第三地区
先にも言ったが、第三地区には魔術師が多く住んでいる。
W.W.Sに近いから、らしい。
W.W.S内に住める魔術師は、名を冠す者と同化している人か、若しくは教鞭を執れる人だけだならな。
だから中級と呼ばれる様な魔術師は第三地区に集まるって訳だな。
[小堀弘雄は第三地区の三等地、W.W.Sから一番遠い所に居を構えていた訳か。]
ジェイカーさんの言葉を借りるなら、下の上だからな。
それくらいが大概だろうよ。
周辺住民への聞き込みによって、それなりの情報は得られた。
纏めてみよう。
・3月1日、つまり事件当日の夜、何やら腐敗臭の様な物が漂ってきて不快だった
・赤い何かが、小堀弘雄の家から出てくるのを目撃したが、一瞬で消えてしまったので何だったかは不明
・小堀弘雄宅の前に、何やら肉片の様な物が落ちていたが、触れた瞬間消えてしまった
……これだけ見ると、何がなんだかさっぱりだな。
[凡そ人の犯行と思える証拠は何一つ無い。]
赤い何かが犯人の可能性が高いが、何かじゃ何なのか分からないしな。
[まさか“発現”を使った者が……いやそれはないか。]
中の者を具現化する呪文だったっけ。
[そうだ。あれを使えば“ちゃち”な悪魔、天使でもこの世に激しい災厄を齎す。目に見えてその様な戯れ事が起きていないのだ、“発現”が使われたなど可能性の内に入れる事すら戯れ言だ。]
成る程ね。
さて、これからどうしようか。
ジェイカーさんはW.W.S内で情報収集。
セナリア(さん付けは気持ち悪いからやめろと言われた)は自宅でティータイム。
……いやいや待て待て。
よく考えたらティータイムっておかしいだろ。
いや、確かにティータイムは心の浄化という点でかなり大切だ。
でも俺だけ現地で聞き込みっておかしくないですか?
[何と言う事はない。貴様は最下級メンバーなのだからな。]
……そういうもんですか。
納得しにくいが、ま、いいだろう。
改めて……。
→ジェイカーに連絡をつける
セナリアに連絡をつける
ふむ……やはり、こうだな。
ジェイカーに連絡をつける
◯セナリアに連絡をつける
言っておくが、疚しい気持ちはまるでない。だから口出しも許さない。
ベリネから、メンバーを呼び出し、セナリア・ベイグラント・サブナクを選択しコール。
「<ベイグラント家長女、セナリア・ベイグラント・サブナクですわ。あら、涼治。>」
さん付け破却させた覚えはないが……。
ま、フレンドリーでいいか。
<どうもセナリア。アフタヌーンティーをお楽しみの所失礼。>
「<構いませんわ。でも、わざわざ連絡を寄越すということは、進展があったのね?そうでないのに私のティータイムを邪魔したというなら、何度腐らせても納得出来ないわよ。>」
<勿論。伊達に最下級メンバーじゃないからな。>
あまり威張る事ではないが。
<ああそうだ、説明するのはいいが、あまり気持ちのいい話じゃない。>
「<安心なさい。伊達に“腐食”を得意にしている訳ではないわ。>」
<そりゃいい。じゃあ手短に話す。事件当日の夜、腐敗臭が漂っていた。被害者宅から、赤い何かが出てくるのを近隣住民が目撃。被害者宅の前に、肉片の様な物が落ちていたが、触った瞬間消えてしまった。と、これが今までに俺が得た情報だ。>
「<成る程。誰がどう考えても、その赤いのが怪しいってのは分かるわね。>」
<ああ。ただ、赤い何かってのじゃ何なのかさっぱりだ。>
「<そうね。人かもしれないし、悪魔かもしれないし、天使かもしれないし。人工兵装かもしれないわね。>」
つまり、まるで断定出来ない訳だな。
[如何せん、情報が少な過ぎる。議論するにしろ、推論するにしろ、真実の内四割を知らねば永久に真実に辿り着く事はない。寧ろ着く先には嘘の塊しか待っていないだろう。]
確かに。
「<もぐもぐ。では、んくっ。次は私が仕入れた情報を貴方に話す番ね。>」
<へ?情報収集してたのか?>
「<当たり前でしょう?貴方だけ忙しく動かせる訳ないじゃない。執事が集めてくれたわ。>」
……自分では動かないのね。
「<先ず、小堀弘雄に恨みを持っている者の存在の可能性について。これは皆無と言っていいわ。波風立てず、他人とはとにかく浅く付き合う人間だったらしいので。>」
<成る程。>
[彼奴が下の上であるのも頷けるという物だ。]
全くだな。
自分を高めたきゃ他人と比べ、競らなきゃだめだ。
「<もぐもぐ。次に、女絡みか否かだけど、まあこれは言うまでもないわね。>」
<ああ。先にいってくれ。>
「<……んくっ。後はそうね、イヴの犯行の可能性も極めて低いわ。あれ程の切れ味を持つイヴとして挙げられるのが、如月薫、田中太一、春日井直太、切裂男、そして出宮真なんだけど、先の四人はちゃんとIFLCに登録されている。>」
<つまり、こんな詰まらない魔術師を殺してW.W.Sとの関係を悪化させる訳がない。ってことか。>
「<良く出来ました。最後の出宮真なんだけど、アレは特殊過ぎて考慮に入れるのが馬鹿らしいわ。だからイヴの犯行じゃない。>」
<じゃあ一般人の可能性が高いか……。>
「<ワレラがやったって線もあるけど、いまだに死体が消えない所を見ると、その可能性も皆無ね。>」
ワレラは殺った死体を、厳密に言えば魂を、“拠り所”と呼ばれる所に送る。
それにより彼らは魂補充を得るのだ。
だからもしワレラが小堀を殺ったのなら、死体が消えないのはおかしいという訳さ。
大体彼らは、罪を犯していない人間をわざわざ殺したりはしないしな。
<オーケー分かった。つまり俺達は真実に一歩近づいた訳だ。>
「<一応聞くけど、その双六は何ますあるのかしら?>」
<さあ?多分百くらいじゃないかな。>
「<記念すべき一歩目ということねおめでたいわ。>」
<正確には二歩目さ。>
一歩目は小堀弘雄の死だからな。
<じゃあ取りあえず俺は一旦W.W.Sに戻―――>
「う……!?」
何だ……これは。
何かが、日常に於ける何かが圧倒的に変化した。
[これは……呪文の類の様だ。]
夜。
今は昼だったのに夜が来たのだ。
「……はあ。何やらいざこざに巻き込まれたっぽ、ってベリネも繋がらない、か。」
[不味いな。これ程大規模な呪文となると、相手はかなりの手練れだぞ。]
……いやいや。
呪文を使ったということは、相手は魔術師だろ?
なら―――
[間抜けめ。ふつふつと発せられるこの殺気に気付かんとは。]
殺気……?
そういえば何かピリピリ―――
[後ろに跳べ馬鹿者!]
「へ、うわっ!?」
衝撃が襲って来た瞬間、“防御”星一を唱えた。
が、勢いを吸収仕切れず俺は背後に投げ出された。
[貴様は私やベレトと同化しているとは言え、見習い魔術師なのだ。受けられるか否かの判断を誤れば死ぬぞ。]
「く……。忠告どうも。けどそれは後にしてくれ。今は大きな問題が目の前に転がってるからな文字通り。」
[ふ。それくらいの口が叩けるなら良しだ。用心して掛かれ。そうすれば、貴様はいきなり手柄を上げることになる。]
……みたいだな。
「ふぅー……ふぅー……。」
目の前に文字通り転がってる赤い何か。
漂う腐敗臭。
そして、息を吐きつつこちらを見ているそれの右手?には、鋭利且つ巨大な赤い刃物。
……間違いない。
コイツは、コイツが小堀弘雄を殺った赤い何かだ。




