結果=死と正体
「サリ、エル……?」
知らないけど、聞いたことはあるような。
[神天使『サリエル』。魔力およそ五万。“腐食”以外の全ての呪文を使えるオールラウンダー。奴は魔眼と護符、それに鎌の術式兵装を持っている。]
……随分詳しいな。
「[当然だ。]」
「……!」
ちょっとお前!
また人の口を―――
[黙れ。今を生き延びたいのなら口を利くな。]
……いつも以上の威圧感に圧倒され、渋々話す事を許可した。
許可しなくても勝手に話すだろうけど。
「[久しいなサリエル。隠れてないで出てきたらどうだ?それとも、私の前ではそれすら恐ろしいか。]」
「……情報によれば更月涼治はベレト・ソロモン。つまり、私が話しているのがもし本物ならだが、君の子孫とのみ同化している筈だが?」
あーあ、ほれみろ。
お前と同化している事が……ちょっと待て。
今サリエルとか言う奴は“情報”って言ったのか?
おかしいじゃないか。
召喚されていない天使と悪魔は何処かにある“無形の世界”にいるはずだ。
そこからこの世界、つまり地球の様子を見ることが出来ると以前悪魔に聞いたことがある。
ここで問題なのは、奴は俺がベレトと同化していることを“情報として知っている”という点だ。
聞いたことを“情報”というのは分かる。
だが“見た”事実を、わざわざ“情報によると”なんて言う訳無い。
[ふ。なかなか良い線行っているぞ。]
「[そんな瑣事どうでもよかろう。]」
「ふ。まあいい。出てこいと言うことは、君はまだ私の位置を特定出来ていない訳だからな。我が鎌で君を切り裂くのも容易いというわけだ。」
「[そんな迂闊なことをしてみろ。貴様の体が吹っ飛ぶぞ。]」
……本当だろうなそれ?
[無論だ。私がいればサリエルを八つ裂きに出来る。]
「吹っ飛んだところで私は帰るだけで、この死体が消滅するだけだぞ。」
「だから……てめえは何言ってんだ!」
[貴様は喋るなと……。]
うるさいこれは俺の体で俺の声だ!
「更月涼治……。君の理解能力はそんなに低くないだろう?私の今の声。私の言動。その二つだけで十分真実に到達出来る筈だ。それなのに分からないということは、それは分からないのではなく分かりたくないだけだ。違うか更月涼治?」
「ごたごた喧しいんだよ。ちゃっちゃと面見せやがれ。」
“攻撃”星二十。
“防御”星二十。
“攻撃”と“防御”を二十ずつ掛ける。
[馬鹿が……。]
何がだよ。
[考えてみろ。何故ジェイカー・リットネスとセナリア・ベイグラントは入ってこない。]
……そういえば。
ゆっくりと後ろを振り返ってみる。
「……おいおい何だよこれは。」
扉は開いているが、向こう側は何も見えない。
「我が術式兵装『“月の支配”』は、あらゆる魔術的要因を干渉不可とする。声には言霊が宿る。そして言霊には魔力が秘められる。君達は内と外では分かりあえないんだよ今は。」
「……分かんねえよ。」
[つまり魔術的要因全ての排除だ。呪文、術式兵装の使用不可を意味する。]
魔術の排除……。
だから部屋に入った瞬間“影の王冠”は消えたのか。
……って待てよ。
“全ての排除”?
壁を殴ってみる。
「っ!?これは……。」
「当然、方陣に入っている君は呪文を使うことも、術式兵装を使う事も敵わない。私の“月の支配”を破壊すれば話は別だがね。」
“攻撃”は機能しなかった。
掛けたと思っていたが、どうやら出来ていなかったようだ。
[自分に掛けた呪文の残量は感じられる様になれ。数えてばかりでは、この様な特殊な場面に出くわした時面倒だ。]
……分かった。
分かったけど、それよりまず此処から出る術を考えないと。
[出るのは簡単だ。サリエルが言った通り“月の支配”を破壊すればいい。一枚でも破壊すれば方陣として機能しなくなるからな。]
一枚?
[ああ。“月の支配”は護符状の術式兵装だ。]
目だけを動かし部屋を探ってみる。
……どこにもない。
「“月の支配”は簡単に破壊されてしまう。当然“魅惑”などで見えない様にしてある。」
せせら笑う様な声で話すサリエル。
至極むかつく。
[同感だ。]
「さてと、長く話してしまった。そろそろ終わりにしよう。」
その声は笑っておらず、また俺もむかつかず、ただ拳を前に構え戦闘体勢を取っただけだった。
「[やれるものなら殺ってみろ。さっきも言ったが、貴様もただでは済まん。]」
……テーゼスタが乗っ取られているんだ。
なるべく傷は付けたくない。
[貴様……。さすがに呆れて物も言えん。いい加減受け止めろ。]
生憎自分の目で見たものしか信じない質でね。
「おっと、勘違いはよくない。今此処で更月涼治を殺すのは詰まらないし勿体ない。せっかく悪魔の原点である君がいることが分かったんだ。殺らないよ。」
「[それはこちらとしても楽に済むから喜ばしくはある。]」
「喜ばしくはある、ね。相変わらずの上から目線だな君は。」
「[目下に上から目線で何が悪い?]」
「……。」
馬鹿止めろ。
せっかく退きそうなんだから火を付けるような事をするな。
「ふ。まあいい。元々更月涼治を殺す事は計算に入ってなかった。テーゼスタ・ストルクムを殺ればあいつも納得する。」
「……あいつって誰だ。」
[……それでいい。]
半分認めただけだ。
ただ、今は情報をなるべく得たいからこうするだけなんだ。
テーゼスタは……。
「当然、私が真に同化している者のこと。」
「[……やはりな。貴様が幼い少女を何の気無しに殺す訳が無いとは思っていた。]」
「ふむ。私としてもあまり気の乗る物ではなかった。だが、奴が頼んだのだ。無下にする訳にもいくまい。」
「[さすがは神の名を持つ天使だな。大した仁愛だ。]」
女の子に傷付けて何が仁愛だよ……ふざけるな。
[無論皮肉だ。]
「[何故テーゼスタ・ストルクムに手を出した。]」
「彼女は薄々気がつき始めたのだ。赤、ベルサーチ・マリオネット、糸井草春、セナリア・ベイグラント・サブナク、ジェイカー・リットネス、大城毬、ドルイトス・P・レイヴァン、そして更月涼治。それらにな。」
「一体どういう意味だ!」
堪らず口を挟む。
まるで以て意味が分からない。
「間抜けか君は。それを話したらわざわざ少女を殺した意味が失せる。まあ、これだけべらべら話す私も間抜けと言える。だがしかし、私が提示した事実だけを組み合わせても君が真実に辿り着く事は絶対に有り得ないがね。既存の概念を打ち砕くということは、君達人間にとってとても難しい事だから。」
「ほんっとうにべらべらとよく喋る奴だな。口は禍の門って諺知らねえのか間抜け。饒舌なのは結構だが、それで足を取られるのはてめえだぞ?」
[貴様も結構口が達者ではないか。よく言った。]
……結果的に俺も喧嘩を吹っ掛ける様な形になっちまった。
これは戦闘になる可能性もあるか……。
「確かにな。私はよく口が過ぎると言われる。とにもかくにも、さっき言った通り目的は達した。私は帰る。“月の支配”は本来24時間持つが、君の勇気に免じて解放してあげよう。」
どこからか指を鳴らす音が聞こえる。
「涼治!大丈夫じゃないわね?!」
「更月君!聞こえたら返事を!」
と同時にセナリア達の声が聞こえるようになった。
なったのは良いけど、大丈夫じゃないわねって。
「では私は行く。少女の死体は丁重に弔ってくれ。」
「待てよ!」
そう言ったところで待つ訳もなく。
俺は床に倒れるテーゼスタを見つけるのであった。
天使:神天使『サリエル』
更新しました
来週から更新頻度が極端に減ります




