解除
あるものは鎧に触れ。
あるものは蛇に噛まれ。
そしてまたあるものは一閃の元腐っていく。
いかに軍隊蟻が凶悪で強力だと言っても、体に到達出来なければそんなものまるで意味を持たない。
「おいおい、手塩に掛けたんだぜ?もう少し優しく扱ってくれよ。」
「無理ね。」
ゆっくりと前進しながら蟻を殺す。
重くて走れないのが難点よねこの鎧。
[鍛えればいいんじゃね。]
筋骨隆々美少女なんて嫌よ。
飛びついてくる蟻を刀で切り裂く。
断面から腐食され、落ちていく。
触れられても痛くも痒くもないけど、蟲になんて触られたくないからね。
「ねえおじさん。正直もうぐだぐだよ?今なら見逃してあげるからどっか行ったら?そっちまで行くのも結構めんどいのよ。」
「は。お前がさっき言ったんだぜ。俺は死ぬかもしれないってな。なら試せよ俺に。」
「はあ……。」
退いてくれないみたいなんだけど。
[殺せばいいだろう。奴は孤立狼。殺れば誰もが賞賛するだろうしな。]
そりゃそうなんだけどね。
まあいっか。
これやると筋肉痛になるからやりたくないけど……。
「“攻撃”星四十。全て足へ!」
足に“攻撃”星四十を掛け、それを全て移動に費やす!
鎧の重さを一身に感じながら糸井の前に瞬時に移る。
「お……!ちょっとま―――」
「待たないわよ!」
“多角鋭式六頭霊影刃”を左下から一気に振り上げる。
「いてっ。」
そのまま刃は糸井の右脇腹から左腕にかけて切り裂いた。
腹からは腸が覗き、左腕は完全に落ちた。
なのにどうだ。
糸井が発した言葉は“いてっ”だ。
……究極のドMとか?
[さあな。]
「うっひゃあこりゃ凄い。断面から腐って傷口がどんどん広がっている。腸にも蛇が触れたのかな。腐りはじめてら。はははははははははははは。」
「……確実に変人ね。」
「腕も腐ってるぞ。こりゃ、よっと。」
「っ!」
思わず目を逸らす。
糸井は取り出したナイフで傷口を切りはじめた。
それ以上腐らないように。
当たり前の考えだが、だからってあんな平然と出来ないでしょ普通。
指の先がちょっと切られたとかじゃないのよ?
あーあー……腸まで切ってる。
気持ち悪いわね。
「っとまあこんなもんかね。」
血は滴り芝生をどす赤で染める。
切り取られた肉片も転がっている。
「何にしても、笑顔でやることではないわね。」
「あれ、笑ってた?そりゃ失敬。自傷なんて久しぶりだから可笑しくてな。」
「確かに貴方は可笑しいわね。笑えないけど。」
……“回復”を使おうともしない。
それに斬った時のあの軽さ……。
こいつ“防御”も使わなかったのね。
[変態だな。]
「あはは。はあ。なんで“回復”を使わないか疑問か?」
「ええそうね。けどどうでもいいわ。使わないなら使わないでとっとと倒す。」
刀を振るい蛇を一匹糸井に伸ばす。
「おっと。」
けどあっさり躱された。
……やっぱりさっき受けたのはわざとね。
[その様だ。鍛練が足りんな。]
煩いわよ。
「……もういいか。解明。一重二重三重四重。対象“千からなる死因の共鳴”。並びに“多角鋭式六頭霊影刃”。“解除”。」
「え……?」
音が鳴った気がする。
パンッ。
紙袋に空気を入れて潰す様な音。
それを発した元は……鎧と刀?
[……すまん。]
「消えたの?」
「消したんだよ。“解除”は呪文や術式兵装を強制的に消す本の術式兵装さ。」
「あ……れ……。」
あれ……?
地面が近づいた?
視界に多く広がったのは、さっきまでの黒と違い、少し赤い何かが付着した緑。
つまり芝生。
「な……んで?」
顔を上げようとしても上がらない。
同様に手も、足も動かない。
なんか……やたら、眠い。
「すまないな。手と足の腱を切らせてもらった。我が愛しの軍隊蟻によってな。」
「え……?」
頑張って顔を手に向ける。
白い服の袖が赤く染まっている。
多分肘の内側と手首を切られたんだろう。
いつのまに……?
“回復”……使わ、ないと……。
「ああ、因みに“回復”を使っても無駄さ。腱だけじゃなく、周辺の筋繊維もずたずたにした。お前の“回復”がどの程度の物かは知らんが、今の状態で治癒させるのは不可能だろうな。」
「今の状態……?」
「眠いだろ?おまけに、皮膚を突き破られ、内組織にまで損傷が及んでいるのに痛くない。違うか?」
言われてみれば……。
いくら軍隊蟻とはいえ、私にまるで気づかれないまま腱を食い千切られるとは思えない。
……まさか。
「麻酔作用……。」
「御名答。その軍隊蟻達は麻酔作用のある液体を口から分泌する。君は女の子だ。痛みを感じさせないようせめてもの情けさ。」
「く……。」
もう、ダメ。
眠たくて堪らない。
「眠いだろ?寝ろよ。睡眠欲は三大欲求の一つ。抗った所で得はない。それに、眠っちまった方が時は早く過ぎる。」
ニヤニヤしながら近寄ってくる糸井草春。
その顔に不快さを感じながら、私は強制終了した。




