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第零歩・大災害+4Days 其の壱

更に改修し、加筆訂正致しました(2014.11.14)。

<自由都市サカイ>の項目が消滅していましたので、更に修正致しました(2014.11.18)。

 <エルダー・テイル>の世界設定は言わずと知れた、半分の地球(ハーフガイア)である。

 その極東にある弧状列島ヤマトには、プレイヤータウンと称される特殊な街が五ヶ所あった。

 成立した順に言えば、アキバ、ミナミ、ススキノ、ナカス、シブヤ。

 東京・大阪・札幌・福岡そして東京の、一部地域を縮小化したそれらの街の中で、ミナミの街は独特な存在である。


 ミナミの街を上空から見下ろすと、歪んだ楕円形をしている。

 実際の大阪の地理に照らし合わせると、梅田から難波に相応し、その距離は凡そ十kmになる。つまりハーフガイアならば、五kmでなければならない。

 処がそれだとミナミは、アキバよりも大きくなってしまう。

 其処で強引ながら、更に縮小化が行われる事となる。

 結果として南北2.5km×東西1.5kmのサイズに設定された、ミナミの街。

 その中央部少し上の辺りに横たわるセントラル大路が、街を南北の二つの地区に分断していた。


 林立する高層階の廃墟に取り囲まれるようにして、大神殿とトランスポートゲートがある北地区、通称<アッパーノース>。現実世界では、キタと呼称されている地区である。

 ギルド会館を除けば低い建物ばかりが並ぶのが、<ロウワーサウス>と通称される南地区。現実世界で言う処の、ミナミだ。


 さて、キタである梅田の一角に、世界へ通じる門としてデザインされた特殊な形状のビルが存在する。

 それをトランスポートゲートへと流用した事こそが、縮小設定された要因であった。

 キタとミナミを強引に結合させ成立した街、それがミナミの街である。


 そのミナミの街の外周は、高く強固な防壁が巡らされており、隣接ゾーンとは四つの大門と四つの小門にて、それぞれ面していた。


 楕円形の頂点にある、<北の玄大門>。眼前には滔々と流れるヨド大運河。

 現実世界よりも川幅が広目に設定されている大運河を、ミドー大架橋で渡河すればリバーサイド湿地帯に到る。

 湿地帯は、シンギングアイランド、サーティーンズ、シンジョウの三つのゾーンで構成されていた。

 その中心地には大地人の城砦であった、<新武衛郭(ネオステーション)>が聳え立つ。

 <灼熱の巨兵(エクスプロージョン・ゴーレム)>討伐の為に、サウザンドマイルズ丘陵へと向かう冒険者達が必ず利用する施設でもあった。

 

 楕円形の底部にある、<南の朱大門>。出れば其処は、大地人の生活圏が広がっている。

 点在する大地人の集落は、サキシマ庄、アベノ庄、スミエ庄、ナガイ庄、ヒラノキレ庄。

 更にその向こうには、弧状列島ヤマトにおいて大地人の最大の交易都市であった、遺棄都市サカイの朽ち果てた栄華が存在する。

 フォーランド公爵領の冠に“元”が付随し無法地帯化している今日、<ヤマトの内海>も又、商業航路としての役割を喪失していた。

 それが致命傷となり、此の世の春を謳歌していたサカイは、大地人の商人貴族達に捨てられてしまったのだ。

 サカイを出た商人貴族達は、<ニオの水海>に活路を見出し湖岸に拠点を移転させ、商都オーディアを設ける。

 ミナミの街の南部近郊は過去の殷賑、繁栄の墓標とも言える美麗な廃墟群を内包しつつ、現在では大地人達が疎らに居住する、比較的に平穏な地域となっていた。


 <西の白大門>は、セントラル大路の西端に位置し、多種多様な水棲モンスターが出没するテンポウ・ラグーンへの玄関口である。

 <灰維の小門>は、亜人や低レベルモンスターの棲息する、ユニバーサル・パークの入り口だった。

 <桃維の小門>は、<南海都市ウチナワ>と同じ環境が整えられた、トライハウス・デルタに通じている。

 ミナミの西側は、若葉マークの冒険者がレベルアップを果す実戦の場であった。


 セントラル大路の東端であり、ハンナ大道の基点でもある、<東の青大門>。

 ハンナ大道は、大地人貴族の別荘地として知られる山岳都市イコマを中間地点として、ミナミの街と古都ヨシノとを結ぶ。

 ウェストランデにおいて現在、最も重要な官道である。

 ヨド大運河沿いに北東方向へと敷設され<ヘイアンの呪禁城>へと到る旧官道、ケイハン街道の出発点である、<紺維の小門>。

 サンライズ・フィールドや、<パナの園>などの比較的安全なゾーンを通ってはいるが、半ば見捨てられた旧官道沿いには、危険な場所も存在する。

 三百年前の大乱時に一代で成り上がり瞬く間に没落したハシヴァ大公の居城であった<黄金廃城(ゴールデン・キャッスル)>と、植物種モンスターの密集地帯である<ミルツの魔障緑地>が、それであった。


 そして<紫維の小門>の外には、荒涼とした風景が広がっており、トワイライトヒルズとイカイツブリッジがある。

 どちらも、アンデッド系モンスターが種類豊富に跳梁跋扈するゾーンだった。

 トワイライトヒルズには屋内型ダンジョンが幾つも存在するが、その内で有名なモノは二ヶ所。

 一つは、<死門聖堂(インフェルノ・カテドラル)>。<幽鬼(レイス)<食屍鬼(グール)<滅せぬ屍(ミイラ)>等の巣窟である。地下納骨洞には、<不死太子(イモータル・プリンス)>の異名を持つ古王朝時代の英雄、サン=ヴァチューの魂の欠片が眠っている。

 もう一つは、<白骨寺院(ボーン・テンプル)>。全ての構造物が何らかのモンスターの骨で組み上げられており、<動く骸骨(スケルトン)>で溢れ返っていた。

 イカイツブリッジは、ゾーン全体が廃墟型オープンダンジョンであり、崩れた町並みの其処彼処から<歩く死体(ゾンビ)>が襲い掛かって来る。

 ゲーム時代には、ビジュアル的に最も不人気だった両ゾーン。ゲームがリアルとなった現在では、不人気どころか無人地帯と化していた。

 しかし、どの世界にも変わり者が、必ず存在する。



「乾き物が相手やと、気が楽でエエわ♪」


 西武蔵坊レオ丸は、のん気に呟いた。

 レベル90の<召喚術師(サモナー)>で、以前はギルドに属していたが色々と面倒臭くなり、今は気ままなソロ活動中。

 中肉中背で、年の頃は中年予備軍。平凡な顔に丸刈り頭。細めのゴーグルを愛用。

 ベテランプレイヤーらしく、大規模戦闘(レイド)や特殊クエストの攻略にでも参加しなければ手に入らない装備で身を固めていた。

 幻想級の布鎧である<中将蓮糸織翡色地衣>を着用し、足には移動と回避にボーナスのある<飛天の雲上靴>。

 腰には、玉石混交の雑多なアイテムを詰め込んだ、<ダザネックの魔法の鞄>と<マリョーナの鞍袋>。


 早朝からトワイライトヒルズに入り、<死門聖堂(インフェルノ・カテドラル)>とその近辺で活動していたレオ丸の足取りは軽い。

 相変わらず人気の見えない<紫維の小門>の前に到着するや、護衛要員として召喚していたスケルトンや<亡霊(ファントム)>達に帰還を命じた。

 スケルトン達は地に沈み、ファントム達は虚空へと消えていく。

 襟を正し、ホッと溜息を吐くきながら門を潜ろうとしたレオ丸の足が、急に止まった。


「今更ながらの疑問やけど、……スケルトンって、誰の骨なんやろう?」


 顎に手をやり、首を捻るレオ丸。


「冒険者は死んでも、<大神殿>で必ず復活する。奇特な誰かさん達が、忝くも証明してくれはった。

 大地人は死ぬと肉体も魂も消滅する。それが、この世界の理。まぁ、これも確認済みの事象やわ、な。

 ほな、ゾンビは誰の屍なんやろか? 死せる大地人の肉体が、どっかでリサイクルされてんのやろか?

 ファントムかて、魂がリサイクルされてんのかな? ……確か、成仏し損ねた魂って設定のはずやけどねぇ」


 レオ丸は首を捻ったまま、傍らで控える連れを顧みる。


「ナオMさんは、どう思う?」

「そう言われましても、私は一介の<蛇目鬼女(メデューサ)>ですので……」


 ナオMの戸惑いが伝染したのか、髪の毛の代わりに生えた無数の毒蛇も、しゃわしゃわと波打つように蠢く。


「ま、エエか。……今後の研究課題って事にしとくか」


 ポンと手を打ち、一人勝手に思考を棚上げしたレオ丸は、魔法鞄から<イシュタルの遮光眼鏡>を取り出し、ナオMに差し出した。

 <石化の魔眼>発動防止用である、黒いサンバイザーのようなアイテムを装着すると、額に垂れた毒蛇を掻き揚げ、夕暮れ間近の空を仰ぐナオM。

 豊かでもない彼女の胸で、従者契約がなされたモンスターの証であるプレートが、雲の切れ間から届いた陽光を反射させ揺れる。

 改めて歩きだしたレオ丸は、長く伸びた大蛇の下半身をくねらせるメデューサを伴い、今日も無事にミナミの街へ帰り着いた。

 昨日よりも意気揚々としながら。


「十数年の間ずっと夢想していた事が、たった三日間の実証実験で遂に成就出来たし!

 <冥王府の蝋燭>も三本ゲット出来たし! やれ、有意義な一日やったなぁ♪」


 <彷徨う悪霊(スペクター)>がドロップするそれは、燈せば十秒の間の被ダメージを半減してくれる効果を持つアイテムだ。しかもドロップ確率は7%の、出れば御の字の貴重品。

 布鎧しか装備出来ない俗称“紙鎧三職”と呼ばれる魔法攻撃系職業の一つ、<召喚術師>としては実に有難いアイテムだった。

 ギルド会館の個人口座には、ゲーム時代に手に入れた物をダース単位で預けてはいるが、こればかりは幾らあっても困らない。

 命あっての物種なのは、ゲームもリアルも変わりは無かった。

 “頼れるものは自分だけ”のソロプレイヤーは、石橋を叩く前に浮き輪を用意して然るべし、である。


「これでまた安心して、明日も活動出来るわ!」

「ですけど、そろそろ別のゾーンに狩場を変えませんか?」


 上機嫌なレオ丸に、ナオMが異議を申し立てた。


「そやけどなぁ、ユニバーサル・パークとかに行くのも、今更なんやしなぁ……。

 それに“生もん”を相手にしたら、血とか臓物が飛び散るし……生臭い血の臭いは、しばらく勘弁やわ」

「私としては“いきもの”相手の方が、より力が発揮出来るんですけど?」

「御免やで。覚悟がな、も一つ足りひんねんわ。……悪いけど、もうしばらく辛抱してな」

「了解しました、御主人様」


 中天を過ぎた太陽が遥か西の地平線へと降り始めた頃。

 ギルド会館が近づくにつれ、冒険者の姿が少しずつ増して来た。

 彼らの表情は皆、今日もどうにか過ごせた、そんな安堵感に包まれている。


 何人かの冒険者がうっかりと落命し、あっさりと大神殿で復活を遂げたのは、<大災害>の初日の事。

 ゲームの時と同じく、リアルとなったこの世界でも“死”は消滅では無いという事実は、瞬く間にミナミの街全体に広がった。

 死んでも安心出来る事が確認されたからといっても、誰一人として好んで死にたいとは思わない。

 大多数の冒険者は、凶暴なモンスターが増える夜間での戦闘は、極力控えていた。

 しかも、ミナミの街を一歩でも外に出れば、其処は<衛士>の治安活動の範囲外。

 ルールに則ったタイマン勝負である<PvP>ならば兎も角、<PK(プレイヤーキル)>の餌食になれば、その後は悲惨な末路しか残っていない。

 装備と所持金を失い、冒険者としての矜持も奪われる。

 ゲーム時代ならば時間が解決してくれるし、運営側も何がしかの対処をしてくれるだろう。

 だが、今は違う。

 時間は何も解決してくれず、運営側は何処に居るのか判らない。

 それなのに、事態は悪化の一途を辿り、<PK>を娯楽とする冒険者が急増中。

 パーティ同士の殺し合い、奪い合いが日常的に行われていた。

 日没後に、ミナミの街を離れるという事は、ほとんどの者達に取っては“自殺行為”と同義である。


 命に対する尊厳が、影も形も無い世界。


 レオ丸にとっての今のリアルとは、そんな世界であった。

 見ず知らずの<冒険者>は、<モンスター>と同じ存在。

 <冒険者>が<モンスター>で無くなるのは、<衛士>という抑止力が働くミナミの街中だけ。

 彼がトワイライトヒルズでばかり行動しているのも、冒険者に不人気であるが故であった。

 最も、スケルトンとファントムの集団に囲まれ見るからにやばそうなモンスターを連れた、百鬼夜行を地で行くレオ丸を、襲おうと試みる酔狂な<PK>プレイヤーは今のところ皆無である。

 されど、「武者修行!」と称して嬉々としながら夜間活動を楽しむ冒険者達がいるように、いつ何時に酔狂な輩が出てくるかは判らない。


「ジリ貧になる前に、どーにかせんとなぁ……」


 常に先を読み、用心に用心を重ねて、研鑽を怠らないように励むしかない。


「今の<エルダー・テイル>じゃ、死んでも花実が咲かへんもんな」


 ギルド会館の姿が見えて来るに従い、レオ丸のテンションが徐々に下がり、眉間の皺が深くなってきた。

 レオ丸は腕組みをしたまま、人混みから外れた道の端を歩く。意識して、ゆっくりゆっくりと。

 先ほどまでの雰囲気が一変し、呻吟する召喚主の後ろを、ナオMは俯きながら黙って付き従った。

 そんな主従を見た冒険者達が、擦れ違い様にギョッとした顔で後退ったり、指を指してヒソヒソと陰口を叩く。

 悪目立ちしたくないならば、見た目にアレな従者など連れずに、地味にひっそりと行動するのが一番なのは、本より理解している。

 してはいるのだが、筋金入りになってしまったソロプレイヤー根性の持ち主であるレオ丸は、“小心上等・安全第一”という行動指針を、取り止める気が無かった。

 <魔法の世界(エルダー・テイル)>にある<無法の街(ミナミ)>を歩くのに<護衛(モンスター)>を連れて、何が悪い?

 それが、他のメイン職よりも防御力とHPが低く設定されている<召喚術師(サモナー)>職に就くレオ丸の、無言の主張である。


 一時の混雑が解消されだした時分になり、異質な空気を纏わせた主従は、ようやくギルド会館に到着した。

 レオ丸は前後左右に注意を払うと、ナオMを会館前のサターン広場に残し、重厚な建物の内部へ。

 今日の戦果を預ける為に、会館一階にある銀行窓口を目指す。

 並ぶまでもなく順番となり、レオ丸はさっさと手続きを済ませた。

 愛想の乏しい大地人の受付嬢に、小さく謝辞を述べて窓口を離れる。

 ぐるりとフロアを見渡すレオ丸の視界に、仲間同士で三々五々集まる冒険者達の姿があった。

 深刻そうな顔を突き合わせて相談をする者、抱き合い握手を交わし再会を喜び合う者。

 小さく鼻を鳴らしたレオ丸は、そそくさと出口へと向かう。

 独り足早に歩く寂しげなその肩を、力強く叩く者がいた。

橙乃ままれ先生ご執筆の御作等で、ミナミの街やその周辺の設定・記述がほとんど見受けられませんので、色々と妄想してみました。橙乃ままれ先生はじめ創作の先達様方のお邪魔にならなければ幸甚です。

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