第零歩・大災害+12Days 其の壱
「打ーちまひょ」「もひとつせ」「祝うて三度」「おめでとうございますー」
今回は説明だけの話です。
加筆訂正致しました(2017.08.27)。
更に加筆修正致しました(2017.11.17)。
「レッディース・アーンド・ジェントルメーン! アーンド、おにーちゃーん・アーンド・おねーちゃーん!!」
ミナミの街、<アッパーノース>。<大神殿>前のクロストライアングル大広場。
現実の世界ならば、大阪市北区にある名門の高級百貨店前。巨大な排気口を中央にして、幅が広く交通量の多い道路が交わる所に相応する。
その側にある、元は執政家配下の検非違使分署だった廃墟ビルの上から、邪Qは広場に集まった多数の冒険者達に、ハイテンションで呼びかけた。
「セルデシア中の青空をミナミの街に全て持ってきてしまったような、この素晴らしい日和の下、冒険者の皆様、本日はようこそお集まり下さいました!
司会進行を担当致します、檸檬亭邪Qと申します。宜しくお見知りおき下さいますように♪
私は、第一回『ウメシン・ダンジョン・トライアル』を開催するに当たり尽力されました、全ての関係者を代表致しまして、全ての関係者の名に於き、我々が真の意味での<冒険者>として相応しい精神に則り、参加し賛同なされる皆様の名誉を尊重し、これを守り、完全な公平さを以て、ルール通りにこの競技大会を、進行させることを誓います。
ほな改めて、競技内容と進行方法、ルールについて説明させて戴きます」
振り回されるライブイベント御用達の秘宝級アイテム、<残響の宝石杖>は色とりどりの音符を宙に飛ばし、邪Qの軽快な言葉を広場の隅々まで届け、鮮やかに飾り立てる。
「競技内容は、如何に早く、私達の足下に広がる<ウメシン・ダンジョン>を攻略し、如何に多くの金貨とアイテムを獲得出来るか、それだけです。
順位は、ポイント獲得制にて決定させて戴きます。
金貨を一枚獲得毎に、1ポイントを授与。
アイテムは、その希少性を大会本部に於いて厳正に鑑定し、金貨十枚に相当しない物は0ポイント。それ以上の価値を有する物は、金貨に換算しまして上限無しで加算します。
獲得ポイントの一番多いチームが優勝。
以下五位までのチームまでを表彰し、大会本部からささやかながら豪華っぽい粗品と、ミナミの街に在する全ての冒険者達からの賞賛を、授けます!!」
邪Qが大袈裟に手を振ると、集まった冒険者達は口笛を鳴らし、手を叩き、歓声を上げる。
「そして、ゲーム時代から今まで、誰も達成した事が無い偉業、<ウメシン・ダンジョン>を踏破出来たら、文句なしの勝者として優勝の栄誉と特別賞をプレセント。内容は追ってお知らせします!」
<ウメシン・ダンジョン>は、ミナミの街の北地区の地下に存在する、広大なダンジョンである。
アキバの街の地下にも、カンダ方面へと広がる下水道ダンジョンが存在する。
難易度は簡易と言ってよく、一部を除きレベル低目のモンスターしか出現しない、初心者向きのダンジョン。
<ウメシン・ダンジョン>も、分類すればアキバの下水道ダンジョンと同じカテゴリーになる。
だが、実際は難攻不落で、ダンジョンの中のダンジョン、あるいは<帰らずのダンジョン>と呼ばれていた。
その理由は、ゲーム時代に遡る。
<エルダー・テイル>がニ番目の拡張パックを導入し、<ミナミの街>が追加された時に、練習用の簡易ダンジョンとして<ウメシン・ダンジョン>は設定された。
“練習用だとしても簡単過ぎる”“目隠ししたチンパンジーでも攻略可能”“ウチのポチでも出来ました”といった反響が山のように送られて来た事に対し、三番目の拡張パックでは、大幅な改良が行われる。
四番目の拡張パックでの改良に対し、“ハリウッドが製作したヤクザ映画で描かれた、おかしな地下街みたいだ”と評価され時、日本サーバを管理する<F.O.E>の一人のゲームデザイナーが本気になった。
五番目と六番目の拡張パックにて、モデルとなった地下街を緻密に再現したダンジョンに、生まれ変わったのだ。
そして七番目の拡張パックにて更なる充実が図られようとした時、実に喜劇的で深刻な悲劇が訪れる。
モデルとなった地下街が、地上部分の再開発に合わせて、大幅なリニューアルを開始したのだ。
毎日利用する者でさえも道に迷いかねない、旧来通路の閉鎖と新規通路の開通。
緻密に再現する事に拘り過ぎたゲームデザイナーは、毎日のように取材に出掛け、それをデータに反映し、一年後には心と体をボロボロにしてF.O.Eを退職した。
否応なく後事を託された同僚は、山脈のように積み上げられた資料を前にし、途方にくれる。
そして、翌日の休憩時間に解決方法を、思いついた。
全ての資料をゴミ箱送りにし、既にある設定に新たなるプログラムを追加する。
自動的に通路の変更をする、プログラムを。
1分が経過する毎に、ダンジョン内の何処かの通路が封鎖され、別の通路が何処かで開通する。
つまり、突然目の前に壁が現れるのだ。
それも天井から、床から、左右の壁の何れかから。
不意に、背にしていた壁が無くなり、安全地帯だと確信し休憩していた小部屋が通路の真ん中になる。
それは、ダンジョンを探索する者達に、恐怖をもたらした。
仲間達と和気藹々に通路を歩いていたら、いきなり壁に区切られて、一人ぼっちにされる。
モンスターを倒し壁に凭れて休息していたら、その壁が突然無くなり、新たなモンスターの懐に無防備に投げ出されてしまう。
マッピングが出来ない、意味を成さない。来た道が判らず、進む道も予想できない。灯りがあっても五里霧中状態に、放り出されるのだ。
こうして誰も踏破出来ず、<帰還呪文>以外での生還は不可能となった迷宮、即ち<ウメシン・ダンジョン>が完成した。
「今回のトライアルのスタート地点は、<円柱の斜塔>1階入り口。ゴール地点は、<奥深き広場の白き泉>とさせて戴きます」
集まった数千人の冒険者達から、囃し立てる声と、戦慄した悲鳴と、絶望感からの呻きが上る。
「参加されるパーティーには等しく、ダンジョン攻略の為の時間として、三十分が与えられます。
三十分以内にゴールに辿り着けなかった場合は、即座に<帰還呪文>にてお戻り下さい。
帰還が遅れた場合には、マイナス1000ポイントと、罰金として金貨百枚を科します」
沸き起こるブーイングの嵐に、邪Qは宥めるように手を上げ下げする。
「六人編成のパーティーで参加戴く冒険者の皆様には、これより番号札をランダムに、配布させて戴きます。
そして、<玉造神のコンタクトレンズ>を各パーティーにつき一つだけお貸し致しますので、必ず装着して下さい。
これは皆さんの活躍を、刻銘に記録する為であり、広く知らしめる為です。
此方を、御覧下さい!!」
邪Qが、<残響の宝石杖>を大神殿の壁へと向ける。
美しい彩の音符が宙を飛び<大神殿>の壁に仮設されている、<白珠竜>の皮をなめして作製された10m×8mサイズのスクリーンに当って弾けた。
それを合図にして、片隅に“びっぐまん”と小さく焼印されたスクリーンに、映像が投影される。
「私も今、<玉造神のコンタクトレンズ>を装着していますが、別に視力には影響しません。
効果は御覧の通り、装着した者が見ている光景を、受信先へと送るだけです。
送られた画は、<ハムサ・カフの水晶球>を利用する事により、スクリーンへと映し出されます」
画面は少し粗く明瞭では無いが、久々に観る動画に、プレイヤー達は手を叩き飛び上がり大喝采を送る。
ある者は感涙に咽び泣き崩れ、またある者達は自分や仲間の顔を見つけて指差し笑い合う。
「ただし、連続使用時間は、一日つき三十分まで。断続的使ってもやはり、トータルでは一緒です。
各パーティーに与えられる時間は、このアイテムの使用時間により必然的に決定しました。
悪しからず、御了解下さい。
また貴重なアイテムでもありますので、決して無くさないように。
無くされた場合には、それ相応の懲罰を科させて戴きますので、お覚悟下さい。
ダンジョン内での勇姿を、観覧者に見せたいのであれば、パーティー内で最後まで生き残る可能性のあるプレイヤーが装着するようにすると、良いでしょう。
では、間も無く開始の時間です。
係員から番号札を受け取ったパーティーは、速やかにスタート地点へと順次移動して下さい。
私は此処で、観覧を希望する方々と、皆様の勇姿を見守る事と致します。
それでは、未知なる世界へ、無謀にも挑戦する、真の冒険者達よ!!
汝らに最大級の賛辞と祝福を送ろう!!」
邪Qの背後から、十人の美しく着飾った冒険者が登場した。
女性の<神祇官>だけで構成される異色ギルド、<らっきー娘。>だ。
彼女らの掛け声と共に、広場に参集した全ての冒険者達が、揃ってシャンシャンシャンと手締めをする。
大阪では手打ちとも言われる“上方締め”が、ミナミの空に響き渡った。
第7巻『供贄の黄金』に登場するアイテムと、あったら拙いんちゃうかというアイテムを出させて戴きました。
次回はダンジョンでの戦闘シーンを、書きたいんですが全く自信がありません。
多分、運営側でのあーだこーだを書くかと…。