回廊にて定まった邂逅
<あ?W.W.Sに来る?いや、俺は別に構わんが……。ああ、分かった。第八閑談所が空いてるから、そこを予約しとく。ああ……はいはい分かった。じゃあな。>
[如月薫が一体何の用だ?]
さあな。
口ぶりからして、面白くもない話の可能性が大だぜ。
「よう我が友よ。」
「よう厄介な友人。」
第八閑談所で会う予定だった薫と、歓楽街の喫茶店で出会った。
「悪いな薫。どうやらW.W.Sも厄介事は嫌いらしい。特別な理由もなくイヴを入れるなって突っ撥ねられた。」
「構わんよ。少しばかり暇を持て余してたんで、ちょいと話をしようと思っただけだからな。」
薫が、砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーをすする。
「で、どうだW.W.Sは?もう慣れたか?」
「まあな。同化もしたし、基本的な授業は大体受けた。」
あとは“火”とか魔術師っぽいもんを受けないとな。
「お前はどうなんだ薫?最近、変わったことは?」
「これと言って。定例会で馴染みの顔に会ったり、えーっと、お前は出宮の事知ってたっけ?」
「名前は。」
「そうか。まあそいつが直太と戦ったりしたくらいかね。」
「へえ。」
砂糖をたっぷり入れた紅茶を飲む。
薫はコーヒーカップを傾ける。
[話が弾まんようだな。]
聞きたい事があるが、切り出すタイミングが無いんだろ。
[では貴様が切っ掛けを作れば良かろう。]
……それもそうだな。
「薫、お前何か聞きたい事があるんじゃないか?」
薫が俺と目を合わせ、そしてカップはまた傾けられた。
「……分かる?」
「分からいでか。何の目的も無いまま、他勢力の本拠地に足を運ぶ訳無いからな。」
「ま、それもそうだな。すいませーん!コーヒーお代わり。ミルクと角砂糖5個よろしく。」
ウェイターが来てそして戻って行った。
「さて、お代わりを注文出来たところで本題に入るわ。お前、何を召喚したんだ?」
「何をって……。」
何でそんなこと。
[貴様達は友人ではないのか]
え?……いや、少なくとも俺は友人だと思っているけど?
[その割には随分刺があるように見えるな互いに。]
確かに。
今までは一般人とイヴだった。
けど今は魔術師とイヴだ。
W.W.SとIFLCという異質な、噛み合う事のない二つの組織に分かれちまったんだ。
腹を割るのは難しい。
[そうか。余計な口出しをした。私らしくもない。話が終わるまで寝ているからな。]
おう。
「……何故そんなことを聞く?」
薫の眉がぴくりと動く。
「何故って、そら気になるからさ。あ、どうも。」
ウェイターがコーヒーを運び、薫はコーヒーに角砂糖とミルクを運ぶ。
右手に持たれたスプーンは黒い海を掻き混ぜ、あっという間にその色をあやふやにした。
そしてコーヒーは薫の口内に運ばれる。
「……ふう。回りくどいのは止めだ。お前、名を冠す者を呼んだろ?」
「……なんで。」
「あ?」
「なんでそう思う。」
「適正審査、1000オーバーだろ?ならいきなり名を冠す者を呼んだっておかしくない。」
「……。」
「煙草、吸わせてもらうぞ。」
胸ポケットから煙草を取り出し、啣え、ガスライターで火を点す。
自前の携帯灰皿、スキットル状のそれを内ポケットから出し、灰を落とす。
ただそれだけ、目の前で何度もやられた動作だ。
最後に見たのは、一ヶ月前くらいだったか。
俺が適正審査を受け、W.W.Sに行くことになった。それを薫に話した時、かな。
「……ふ。ははははは。」
「おいおい、いきなりどうした涼治。」
「いや、お前まだ験かついでるのかと思ってさ。」
「あー、これな。負けっぱなしは趣味じゃねえからな。」
ちなみにボーリングの話だ。
俺達はパチンコなんてやらない。
「次やっても俺が勝つさ。」
ニヤリと笑いながら言い放ってやる。
「は、どうかな。これに変えて一ヶ月、そろそろ効いてくる頃だ。」
「ははははは。はー……。スマン。なんか分からんが、肩肘張ってたわ。」
「ああ。いいさ。立ち位置変われば景色も変わる。水面下とは言え、仲良く出来ない理由がある訳だからな。お前がW.W.Sに入っただけじゃなく、もし、C.D.Cにも入ったんなら尚の事だ。」
「何だ、C.D.Cの事も知ってるのか。」
「勿論。俺がお前より年上で、ちょっと特殊だってこと忘れたか?」
「年上ってのは忘れてたよ。」
冗談だけど。
俺は18、薫は23だ。
「そこが一番重要なんだがな。まあいいや。改めて聞くぞ薫。お前は、何と同化した?」
「……王悪魔、ベレト・ソロモンだ。」
声を抑えて口にする。
あまり大声で話す事じゃないからな。
「で、それがどうかするのか?」
「いや。単純な好奇心が5割さ。悪魔の種類なんてよく知らんし、そのなんとかって悪魔の事も知らない。」
……疑って掛かって損した。
いや、5割?
「残りの5割はなんだ?」
「ふむ。敢えて言うなら期待かな。」
「期待?」
「ああ。そして期待通りだったんで、更に期待が膨らんだよ。」
「破裂しないようしっかり調整しろよな。」
いや、それは俺がやることかな?
「名を冠す者を呼んだって事は、やっぱC.D.Cに入ったんだよな?」
「まあな。さっき説明を受けたところだ。」
「あー……。」
薫が煙草を思い切り吸い込む。
チリジリといった音を発て、赤は激しく発色し、白は灰へと変貌する。
煙を自らの真上に吹き出し、こちらに面を返す。
「てことは、まだ事件に関わったりはないか。」
「ああ。まあな。」
ジェイカーさんが言っていたが、自然の呪文以外の星が最低でも三ずつ無いと事件の担当は出来ない、もといやらなくていいらしい。
ベレトと同化して、いや、それがなくても“操脳”と“魅惑”、“腐食”以外は三以上ある。
悪魔と同化しているから、実際は全てをクリアしてるんだが。
それをばらすのは無理だからな。
「そうか……。じゃあ伊那嶺師のことも知らないか。」
「伊那嶺師?なんだそりゃ。新手の宗教団体会長か?」
「いや全然違う。……まあいいか。いずれお前の耳にも入るだろうよ。さてと。」
残っていたコーヒーを飲み干し、薫は立ち上がる。
それに合わせて俺も紅茶を飲み干し、立つ。
「W.W.Sでさっき言った男の名前が出たら俺に知らせてくれないか?」
「ん?ああ、別に構わんが。」
「涼治。」
右肩を、薫の左手が掴む。
「何があろうと、俺はお前の味方だ。宗司も、凜も、頼子ちゃんもだ。」
「お、おう?」
「汗くさい友情何かではなく、真に繋がりとしてだ。それを忘れないでくれ。」
「あ、ああってあれ?」
返事するより早く、薫は消えていた。
その代わりテーブルの上にはコーヒー2杯分の代金と、紅茶1杯分の代金がいつの間にか置いてあった。




