Secret
日本も相当変わった。らしい。
俺は産まれた瞬間から、HAJACKという完成した複合国に住んでいるのだから知るはずもない。
その昔の日本で外国人と言えば、アジア系やブラジル系が多かったが、今はイギリス系の人が多い。
魔術の本流がHAJACKに移ったせいもあるが、また別の理由もある。
ヨーロッパは消え去ってしまったからな。
あるイヴが起こした超自然災害に依り、アトランティスの様に水没したのだ。
[あれは壮観だったぞ。]
見てたのか?
[ああ。私は色々見ているんだ。やったのは少女だ。大地の原点使いでな、名前は―――]
いやいいよ教えなくて。あれ一応極秘事項なんだから。
[そういえばそうだったな。む。あれは如月薫ではないのか?]
「ん?ホントだ。」
もう学校は始まってる時間だよな?
何やってんだあいつ。
「お?おー涼治じゃねえか!元気か~?」
「元気だよ。大体昨日も会っただろ。」
「ははは。確かにな。」
「で、お前は一体こんなところで何やってんだ?学校始まってんぞ?」
「ん?ああ……。」
そこで薫は言葉を濁し、少しだけ俺に近づき、ちょいちょいと人差し指を動かした。
「なんだよ?内緒話ならベリネでやれば……。」
「ネットで話すことじゃない。一応極秘事項だ。」
あらら。さっきも聞いたような言葉だなこりゃ。
[さっきは自分で発していたがな。]
喧し。
「お前、朝のニュースで軍事マークが付いたニュース見なかったか?」
薫がぼそぼそと話し掛けてくる。
朝のニュース……ああ。
「電光社の新製品がどうのってやつか。」
「そう。あれ実は、FADE-outのことなんだよ。」
「フェイドの?」
FADE-out、フェイドとは所謂“光学迷彩”と呼ばれる、その昔のSF小説に出てたあれだ。
現在着るタイプのフェイドが開発されているが、一般人が使うことはない。
使用は許可されていないし、手に入れる程の金も無いって訳だ。
「そ。今俺が使ってるのは服型だろ?あれをデータ化してベリネに組み込むらしい。」
「へえ。よく作るなそんなもん。」
「何たって社長が太一だからな。創ろうと思えば何だって創れるだろうよ。」
太一というのは、電磁工光学成形社の社長である田中太一の事だ。
彼はイヴでありワレラでもあるとか。
魔術師ではないみたいだけど。
ああ、ちなみに目の前にいる彼、如月薫もイヴだ。
「簡単に創れては面白くないだろ?つって創造することは少ないからなあいつ。」
「ま、確かにそうだろ。何だって試行錯誤の末出来た物の方が面白い。」
[なかなかいいことを言うな。]
だろ?するのは与太話だけじゃないぜ。
「そういうもんかね。お!おーい!宗司!こっちこっち!」
「おーはようさん。あら、涼治もおはよう。」
「おはよう。」
杵築宗司、こいつもイヴだ。
「お前も新型のフェイド関係か?」
「せや。って薫喋ってもうたん?一応極秘事項なんやけど。」
「まあいいじゃないか。どうせ時間が経てばリークする情報だし。」
「……そんなもんやな。わはははは。」
……コイツらの危機管理能力は一度計った方がいいんじゃないかな。
[案外普段抜けている奴の方がいざという時役に立つ。]
そんなもんかね。
[そういうものだ。]
「後は凜だな。」
「集合時間まで後5分、てことは後10分は来ないだろうな。」
「ま、俺はもう行かせてもらうよ。W.W.S行かなきゃならんからな。」
「おう頑張れよ。」
「じゃあな。また会おうや。」
「ああ。」
二人を残し、W.W.Sの方に歩きはじめる。
[お、メールだぞ。]
……はいはい分かってますよ。言われずもがなだろこんなもん。
“さっきの情報は他言無用でよろしくfrom如月”。