新たるは欲望の彼方より
「……。」
「すまない。」
絶句。という言葉がこれ程似合う場面はない。
[予想はしていたが実際に聞くと、か?]
……ああ。
ジェイカーに呼び出され来た深夜2時のW.W.S保健室。
ベッドに横たわるセナリアと、その隣でセナリア同様寝息を発てている少女。
少女の方は誰かは知らない。
「セナリアは未成年女子寮にいた。“マリオネット”が付いていた所を見ると、ベルサがそこまで送ったみたいだ。」
「……そうですか。」
「脳波脈拍血圧全て正常。外傷無し。内傷も無し。掠り傷一つ無かった。」
「……そうですか。」
「意識もその内戻るだろう。っていうのは全て保健医の受け売りですけどね。」
「……そうですか。」
セナリアは無事。
……そうか。それは良かった。
セナリアが無事で本当に良かった。
「それで、だね。ベルサの事だが……。」
「指は蟷螂。体に刺さる複数の角はヘラクレスオオカブト。針は雀蜂。腱を切ったのは多分軍隊蟻ですよね。」
「恐らくそうでしょう。」
「でも……この腹の傷は何ですか!この首は!何たってこんな事になってんですかジェイカーさん!」
腹には穴が空いている。
首は、……頭と分離している。
そのどちらにも腐った痕がある。
「落ち着いてください更月君。それを知るために、ベルサーチからベリネを抜いたんだ。」
「……記憶を見るってことか。」
「そういうことです。」
ジェイカーが外部記録記憶映像外射機にベリネをセットする。
「これは、あの研究所ですね。」
「ベルサーチさんが死んでいた所ですか。」
「その通り。流石電光社社長の田中太一が直々に創った外射機だね。映像がかなり鮮明だ。」
「そうですね。」
……ベルサーチが無茶苦茶にやられている。
振るう“マリオネット”も空を切るばかり。
歯痒い。歯痒過ぎる。
こんなリアルな映像を見ているのに助けられないなんて。
「右目の映像が消えたね。」
「……。」
右目にヘラクレスの角が刺さったんだろう。
[糸井草春か。蟲使いなど歯牙にもかけん雑魚と思っていたが、中々どうしてこれは面白い。]
……黙ってろ。
「ここで草春は去った訳か。という事は、あの二つは草春が付けた訳ではないみたいだね。」
映像は続く。
ベルサーチが独りごち、そして誰かの高笑いが聞こえる。
高い……これは……。
[恐らく女、だろうな。]
「……!」
「どうしましたジェイカーさん?」
映像には女の顔が写っている。
黒く長い髪。
少し垂れ気味のおっとりした目。
肌の色から推察するに、多分日本人の血を色濃く受け継いでいる。
歳は十代後半くらいか。
極めつけ、右手に赤い刃の刀を持っている。
「あの刀、あれはセナリアの使う術式兵装“多角鋭式六頭霊影刃”。」
「え……?セナリアの?どういう事ですか?」
「分からない。ただ、術式兵装以外に分かる事が一つある。あの女性の名。彼女は大城毬。孤立狼だ。」
「てことは……糸井の仲間ですか?」
「それは分からない。」
「じゃあなんでこの大城って人はセナリアの術式兵装を?まさかサブナクを抜き取ったとか……?」
「いや。セナリアの中にはサブナクがちゃんといるよ。世の中には、他人の術式兵装をコピー出来る者がいる。恐らくだが、そういう類いの者が糸井に手を貸したんだろう。」
「成る程。っ……!」
首が落とされた……。
「……おしまい。ヒントは多く得られたね。さて、呼び出しておいて何だがもう夜も遅い。セナリアの事は保健医に任せて君はもう帰りなさい。」
「……一つ聞かせてください。貴方は今まで何処にいたんですか?」
「ちょっと野暮用でね。」
「野暮用ってのは?」
「聞くのは野暮ってもんだよ更月君。」
「……どうしても答えないんですか?」
「安心しろ更月涼治。」
「え?」
いきなり口調が変わって少し後ずさる。
が、次の瞬間にはにこりと笑って言い放った。
「ベルサーチは私の親友だ。彼を殺した者は許さない。必ず私が殺す。」
「は、はい……。……じゃあ帰ります。」
「うん。気をつけてね。」
扉を閉めて歩きだす。
[疑いは晴れたか?]
ん……まあな。
[どうやらまた新たな敵が現れたようだ。次は前線に行けるよう善処しろ。]
分かっているよ。
……新たるは、欲多き輩かな。




