Finish
「く……せー!」
臭いよ何だコレ。
轍醍醐の“千刃の谷-祢々切丸”が赤い奴を貫いた瞬間、周囲に赤い霧状の奴の体が散らばり、漂っていた腐敗臭が爆発的に広がった。
[吸うな。体に毒なのは確かだ。]
って言ってもな。
雲散霧消した奴の体がそこら中に散らばってるんだ。
吸うなというのは難しいだろう。
努力はするけど。
それより、あいつ、轍醍醐はどうした。
[貴様の後ろにいるだろう。]
「へ、うわっ!?」
「あまり吸うなよ更月涼治。」
黙って背後に立たないでほしい……。
殺し屋かと思うわマジで。
「さて、これで奴が死んだか否か、楽しみだな。」
「何が楽しみなんだ……。」
「私も俗世に汚染されてはいるが、腐っても武士なのでな。相手が赦されざる殺人犯だと言っても、やはり、強い敵は面白い。奴の場合、強いのは力ではなく、そのバイタリティだろうがな。見ろ。」
「あ、何か集まってる。」
赤い霧が、ある一点に集まって来る。
それに釣られ臭いも集約されているのか、腐敗臭も弱くなる。
そして、赤い奴は復活した。
「ふぅー……。ヴヴヴ……。」
いや、死んでないなら復活じゃないか。
これ一体どうしたらいいんだよ。
「死んでないのかはよく分からんが、こうして目の前に無傷で存在しているのは確かだ。」
「物理攻撃は効かないのか……?」
あれ程の攻撃を受けてぴんぴんしているのだ。
物理攻撃が奴の前に無力に帰すと誰だって考えるだろう。
「そのようだ。となると私はかなり不利になる。“スレイ・ライ・サントエク”等の光線の様な技を使わないからな。君はどうだ?」
「えっと、魔術師は基本的にそんな呪文を使わないよ。術式兵装なら話は別だけど。」
俺はまだ“影の王冠”しか使えない。
[私の術式兵装である“武器”か“魔眼”なら願いを叶えられたろうが、諦めるのも時には肝心だ。]
冗談じゃない。
俺の人生まだまだこれから、宇宙規模で見ればそこらのダニ程も生きてないんだぜ?!
[ふ。宇宙規模で比べる意味は分からんが安心しろ。私もまだ帰る気は無いのでな。と言っても物理的助力は不可能だがな、っはっはっはっ。]
笑い事じゃないっての……。
「ふむ。では仕方ない。君は逃走しろ。」
「え?」
「逃げろと言ったのだ。君が逃げる間、奴に手出しはさせん。」
[願ってもない機会だ。遠慮無く受け取っておけ。]
そうさせてもらうよ。
「分かった。気をつけて。」
「君も、今後この件に関わり続けていくのなら用心して掛かれ。君が考える以上に、深く、暗い淵が待っていそうだからな。」
深くて暗い淵……。
「さあもう行け。奴もこれ以上は待てないそうだ。」
その言葉の通り、赤い奴は再び両手を刃物に換え突っ込んで来た。
二人が衝突するまで約4秒。
それを待つはずもなく、俺は背を向けて走り出した。
直後、俺が考えていたより1秒早く、衝突音が背後から響いた。
……衝突音だと?
轍醍醐が持っていたのはその名も高い“祢々切丸”だ。
あの巨大な刃に一閃向けられ、無事な物質がこの世にどれだけある?
今相手にしているのはさっきの赤い奴だ。
“影の手”に刃を斬られ、“千刃の谷”によりその体を霧にしたやわなあれが、轍醍醐の放つ斬撃と衝突などするはずがない。
するとすれば、それは一方的な解体のはずだ。
[今の音は、金属同士の物に聞こえたな。]
……つまり奴は、自分の体を……『金属に換える』、って言うのか。
一体どんな化け物だよあれは……!
[考察は後にしろ。二つを一度になどと人間にとって分不相応をするな。]
了解、今は逃走して次に繋げる。
[それでいい。]
夜から昼へ、再び時は転換する。




