私達の未来に光があらんことを
咄嗟には数分前の記憶さえ思い出せなかった。
廊下と部屋の境目に立つ私。灯りが点いていない部屋。閉じられたカーテン。痛む右拳。倒れている少女。
きっかけなんて、些細なことだったのかもしれない。
六時十七分を指す時計。倒れたコップ。投げつけた灰皿。散らかった部屋。動かない少女。
こんな、こんな面倒なことになるのならば、こんなモノなんて作らなければよかったのだ。痛む右拳をさすりながら、後悔の念にかられた。
「お母さん、私を見殺しにするの」
幼い少女の声。違う。幻聴だ。現にアレは動いていない。動くはずがない。気を落ち着かせるために煙草を取り出す。手が震えてライターが点かない。零れたサイダーの臭いが鼻についた。
もう、いっそのこと、このまま放っておいて行ってしまおうか。そう思った。煙草の箱を投げる。
その瞬間、ここに、私の足元に倒れている少女の幼い姿がフラッシュバックした。海辺で遊ぶ私と彼女。幸せそうに笑っている、あの時(?)の記憶だ。私は、今まで何を考えていたのだろう。このまま彼女を見殺しにしようとしていたのか。ああ、私は間違っていた。どうか神様許してください!私は膝をつき祈りのポオズをする。頬から美しい涙を流す。少女を優しく抱き起こす。温かい彼女の肌が
と、いう妄想をした。
咥えた煙草には相変わらず火は点いておらず、フィルターに唾液が付いてしまっている。カーテンの隙間から光が漏れていなかったし、煩わしい訪問者も来ていない。もう、夜も遅いのだろう。いつまでも、ここに突っ立っているわけにはいかなかった。私は一歩足を踏み出す。絨毯の柔らかさを靴の裏で感じた。そして、そのまましゃがみこむ。
光あれ。
そう呟いて、私は少女の背中にあるスイッチを押した。
人差し指で、パチリと。




