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ExtraMaxWay  作者: 凩夏明野
第一章-Wizard-
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Isolation wolf

「何しに来た。」


それは、“腐食”の授業を受けた後に、ベルサーチと廊下で話している時起きた。

目の前に男が現れたのだ。

それだけならまだ良いかもしれないが、ベルサーチがその男に敵意を剥き出しにしているのが問題だ。

二日しかこの男とは話していないが、それだけでも分かる紳士的動作を、今は完全に脱ぎ捨てている。


「ご挨拶だなベルサーチ。旧友がわざわざこんな所に来てやったんだぜ?」


対する男は、ヘラヘラ笑い敵意を感じさせない。

だが、濁ったその瞳には油断の色がまるで見られない。

短い黒髪に所々剃り込みが入っている。

ベルサーチと同じくらいの背丈で190くらいあるのだが、物凄く痩身だ。

頬は痩けているし、腕もかなり細い。

[まるで枯木だなこの男。]

確かに。

[が、気をつけろ。奴の力はベルサーチ以上だ。]

……マジかよ。


「孤立狼に掛ける友情は余っていない。さっさと消えろ糸井。」


「おいおい、名前で呼んでくれよベルサ。寂しいぜ?はははは。」


かなりピリピリムードだ。

これマズイんじゃないか?

[そうか?私は、奴等の実力が見たいがな。]

馬鹿、そんなことになったら俺がどうなる?

[大丈夫だ。その時は浮遊して事の顛末を見届ける事にする。]

いやいや。誰かを呼ぶべきだろ。


「黙れ。正道からずれた奴の名など既に忘却の彼方だ。」


「ひで~。はぐれる理由も聞かず、それが正しくないと吐くのはどうかと思うぞベルサーチ。いや、分かっているんだろお前も?


「……何?」


「力とは、抑圧されるためにあるんじゃない。解放されてこそ真に力なのだ。でなければ日々の鍛練も、才能もなんら意味は持たない。違うか?」


[中々良いことを言うではないかあの糸井とか言う奴。ブラボー、ハラショー、グレイト。]

奴の力はどれくらいだ?ベルサーチ以上、ってのは分かったが、もう少し具体的に数値化出来ないか?

[ふむ、奴は操悪魔で名を冠しているシャックスと同化している。]

シャックス……。悪魔の本で見たぞ。人の知覚を奪い去ったり、優れた使い魔を与えてくれたりする悪魔だ。

[その通り。ソロモン72柱の1柱、世界に於いてかなりの力を持つ悪魔だ。]


「違う、制御出来てこそ力だ。」


「は。そうかい。じゃあここで質問だ。お前はどう思うネクローシス?」


ベルサーチがゆっくり後ろを振り向く。

俺もそれに倣い、ベルサーチの視線を辿ると、そこにはジェイカーがいた。

いつの間に……。


「私は力が大好きですよ。解放しつつ制御。それが出来ますからね私は。」


「は。相変わらずだなジェイク。解放し続ける事にこそカタルシスだろ。でなきゃ、欲求不満で死んじまう。」


[益々以て良いぞ。奴は一度ゆっくり殺してやりたい。]

滅多な事言うな。

俺の体がやるんだろそれ?

[無論そうであろう。貴様が兵装環装でも覚えれば話は別だがな。]

んなもん無理だ。人工兵装はイヴでもなきゃ手に入れられない。

術式兵装は簡単に覚えられるもんじゃない。

詰まるところ無理。


「そんなことをしていては死期を早めますよ草春。特に貴方はね。」


「はー。お前だけだよ名前で呼んでくれるのは。心配無用だ。俺の体は強いんだ。」


多分俺のが強いと思う。

[私と同化しているからな。]

それ抜きでもだよ。


「そうかい?なら安心だ。それで、君は何をしにW.W.Sに来たんだい?そこまで暇で、間抜けではないと思うのだが?」


「残念ながら、暇だ。現在俺達は行動休止中で、っと危な。」


突然、糸井が後ろに下がった。

[……成る程。やはりベルサーチ・マリオネット、かなりの実力だ。]

は?

[目を凝らせ。糸を見つけろ。]

意味は分からないが、言われた通り目を凝らしてみる。

よく見ると、宙に、細い、白い、存在感など無いに等しい糸が浮いていた。

[あれは“魅惑”と“操脳”を織り込んだ術式の糸だ。放ったのは、流れで分かるだろうがベルサーチだ。]


「ち……。」


「は。はははは。相変わらず操り師の腕は錆びていない様だなマリオネット。」


[二つが織り込まれているとはどういうことか、分かるか?]

つまり、魅惑して油断させるのと、脳を操るのをほぼ同時に出来る。ってことか?

[その通り。]


「貴様もな蟲使い。私の糸を切る蟲を持つのはお前くらいだろう。」


「はいストップ。」


一触即発、今にも本気モードの戦闘が始まりそうな雰囲気を、その一言で断ち切ったのはジェイカーだった。


「ベルサ、熱くなるのは分かる。けど今は更月君の前だ。血染めの殺し合いがしたいなら、場所と時間、そして観客を選べ。」


「……済まない。」


ベルサーチの両手の指から垂れていた糸が消えた。


「君も、暇潰しに来ただけならさっさと帰りなよ草春。じゃないなら、更月君を此処から去らせて、分かるだろ?」


「はいはい。分かったよ。何か萎えたし帰るわ。」


糸井が宙に手を翳す。

と、何やら虫がぞろぞろと何処からか出てきた。


「うおい!?なんだよそれ!」


「んん?男の癖にヘラクレスオオカブトも知らんのか?」


「ヘラクレ……?」


出てきた虫をよく見てみる。

……角がある。

ありゃヘラクレスオオカブトだな。


「相変わらず、君はそれが好きだね。」


「ああ。カブトムシの中でも最も大きく美しい。」


話している間にもヘラクレスが続々出てくる。

数は……百……いやもっとか?


「い、一体……何を?」


「ふ。空飛ぶ絨毯に憧れたことは?」


「は?」


「布ではないが、俺は空飛ぶ絨毯を手に入れた。」


虫が集まり、形を帯びていく。

長方形のそれは、まるで絨毯。

動いている事を除けば、だが。


「じゃあなベルサ。そしてジェイク。また会おう。」


次の瞬間、カブトムシ絨毯が浮き上がり、糸井がそれの上に飛び乗った。

驚いた事に、絨毯は形を崩さず、更に糸井を支えた。


「ついでにそこの小僧もな。」


虫が支えているとは思えないスピードで、糸井は飛び去って行った。

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