Bygone
「“腐食”星ニ十。」
両手両足に濃い“腐食”の膜を張る。
「次いで“攻撃”星三十。」
「いきなり全力か?魔力を惜しみなく注ぎ込むな。“強制”×二十。」
……強制?
[恐らく、周りの蟲共を操る呪文か何かだろう。]
何にしても、鬱陶しい蟲を落とさなきゃね。
「行け、ヘラクレス。」
激しい羽音を発て、カブトムシがこちらに飛んで来る。
[相当強化されている様だな。動きが蟲とは思えん。]
そうね!
「は!」
一番早く私に届いた蟲に掌底を放つ。
掌に触れることなくカブトムシは腐り、地面に転がった。
「ほう。やはりサブナクと同化しているだけの事はあるな。」
次いで、同時に来襲する二匹も同じ様に落とす。
裏拳、手刀、蹴りなどを駆使し残り十七匹も落としていく。
スカートだから、蹴ったりするとチラチラしちゃうわ、いやん。
[はっはっは。余裕だな。]
まだね。
私は術式兵装を出していないし、カブトムシの攻撃は一度も受けていない。
……ま、あっちも術式兵装は出してないし、まだ本気じゃないわね。
「ブラボー。本気ではないとは言え、あれを無傷で過ごすとは……。やはり楽しめそうだ。“強制”倍率三×十。」
「……!」
またカブトムシが現れた訳だけど。
なにあれ。
[二回り大きい。]
そうみたいね。
「さあ、次も上手く過ごせよ!」
「勿論よ!」
次は待つのではなくこちらから向かう。
さっきより強くなっているとするなら、囲まれると分が悪い。
なら先制攻撃で崩さないとね。
“攻撃”星五を移動のために使用。
これにより私の動きは加速し、一番手前のカブトムシに瞬時に辿り着く。
「やっ!」
と同時に“腐食”を纏わせた掌底を打ち込む。
カブトムシは落下するがそんなものを見ている暇はない。
次いですぐそばのカブトムシに裏拳。
そのままカブトムシを掴み、少し遠くのカブトムシにぶつけ沈黙させる。
「次!」
足元に迫っていたカブトムシを右足で蹴り―――
「わ!何で避けるのよー!」
直角に曲がったカブトムシは私の蹴りを躱し背後に回った。
「はははははは。さあどうする?君が恐れていた自体に陥ったぞ?」
「……あらま。」
やはり暗いのはダメね。
今気付いたが、後ろには既に三匹回り込んでいた。
[今頃気付いたのか。のろまなお嬢様だ。]
うっさいわね。
さっき三匹落として、残りは七匹。
「その内三匹は後ろ。四匹は前にいるって訳ね。」
「そういうことになる。気をつけろ、ヘラクレスは確実に君の腱を狙う。」
「そう。だから何なの?」
「は?」
「聞いた通りよ。私は七匹のヘラクレスカブトムシに囲まれている。しかもこの蟲達は貴方がかなーり強化してあげてる、と。だから何なの?」
確実に腱を狙うだとか、囲まれているだとか、そんなことどうでもいいわ。
「当たらなきゃどうってことないのよ、おじさん。」
「俺はまだ25だ。口も開けねえ様にしなきゃな。」
四方から蟲が迫る。
「……着ようか、全てを阻む腐食の鎧。“千からなる死因の共鳴”。」
「……!」
私の体を鈍く輝く赤が覆っていく。
ただの赤じゃない。
それはこの世のモノではない金属で構成される鎧。
触れる物全てを、腐食という事象の元沈黙させる鎧。
いくら強化されていようと、いくら魔力を費やそうと、この鎧にまともな状態で触れられる物はない。
「それが私の、サブナクの鎧である“千からなる死因の共鳴”。」
「やっべ……!戻れヘラクレス!」
「もう遅いわよ。火に飛び込む馬鹿な虫の様に死になさいな。」
襲撃してきたカブトムシは、鎧に触れることなく腐って死んだ。
[流石は我が鎧だ。虫けらを防ぐなど造作もない。]
当たり前よ。
「ち。それがサブナクの鎧か。全く、丹精込めて作ったてのになあ。こんな簡単に撃破されると泣けてくる。」
「なら泣きなさいな。私は貴方を許したりしないけどね。」
「これならあいつでなくても欲しくなる。猫ばばしようかな……。いやいやダメダメ。」
……もしかして無視したのあの人?
[はははははは。その様だな。]
ムカつくわねーあんたも。
「まあいいか。じゃあそろそろ本腰入れるよ。痛いかもしれないけど耐えろよ。」
「奇遇ね。私もそろそろちゃんと戦おうと思ってたのよ。死ぬかもしれないけど、怨まないでね。切り裂こうか、腐る断絶。“多角鋭式六頭霊影刃”。」
これまた赤く輝く刃を持つ日本刀。
刀身には、更に赤く、どす黒い赤でその体を纏う蛇が六匹。絡み付いている。
「刀も抜いたか。ならこっちも。“強制”倍率十×百。」
「う……気持ち悪いわね。」
多分蟻なんだろう。
何故多分なのか。
まず大きさがおかしい。
蟻なんて大きい物でも精々2cmあるかないかだろう。
けど目の前に展開している軍隊蟻は違う。
[およそ10cmは下らない様だな。]
「知っているかもしれんがこいつらは軍隊蟻。この世で最も凶悪な蟻達だ。これから奴らは君を喰らわんと押し寄せる。殺す前に止めさせるから安心してくれ。」
「煩い。」
右手に持った霊影刃を軽く振るう。
……うん。やっぱりしっくりくるね。
[鎧と刃を出したのだ。敗北は許さん。]
当然よ。
餌になる気はないわ。
[ならば良し。油断しないで速攻で行け。]
「勿論!」
悪魔:サブナク
『“千からなる死因の共鳴”』
『“多角鋭式六頭霊影刃”』
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