招きしは我が体の末裔
「これで悪魔と天使の種類についての説明も終わりです。」
「ありがとうございました。」
召喚の説明に10分掛けず。
同化の説明に3分掛けず。
種類の説明には30分掛けた。
[1種類ずつ、しっかり説明していたからな。]
重要な事だしそれが普通だろ。
「さて、これで召喚・同化の授業は終了だ。んー、まだ11時か。どうする?このまま召喚するか、それとも昼ご飯を食べますか?」
「俺はどちらでも…、いや、召喚がいいです。」
[それでいい。]
…本当はどっちでも良かったんだが。
「そう言うと思ったよ。OK行こうか。第四室を取っておいた。」
四とはこれまた不吉な数字だな。
[そうでもない。死とはつまり新たな生命の始まりなのだからな。]
…お前が不吉だよ馬鹿。
先行くジェイカーの後ろに付きながら、不吉な悪魔に毒づく。
[召喚する者の名はちゃんと覚えているか?]
勿論。お前を慕う奴なら取りあえずは俺も安心だからな。
間違っても違えるなんてことはしない。
[ははは。いやしかし、W.W.Sに入って5日で名を冠す者を呼ぼうとするとはな。]
いいだろ別に。
強くなるに越したことはない。
いつ何時何が起こるか分からないからな。
[ふ、その意気だ。早く“兵装環装”を覚えろ。そうすれば貴様も私の力をフルに発揮出来る。]
精進するよ。
「さ、着いたよ。此処が第四室だ。」
歩を進め、ジェイカーの隣に立つ。
目の前には鉄の扉だ。
ジェイカーがドアノブに手を掛け引く。
中から冷たい空気が出てくる。
[さながら霊界だなこの中は。]
そうなのか?おっそろしー。
「どうする?私は此処にいようか?」
「えーっと、はいすみません。待っててもらえますか?」
そう言うと思ったと言いたげな顔でクスクス笑うジェイカー。
「いいよ。流石に優等生、怯えなんてからっきしだね。」
「そういう訳じゃないですけど…。ま、もしもの時は頼みます。」
「承知しました。では頑張って。」
「はい。」
手を振るジェイカーを残し、第四室に入り重たい扉を閉める。
…さて、じゃあやりますかね。
[気を引きしめていけ。]
あいよ任せな。
「すぅー…ふー。……よし。」
呼吸を整え、何も無い部屋の壁を見つめる。
……なんで召喚する時こんな鉄の壁で覆われた部屋に入るか、知ってるか?
[さあな。]
名を冠した者を呼び出した奴が殺され、相手に体を乗っ取られた時、そいつが外に出ないようにするためさ。
[それはまた中々面白い話しだな。]
だろ?
だが今回に限っちゃこの部屋の仕様は、俺のためだけに働く。
防音バッチリ。
俺が名を冠した者を呼び出す事を知る奴は、誰もいないって訳さ。
「……更月涼治、いざ参る。招致。」
招きの文句を唱えはじめる。
「序列13、72の一端。我が名に於いて貴方に命ず。その存在は何だ、個に定まるを善しとせよ。最終的に貴方を招く。王よ、その勇姿を我が眼前にて示せ。来い、『ベレト・ソロモン』。」
瞬間的に俺の意識が乖離する。
何から、か。
そんな事はさして問題ではない。
「これは……。」
方々に聳える古城。
馬に繋がれた戦車。
石化した、もしくは石で作られた兵士を模した石像。
それらが今俺の眼前に広がっている。
[それだけではないぞ。眼を凝らせ、貴様が招いた者がいる。]
……。
言われた通り眼を凝らしてみる。
「…あ。」
「……。」
いた。
3mはあろう巨躯を誇り、黒い髪は逆立っている。
そして…ねえ、もしかしてこの人怒ってる?
[人ではないが、怒っているな。あ。]
…あ?あ、って何だよ?
[忘れていたが、ベレトを召喚する時は、ハシバミの杖と銀の指輪を用意した方がいいぞ。]
……そういうことは先に言ってくれよ!
大体、精神構造にどうやってそんなもん持ち込めっていうんだ。
「……。」
ベレトが黙ったまま近づいて来る。
やばい怖い。
[怖れるな馬鹿者。落ち着き払って待て。]
「……。」
「う…。」
そうは言っても怖いもんは怖い。
黙ったままだとますますだ。
「……。」
「あ、あの…?」
「……!」
「うわったーいごめんなさい!」
目の前に着いた瞬間ベレトが屈んだ。
……ん?
[眼を開け馬鹿者。奴の誇りを汚す気か?]
「え……?」
眼を開いてみると、ベレトは地に膝を付け、頭を垂れている。
「お久しぶりにございます我が真たる主よ。」
「[堅苦しくなるなベレト。]」
ちょっと!
口を開いたのは俺だが、発せられた声は悪魔の物だ。
別にお前が喋るのは構わん。だが一言言ってからにしてくれよ!
「[はっはっは。堅い事言うな。]」
[手助けしてやっているだろう?]
…それを言われると弱い。
「主よ、何か?」
「[いや、何でもない。]」
「そうですか。……再び臣下に下る故、これを受け取っていただきたい。真の影。“影の王冠”。」
ベレトが両手を、何かを捧げる様にこちらに差し出す。
次の瞬間、その手に真っ黒な剣が顕現した。
[…漆黒の剣と言ったらどうだ。]
う、うるさい。
「[“影の王冠”、貴様が持ち得る武器の中でも一等の一振り。確とその命受け取った。貴様に代わり、この剣に火を灯す事を誓おう。]」
「恐悦の至りにございます。」
俺が、俺の手が剣に触れると、音もなく形が崩れ、散った。
テッテケテッテッテテテテー。
更月涼治は術式兵装“影の王冠”の使用権利を得た。
な、なんだ?!
謎の音と共に、機械的なアナウンスが流れた。
[ベレトの“影の王冠”を使える様になったのだ。]
……俺が?
[貴様がだ。]
「主よ、恐れながらそろそろ人間に代わっていただけますか。」
「[ああ。代わる。手荒にするなよ。]」
「無論です。」
[という訳だ。後は貴様が話せ。]
お、おう任せろ。
「ん、おほん。…えーっと、どうもベレト・ソロモン。貴方を召喚させて頂いた更月涼治に候。」
「堅くならないで頂きたい。我が真たる主の主よ。そうであるならば、貴方はまた私の主なのですから。」
「いや、その……そうなの?」
[狼狽えるな馬鹿者。]
いやだってさ…。
なんか想像してたのと違うから…。
「主、儂に異存はございません。同化になんら憂いはありません。」
「あ、はい。いや……おほん。……改めて聞こう。貴方は、我が前に真実を晒すか。」
「はい。無論です。」
「……宜しい。此処に繋援は誕生した。貴方を私の住人として受け入れよう。」
言いながら、ベレトの体に手を翳す。
瞬間、ベレトの体が収縮し、黒い珠になった。
それを握る。
「……ッ!」
テッテケテッテッテテテテー。
更月涼治は王悪魔、ソロモン72柱の1柱である“ベレト・ソロモン”と同化した。
……雰囲気ぶち壊しだよ馬鹿。




