私意たる粘性
「止めるだけ。ただそれだけで私の欲望。“静止線”。」
「うわっと!?」
俺の足元に向けて金の糸が降りて来る。
着弾するまで約二秒。
それだけあれば“攻撃”に依る移動を用いなくても躱せる。
「もらったァ!」
「ぐっ!」
避けた先でスマタカシに左腕を軽く斬られる。
途端に激しい睡魔に襲われ片膝を付く。
[また糸が来るぞ。動け。]
「ち……“攻撃”星五……。」
糸の結界に囲まれる一歩前になんとか移動する。
対象を捕らえられなかった糸は、俺がいた筈の空間、つまり囲んだ中央に移動して一本になった所で消えていく。
金の光になり散っていくそれはとても綺麗だ。
「どこ見てやがるゥ!う!?」
続けて放たれた斬撃をひらりと躱す。
“攻撃”の移動の余力が残っていた事に加え、しょぼい斬撃。
避けられない方がおかしい。
「くっそがァ!」
「はあ……。」
不格好に飛ぶナイフを右に避ける。
「!」
と、ナイフが右に曲がり俺に向かってきた。
……ふん、成る程な。
避けて駄目なら……!
「は!」
“影の手”で雁字搦めにする。
やっぱな。
「“静止線”って便利だな。」
「へー。一応見えない角度で操ったんだがな。」
「ふん、嘗めんなよ。」
“影の手”からナイフが消えた。
次の瞬間にはスマタカシの手に戻っている。
「くっそ。やるじゃねえか糞ガキ。」
「褒めてもらって光栄だよ盆暗。他人の助けを借りてやっと一人前か?」
「てっめえ……やっぱりぶっ殺す。」
「出来もしない事を口に出すのは罪だぜ。」
「ぐゥゥゥッ!おいセンマイカァ!このガキをさっさと止めろ!」
「……はあ。張り付く静止の合一。“私意たる粘性”。」
来たな。
恐らく、俺の右手を“影の王冠”に縛り付けた術式兵装だろう。
[だが、召喚した割にその姿は見えぬな。]
そういえば……。
センマイカの両手は空のままの様だ。
他の部位にも特に変化はない。
見えない術式兵装なんてあるのか?
[さあな。あるやもしれん。]
そうなってくると面倒だな。
「ま、なるようになるか。」
「は!それはどうだかなァ!」
「お前は確実にどうにでもなるだろうよ。」
「嘗めやがって……。」
スマタカシがジリジリと距離を詰めて来る。
センマイカの方には特に動きは無い。
やっぱ、先ず倒すとすればスマタカシの方だな。
「おりゃァァァ!」
「なんだよその間抜けな掛け声は……。」
突進してくるスマタカシを避けようと後ろに下がろうと、っ!
「うわっ!?」
右足が動かない。
そのせいで後ろに転ぶ。
右足が固定されたままなのでかなり無理な体勢で倒れる。
若干膝を痛めてしまった。
「はっははははははァッ!もらったァ!」
「くそ!」
無理な体勢で倒れる俺にスマタカシが馬乗りになる。
……こいつ馬鹿だろ。
「死ねェェェェッ!」
“月の酩酊落葉に麻酔”が俺に突き刺さろうとする。
……この程度の攻撃なら、“防御”星十。
「ェェェェ、うっ!?」
「刺さんねえよ馬鹿。」
心臓に突き刺さるべく直進していたナイフは、胸にぶち当たった所で止められた。
「お前の左腕は斬れるんだけどな。」
「っ!?“防御”星―――」
「遅えよ!」
わざとバンザイしていた右腕を振り下ろす。
“影の王冠”で一閃、スマタカシの左腕を肩口で切り落とす。
「うああああああああ゛!」
本日二度目のスマタカシの絶叫。
そりゃ叫びたくもなる。
なんせ腕を切り落とされたんだからな。
俺だって同じ状況に陥れば、程度の差はあれ叫ぶだろうしな。
「ぐ……っそがァ……。」
スマタカシは俺の上から降り、地面に膝をついて震えている。
本当は手で押さえたいんだろうが、右腕も無いからな。
肩口から血がどんどん流れている。
「っく、……“超回復”。」
再び“超回復”を掛けて出血は止められた。
が、“超回復”で傷を治しても血は戻って来ない。
立ち上がったスマタカシは貧血を起こしているのかふらふらしている。
「両腕が消えちまったな。さて、これであんたは戦闘不能って訳だ。」
「っはあ……はあ……なん、だと?」
「術式兵装を操る両腕は消えた。あんたが“攻撃”を使えるなら、脚で攻撃するのも可能だろうが、使えないだろ?理解したかぼ・ん・く・ら?」
「うううう……くっそがァァァ!」
何も考えぬままスマタカシが突っ込んで来る。
右足を固定されながらも立った俺にだ。
これ以上奴に危害を加える気は無いってのに……。
横にズレて足を引っ掛けてやりたい所だが。
「よ。」
「ぐえッ!?」
左足で前蹴りを決めてやる。
「もう止めとけって。ぐだぐだなんだよあんたとの戦闘。」
「くっそ……。」
仰向けに倒れじたばたしている。
腕が無いと不便だな。
「さて、スマタカシは戦闘。にした。次はあんただぜセンマイカ。」