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ExtraMaxWay  作者: 凩夏明野
第四章-新たるは欲望の彼方より-
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回顧2

「おい……草春!大丈夫か草春!」


全身血だらけで床に転がる草春。

見える範囲でだが、顔や腕、至る所の肉が削げている。

他の箇所も、血に埋もれているだけで、そうではないかと考えるのは難くない。


「あ?ベルサ……か。よいしょっと。」


そんな緊張感の無い声を上げながら壁に寄り掛かり座った。


「いやいやおいおい!大丈夫、ではないよな見れば分かる。何があった?」


「……古代から人ってのは、その欲望を満たすため、時には物を、時には他人を、そして時には自らを犠牲にしてきた。」


「は?いや、一体何を?そんなことよりさっさと“回復”で―――」


「いいから聞けよ。煙草、ないか?吸いたいんだ。」


「あ、ああ。」


煙草を一本渡し火を着けてやる。


「ふー。蟲を強化するには二種類の方法がある。一つ、単純に“強化”を掛ける。」


「……二つ、肉を喰らわせる。」


「御名答。しかも家畜とかそういう肉じゃない。」


端的に言えば、人肉だ。


「すー……ふー。家畜ほど産まれてきて後悔する存在はいないだろう。死ぬことだけでなく、殺されることを産まれた瞬間運命付けられるなんて。彼らに思いを重ねると、死にたくなるよ俺は。」


「またそんなどうでもいいことを……。」


()は言いたくなどない。

その先に待つであろう言葉、答え、それをきっと()は分かっている。

だが、それを言うのは躊躇われる。とても。


「目は常に前を見ているし、野心は上しか見ない。」


「え?」


「思いついたことはしたくなるのが俺の性分だ。」


言いながら、ベロっと剥がれかかった皮膚を引き千切った。

何を思ったのか草春は、それを自らの口に運んだ。

含み、咀嚼し、嚥下。


「成る程……俺の味はこれか。大して美味くないってのに、奴ら凄く群がったな。」


「お前やっぱり……。」


自分の肉を喰わせたんだな。

蟲に。


「まあ、“あれだけ”喰ったんだ。当分は必要ない。」


「……草春?」


“あれだけ”……?


「内臓……特に“心臓”が好みの様だ。後は、そう、“脳”だな。後でメモしねえと。」


「……おい。」


「さすがに“脳”はな。手前のもんをやる訳にゃいかねえからな。ははは、まあ“心臓”も然りだけど。」


「草春……。」


「ああそうだ。案外と、“眼球”なんかも好きだったな。中に入ってる液体をちゅーちゅー吸ってた。樹液に似てんのかもなははは。」


「おい草春!」


ヘラヘラ笑いながら独り言を言う草春。

こいつは何時もそうだ。

集中すると周りの声を全て遮断し、一人でまくし立ててそれで終わり。

って、今はそんなことどうでもいい。


「おい。お前まさか。」


「はははははは。ん?ああすまんなベルサ。何か用か、っておいおい。何だよこの腕は。」


「何だよ、じゃないだろこの野郎。」


血だらけのシャツの胸倉を左手で掴む。

草春を壁に押し付け目で威圧するが、ヘラヘラは止まらない。


「お前、人を、自分だけじゃなく他人を喰わせたのか!」


「は。はははははは!話の流れで分かるだろ?一々んな詰まんねえ事聞くなボケ。それに言ったろ。」


「……何?」


「時には他人を、だ。」


一層深く不快な笑顔を見せた所で、()は我慢の限界を迎えた。


「この、馬鹿野郎!」


左の頬に思い切り拳を振るう。

草春は派手に吹っ飛び、煙草が口から離れて、床に転がる。

それでも奴はヘラヘラ笑っている。

何だよこれは……。

昨日までは普通だったじゃないか。

()は本を読み、草春は呪文を構成する。

そして夜は7人で食事……を……。

……今は午後四時。

何時もなら皆……。

いきたくない合点がいった。


「おい……。これだけには、この質問の答えにはノーと答えてくれ。」


でないと……()は。


「他の皆。」


「ああ、それならあっちにいるよ。」


()が質問を言い終える前に草春は違う解答を示した。

指差す方にあるのは襖だ。

その奥には八畳の畳で構成される和室がある。

当然というか何というか、()はその襖を開けた。

後悔した。


「……っ!」


鼻を覆いたくなる濃い血の臭い。

赤が染み付いた畳。

そして、転がる骨や皮の残骸。

髪の毛や爪何かも落ちている。


「吐かなかったな。偉いじゃないか。は、ははは。はははははははははははは。」


草春の高笑いが頭に響く。

聴覚には不協和音。

視覚には鮮烈な赤。

嗅覚には不快極まる臭い。

これだけでも十分叫ぶには足りるだろう。

そして更に触覚にも変化が。

不快さを感じた右腕を見るとそこには、血を浴びたヘラクレスオオカブトがいた。

過去を思い出すのを止め、自分の右腕を眺める。

傷痕何かは、無い。


「お前は一応操り師だからな。咄嗟に一匹のカブトムシくらい操るのは訳ないだろう。」


「……草春。」


記憶にだけ存在していた奴が、今目の前に現れた。

記憶と違う事と言えば、血だらけではないという点だけ。


「ベルサ。あのお嬢さんを見つけに来たのか?」


「……やはりお前が関わっていたのか。」


「イエース。仲間に引き入れたい奴がいてなー。そいつが、“千からなる死因の共鳴”と、“多角鋭式六頭霊影刃”を欲しがってなあ。」


それでセナリアを拉致した、という訳か。

となると……更月君には悪いが、あの子の生存確率は……。


「安心しろ。両手両足の腱とベリネを切ってるだけで至極元気だ。」


はははと不快な笑い声。

相変わらずの不快さだ。


「世の中にはな、対象の術式兵装をコピっちまう奴がいんだよ。更にそれを他人に与えることもな。あははははははは。」


「そうか。ならいい。」


「あ?」


「死んでないならそれでいい。お前が誰を仲間に引き入れようとそれもいい。事が済んだのならさっさとセナリアさんを解放しろ。」


「……いいんだよ。いいんだけどよ。」


……!

既に囲まれている、か。

術式兵装“マリオネット”を取り出す。


「何のためにお前を生かしたと思ってんだよ。それ、その糸の術式兵装“マリオネット”。あの時はまだ試作段階で詰まらなかった。」


小さな蟻達が何匹も何匹も蠢動している。

目の前の人を喰らわんがために。


「だから殺さなかった。いや、もしかしたら殺せなかったのかもな。お前は俺にとって一番の仲間だったから。」


「……。」


「……く、はははははははははははは。って、んなこと言うわけねえだろ。」


「ふ。知っていたさ。」


“マリオネット”を両手の指一本一本から垂らす。


「さあ見せてくれよォ!完成した瞬間的人物操作をよ!」


「無論。」


お前は()と同じ操り師になる事を否定した。

オリジナリティー、アイデンティティーを求めて蟲使いになった。

()と同じでは詰まらないと。

なら()も同じだ。

お前は自分を“俺”と呼ぶ。

些細な事だ一人称なんて。とてもとても。

だが、お前から離別し、お前をいつか殺すため、()()になったんだ。


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