魔眼“睥睨する七万の瞳”
「一時的とは言え、乱れた景色は消え去り、俺の右腕に入り込んだ違和感も死んだ。これが何を意味するか分かるか?」
「分かったとして分かる事もない。」
「お前の有利は崩れたって訳だ。“魅惑”を景色に入れ込む事は出来るだろうが、違和感の方は違う。同じ手は通用しない。」
さっさと近付きさっさと殺る。
[……出来ますかなそれが。]
え?
どういう意味だそれ?
[いえ良いのです。杞憂かもしれません故。]
……?ま、いいや。
「それは違う。お前を僕と同じ国へ招待する術を俺は持たない。持つのは引きずり込む術だけだ。」
「は。大した自信だな。“睥睨する七万の瞳”だったか?それに俺が絶対に嵌まると?」
[主も中々自信がおありのようですが、具体的に策があるのですか?]
策?って、あいつの魔眼を防ぐ?
[文脈からいって、それしかないでしょうな。]
んー……考えていたのは目を瞑って戦うってのだけど?
[つまり主は、心眼の持ち主という訳ですな?]
その通り。
[……。]
ちょっと待ってよベレト。
何もふざけて言っている訳じゃない。
俺自身に心眼なんてない。そりゃ当然さ。
俺は刀の達人でもなきゃ盲目でもないんだからな。
[……成る程。主の考えている事に考えが及びました。]
そりゃいいや。
じゃあしっかり頼むぜベレト。
「追う追われる。見る見られる。語る語られる。逃げる術は無く、堕ちる。“睥睨する七万の瞳”。」
「早速か……。まあいい。」
ぎゅっと目を瞑る。
視界に黒が走り光は遮断される。
「当然その可能性は考慮に入れていた。目を瞑る。およそ多くの常人が取る術、つまり愚策だ。」
「ごたごた喧しい。来るならさっさと来なストーカー野郎。」
空の左手をくいくいと動かしてやる。
「そうか。ならば堕ちろ。」
……頼むぜ。
「……!なに。」
「ナイフか。確かにちゃんと当てられるだけの腕を持っているなら、近付いて殺るより効率がいい。」
投げられた三本の刃は、当たったとしてもどれもが致命傷に成り得ない物ではあった。らしい。
どうやら何がなんでも“睥睨する七万の瞳”を掛けたいようだ。
「そうか貴様。中の者を頼って。」
「ちょっと考えりゃ分かることだよな。今までにやったことある奴はいないのかな。」
[更に三本のナイフ。来る点は此処、タイミングはあと一秒。]
了解。
言われた通りのタイミングで、見せられた点に対して的確に“影の王冠”を振るう。
金属音が響き、微かにナイフが地面に刺さる音が聞こえた。
「……いくら他の者がその危機的状況を見てそれを自らに説明してくれたとしても、やはり恐怖は感じる。それなのに目を開けないなんて、普通の人には出来ない。」
「あのね、お前もそうだが、俺は魔術師なの。普通じゃない。」
「それもそうだな。益々“睥睨する七万の瞳”を掛けたくなった。」
[懲りずにナイフを十本。点は此処。これは殺しに掛かっている。タイミング0,5。]
「よ、ほ、は、や、と、ふ。」
カンコンキンと音を発ててリズム良く弾いていく。
[おっと。下から弾いたナイフ全てが上がってきます。どうやら紐を付けていたようだ。]
成る程。
紐が付いているであろう点に向かって“影の王冠”を振るう。
僅かな抵抗を感じる。
紐だか糸だかの抵抗だろう。
「よく見ている。ところで、“睥睨する七万の瞳”が、人間だけに効くと言ったか?」
「……何?」
「この世の万物。ただそれだけ。たったそれだけに作用する。そんな甘い甘い甘いただの甘いと思うか?」
「あ?」
甘い?甘い?甘い……。
味覚的な事を言ってないのは分かる。
甘い認識とか、そんな様な事を言っているんだろうが。
“睥睨する七万の瞳”が……。
[中の者にも作用すると、そう言っているのでしょう。一応、彼奴の目を見ることはしなかった。だから彼奴の言う事が果たして現実がどうかは今の所不明です。]
成る程。
だがそんなこと確認する必要がない。
「お前の眼が中の者にも作用したとしよう。それがどうした。確認するまでもない。そんな事になる前に、お前を行動不能に陥れるだけだ。」
次のナイフを投げられる前に、前に突っ込む。
やっぱ目を閉じたまま走るのは怖いな。
「さっさとこの恐怖から解放してもらう!」
上に大きく振り上げ叩き斬るテレフォンパンチならぬテレフォン斬撃。
ドルイトスは避けずに、両腕で受け止めた。
すかさず刃を腕から放し、右回転しながら胴を狙う。
「はあああああ、あ?!そんなもんまで使うのかよ!」
「蹴り足挟み殺し、だったかな。昔HAJACKが複合国でない日本だった時代の漫画で読んで覚えていたのだ。が……。」
ち、がっちり受けられて動かない。
「おかしい……。」
「ふん。不思議か?お前さん、一応強い孤立狼なんだろ?自分で考えな!」
「ぐ……。」
腹に前蹴りを入れてやる。
“攻撃”星十を掛けてだ。
防がれはしたが、相手の体勢を崩すには十分過ぎた。
固定が外れた“影の王冠”で再び切り付ける。
右肩に向けての斬撃だ。
“攻撃”星三十を掛け一気に解放することで、常人では絶対的に反応速度が足らないスピードでの斬撃なんだが……。
「お前……何か武術でもやってたのか?」
肩に直撃したはずの斬りは、左手で軽く止められている。
「俺は“攻撃”を使えない。なら、何かで補填するのが常識だ。」
「話し方が普通になってきたな……!」
[相手の“攻撃”の星を瞬時に見抜き、更に攻撃を見切る。加えて細かな“防御”……。彼奴は間違いなくランクSです。]
魔術師にランクなんてあったっけ?
[さあ?単純にそれくらいというだけです。]
なんにしても、こいつは強いって訳ね。
「……成る程。私の流す“操脳”と同じレベルの“操脳”を流している訳か。」
「ああ分かっちゃった?ちょっとこっちの出力上げ過ぎたかな。何分“操脳”の制御は不得意でね。」
相手の魔術に合わせて魔術で返す。
簡単に言うが、まあ簡単だ。
相手の使う呪文が分かっていればだけど。
「なんにしてもこのままじゃ埒が明かないな。」
「そう。お前の攻撃は私に届きはしない。目を開ければ、その限りではないかもしれんがな!」
「う!?がはっ!」
しまった……油断した!
腹に極まった掌底は思いの外重く、軽く2m程ぶっ飛ばされた。
「う……げほ!ごほ!ぐ……ふ、ふうー。“攻撃”も使わないでこの、威力かよ。」
“防御”はギリギリ間に合ったが、如何せんこちらも制御が怪しくてな。
[甘いですなまだまだ。]
精進するよ。
「見を守る術、それこそ極めるに値する価値ある代物だ。」
「それについては同感だね。」
……どれくらい溜まったかな。
[我が主も言っていましたな。数えるのではなく感じろと。]
すみません。
……えっと、俺が一度に掛けられるのは今の所精々五十。
戦闘開始から彼此百は掛けている。
ってことは、今現在大体五千か……。
[しかし、それだけの物を一挙に放出した場合それは壊れるのでは?本体には掛けていないのでしょう?]
ああ。
本当は、掛けても良かったんだが、こいつが想像以上に強かったんでな。
奴にぶち込む事にのみ集中させたんだ。
壊れたら壊れたで、直せばいいしな。
[左様ですか。]
ま、五千もありゃ十分奴の“防御”を貫通出来るだろう。
[ただし、この方法が使えるのは一度きり。一度手の内を晒せば対策を練られますからな。]
ああ。
それに、もう一度掛けなおすだけの時間はない。
初弾で綺麗に決めてやるさ。
決意した所で、俺は静かに目を開いた。
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