生じるは使命と責任
ベレトの空間である“ロード・デス・ウォーヘル”から、鉄張りの部屋に帰還する。
…あの。
[なんだ?]
あれ?ベレトは?
[……ああそうか。ジェイカー・リットネスは教えていなかったか。そうだな、まさかいきなり名を冠す悪魔を呼ぶとは思わんからな。それに悪魔を既に飼っている事も知らんか。]
なんだよ。勿体振らずに教えてくれよ。
[名を冠す悪魔を二体以上入れた場合、同時に意識を表出することは出来ん。そんなことをすれば、宿主は直ぐに狂うぞ。容量不足でな。]
成る程。
ということは、ベレトとあんたの意識をチェンジするってのは出来るんだな?
じゃなきゃおかしい。
二体目は体に宿されている限り全く自由が無くなるんだからな。
それはアンフェアだし、そんな契約を結ぶとは思えん。
[ああ。貴様の言う通り、ベレトと代わる事は出来る。代わるか?]
いや、いいよ。
別段話す事はないし、変な話だが何処にいるのか気になっただけだから。
[そうか。安心しろ。私とベレトはいつでも話せる。暇を余す事はない。]
へえ。安心した。
[うむ。ではそろそろこの陰欝な空間から出たらどうだ?ジェイカー・リットネスも待ち侘びているだろうしな。]
そういやそうだった。
此処に入ってどれくらい経ったんだ……とそうだ、ベリネで計ってたんだった。
えー……え?
此処に入ったのが11447。
そしてただいまの時間は、161718。
かれこれ5時間もいたのか俺……?
[時計が狂っていないのであればそうなのだろう。]
…こういう精神的なやつって、時間掛かってる様に思えて、実はそうでもなかったってのがお約束じゃね?
これはまるっきり逆じゃねえか。
[名を冠す悪魔の召喚だぞ?そう簡単に事が進む訳なかろう。]
そりゃそうかもしれんが……。
こんなに時間経ってんじゃジェイカーさんも……ってお前さっき待ち侘びているとか言ったか?
[言った。奴は扉の前で待っている筈だ。]
……まさか。あ、いや有り得なくもないか。
飯を食いに行く暇はあったろうしな。
とにもかくにも、さっさと出ないと悪いな。
俺も腹ぺこだし。
鉄の扉に手を掛け、思い切り押す。
「……ん?ああ、やあ更月君。随分掛かったね。」
「ええ済みませんジェイカーさん。5時間も待たせて……?」
なんだ?
16時にしては随分静か……!
……あ、やっぱり。
さっき見たのは16時じゃない。
俺ストップウォッチ使ってたんだ。
しかも召喚する時に邪魔になるかもしれんと、表示に時、分、秒が書いてないシンプルなやつを。
つまり16時じゃなくて……。
「うん。今は夜中の3時さ。」
「な、ななな。なんてこった……。」
俺は16時間もあの中にいたのか。
[相手はベレトだからな。それくらい掛かってもおかしくはなかろう。]
……じゃあ何でさっきそう言わなかったんだよ。
[過ぎたことをあーだこーだ言っても仕方なかろう。]
そうかもしれんが…。
「さて、待った甲斐は無論報われるんだよね?」
「へ?」
「これだけ時間が掛かったということは、ただの者を召喚した訳じゃないんだろ?」
「あ、いやそれは……。」
どうしよ?
[知らん。]
いやいやそんな無体な……。
「脅す訳じゃないけど。」
ずいとジェイカーが顔を近づけて来る。
「名を冠す者を呼び出した場合、ある責任と使命が生じる。力ある者は、それだけ束縛もされるということを知らなきゃならない。」
「……それで、その責任ってのは何なんです?」
「簡単なことさ。少しばかり記入するだけだから。召喚者の名前、召喚した者の種類と名前を書くだけ。簡単だろ?」
「はあ……まあ確かに。……もし、もしなんですけど、名を冠す者を呼び出したのに、W.W.Sに申し出なかった場合どうなるんです?」
「特に罰則なんかはないよ。警戒指定はされるけどね。報告しないのは孤立狼くらいだから。」
「成る程。」
……じゃあ俺が悪魔を呼び出したことがばれたら。
[やはり面倒な事になるな。まあいいじゃないか過ぎたことだ。ベレトの事は素直に話しておけ。]
言われなくてもそうするさ。
「えーっと、はい。実は、名を冠す者を呼んだんです。ベレト、王悪魔の『ベレト・ソロモン』を。」




