回顧
「こりゃどうだ。荒れ放題だな。」
10km圏内にあった建物の一つ。
そこは昔、“俺”とあの6人が一緒に生活していた家だ。
5年前、私はまだ20歳だったな……。
「俺さ、蟲使いになろうかと思うんだよ。」
「は?蟲?」
そのフレーズに、思わず草春に視線を向けた。
読み掛けの本は、開いた窓から吹く風に煽られ栞を挟むのも儘ならなかった。
「いきなり何を言い出すんだお前は?蟲使い?」
「何をも何も、言葉のままさ。蟲使い。蟲を使う魔術師になろうかって言ったんだ。」
蟲使い。
過去にもそういった魔術師はいた。
昆虫界では強力な、例えば蟷螂やカブトムシなんかを使役して、まあ戦う魔術師の事を蟲使いと呼ぶ。
彼らは蟲に“強化”を施す事で戦闘力を増させ戦わせる。
が、“強化”などは時が経てば消える呪文で、その都度大量の蟲に“強化”を施し戦わせるということはかなり非効率的。
魔力の消費が激しい割に、さほどの力も得られない。
という様な理由の下、まともな蟲使いはここ一世紀程存在していない。
「いやさ、お前は基本的な操り師になる予定だろ?そのためにほれ、『瞬間的人物操作』なんて眉唾物の本を読んでんだろ?」
「そうだが……。」
「俺も操り師になるとさ、ほら、キャラ被るだろ?それじゃ詰まんねえし。」
「詰まる詰まらんの話じゃないだろ。」
はははと笑いながら『瞬間的人物操作』を閉じる。
「いやそれでさ、思いついたのが蟲使いなんだよ。確か一世紀くらい誰もなってねえだろ?ならいいそりゃいい格段格別究極にいい!俺はオリジナリティーをアイデンティティー的な?そういうもんになりたいんだよ。」
「なんだよそれは。」
苦笑しながら思い出す。
そういえばこいつは最近、ヘラクレスオオカブトやら軍隊蟻やらを何処からか捕まえてきていたな、と。
『広がる地平』に建つW.W.Sだ。
そういう物がそこらにいても別段驚く事じゃない。
「そのための個呪文を今研究中なんだよ。蟲を“操脳”より効率的に操り、“強化”より激しく強化させるような呪文をな。」
「それは何ともまあ魔力を消費しそうな呪文だな。」
「確かにな。俺の今の魔力は八百。これっぽっちの魔力でも十分使えるくらい燃費の良い呪文を作るよう頑張るわ。」
「頑張ってくれ。」
俺は俺で、瞬間的人物操作が出来るような術式兵装を作らなきゃ。
凡人の俺が出来るのは、それくらいしかないから。
そんなたわいない話をしてから一週間後、それは起きたんだったな。




