Mystery
{お早うございます。HAJACK第九地区に2224年3月2日の朝が来ました。今日のお天気をお伝えします。今日は晴れでしょう。降水確率は0%。最高気温9度、最低気温7度。これ以上の詳細はお天気発信地にて確認して下さい。アドレスは、hmjc://wws.otenki-hasshinti/22240302。続いてニュースをお伝えします。昨夜、HAJACK第三地区にお住まいの魔術師、小堀弘雄38歳が何者かによって殺されました。近隣の方々は殺人犯に注意しましょう。それでは今日も一日楽しく過ごして下さい。}
「じゃあお互い自己紹介して。」
ジェイカーに促され、口を開く。
「えっと、更月涼治、18歳です。今年度から魔術師一年目です。宜しく。」
目の前にいる、俺と大して年の変わらないであろう少女にシェイクハンドを求める。
「セナリア・ベイグラント・サブナク、15歳です。宜しく。」
差し出された右手を軽く握る。
すべすべして餅肌ですな……っとそうじゃない。
「ベイグラント……サブナク……。」
どっちも聞いたことある名だな。
[サブナクは負悪魔のサブナクだろう。ベイグラントという名に知り合いはいない。]
俺も知り合いにはいなかったよ。
けど知っている……。
「気付いたかもしれないけど、彼女はあのベイグラント家の子さ。」
湯呑みを傾けながら、俺に分かりきっていた解答を示す。
ベイグラント家と言えば、何代も続く魔術師の家系で、長者番付のトップテンに入るような大金持ち。
更にIFLCの筆頭株主でもあるとか。
「ええ。私こそ、ベイグラント家長女にして嫡子。その名も高いセナリア・ベイグラント・サブナクですわ。何て冗談よ。普通に接して頂戴。」
「あ、ああ。それで、サブナクってのはやっぱり負悪魔の?」
「そうよ。ベイグラント家は代々サブナクと同化しているの。」
「へえ。」
そりゃ楽でいいな。
[そうでもないだろう。血筋で魔術師の資質が決まる訳ではないのだ。だとするなら、サブナクを使いこなせない者が産み落とされる事もある筈だからな。]
そういやそうだな。
そんな場合でも召喚させるんだろうか。
……ま、他の家庭の話だ。気にする事じゃないか。
「それで、他のメンバーは?」
「さあ?」
「……は?」
小首をかしげるジェイカー。
紅茶を飲むセナリア。
……他のメンバーは?
[さあ?私に聞いても分かるはずがあるまい。]
「W.W.Sの土地が『広がる地平』に建っているのは知っているね?」
「はい、それは知ってますけど。」
「今も大地は広がっていてね、当然いたる所に建物が建ち、いたる所に魔術師がいる。案外、魔術師のいざこざはHAJACKで、というよりはW.W.S内で起こっているんだ。」
「成る程。つまり彼女以外は、皆派遣されていると。」
「まあ、彼女だなんて。私達まだそういう関係じゃありませんわ。」
「え。」
「そういう訳だから、全員を紹介するのは永遠に無理かもね。」
何か意味不明なのが間に入った気が……。
[気のせいだから気にするな。]
だ、だよね。
「全部で何人くらいいるんですか?」
「さあ。30人くらいかな。」
さあって……。
あんたC.D.Cの責任者じゃないのかよ。
「C.D.Cの人数なんてどうだっていいでしょ。今は昨日の事件を追わないと。」
「それもそうだね。じゃあ事件について纏めてみよう。そこの最下級メンバー!」
「……へ?」
俺かよ。
[貴様だな。]
「C.D.C内では君が一番新入りだからね。悪いけど書記をやってください。」
「はあ。別にいいですけど。」
俺字汚いぜ?
[努力しろ。]
へいへい了解しましたよ。
「まず殺された小堀弘雄の住んでいた地区からね。」
セナリアが、広げた電子地図の一角をくるっと囲む。
HAJACK第三地区がそれだ。
「被害者小堀弘雄38歳は魔術師。魔術師としては、そうだね、更月君は中の中と言ったが、私からすれば中の下、いや下の上だね。さして努力もせぬまま、魔術師という一般人より少しだけ上の位に居座りつづけた害虫さ。」
「成る程、害虫っと……。」
言われた通りに電子ボードにつらつらと書き連ねていく。
容疑者象、殺害方法などなど。
纏めるとこうだ。
・現場:HAJACK第三地区被害者宅
・被害者:魔術師小堀弘雄38歳
・容疑者象:魔術的痕跡が見つからなかったことから、一般人、若しくはイヴの可能性が高い
・死因:切断による頭部損傷、並びに出血多量による失血死
・殺害方法:鋭利且つ巨大な刃物による大切断
備考:現場からは被害者以外の指紋は検出されず
また、髪の毛、皮膚、その他犯人を特定出来る一切の痕跡は残されておらず、人の犯行であるかも正直な所不明
家に荒らされた跡は無く、金品は全てそのままだった
「とまあこんな感じですね。書いてみたのはいいけど、誰の犯行かさっぱりだ。」
「確かにそうね。魔術的痕跡は全く残されていなかった、っていうのは気に食わないわ。この小堀って人、“防御”を使わなかったのかしら。」
「使わなかったのか、使えなかったのか、それとも使う必要がなかったのか。使えなかったという線が濃厚だと思うね私は。」
ま、誰でもそう考えるだろう。
[使わなかった、ということは、つまり使わずともその災厄から逃れられる術があった、となるからな。]
ああ。例えば、被害者が“攻撃”で相手に一撃くわえ、それで相手が沈黙したとする。
それで終わったと思い、被害者に隙が生まれ、そこを相手に付け込まれたとしたら、やっぱりそれは“使えなかった”になるからな。
使わなかったのであれば、小堀弘雄は死んでない。
「でもジェイカーさん、それだと行きずりの犯行って事になりますよね?」
「そういう事になるね。使う必要がなかったのであれば、それは相手が知り合いということになる。使えなかったなら通り魔的犯行だろう。」
「じゃあ取りあえずその方向で考えましょう。金目当ての犯行じゃないでしょうね。お金なんかは全てそのままだったんですもの。」
[金目当てではないとなると、やはり狂人の類か。]
嫌だね、23世紀にもなっていまだにそんな奴がいるなんて。
「つまり、殺人嗜好がある人間。それも魔術師に恨みを持つ者が犯人っぽいね。」
ちなみに、HAJACK第三地区に住んでいる者の殆どは魔術師だ。
ジェイカーが、魔術師に恨みを持つ者の犯行だと言うのは頷ける。
「でもそれだけじゃ犯人の特定なんて出来ませんわジェイカーさん。」
「そうだね。証拠も一切残っていないからね。これは、また殺人でも起こってくれなきゃ捜査のしようが無いな。なんて言うのは不謹慎かな?」
「……何にしても、此処で話してるより実際に第三地区に行った方がいいんじゃないですか?目撃情報なんかも多少はあるでしょうし。」
[捜査は足で、と言うからな。]
だな。
ではレッツゴーだ。
悪魔
・サブナク
人物:魔術師
・セナリア・ベイグラント・サブナク
それぞれ追記しました




