洗練すべき加工の修復
「完全は愛すべき象徴。修復は美しい。“洗練すべき加工の修復”。さあ甦れ。代わりに私は幾筋もの命を受ける。」
……何処からか声が聞こえる。
多分男。いや女かも。
何にしても、俺の体から痛みは消えた。
「……おかしいな。魂だけなのに痛みがあったのか。」
「お早う涼治君。気分は爽快かな?」
「ん……んん?毬か?」
戻ってきたのか。
という事は魂だけでも眠れた訳だな俺。
[何を馬鹿な事を言っている。戻ったのは貴様だ。]
え?
言われてキョロキョロと辺りを見渡してみる。
……確かに此処はいつもの世界みたいだ。
金石の家があるのが何よりの証拠だな。
「良かったな更月涼治。失った片足を取り戻す事が出来て。」
「……ネフィリム。」
正面に目を戻すとそこにはネフィリムがいた。
……特に感情を表に出しているという事はないな。
「それは孝の両腕を切断し、センマイカを殺した事に対するボーナスだ。有り難く受け取っておけ。」
「……あんたはそれで良いのかよ。」
「……何?」
[おい、場がこれで治まっているのだ。馬鹿な事は止めろ。]
うるさい。
「スマタカシの両腕は俺を直した奴が直すかもしれない。けど!センマイカは死んだんだぞ!?何でそんな冷静でいられるんだよあんたは!」
「……言った筈だ。殺されても文句は言わないと。男に二言は無い。」
「そりゃそうかもしれない。でも……センマイカはあんたの仲間だったんだろ!?」
「その通り。」
「なら……。」
ならなんでそんなに冷静でいられるんだよ……。
有り得ない、有り得ちゃいけないそんな事は……。
「俺も悲しくない訳ではない。センマイカは俺の良き友だった。だからこそだ。奴も俺と同じく文句は言わない。ならそれを、その矜持を、守ってやるのがあいつに対するせめてもの手向けだ。」
「……そんなのは屁理屈だ。それで死んだ奴が喜ぶなんて……。」
「屁理屈で結構。この世はそれで構成されているのだからな。」
く……。
[……やれやれ。]
駄目だ、俺。
こいつには勝てる気がしない。
[当然だろう。シェミハザと同化しているやもしれん相手なのだ。ベレトの術式兵装だけでは力不足に尽きる。]
そういう事じゃないよ……。
あらゆる面で、こいつには勝てない。
「仲間の死は元より、敵の死まで負おうとする。それでは真実に辿り着く前に潰されるぞ更月涼治。」
「……煩い。」
「今の君は俺に勝てないと思っているが、全く以てその通り。君程度の魔術師では俺に勝つなど到底不可能。今の状態では然も有りなん。そこでだ、更月涼治。」
「……なんだよ。」
ネフィリムが来ていたスーツのジャケットを脱ぎはじめた。
上着を投げ捨て再び話し掛けてくる。
「その可能性を極限まで無にしてやろう。ベレトの箱庭に俺を招待しろ。」
「え?」
“ロード・デス・ウォーヘル”に……?
一体何を考えているんだ?
[……成る程。良かろう許可する。招け。]
は?
お前まで何を……。
[分からんか?奴は手の内を晒すと言っているのだ。]
……何でそんなことを。
[さあな。もしかすると奴は、貴様とは戦いたくないのかもしれん。]
それってどういう―――
「ベレトか悪魔との相談は済んだか?早くしてくれると有り難いんだが。」
「……分かった。あんたを招く。44の軍勢、無限であり夢幻の攻域。最高末路の生き地獄、解放にして開放の死路。準備は出来た。最上の待つ戦争を辿れ。“ロード・デス・ウォーヘル”。」
……そして、俺に“倒される”ための準備をしろ。