深部
「一応聞くけど、あんた、誰だ?いや、名前を問う以前に聞くべきことがあった。人間か?」
「ふぅー……ふぅー……。」
「……。」
赤い何かは息を吐くだけで何も答えない。
大体奴はどこから息を吐いているんだ。
こいつの形、形容するならそう、ねりけしだ。
[ねりけし?]
何だ知らないのか?
消しゴムのカスを纏めて捏ねると消しカスの親玉みたいなのが出来るんだよ。
それがねりけしさ。
ねりけし専用の消しゴムだったり、ねりけしとしてそのまま売られている物は伸びるが、普通の消しゴムで作っても伸びないんだよ。
普通学校低学年の頃流行ったなー。
[懐かしき過去を回顧するのはそれくらいにしておけ。来るぞ。]
「う、ううううあああシネナ……!マジュツシィッア!!!」
「うわっ!?」
左から迫る斬撃を紙一重で避ける。
「畜生!髪の毛が少し切れた!」
[散髪代が浮いて良いではないか。いっそ丸刈りにしてもらったらどうだ?]
冗談放け!
死んでも、っと!
赤い何かが回転しながら放ってきた上からの斬撃をバックステップで躱す。
一体どうすりゃいい!?
このままじゃ俺が“なます”になるのは時間の問題だぞ。
[ふむ。先にも言ったが、貴様はまだ見習いだ。“防御”にいくら魔力を費やしたとしても、あれを完全に防ぐのは不可能だろう。]
だったらどうすりゃ―――
[ふ。簡単な事だ。逃走は敵わぬ、防御も儘ならぬ、相手が飽きるのも望めない。とくればすることは、しゃがめ。]
「く!」
言われた通りしゃがむと、頭上を刃が通過した。
「うううウアアアッ!!」
やばいやばいよ。
この人超怖い。人かどうか知らないけど!
[落ち着け愚か者。することは一つだ。]
その一つって何だ!
[無論攻撃だ。忘れたとは言わせんぞ。貴様が彼の王から受けた忠義を。]
あ……そうか成る程。
目には目を、刃には刃を、だな。
「……真の影。“影の王冠”。」
「うヴ……!」
右手にこの世の影が集約する。
影とはその物の真実を写す物。
そして真の影とは影の中の影。
それが我が右手に集まる事によりそれは漆黒の大剣として顕現する。
「……初めての割に、上出来だと思わないか?思わないはずあるわけない。思えよ赤い奴。」
「うヴヴ……。バハッハハバハハハ!うおオォォォオッ!」
赤い奴が突っ込んで来る。
「ふん。“影の手”。」
“影の王冠”から、影で構成された四本の手が出現する。
それは赤い奴の刃を、捕らえず切り裂いた。
「ヴォ……!?」
「驚いたか?圧倒的に勘違いの優位に立っていたのになあ。足元から全てを崩された思いはどうだっと。」
「ヴォアアア!」
影の手が、赤い奴を切り裂かずに捕らえる。
全く、手間掛けさせやがって。
一体どんな刃物使ってたんだ?
切り裂いたのだから、当然刃物は地面に転がっている。
奴の体と同じで、赤い赤い刃だ。
気になるのは音だ。
地面に落ちた時にアレが発した音は、金属の物とは思えない“ボトッ”という鈍い音だった。
転がっているソレを見る。
と同時に、俺は驚愕したね。
「な……コレは!」
奴の体か……?
[馬鹿者!捕らえた者から目を離すな!]
瞬間的に、赤い奴に目を戻す。
影で捕らえた奴の一部が触手の様に伸び、今それが俺に突き刺さろうとしていた。
“動くな。”
そう、確かにそう聞こえた。
“動くな”と。
それは他人が発したにしては、クリアに聞こえすぎた。
だから俺はこれを心の声だと思い、素直に従った。
直感は思考を超える、だ!
「がヴォェオオッ!?」
次に聞こえたのは、はっきりと他人の物だと思える絶叫だった。
伸びた触手は、圧倒的切れ味の一閃の元、切り裂かれ地面に落ちた。
落ちた瞬間の音は、さっき俺が奴の刃を転がしてやった時の音と寸分違わない。
「や、やっぱりあれは……あいつの体、なのか?」
「その通り。奴は自らの体を変換させ武器とする。であるならば、証拠が出ないのは当然だろう。」
聞こえた声は、さっきの心の声と同じ物だった。
つまりさっきのは心の声じゃなかった訳だ。
「申し遅れた。私は轍醍醐。ワレラだ。」
「轍……って知ってるぞ。確か深部とか呼ばれるめっちゃ強いワレラがいるって。」
「それが私だ。さて、無駄話はこれくらいにしよう。私は取りあえず奴を細切れにしてみるが、君はどうする?」
どうするって、どうしよ。
[任せておけ。貴様が介入したとして、殺されるだけだ。]
だよね。
「任せます。」
「そうか。なら私の背後で見ていろ。来い断ち切る大太刀。流星となり波瀾とす。拘束するは金。“千刃の谷-祢々切丸”。固定。」
3mはあるんじゃないかと思わせる刀が目の前に一気に出現した。
[千の刃で対象を串刺す“千刃の谷”と、祢々切丸のユニオンだ。アレに掛かれば如何な兵器も敵いはすまい。]
……凄いって事は理解した。
「さあ赤いの、防げるのなら防げ、耐え切れるのなら耐えろ。私はどちらも叶わせる事はしない。」
「ヴヴヴヴォォォォ!」
赤い奴の両手?が大剣に変化する。
やっぱりあいつの体自身が刃だったのか……。
「ふ。射刀。」




