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ExtraMaxWay  作者: 凩夏明野
第七章-真実操作-
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天より堕ちた晩年華

「ほう。話には聞いていたが、流石はベレトの箱庭だ。美しい。」


ベレトの箱庭は今丁度深夜0時。

暗い筈の暗闇の庭は、大きく丸い5つの月が照らし、昼間と殆ど変わらない明るさで満ちている。

月光に照らされ、石造りの兵達が身につけている剣や鎧は輝いている。


「しかしそれだけに心苦しい。これからこの空間の一部を破壊してしまうのだからな。」


「[心配ない。此処の広さは地球の優に数十倍はある。それに、一度解除すれば全ては元に戻る。]」


「それは有り難い。」


そうだったんだ。

[知らんかったのか貴様は。]

いや……すみません。

[まあいい。地球の数十倍というのは真実だ。だが、元に戻るというのは嘘だ。]

は?

なんでそんな嘘を吐くんだよ。

[手の内を見せるという奴の心意気に対するせめてもの礼だ。これで奴も安心して力を奮えるだろう。]

……それもそうだな。


「ふむ……大地もしっかりしている。これを全て破壊するとなると、俺の術式兵装を用いても一ヶ月は掛かりそうだ。」


「[それでも一ヶ月か。流石はシェミハザの術式兵装と言った所だな。]」


「それほどでも。ところで、更月は話さないのか。」


[どうなのだ。]

……今そんな気分じゃない。


「[気分ではないそうだ。全く、何が楽しくて代弁せねばならんのだ。]」


……話したいって言ってたくせに。

悪魔だってのに変な奴だ。


「そうか。何にしても君は見ているんだ。それでいい。いくぞ更月涼治。その眼を驚愕の色に染めろ。……何処までも堕ちてゆく満天の星屑。“天より堕ちた集合体(ネフィリム)”。」


これは……。

星が、幾つ物輝く点が黒い大地に輝いている。

いや、さっきまでも星はその存在を主張する様にその身を輝かせていた。

白く、赤く、その輝きは正しく“美しい”と表現する他ない物だ。

しかし、今現れた光は違う。

その光は美しい物ではなく、とても禍禍しい物に見える。

夜空、黒い円蓋に張り付いて尚黒い醜い光だ。

恐怖すら感じる。

その黒い点は段々と大きさを増している。

いやこれは……墜ちて来ている、のか?

[正確には堕ちるだな。あの黒は堕落の光だ。動くなよ。]

動きたくても動けない。

恐すぎて眼が離せない。


「さあ堕ちろネフィリム。そしてその姿をこの世界に曝せ。」


やがて爆音と共に光は堕ち、大量の砂煙が舞った。

そこに至っても俺は身動き一つ取れずその光景を眼を閉じず眺めている。

砂煙が収まると、大地を蝕む様に黒い光が輝いていた。

次の瞬間、黒い光が線を発し、各々を個から個に依る集合体に変えた。

そして輝きは線により手繰られる様に一つの場所へと集合し、真の集合体へと変貌した。

一層輝きが増し、ここにきて久しぶりに俺は眼を閉じた。

眼を開けると、そこには黒い壁が出現していた。

[壁ではない。眼を凝らし、しかと脳裏に焼き付けろ。]


「あ……巨人、かこれは……。」


「呆けた声が出るのも仕方ないだろう。俺の術式兵装“天より堕ちた集合体”を目の当たりにしたのだからな。」


優に10mは超えているだろうか。

巨人の定義がどれくらいからかは知らないが、やはりこれは巨人だろう。

黒い巨人。

ネフィリム……グリゴリの天使達が地上の娘と交わる事で生まれた巨人。

その体長は300キュビット、1350m。

彼らは人々の食物を食い荒らし、それが尽きるとその後共食いを始めたと言う。


「ネフィリムについての知識は悪魔に聞くか調べるかすれば分かる事だろう。だが、その知識に付加しなければならない。ネフィリムは合計で50体いた。彼らは食物を食い尽くし、その果てに共食いを始めた。そして、ただ一人のネフィリムが生き残った。」


「……それが目の前にいる奴だって言いたいのか。」


「その通り。そしてここからが重要だ。生き残ったネフィリムはその後殺戮に走った。彼は共食いを通じて殺す事の喜びを知ったんだ。そして、一つの都市が壊滅した。その都市の名はアトランティス。」


「な……。」


「アトランティスはゼウスの怒りに触れて沈められたと言われているが、今言った通り実際は違う。」


「あっそうっすか……。」


……あれ?

何でこんな話になったんだ?


「おっといけない。本来の目的から離れすぎたな。悪い癖だ。直ぐ自分が知り他人が知らない知識を語りたがる。よしネフィリム、“エルバハ”だ。」


地鳴りとも思える理解不能の返事をする巨人。

その後、空気の振動が伝わってきた。

びりびりと痛い程だ。

次いで激しい熱波が襲ってきた。

そして辺りは昼間の様に明るくなる。


「う……く!」


「眩しいだろう。これを使え。」


巨人の影に立っているネフィリムが何かを投げてよこした。

俺の前に投げられたそれはサングラスだ。


「……用意がいいな。喜んで使わせてもらう。」


サングラスを掛け上を見ると、熱を発している物の正体が分かった。

丸い火の玉だ。

いや、火の玉なんて可愛い物じゃない。

自然の中で最も赤く熱いと言える太陽その物の様だ。


「さて、地面に墜としてもいいが、それだと爆風で俺達が吹き飛ぶ可能性がある。そこでだ、あそこにある城。あれに“エルバハ”を当ててもいいかな?それでも十分に危ないが、まああれだけ距離が離れていればなんとかなるだろう。」


ネフィリムが指差す方向には一つの大きな城。

距離は此処からおよそ3km程だろう。

そんなに離れているのにあれだけ大きいんだ。

相当な大きさだろう。

……悪魔?

[ふむ。ベレトに了解は取った。良くはないが許可しよう。]


「許可するってさ。」


「了解だ。やれネフィリム。」


再び意味不明な返事をすると巨人は城の方へと向き直った。

直後熱波は離れていき、変わりに衝撃が伝わってくる。

その後一瞬の鋭い発光が走った。

城に火の玉がぶつかったんだということを理解する前に、先程と同等かそれ以上の衝撃と爆音が襲ってきた。


「くっ!集約結合実現影に形を“影の王冠”!」


早口で“影の王冠”を召喚し地面に突き刺す。

正に吹き飛ぶ直前、俺の体は大地に間接的に支えられてなんとか耐えていた。

城の方を、いや“城があった方”だな正確には。

城は跡形も無く消えていた。

近くに行かないと詳しくは分からないが、瓦礫なんかも殆ど残っていないんじゃないだろうか。


「爆発で城を瓦礫と化し、熱でその場の物を溶かす。恐ろしい力だろう?」


「……ああ。恐い。恐すぎる。」


何より、その力を使役するお前が恐い。

爆風も収まった所で“影の王冠”を解除しネフィリムに向き直る。

今気付いたが、いつの間にか巨人は消えていた。


「ネフィリムが持つ力は後二つ。一つ、氷の刃を幾千も広範囲に放射する“ネピル”。二つ、“千の重力”で形成された一個師団、777人を召喚する“エルヨ”。この二つを見せるのはまたの機会にしよう。」


……出来ればお目にかかる前に倒したいな。


「“千の重力”ってのは一体何なんだ?」


「ふむ。それを知りたいなら俺のもう一つの術式兵装を見せねばならん。千の重力纏いし力。“煉獄に咲く(モルス)晩年華(グラウィタス)”。」


[……不味い。“影の王冠”を召喚しておけ。]

え?

何で?

[それなりの力の物を携えておかねば貴様は耐えられず押し潰されるぞ。]

よく分かんねえけど……“影の王冠”。

右手に“影の王冠”を召喚する。

同じ様にネフィリムも右手に黒い刀を持っている。

持っているんだが……なんだこれ。

威圧感、なのかな。

凄くぴりぴりする。


「“煉獄に咲く晩年華”。シェミハザが持つ“千の重力”という彼固有の重力で形成した刀だ。君の“影の王冠”が真の影で形成されているなら、こちらも真の重力で形成されていると言ってもいいだろう。」


「真の重力……っあ!?“影の手”!」


いきなり威圧感が増した。

凄まじいまでの圧迫感と共に。

その嫌な感じから逃げるため、また自らの身が崩れてしまわない様守るため、“影の手”を体の前に出した。


「そうだ。耐えられる様努力しろ。目の前からの逃走など考えるな。それでは見せた意味が無いからな。」


「く……。」


やばい……胃の内容物が逆流しそうだ。

[術式兵装による威圧だ。“防御”だけでは意味が無い。精神的物だから取りあえず“回復”も同時に、継続的に掛けつづけてみろ。少しは楽になる。]

……“防御”星十、“回復”星十。

あ……楽になった。

むかむかが消え、まともに立てる様になった。

今気付いたが、足目茶苦茶震えてたんだな……。


「“防御”と“回復”を掛けたか。なかなか良い判断だな。」


「……どうも。」


「では力を見せ付けるとしよう。そこを絶対に動くなよ。」


「ああ……。」


動きたくても動けないっての。


「ふむ。そうだな。あの石造りの兵達を5、6人程斬らせてもらう。」


……と言っておりますが。

[許可する。]

了解。

ネフィリムに許可を示すために頷く。

それに対して笑う事で返したネフィリムが、石造りの兵達に体を向ける。


「いくぞ。この世で最も鋭い切れ味、刮目しろ更月涼治。“ハザイ”。」


一閃、俺とは比べ物にならない速度で刀は振るわれた。

前方に何かを放って。

一瞬見えたそれは黒い斬撃波だった。

それは石造りの兵達を通りすぎて消えた。


「……?」


確かに振りは早かったが、対応策がない訳じゃない。

それにあの斬撃波、石を通過しただけで消えたし……。

[と、思っているか本当に。]

……いや思ってない。


「構わんぞ更月。確認しろ。」


取ってもいない許可をされ、石造りの兵達に近付く。

ごくりと唾を飲み込んだ後、一つの石像の上半身を押してみる。


「……やっぱな。」


石像の上半身は地面に落ちた。

胴体の辺りで物凄く綺麗に斬られている。

それこそ、元々こうある様にと造られたが如く綺麗にだ。

断面を触ってみても凸凹は感じられない。

[知ってはいたが、実際に威力を見ると愕然だ。]

これ……“影の王冠”でまともに受けたらどうなるんだ。

[これより切れ味が劣り、不格好に地面に落ちる事になるだろう。]

……若干防げるだけって訳か。


「“煉獄に咲く晩年華”にはもう一つ技があるが、それはまたの機会に見せるとしよう。」


「……。」


「どうした?愕然とするのはいいが、感想を述べてもらわなければ詰まらない。」


「あ、えっと……恐い。」


先程と同様の感想しか出てこない出せない。

[仕方ないだろう。あれを見て恐怖するなと言う方が無理な話だ。]

そう言ってもらえると助かる。


「軒並みな感想だが面白いと判断しておく。さて、俺の力は見せた。君が悪魔の術式兵装を使えれば是非とも見せてほしかったが、まだ使えないだろう?」


「ああ。済まん。」


「謝る事はない。俺が勝手に見せただけだ。見返りなんてはなから求めていない。」


そう言うとネフィリムは“煉獄に咲く晩年華”を仕舞った。


「……この空間は良い。」


「は?」


いきなり何を言い出すんだこいつは。


「一見荒廃した大地の様で、しっかり木々は生えている。それに動物もいる様だ。中々自然に満ちた素晴らしい空間だ。」


「はあ……そりゃどうも。」


「……この世も、これくらい素晴らしい物ならな。」


「え?」


「いや何も。さて、それではそろそろ戻るぞ更月涼治。」


「あ、ああ。」


“ロード・デス・ウォーヘル”解除。

段々と月の輪郭や城が溶けていき、俺は元の世界へと戻った。


「……この不自然が蔓延る世界にようこそ。」

天使:主天使『ラファエル』 熾天使『シェミハザ』

全体設定:『HAJACK』 『インビジブルプロテクト』 『殺人許可法』 『電磁工光学成形社』 『FADE-out』 『BetweenLINE』

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