3つの誤算=?
……なんだ?
テーゼスタが入ってから一時間。
扉は未だ開かない。
俺がベレトと同化した時、十六時間掛かった。
ならば一時間で出て来る筈はない。
筈はない、んだが……。
[……やはりと言うかなんと言うか。言わずとも悪い物は悪い。験とはそういう物だ。違うか?]
お前は何を言っているんだ?
[貴様がどれだけか人より鈍感だとしても、この嫌な冷たさを感じているのだろう?ならばそれが答えだ。]
どういう事だ。
[だからそれが答えだと―――]
そういう下らないやり取りはどうでもいい!
開ける可きか否か!どっちなんだ?!
[ふん。開ければいいだろう。どのみち、貴様らが取る方向などそれしかない。道も、進もうとしなければただの荒れ地にしかならん。]
「テーゼスタ!」
悪魔の言葉を最後まで聞かず、俺は扉に突進した。
「更月君?!」
「なにやってるのよ貴方!」
当然、その声も無視して扉を開け放つ。
「大丈夫かテーゼ……スタ……?」
なんだ。
冷たい……。
空気が酷く冷たい。
「この冷たさは、言うなれば死。死を中心とし放射状に紡がれる死の冷たさ。これを感じるには人より優れた感度を持ち合わせなければ不可能。つまり君は、かなりの悪魔と同化している訳か。」
「は……?」
部屋にテーゼスタの声が響く。
しかし冷たい。
それこそ、部屋に蔓延っている冷気の様に冷たい。
「テーゼスタ……?」
「生と死。この相反する物が共存する場に於てこそ、人というこの地上にある種族の内最も愚かな君達ははそれを深く感じる。」
……そういえばテーゼスタは何処だ?
声はするけど姿は見えない。
[ちっ……。この種と会うには時が早過ぎる。]
何を言うんだお前は。
「更月……更月涼治か。君もそうは思わないか更月涼治。」
「おい、テーゼス―――」
「その前に!」
「っ!」
いきなり壁に亀裂が走り音を発てた。
「君は誤解している。対談に於て、呼ぶ可きは死者の名ではなく生者の―――」
「お前も……何を言っているんだぁぁぁ!」
集約、結合、実現。
影に形を。
“影の王冠”!
[……馬鹿が。]
“影の王冠”を右手に、部屋に突っ込む。
「え……?」
“影の王冠”が消えた。
音も発てず、素振りも見せず消えた。
消滅した……のか?
「話しは最後まで聞くものだ更月涼治。時にそれは、君が考えるよりも激しく意味を成すものなのだからな。」
相変わらず見えないテーゼスタの声が響く。
鉄の壁で覆われた密室だ。
声が反響し、其処彼処から跳ね返ってくる。
「私の名を名乗っていないだろう更月涼治。もし君の中の者が私の名を知っていれば、それは君にとって激しく有益だ。違わないな?」
何処だ……!
部屋はそんなに広くないのに姿が見えないなんておかしいだろ!
[落ち着け。取りあえず奴の名を聞くのだ。……大体予想はついているがな。]
「では名乗ろう。テーゼスタ・ストルクムが召喚した、いや召喚させた私の名は、サリエル。」
[……やはりな。]
俺は知らない。
此処で何が起きたか。此処にいる奴が誰か。
そして、これから何が起きるのかを。




