事件の一
<はいはい。>
<成る程。>
<分かった。><はい、はいはい。>
<了解、はい、はい、分かりました向かいます。>
<って向かってるけどね現在進行形で。>
<ああ、Quick使ってな。>
「よっと。」
目の前の柵を飛び越える。
「お、やべ。Speed。」
飛び越えた瞬間、右の方から車が曲がってきた。
こりゃ危ないと時を止める。
すみませんねドライバーさん。
以後気をつけますが、今は急いでるんで。
道路を渡り終えたところでSpeedを解く。
<いや、ちょっと車に轢かれそうになっただけだ。>
<ああ、もう……お。見えた見えた。>
黄色と黒のコントラスト的な立入禁止テープが見える。
そしてその中で忙しく動いている人達がいる。
一人だけ突っ立っている奴もいるが。
もう急ぐ距離でもないのでQuickを解く。
全く……変な世の中だぜ。
殺人が許可されているので、警察は殺人事件の捜査をしない。
だが殺人は起こる。
その皺寄せがIFLCにくる訳だ。
……殺しをするのがイヴに多いってのがあるが。
ワレラみたく、死体を残さない様にしてほしいわ。
「よ、直太。」
テープの前に着き、突っ立っている直太に声を掛ける。
「よー。悪いな呼び出して。お前が一番近くにいたもんでな。」
直太が、吸っていた煙草を重力で圧縮し、携帯灰皿にそれをいれながら振り向く。
「別にいいよ。特別給をちゃんともらうからな。」
「そうしとけ。じゃあ取りあえず状況を説明する。さっきも言ったが、まあ現物を見ながらの方が分かり良いだろう。」
直太が親指で背後を示す。
そこにあったのは皮だ。
革ではなく皮、所謂皮膚だな。
人間状のぺらっぺらの皮が地面に落ちている。
「これはまた凄いな。中味は何処に行っちまったんだ。」
「さあな。何にしても自己中心的な中味だったに違いない。さて、この皮の正体は伊那嶺師、38歳。この辺に住んでた一般人だ。死亡推定時刻、もとい中味が家出した時間は、大体8時間くらい前。つまり2月29日、午前2時頃だな。」
「ふーん。変な名前だな。」
だから中味も愛想尽かして出てったんかね。
「残っているのは皮膚と爪と体毛のみ。他は血の一滴まで行方不明だ。」
「成る程。どう考えても人外の仕業だな。」
「頭がいかれてなきゃ誰だってそう考える。問題は誰がやったかだ。」
そうそう。
これが、俺達IFLCが殺人事件なんかの捜査に首を突っ込む理由だ。
事件自体はどうでもいい。
赤の他人がいくら殺されようと関係ないからだ。
肝心なのは犯人の所属だけ。
IFLCか、ワレラか、そしてW.W.Sか。
そこが肝心なのだ。
俺達、まあ特にIFLCとW.W.Sだが、表面状敵意など欠片も持ち合わせていない。
が、実際はいつ衝突してもいいようお互いに力を蓄えている。
強大な力が3つもあれば、そのうち均衡が崩れるかもしれないってのは、誰だって考えうる事だろ?
「ワレラではなさそうだな。あいつらが死体を残すとは思えないし、残すにしてもこんな中途半端には残さんだろう。」
「確かに。今すぐにでも圧縮したい気分だからな。」
「それは調査が終わってからにしろよ。で、魔術的痕跡は?」
「それが無いんだ。つまり、魔術師の仕業というのも考えにくい。奴らは基本的に体術を使う。“攻撃”、“防御”、“強化”、“操脳”、“魅惑”、“壊死”。どれも基本的に物理的要素を伴う。魔術と呼ぶにゃどれもこれもお粗末なもんだ。ちげえか?」
「そうか?どれもこれも強力だと思うけどな。」
“攻撃”は達人的な攻撃を放つ。
“防御”はあらゆる衝撃を防ぐ。
“強化”はBB弾を実弾並の威力にする。
“操脳”は生き物を操る。
“魅惑”は相手の隙を生み出す。
“腐食”はあらゆる物を腐らせる。
戦いたくなんてねえな。
「まあ何にしてもだ、呪文を使えば、賢者みてえな野郎でも魔術的痕跡を残してしまう。それが無いってことは、魔術師の仕業というのも考えにくい。」
「魔術師か……。」
そういえば……。
「あ?どうかしたか薫?」
「いやさ、俺魔術師とパイプ繋がったんだった。」
「へえ。そりゃいいや、今後のために。」
「つってもまだ入学1週間とかだけどな。」
……いやしかし、適正審査1000オーバーなら或いは。
C.D.Cに入ってもおかしくはない、か。
「取りあえず状況は分かった。少しばかり行きたい所が出来たから、行っていいか?」
「おう行ってこい。どうせ後は片付けだけだ。実物をお前に見せることが出来たからな。」
「了解だ。じゃあまた。」
「おう。」
Quick。
体を加速させ走り出す。
目指すはW.W.S。
会うべき奴は更月涼治だ。
全体設定にイヴ関連の項目追記しました




