心の在り処
「……出ないな。」
チャイムを再三再四鳴らし続けるも応答なし。
一体どうなってんだ。
「ぶち破っちゃえば~。」
「それは最後の選択だ。あと一回鳴らしたら、だけどな。」
俺だってこれ以上待つのは面倒だしうざい。
そう思いながらもう一度チャイムをお―――
「はい!はいはいはい。いるよいるいるいるから!ぶち破るなんて止めろ!」
「うわっ!?」
ボサボサ頭に瓶底眼鏡。
……いや、というか瓶底眼鏡なんて初めて見たぞ俺……。
時代錯誤もいいとこだな。
「全く最近の若者は乱暴だな。またセールスか新聞かテレビの集金かと思ったじゃないか。」
「いや……全然違いますけど。」
「そうなのか?じゃ。」
「はい。じゃあ……っておいおいおい。」
くるりと回り家に入ろうとした男の肩を掴み止める。
「なんだよ?なんか用?なら早くしてくれ。」
「あんた、いや、貴方が金石健太さん?」
「あれ?坊主、何故俺の名前を知ってるんだ?」
坊主じゃねえよ。
「俺更月涼治です。ジェイカーさんが連絡をつけたと聞いてやって来たんですけど?」
「は?ジェイク?あいつとなんかもう5年は連絡取ってないぞ。」
「……は?」
開いた口が塞がらない。
一体こりゃ……どういう事?
[さあな。連絡をしたのは多分嘘だということだろうな。]
……あの野郎。
面倒だから俺に押し付けたのか?
「ジェイクなんて名を呼ばないでくれよ坊主。あいつは俺にとって疫病神なんだよ。俺があいつにいくら払ったと思う?」
「え?さ、さあ……?」
「なんと五万!」
「……は?」
二度目の塞がらない口。
五万で疫病神扱い?
それはいくらなんでも酷い気がする。
「あのな、俺が稼ぎだしてから間もない頃の話だ。最初の内は中々上手く引き出せなくて苦労してたんだぜ?日々の稼ぎは1000円ありゃいい方だった……。」
「それは何と言うか、ご愁傷様。」
「日々の暮らしを俺は300円で済ませる事でプラスにしていった。そうすりゃ一日700円の稼ぎだからな。」
300円とか壮絶だな。
俺の昼飯代より安い。
「そして俺はそんな苦しい生活にめげず頑張って五万貯めたんだ……。それをあいつは!女と遊びに行くから金を貸せ、貸さなければこの稼ぎ方を公表するとぬかしやがった!」
「……へー。」
「だから俺は泣く泣く五万を渡したんだ……。今思い出しても腹が立つ。」
「あっそうっすか。そりゃ大変でしたね。」
なんか気が抜けたよ俺。
[同感だな。]
「あのー落ち着いて聞いてくださいね金石さん。」
「ん?なんだ。」
「今回も金を工面しろとの事です。しなかった場合はさっきのと同じです。」
「や、やややや疫病神の再来っだー!」
またギャーギャー喚きだしやがった。
「ちょっと~落ち着いてよ鬱陶しいなー。」
「お、お前は毬?!なんでお前が!は……!ジェイクと組んで俺から金を巻き上げる気だな!ひいいいいいい!」
「もー……。追う追われる。見る見られる。」
「え?」
この呪文は確か……。
睥睨する、七万の……瞳……?
「語る語られる。逃げる術は無く、堕ちる。“睥睨する七万の瞳”~♪」
「あっひ………………?」
「何で……何でお前がそれを!」
「ねえ涼治君。心の在り処って分かる?」
「え?いきなり何を……。」
「私達は名を冠す者を自らの心に置く。じゃあその心は一体何処にあるの?」
「いや、それは……。」
考えた事はある。
だがそんなこと分かる訳ない。
自分の精神構造程分からない物は無い。
「例えば武器。彼の存在意義は何かを傷付ける事。なら彼を有する者の存在意義もまたそれ。だとするなら、その者が望む“心”は何か。分かる~?」
「……いや。」
「彼を使うのは、一体何かしら。」
武器を使う……。
「腕や脚……?」
「そのとーり。心が心臓や精神、脳にあるだなんて事誰にも分からないし知らない。腕、脚、眼、鼻、耳、五臓六腑、脳、そして精神。それら全てに心はあるのよ。」
「つまり……俺はベレトと同化している。彼は“影の王冠”と“ロードデスウォーヘル”を持っている。“影の王冠”は則ち武器。“ロードデスウォーヘル”は空間。ベレトは俺の腕と精神に宿っていると?」
「そういうことー。」
それって、ベレトは分割して俺と同化しているってことか?
[ほう。中々面白い考えだ。心の在り処をその者の性質に依ると考えるなど今までに無かった考え方だからな。]
「私は君とドルの戦闘を見ていたの。君はドルの死体を放置したね。」
「ああ。」
雨に晒された奴の死体を俺は放置した。
あのまま、自然の恩恵を浴びながら消えていくのがあいつにとっても喜ばしい事だと考えて。
俺も疲れていたってのがあるけど。
「魔術師、つまり入れ物である人が死ねば中の者は帰ってしまう。と思ってた。でも今まで私が確認してきた人達って皆精神依存か脳依存の者達だったの。」
「……そうか。人が死ねば精神と脳は死ぬ。」
「そ。だから皆帰ってしまっていたの。でもね、人が死んで同時に死ぬのってその二つだけなの。眼は生きていた。」
「……成る程。そして、ヘベルメスはそこにいた。」
彼の眼は生きていた。
ヘベルメスは帰らず、誰かに見つかるのを待っていた、か。
「そ。私は彼の眼と話してヘベルメスと同化した。」
「……凄い。凄いぞそれ!凄い発見だ!」
心の在り処がそんなに一杯あるだなんて。
つまり俺達の心は体って事だ。
「にゃははははー私すごーい♪」
「ああ凄い!凄いさ!」
[おい。]
へ?
[貴様ら心の在り処を話しているのはいいが、金石とか言う奴はどうなったんだ?“睥睨する七万の瞳”を掛けられて無事とは思えぬのだが。]
……あ。
「おい!金石は大丈夫か?!」
「あー忘れてたー。」
「えーっと、いた!」
金石は玄関に座って林檎を剥いていた。
「あ、話終わった?」
「は?いや、終わったけど……。なんで林檎?」
「いや、小腹が空いたろうと思ってね。」
金石の横には皿が置いてあった。
何個もの剥かれた林檎が乗っている。
「……まあなんだ、金石が落ち着いてくれた所で本題に入ろうか。」
剥かれた林檎を一つ掴んで俺は齧った。




