面的に活用し、全て討ち果たす事が出来ました。

 法師が事前に警告して下さった通り、<テンプルサイドの街>とその周辺全体を見渡せる程見晴らしの良い…且つ、戦場から少し離れ、身を隠せる場所に敵の密偵らしき<Plant hwyadenプラント・フロウデン>所属の<暗殺者(アサシン)>が潜んでいました。

 其方も無事に討ち果たしましたし、敵が放った密偵には<テンプルサイドの街>に仕込んだ脅威を軽く匂わせました」

「ほうほう、そいつぁ何よりでした。

 陰険眼鏡(ゼルデュス)御嬢ちゃん(インティクス)には、エエ薬になりましたやろう。

 ソレだけされたんやったら、<テンプルサイドの街>には二度と手出しはしまへんわ、な。

 ワシもまぁ、アイツらには色々とお灸を据えさせてもらいましたし、ねぇ。

 ベテラン要注意!って脳にしっかりと刻んだんと、違いますかな。

 けけけ……」

「……今回、敵に脅威を抱いてもらうために<円卓会議>の名を思いきり借りてしまったので……後で、<円卓会議(彼ら)>に迷惑をかけないかが心配です」

「何を言うてはりますのん!

 御前さんは、最初からずーっと<円卓会議>の為に一生懸命、裏から支えてはりますんやろ?

 今回の事も其の一環なんですし。

 相手にキッチリと釘差さなアカンのやったら、<円卓会議>の名を使うんも所謂“方便”の一つですやん。

 特に今回は<ミナミの街>に、<アキバの街>はぜーんぶ判ってますんやで!って伝える事が何よりも大事な事なんやし。

 其れに……物事には、“持ちつ持たれつの関係”があります。

 <円卓会議>の面子にも、御前さんみたいな無私のボランティアがいてるんやって事を、改めて理解しといてもらわなアカンと、ワシは思いますで。

 乱用せぇへん限り……ってゆーても御前さんがそんな事をするとは思いまへんけど、今回の件の様に、偶には<円卓会議>に借りを作る位がお互いの今後の為にも、丁度エエ関係やと思いますけどねぇ」

「……そうですね。 一方的な関係が良い訳がありませんでした。

 法師、気づかせて下さって有難うございます」

「毎度エラそうな事ゆーて、すんません。

 せやけどまぁ、今のワシに出来る事は遠くからエールを送るだけやし。

 まぁ、そんな感じで。

 ほな、御前さん! 此れからも何卒無理せずお気張りよし!!」



 本の上に生涯を浮かべ、ページを捲りて老いを迎うるものは、日々読書をして書庫を(すみか)とす。

 其の時のレオ丸は、趣味の細道の奥深くで自堕落極まりない“黄金の日日”に時を費やしていたのだった。

 で、あるからにして。

 普段よりもハイテンションであったのかもしれない、と些か自省しながらの回想である。


 御前さん相手に、豪く吹かしたモンやわ全く!

 今なら恥ずかしーて、あないな事はよー言わんわ、ホンマに。


 胸中で悪態をついたレオ丸は、記憶のアーカイブの入り口へと再び立ち戻った。

 そして直近のデータを選び出すや、脳内シアターに設置されたプレーヤーへと突っ込んだ。

 日時と状況は違えども、出演者は全く同じである。



「ほいほ~い。

 御前さん、ワシに如何な用かいな♪」

「一週間ぶりです。法師。

 今、少々お時間を戴いても宜しいでしょうか?」

「かまへん、かまへん。

 ワシは、今現在ごっつう暇やねん。

 で? ワシに何の用や?」

「実は……私は先程<カスミレイク西部>で<緑小鬼>との戦闘を終え、現在休憩を取っている真っ最中です。」

「あ~……<ゴブリン王の帰還>かいなぁ~。

 そっちはそっちで色々大変そうやなぁ~」

「まぁ今のところ、嘗ての大規模戦闘や大隊規模戦闘の様に苦戦を強いられるほどではないので……其処まで大変ではありませんよ。

 処で……西の<スザクモンの鬼祭り>は如何ですか?」

「いやぁ~、御前さんには敵わんなぁ~。

 ハッキリと答えるなら……御前さんの予想通りや。

 カズ彦君の話によると、<スザクモンの鬼祭り>もそっちとあんま変わらんくらいに発生しとるみたいやで?」

「法師、情報提供…ありがとうございました。

 もしアキバを訪れた際は、私の元を訪ねて下さい。

 アキバの美味しい名物食べ物をご案内します」

「おお!ホンマかいな!!

 いやぁ~、アキバを訪れるのがごっつ楽しみやな~♪」

 ……あ、そん代わりちゅうんはアレなんやけど……早苗さんからワシを守ったってや!

 神様、仏様、御前さん!ホンマ頼んまっせ!!

「其の時は、息子のランスロットを引き連れてお守りさせて戴きます」

「ホンマかいな!! 御前さん!ホンマおおきに!!

 ほな、御前さん。あんじょうきばりや!」

「ええ、法師もお元気で」



 暗さと薄暗さがパッチワークをなす空へと、次第次第に薄れて消えて行く五色の煙を、遣る方なく眺めては嘆息するしか出来ぬ、レオ丸。


 何とまぁぞんざいな物言いで、雑な対応をした事や、なぁ……。

 せやけど、しゃーないやん?

 夜も寝ないで戦闘三昧している最中やってんし、昼は昼で眠たい頭を無理からに動かしてアレやコレやとしとる最中の、念話やってんから……。

 急造陣地の場当たり的防備強化、とか。

 絶対に結論の出ない効率的な戦い方の検討、とか。

 <スザクモンの鬼祭り対策本部>とやらへ助勢嘆願の無理強い、とか。

 そんな事ばっか、しとってんから……。

 ホンで、や。

 残念至極な<Plant hwyadenプラント・フロウデン>の体たらくを、ゴキブリみたいにホイホイと伝える訳にゃイカンし。

 お互いにボランティア参戦とはゆーても、アッチはアキバの御身内さんや。

 コッチは不承不承ながらであろーとも、ミナミの世界の片隅に立っとるんやもん。

 ワシが洩らした細切れ情報でも、御前さんやったら上手い事繕い合わせて、一次情報へと仕立て上げてくれはるやろう。

 ソレで我慢してもらうしかないやねー。

 ワシが此処で何しとるかまでは、守秘義務はなくとも気軽にバラす訳にゃあ、ねぇ?

 何せワシがしとる事は、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>のお先棒担ぎやけど、ゼルデュスの立場からすりゃ秘中の秘やねんし。

 自分らの思い上がりの後始末を、外部発注してますねん!

 ……なーんて赤っ恥、公言したら阿呆丸出しやもんな!

 出来りゃあ墓場まで持って行きたい、不始末やろうな、ケケケのケー。

 とは、いーながら。

 そいつぁ、ワシの頚動脈をスパッと切り裂くブーメランでもあるんやけど。

 偉そうに啖呵を切って、後ろ足で砂までかけてミナミを飛び出した癖に、あんだけボロッカスに罵ってた<Plant hwyadenプラント・フロウデン>の御世話になっとるんやもんねー。

 どの面下げて、何してんだか。

 情けなさ過ぎて欠伸しか出ぇへんわ、ふわぁ~~~あ!

 ……せやさかいに、<Plant hwyadenむこう>もコチラもド厚かましいくらいに、寄りかかって居るんやけど、さ。

 相身互い? 瑕を舐め合う道化た田舎芝居?

 いや、タコとクラゲのフニャフニャした相打ち(クロスカウンター)ってトコか?

 いやはや全く、片腹痛いくらいに笑えんなぁ?


「何をニヤニヤとしてはりますのん? ……気色の悪い……」

「へ?」


 レオ丸が沈めていた意識を浮上させれば、柳のようにヒョロリとした冒険者がしかめっ面で立ち尽くして居た。

 狐尾族に憧れでもあるのか、狐耳に似せた飾りつきのカチューシャを装着したヒューマンの冒険者が、手にしたカラス羽根の扇をスッと伸ばす。

 扇が指し示した先では、多くの冒険者達が武器を携えてレオ丸を見上げていた。


「ホエール隊六名、コンドル隊六名、スワロー隊六名、ウルフ隊六名、パンダ隊六名、マッキー隊六名、シャーク隊六名、計四十二名、対策本部より命令を受け罷り越しましたえ。

 あんさんの下にはいりますよってに、何をしたら宜しいんか早う言いなはれ」


 苛立たしげに揺らす長い銀髪と、嫌々搾り出したようなメゾソプラノ。

 不服と不満を全身で主張しているフォックスターAOに、レオ丸は右頬だけで作った笑顔を見せて、ドッコラショと立ち上がる。


「おおきに、お疲れ、御苦労―さん!」


 崩れかけたコンクリート部分を赤レンガで補強した、如何にも廃墟らしい廃墟の天辺から飛び降り、危なげなく着地するレオ丸。

 其れは契約主の一張羅防具、<中将蓮糸織翡色地衣>の内部に潜む契約従者が、両袖脇から闇よりも黒い翼を生やしたからであったのだが。

 レオ丸が地に両足裏を着けると同時に翼を引っ込めたアマミYは、手間のかかる御主人様だ事と言いたげな雰囲気で、溜息を洩らす。

 襟足にかけられた契約従者(ファミリア)の冷ややかな吐息に、レオ丸は思わず首を竦めた。

 続いてヒラリと舞い降りたフォックスターAOは、無表情の白けた顔で新規参戦者達の列にスルリと混じる。

 場が落ち着いたことを見定めると、口角を最大限に吊り上げるレオ丸。


「さてさて、諸君。

 憂鬱な騒乱と明るい夢が満ち満ちていた、1960年代。

 大衆の希望を背負って就任し、ちっちゃな銃弾に脳みそをパーンと吹き飛ばされた第三十五代大統領が、生前に仰ったそうな。

 “Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.”

 意訳したら、“グダグダ言うとらんと、ガンバレ!”とかなんとか。

 ……ワシが生まれる前に死んだ人やから、よー知らんけど。

 まぁ、そんな感じで頑張りましょう、欲しがりません勝つまでは!」


 半ば強制的に戦地へと参集させられた者達は、一様に口を噤んだままで、何の励みにもならぬ訓令を拝聴していた。

 其の一番先頭に立つ、<施療神官(クレリック)>の冷めた顔から視線を逸らさずに、レオ丸は言葉を連ねる。


「どーしたどーした、元気がねーなー自分ら?

 ユーラシア大陸に覇を誇った帝国を、虐げられていた無知な大衆を扇動してぶっ潰した“レナ川の住人”は、仰ったそうな。

 “百人の力は千人の力より大きなものでありえるだろうか。

  勿論ありえる。

  更に百人が組織されていれば、実際にそうなる”ってな!

 今じゃバルサム液とかいう薬品漬けになって、見世物になってはるけど。

 ……ワシが生まれる前に死んだ人やから、やっぱよー知らんわ。

 まぁ、ソレはソレとして。

 自分らが遠路……でもないか……来てくれた御蔭で、よーやく最大規模戦闘(レギオンレイド)を仕掛けられる人数が揃いました!

 “百人の力”には、四人ほど足りひんけど、最大規模戦闘(レギオンレイド)って九十六人限定なんやし、四捨五入したら“百人力”ってヤツやね♪

 さて、そんな処で。

 今後の方針、今夜迎える最終決戦について、戦術をお伝え致しやしょう♪」


 新規参戦者だけではなく、昨夜から戦いの場に身を投じた者達も、一昨夜も夜明けまで激闘を繰り広げた者達も、肩を並べてレオ丸の言葉に耳を傾け出した。


「……せやけど、そいつぁー……ワシの仕事やおまへん。

 何故ならワシの立場は、雇われママみたいなモンやから。

 判り易く例えれば、せごどんの密命を受けて江戸の街で御用盗に明け暮れた益満休之助みたいな感じ。

 判り難く例えれば、ベンチから逐一送られてくるサインの通りに投げていた1991年の本原正治投手、みたいなモンや。

 ってな訳で、草臥れた操り人形(マリオネット)は一旦引き下がるよってに、後はヨロシコ!」


 実存しない檜舞台から降板宣言をするや、レオ丸はスタコラサッサと歩き出す。

 しかも、主役の座をあっさりと投げ出しただけではなく、本来の主役である男の背を、擦れ違いざまに目一杯叩いたのだった。

 不意打ち紛いの一撃に、バランス崩して蹈鞴を踏んで、居並ぶ冒険者達の前へと押し出されたのは、一人の<法儀族>である。


黒幕(フィクサー)登場、全員拍手!!」


 入れ替わるようにして、聴衆側最前列の特等席を占有したレオ丸は、殊更大袈裟に手を叩いた。

 釣られた周囲の者達が拍手を始め、やがて全員へと伝播して行く。

 喝采を一身に受けた人物は、眼鏡の奥に宿した狼狽の色をどうにか押し隠し、取り繕った平静さを顔に貼りつけた。


「……不本意な形での紹介ですが……まぁ、良いでしょう」

「拍手止め! 全員、口を噤み、休めの姿勢に!!」


 レオ丸が再び声を上げるや、居住まいを正した者達は一斉に、所謂“傾注”の姿勢で発言者の言葉を待つ。

 細く薄いレンズとレンズを繋ぐブリッジに右手の中指を当て、眼鏡をほんの少し持ち上げると、<施療神官(クレリック)>の男性はレオ丸へ殺意の篭った視線を放った。

 僅かに肩を竦めてソレを避け、如何にも真面目でございといった表情を見せつける、レオ丸。

 無言の応酬は、二人以外の誰にも気づかれる事なく、一瞬で落着した。

 片方が心の澱ごと溜息を吐くのに対し、もう片方はケケケと勝利の嗤いを上げる事で。


「…………誠に不本意な事ばかりですね。

 さて、最初に申し上げておきますが……」


 独り立ち尽くす男は、続けて何かを言おうとしたものの、言葉を捜しあぐねた様子で口を閉ざした。

 沈黙が重く重く、全員の上へと均等に圧し掛かる。

 やがて。

 言葉だけではなく表情さえ失くした男は、抑揚のない声で静かに語り出した。


「諸君、私は戦争が嫌いです。

 諸君、私は戦闘が嫌いです。

 諸君、私は戦場が大嫌いです。

 ……ですが、今、私は大嫌いな戦場に立ち、嫌いで嫌いな戦闘行為を指導せねばなりません。

 何故でしょうか?

 其れは、私に課せられた“義務”だからです。

 何故、“義務”なのでしょうか?

 其れは、私が<冒険者>だからです。

 私が単なるひとりの“プレイヤー”でしかなかった頃には、戦う事は“権利”でありました。

 “権利”であれば、行使するもしないも己の勝手次第です。

 ですが、“義務”は違います。

 “義務”は一旦課せられ、一度負えば、其れを果たすまでは、果たさなければ逃れられる事は出来ません。

 そもそも、<冒険者>とは何でしょう?

 名称から解けば、文字通り“冒険をする者”でしょう。

 そして“此の世界(セルデシア)”での冒険とは即ち、戦う事です。

 戦わない<冒険者>に、“此の世界(セルデシア)”は存在意義を与えてくれなどしません。

 戦わない<冒険者>は、“此の世界(セルデシア)”で生活する事は出来ません。

 詰まり、私は否が応でも戦わなければならないのです。

 諸君らも等しく、<冒険者>です。

 私が負う“義務”と同じモノを、当然、諸君らも負っています。

 今夜もまた、私達は其の“義務”を果たさねばなりません」


 一言一言、粛々と吐き出された言葉は宙に刻まれ、聞く者達の耳から心へと深く浸透して行く。


「さて、諸君が既に承知している通り。

 今夜は在り来りな……三百六十五分の一の、一夜ではありません。

 私達、ミナミに住まう<冒険者>全員の生死が、決する一夜です。

 ……大袈裟過ぎる表現だと、思われますか?

 もしも、そう思われたのならば、今直ぐに考えを改め直して下さい。

 過日、<ヘイアンの呪禁都>に忌まわしき鐘の音が鳴り続けて以来、私達は力の限りに戦い、知恵を振り絞って、戦ってきました。

 決して連戦連勝だとは言えませんが、常に優勢以上の戦果を挙げて来ました。

 しかし。

 もし仮に今夜、敗北を喫すれば、此れまでの努力が全て無に帰します。

 私達の敗北とは即ち、ウェストランデ圏内における<冒険者>の敗北です。

 其のような結果は、絶対に許容出来ません。

 私達の存在意義を失うような結果など、絶対に許容してはならぬのです。

 故に私達は今夜、必勝を期せねばならないのです。

 故に、私は此処に来ました。

 勝つために、此処へと来ました。

 私は……今夜の決戦を確実な勝利へと導くために来ました。

 “責任”を果たすべく、職責を果たすべく。

 諸君にも、応分の“責任”を果たされる事を、求めます。

 勝ちましょう、とは申しません。

 <スザクモンの鬼祭り対策本部>本部長である私……」


 <施療神官>は、不意に眼光を鋭くした。


「ゼルデュスの名において、諸君に命じます。

 勝て、と。

 恐れずに、怯まずに、退かずに、闘志と勇気を武器に敵を殲滅せよ、と。

 では此れから、其のための手順を述べるとします……」



 語るべき事を語り終え、解散と随時の休息を告げたゼルデュスは、何事もなかったように背を向けた<召喚術師(サモナー)>の後ろ襟を引っつかむや、有無を言わさず廃墟の陰へと連れ込んだ。


「……話が違いませんか、レオ丸学士?」

「おや、そーやったっけー♪」


 明後日の方へと嘯くレオ丸に、眉間に幾つもの皺を刻み込んだゼルデュスが、眦を吊り上げて詰め寄る。


「私は、此処へ参陣すると貴方に申し上げた際に、“一兵卒”として遇して欲しいと言いましたよね?

 其れが、何故に、“指揮官”なんですか?」

「だって、しゃーないやん?

 ワシの分際で、自分を顎で使えるはずないやんか?」

「ですがッ!」

「落ち着けや、ゼルデュス。

 元の現実やったらいざ知らず、あるいは<ウメシン・ダンジョン・トライアル>の頃ならいざ知らず、此処でのワシはレオ丸学士やないし、此処での自分はゼルデュス学士やない。

 此処でのワシは誰がどー見ても、無所属無宿のしがない渡世モンやないか。

 言わば、契約する事でのみ立場を確定させられる、助っ人外人枠や。

 翻って自分は、ウェストランデに君臨せずとも統治する、<Plant hwyadenプラント・フロウデン>の偉大なる幹部様や。

 言うなりゃ、契約をさせる側で、任意に破棄も出来る立場やないか?

 顎で指図されて然るべしのモンが、書類にサインする事で誰よりも重い責任を負うモンの上位に、立てるはずがなかろーが?

 今が非常時であろーと、其の順序は崩されへんし、秩序は崩したらアカン。

 そんくらい、自覚しとろーが?」

「……私に、其の任はないのかもしれません」

「はい?」

「……砦将閣下が、身罷られたのです……」

「…………は?」

「バルフォー=トゥルーデ将軍が、……戦死なされたのです」

「……ほぅ」

「昨夜の事でした。

 <ヘイアンの呪禁都>が吐き出したのは、連日と同じバケモノの軍勢ではなく、死の来寇というべき規模のモノだったようです。

 悲鳴のような戦況報告によれば、<羅刹王(グレーター・エヴィル)>、シュテルンが一軍を率いて来たとの事です。

 カズ彦と其の配下が即座に邀撃し、戦況は一進一退だったとか。

 其の他のバケモノ共への迎撃は、イントロンが指揮棒を揮い食い止めようとしたようなのですが、どうやら不具合が生じたようなのです」

「不具合、って何や?」

「ゲームと現実は違うと言う事、イベント攻略と防衛戦は違うと言う事、自分のギルドを率いる事と寄せ集めに命令を下すのは違うと言う事……。

 何よりも、“プレイヤー”と<冒険者>は違うと言う事です。

 事前の計画で定めた通り、彼には全軍の総予備として、開戦当初からずっと後方待機をさせていたのですよ。

 処が、彼が掌握すべき軍勢はほぼ全て、貴方が取り上げてしまった。

 ……私が其れを“良し”としたんですがね。

 当たり前の事ですが、直率する手勢がなくなるという事は、総予備としての役割は果たせなくなるという事。

 予想以上に貴方が善戦してくれた御蔭で、<新武衛郭(ネオステーション)>は無用の長物と化し、お飾り程度の役すら果たせなくなってしまいました。

 すべき役目を失くし、イントロンは浮いてしまった。

 いや、私の判断が彼を浮かせてしまった。

 流石に今の限界寸前の厳戒態勢の最中、彼を遊ばせておく訳にもいかず、私は<赤封火狐の砦(ファイアフォックス・キープ)>への後詰とカズ彦の補佐を、彼に命じました。

 今にして思えば、実に最悪の手順でしたね。

 計画性も何もあったもんじゃない。

 計画の企画者である私が手順を狂わせた事が、彼の迎撃戦指揮をも狂わせてしまったようなのですよ。

 そして……防衛線にポツンと穴が空いてしまったのだとか。

 其れは小さな穴ではありましたが、防衛線だけでなく我々の命運にさえ、致命傷と成り得る穴となってしまったようでした。

 ……が、そうはなりませんでした」

「砦将閣下が頑張って下さったんやな……」

「左様です。

 <大地人>の代表として、<赤封火狐の砦(ファイアフォックス・キープ)>の留守居役を勤めて戴いて居たのですが、私達の拙い防御戦には助勢が必要だと独自に判断なされたのでしょう。

 そして……砦将閣下と其の配下は……全員が……」

「職責を全うなされはったんやな」

「はい……」

「……彼の御方は、紛れもなく武人であらせられた。

 其の配下の<オワリ金鯱軍団(アームド・ドラゴンズ)>の諸兵は全員、軍人であらはった」

「ええ」

「ワシらと彼らの違いは何か、って問うならば?

 ワシらは全員“ド素人”で、砦将閣下以下は皆さん“プロ”やって事やわさ。

 “プロ”が判断し行動しやはった結果、今日の朝日が昇るまで、防衛ラインは保たれた……そーゆー事やろ?」

「……はい」

「ならば、今のワシらに出来る事はたった一つだけと違うか?」

「其れは……何です?」

「決まってるんやん…………、勝つ事や。

 今日の日没から明日の暁まで、ウジャウジャと湧いて出るモンスター軍団を叩いて叩いて叩いて叩き捲くって、そんで皆でお陽さんを拝みながら腕突き上げて、勝ち鬨を挙げる事や。

 エイ、オー、エイ、オー、エイエイオー!ってな。

 せやさかい、しょぼくれた顔で、へどもどしてんなや、ゼルデュスさんよ。

 贖罪ってのは、己の過ちを忘れへん事や。

 ベソベソする事やないで?

 此処に居る誰よりも重たい職責を背負いながら、必勝の決意とやらで、キッチリとワシらを死地へと送り出さんかい!

 ワシらを安価な手駒にして、惜しげもなくポイッと捨て駒にしてまえや。

 死んだかて、復活先は<新武衛郭(ネオステーション)>内の簡易神殿や。

 ものの十分、十五分で原隊復帰したるがな。

 ドッジボールの外枠からよりも、早う戦場に戻って来たるがな。

 せやからお前は差し手として、好きなように手駒をバンバンと盤上に投げ出したったらエエねん。

 こっちは将棋の戦いをして、チェスの駒みたいに現れる敵を木っ端微塵に、盤上から消し飛ばしたったらエエねん。

 そーすりゃ最後には、碁石を最も多く盤上に置いたった、こっちの大勝利や。

 泣くんなら、フィディピデスのように朗報(エウアンゲリオン)を両手で頭上に掲げて、砦将閣下と配下の将兵さん達の墓前まで、走ってからにするべきや。

 どーしても死にたいんなら、アテナイまで駆け抜けてからにせぇや。

 贖罪したいんなら、やるべき事をやってからやろう?

 お前のやるべき事は、先陣切って特攻して、討ち死にしては復活して、ってのを何度も何度も繰り返す事やないやろうが!?

 ワシらが万全の状態で一晩中、戦い続けていられるように上手くコントロールする事やんけ!

 大戦争を、……一心不乱の大戦争を、するんやない。

 征け、諸君!って統制の取れた必勝無敗の戦争を作り上げるんや。

 地獄の底から蘇る悪魔の化身やら毒の花やらを、もっぺん地獄の底へと叩き込むための戦いを、指揮するんや!

 其れが出来るんはワシやない、ゼルデュス、お前や!!

 エエな、判ったな?」

「……了解しました」

「おう、其れでこそ、我らのゼルやんや♪」

「レオ丸学士……一つ宜しいですか」

「何や?」

「其の呼び名、やはり止めてくれませんか?

 そんな名前では、誰も私の指揮棒(タクト)に従ってくれなさそうですから」

「へいへい、りょーかい」

「では、レオ丸学士」

「おう、ゼルデュス指揮官」

「宜しいでしょう、では」

「ああ、ほんなら」

「戦争です」

「戦争や」


 不敵な笑顔がゼルデュスへと右手を差し出せば、怜悧な微笑もレオ丸へと右手を差し出した。

 握り合う事なく、激しくぶつかり合う掌と掌。

 パン!、という乾いた音が、長くて短い決戦の火蓋を切る合図となった。

 さて、今回はちょいと詰め込み過ぎて御免なさい。

 それと。

 皆さん既にお忘れだったであろうキャラクターに、死亡通知を貼り付けてしまいましたの事よ。

 バルフォーさんは、出演当初から何れ退場してもらう予定でありました。

 ですが、どのようにするかは、ノープランでしたんで、今回、斯様な形に。

 いやはや、新年早々から素晴らしく縁起の悪いスタートですね♪

「門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし」(by一休宗純)

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